旅行先での息子達の微笑ましいスナップ→「モノより思い出」とニッサンのCM。クルマというモノを売るメーカーがそんなこと言うのもなんだかなあ、だけれど・・・・・
DVDは、物理的には直径12センチの塩化ビニールか何かからなる「モノ」である。しかし記憶媒体として見れば8〜9Gbyteのメモリー(=思い出)がそこに詰まっている。大笑いする滑稽な思い出、二度と「思い出したくない」程の身の毛もよだつ思い出、脳裏に描くだけで涙腺がゆるんでしまうような思い出・・・我々はそれをプレイヤーのトレイにセットし、表示装置(プロジェクターなりモニターなり)と音声装置(アンプ→スピーカー)を通じて、その記憶を自分の眼と耳に向けて再生させるわけだ。AVシステムの最良のグレードアップは、眼鏡を作り直すことと、耳鼻科に行って耳掃除をしてもらうことだ、てな冗談のような本当のような話を聞いたこともあるが、それはさておき、常日頃我々が心血を注いでいるのは、いかに自分の耳目に達する記憶のbpsを上げるかであり、その伝達情報の純度の高さ(SN比)であり、AVルームという場やその再生装置=環境によって伝達の仕方が変わるその妙を楽しむという粋なのだ。
さて、こうしてDVDは、本来の記憶媒体として目的(銀盤上のビットが我々の脳内シナプス反応にコンバートされる)を達した後は、次の再生のお呼びがかかるまで、棚で待機することになる。しかし、ずらりと並んだDVDの背(ワーナーの低価格シリーズでも揃えるとなかなかの見栄えだ)を前にして考えてしまう。次にこれを観るのはいつだろうかと。仮に100枚DVDが集まったとしよう。100枚くらいすぐにたまる。一日一枚ずつ消化したとしても、一巡するのは3ヶ月以上先。それに3ヶ月の間、新たに何枚も加わるはずだし。そこで、コレクションの仕分けが始まる。一生手許に置いて何回も観たいもの、友人が来たら、のもてなし用(つまりドンパチが派手なもの)、そして再度トレイにのせることはないと思われるもの。
確かにもう一度観そうにないというものはある。例えば米国公開で一週間だけトップ10に興収がかろうじて入るような作品。特にホラー、SF、B級アクションがそのパターン。以前なら日本未公開作品として、ビデオスルーになり、レンタルで観ていたのだが、R1DVDにハマっている今となっては、テープを借りに行ったりはしない(VHSでは5.1&プログレッシブ再生というのが出来ないし)。で、せっせと多大なコストをかけて個人輸入を続けた結果、たまりにたまったDVDの山。
観ないんだったら、ヤフオクで転売してしまおう。我らの6畳間、収納にも限界がある。お小遣いにだって限界がある。ヤフオクではDVDというジャンルに、ちゃんと「リージョン1」というカテゴリーが設けられており、だいたい一枚1000〜2000円台で取り引きされている。新作だったら1800〜3000円(現在日本公開中は、さらに高値)、旧作でも1200円位では売れる。逆に言うと、その値段で買えるのだ。いかにリージョン2の日本盤が安くなったとはいえ、最安でワーナーの1500円。ソニーの2500円なんてR1のカテゴリーでは高額クラスだ。「日本語字幕が無くてもよい」という割り切りが、いかにお得な決断か、私が再三主張していること。
実はこの数ヶ月、主な購入先はこのヤフオクなのだ(1月以来、米アマゾンから買っていない)。本国リリースから1〜2週間、ヤフオクをこまめにウォッチしていると、出品される可能性が高く、それを確実に落札していけば、米国からわざわざ個人輸入するよりリスク・コスト共に低減される。仮に送料込み3000円で落札したとする。これはヤフオク相場としてはかなり高値だ。米アマゾンから自分が買おうとすると、本体価格が20ドル、送料が7ドルちょっととして、為替レート125円だとそれでも375円アマゾンから購入の方がオーバー。なおかつロストした場合は再送まで一ヶ月待たされる羽目になってしまう。そこまでのコストとリスクをかけて得るのは、自分でビニールパッケージを破り「新品として真っ先に」観る権利だけ、といっても過言ではない。
このようにして、ヤフオクの出品と入札を繰り返していると、あら、また貴方でしたか、てな事態に往々にして出くわす。惜しいところで落札をさらっていった人が同じ物を出品している(ああ、観終わったんだなあ)。で、その人が以前の取引相手だったりすると、出品する前に連絡してくれればなあ、とか、貴方だったら別に入札を吊り上げあうことないのに(後から譲ってくれれば)、などと思ってしまう。
市場の範囲が限られ、固定化している。売る人も買う人も同じ。ヤフオクというバーチャルな競り場で、次に観る権利を得るため、入札価格を吊り上げあっている。おまけに5月からは落札価格の3%を出品者がyahooに支払わなければいけないので、取引すればする程、yahooへの手数料、銀行振込手数料の重さを痛感するし、何とかここを節約できないかとも思ってくる。はっきり言って、不特定多数に開かれたオークションというシステム、価格高騰や手数料など、取引の場を提供してもらうということ以外の点でデメリットばかりが目立ってくるのだ。
私は、後日自分が観られるという保証があれば、別に今高値で手に入れられなくてもよいし、今手放そうとしているこの一枚だって、もう一枚未見のものが入手できるくらいの値段で売れればそれでいいのだ。だったらDVDレンタルと変わりないじゃん、などと言うなかれ。TSUTAYAに観たいソフトがあればこんな話はしない。
というわけで、脱オークションの第一段階を風呂の中で考えた。
常連R1愛好者との関係を親密にする。お互いの所有ソフトリストを交換し、その中で手放してもよいもの(=出品予定のもの)を知らせあう。もし自分の不要のものと相手の欲しいもの、自分の欲しいものと相手の不要のものが一対一で合致すれば、物々交換=お金のやりとり無し、振込手数料すら省ける。さらに今後購入する予定のタイトルも知らせあうと、もっと無駄な出費が省けるだろう。ただし、ここで所有ソフトを貸し借りすることは、著作権の侵害になってしまうので注意。
さらに、オークションともフリマとも違うDVD流通の仕組みというのは考えられないだろうか。もうひと風呂だ。
・流通するアイテムはDVDのみ
・不特定多数を相手にするリスクを避けるため参加者は極めて少数に限定
・輸入時のロストのリスクを参加者で分散
以上の条件から、少数会員制のDVD共同購入会、という案に落ち着いてくる。
具体的にはこうだ。
会員は4〜6人。
入会資格は、
・DVD愛好家。
・継続的に視聴し続ける環境と意志を持つ。
・インターネット環境があること。webデザインのスキルがあればさらに吉。
・面倒がらない人。
以上のような条件を満たす人が運良く5名集まったとする。各人は月会費として3〜4千円を拠出する。5人で1万5千円〜2万円の購入資金が一ヶ月分としてあるわけだ。次にその月の会としての購入タイトルを発売予定などよくチェックして決める。5人全員が1タイトルずつ購入。到着したら、速やかに視聴、次の人に回覧。このようにして一ヶ月で全員が視聴した後は、そのタイトルをどう処分するか。ヤフオクに出して売却金を次の資金にプラスするもよし、会員の一人が下取りするもよし。代表者が一括して購入した方が送料が安いが、それだと後の回転率が悪くなるのと、ロストのリスクも大きい。
通常の連絡はメーリングリスト、回覧状況や発売・購入予定一覧はホームページで運用するなどして、情報を共有するとよいだろう。
何のことはない、今はやりのPtoP、ファイル交換の仕組みを当てはめただけのこと。ネット上にファイルを流通させることは著作権侵害にあたる可能性が大きいが、今まで述べた案は、あくまで共同保有資産の持ち方なので、そのグループから外(不特定多数)に視聴範囲が出なければ問題が無いはず。ただし、会員をネット上などで不特定多数に向かって募る、ということは頒布権(映画の著作物だけに認められた権利。著作権者がその流通の方法や期間、地域を決めることができる)に触れてしまうのでアウトだそうだ(勤務先の法務担当に聞いた)。
さらに別の形態。一度は観たいなあ、と思っていても、なかなか高価で手が出ない、「箱物」DVDなどに有効。例えば最近出た「スペクトルマン箱」。10枚組、特製スペクトルマンレプリカヘッドケース入りで6万近く。その額は一人ではとうてい出せないが、一度は観てみたいという人は私を含めおおぜいいるはず。先の会員制でも一人1万はちょっとつらいのではないか。少数会員制は信用度という点でのメリットはあるが、いつも皆が同じ嗜好とは限らない。スペクトルマン箱を共同購入するためだけの一時的な関係、場を形成できればいいのだ。「スペクトルマン観たい人この指とまれ」とネットで募集、30人集まった時にうち切って集金、とりまとめ者が購入回覧、全員観たらヤフオクで売り払い、売却額を参加者に還元。で、この一時的な場形成、参加者募集にヤフオクを利用させてもらう。参加者の信用度はヤフオクの評価得点でフィルターがかけられるから。
と、ここまでスキームは描けるのだが、不特定多数に共同購入を持ちかける段階で前述の頒布権に触れてしまうのでアウト。同じく、その一時的な場、関係成立を代行するだけの(自分は購入しない)サービスというのも面白いが、著作権を有する側の利益に反するので、アウトだろう。
ならば、著作権者に寄り添う形はどうだろう。ネットで募集するまでは同じだが、売る側に参加者を教えるとか。売る側が募集してもおなじことだが。つまり、複数者の視聴を前提としたグループに対する予約販売をメインの販路とする流通形態。言い換えると、予約→販売→グループ回覧→下取りまでのライフサイクルを販売側が提供する、というビジネスモデル。売る側としては売れ残り在庫をかかえるリスクが無い。同じ嗜好を持った顧客層、コミュニティを醸成させることで商品開発のターゲットを絞りやすくなる。買う側は自分の嗜好を把握されることに反感もあろうが、なんてったってレアな作品を安価で視聴できるのだから。企画のカラ撃ちが減るから単価も下がる(はず)。
ここで突然堅い話になる。バブル経済華やかりしころ、企業は借金をしてでも土地や株などの資産(=モノ)を保有することに躍起となっていた。それは、それぞれの資産の将来の価格値上がりを見越した(時価と取得価格の差が含み益として期待できる)ものだったが、地価は下落、株価も低迷している今、それらキャッシュを生まない資産は保有するだけで逆に企業のお荷物と化している。含み益どころか、含み損をどう処理するかに頭を痛める毎日。モノは購入した瞬間から陳腐化、価値下落のリスクを負う。むしろ、資産を保有しない身軽なバランスシート、言い換えれば水膨れから筋肉質へ体質改善して、本業回帰、資産効率を上げキャッシュフローを良くする、というのが最近の経営のトレンドだ。
オークションというのは、入手困難なレア物が珍重され、値が上がっていく仕組み。つまり「含み益」指向の経済システムなのである。その仕組み上ではDVDをせっせと買って保有し続けるよりも、かたっぱしから視聴して売却売却。そうやって物理的、経済的なフローは流動性を高く保ち、一方視聴した「思い出」を脳内にどんどん資産として蓄積していく。このように、自分のDVD趣味のスタイルを経済活動にあてはめると、バランスシート志向というよりもキャッシュフロー志向と言える。
その内DVDだって過去の遺産となります。今よりももっともっと速いネットワークが普及し、それにVODが乗ることが一般化すれば。もちろん今のレンタルリリースと大差ないタコなコンテンツじゃ魅力ないけど、スペクトルマンもちゃんとラインアップしてくれるだろう、多分。みんなサーバーからDLして視聴する。そのサーバーには全ての映画が格納されていて、利用者は月額いくらかで何本でも観放題。まあ、著作権、頒布権のクリアという壁はあろうが、それは商売とのバランス。法も整備されるだろう。
街の映画館は今度こそ軒並み潰れる。だっておうちで観たい時に良質のホームシアター環境で観られるんだもの。ロードショーという言葉は無くなる。前売り券もチラシもパンフもポップコーンも無くなる。今週の興収ランキングはDL回数がカウントの単位。
そういったことが実現した未来、それを便利と思うか寂しいと思うか。映画館が無い世で、スターウォーズを初めて観た時の衝撃を語ったとしても、若い人にはピンと来ないだろう。それは寂しい。同じく、シリアルナンバー入り「なんとかトリロジー」箱物の背をうっとり眺める幸せが無い、それも寂しい。私はモノの所有、蒐集趣味としてのAVを否定しているわけではないのだ。箱のデザインや解説の充実で商品価値を上げ(それが本来のまっとうな商売だと思う)、それらトータルを所有し、トータルの企画として愛でる楽しみ。そういう喜びがあってこそのLD文化だったと思うし、それはそれで今よりもある意味非常に豊かだったのだと思う。しかし、あれも観たいこれも観たいという自分の欲求や、それを上回るペースの新作の氾濫、加えて自分の物理的・経済的環境と折り合いをつけるとしたら、もはや「モノより思い出」という選択肢なのだ。
以上が今回の私の主張:「モノより思い出」的DVDスタイルのススメでした。
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