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六畳間シアターより愛をこめて

脱ホームシアター?

ゾンビ

とうとうというか、やっとというか、W杯が終わった。せっかく盛り上がった気分の皆様に対して、こんなこと書いて申し訳ないが、私はサッカーにもW杯にも興味が無い。今までの38年間の人生において、自分とサッカーが交差するとしたら、スタローンとペレが出演した「勝利への脱出」という映画を名画座で観たことくらいか(「少林サッカー」は観たいと思っているけどね)。

てなことで、うちは夫婦共々引きまくっていたので、サッカー以外のプログラムが極端に少なかったTV、6月はほとんど電源オフ。そこでDVD三昧と言いたいところだが、あえて自室に引き上げず、静かな食卓で二人してアルバムの整理をしたり、たまっていたロズウェルの録画を消化したりと、いろいろなことが出来た。今更ながらだけれど、いつもTVをオンにすることで、視線を奪われて何となく無為に過ごしてしまっている時間がいかに多いかを実感したことは確か。そして、「裏W杯狙い」ということで、決勝日はディズニーシーにも行った(予想通りすいていました)し、その前日はスターウォーズ・エピソード2の先々行上映をこなしたりもした。

さて、うちと同じくらいひっそりしていたのが映画館。トルコ戦の時、渋谷の館では普段の同時間帯に比べ、7割減の客数だったとか。せっかくだから相乗りしてW杯の中継でも見せればいいのに。石原都知事の言葉を借りれば「何もつまらない映画観ることもないじゃないか」。プロジェクターさえ用意すれば可能なはずだが、おいそれと切り替えができない事情もあるのだろうか(韓国では、ドイツ戦の時実行した館もあったそうだ)。

考えれば、映画館、映画興行というのはそういう融通が利かない。サービスがガチガチに固定化している。効率も悪い。都市部の一等地に、視聴覚施設と多数の座席を備えたかなり広い空間が、一エリアに何カ所もありながら、週末は満杯になるにしても、平日の昼間に来る人は映画好きの有閑マダムかサボリの営業マンくらいのもの、という、これって都市としてみればものすごくリソースをムダ使いしていることにならないか。2週間なり1カ月なりの期間、同じ場所で同じ内容のプログラムを決められた時刻に実行させる。これだけ。これ程固定化された娯楽は他には無い。そして、観たい奴は時間を都合してここまで観に来い、である。

第一回目に書いた事の繰り返しになるが、我々普通の勤め人にとって、映画館で映画を観る、ということは娯楽としてはものすごくコストパフォーマンスが悪い。
まず上映開始時間に自分の用事を合わせなければいけない。なおかつその何分くらい前に並べば条件のいい席を確保できるか、全くそれに対する情報も保証もないし、運良くゲットできたとしても、周囲の他者が発するノイズ(音に限らない)によって全てがぶち壊しになる危険性は最後までつきまとう(これはお互い様、といえばそうなのだけれど)。

そこで、本気で映画に向き合うためには、だからこそのホームシアター、という話をこれまでしてきたのだが、家庭内で、完全に映画の物語世界に入り込む忘我の境地にまで持っていくのは、これはこれでなかなか難しく、その点についてはまだまだ映画館に分がある。
画面の大きさについては、プラズマディスプレイにしたって50インチそこそこ、直視型なんて論外。映画館と渡り合うには、プロジェクターで部屋を真っ暗にして、というのが譲れない条件。まあプロジェクターも安くなってきて、25万出せばそこそこのものがあるので、これはなんとかクリアできる。
次は音響設備だが、これも上を見ればキリがないが、安いものでもそこそこ鳴る。というか、安いものでも、その限界まで鳴らす程の環境を整える方が難しいと思う。

ホームシアターが絶対に映画館にかなわないのは次の2点。耳をつんざくような衝撃音、地をゆるがす重低音など、圧倒的なエアボリュームの差。いや、うちは映画館より大きい音でかけている、とおっしゃる防音設備完備の専用部屋をお持ちの方は、どうぞそのまま突っ走って下さい。都市近郊の、マンションやうちのような普通の建て売りだと、隣近所への音漏れというのはものすごく大きなファクター。6月は例の歓声や悲鳴がどれほど近所から聞こえてきたことか。

もう一点。「忘我」という点ではわざわざ時間を作って館まで出向いて、ということがかえってプラスに働いている。自宅での視聴の場合、電話は鳴るわ(劇場でもいまだにケイタイ鳴らすバカはいるけどね、先日「アザーズ」で丁度登場人物が視線を向ける方向でドンピシャのタイミングで鳴りやがって、興ざめすること甚だしかった)、宅急便は来るわ、ああ、あそこのフィギュア、ホコリかぶっているなとか、額縁が傾いているな、とか日常の些細な事が映画の世界に入り込むのを何かと邪魔するものなのだ。

というわけで、ホームシアターの利点を生かしたままで(自分の都合の良い時間に、王様席で好きなソフトを観られる)、弱点(大きな音を出せない、日常生活からある程度遠ざかりたい)を克服できるようなサービス・ショウバイはないだろうか。前回同様またまた風呂に入って考えてみた。

例えば、あるプログラムをその場に集った不特定多数の人々に、同時に視聴させることによって収益を得る、というような準劇場的なアプローチは完全にアウトであることはこれまでのお話からも明らか。それは、店側がそのプログラムを用意した場合はもちろんのこと、客が持ってきた場合でも一緒だろう。不特定多数に見せる、という点がマズいわけだから。

そもそも別に不特定多数で一緒に見る必要はなく、自分だけ、もしくは気の知れた家族・仲間とだけでの空間である方がむしろ望ましいわけであるから、そこで必要とされるサービスは、ある程度のクオリティはクリアしているAV装置の整った、少人数で思いっきり音の出せる場所だけを提供してもらえばいいのだ。言うならば、ホームシアターのアウトソーシングサービス、もしくはシアタールームの時間貸し。

DVDソフト自体は安いものだ。店が仕入れなくとも、客が持ち込む。

で、そういう設備・サービスに酷似したところ、もうありますよね・・・カラオケボックス。ソファもテーブルもあり、ちゃんと4隅にスピーカーまで吊ってある。あとはAVアンプとDVDプレイヤー、スーパーウーファー、プロジェクターを用意すればいい。潰れたカラオケボックスを居抜きで借り上げれば設備投資はかなり少なく済むはず。いや、別に潰れなくても、カラオケボックスの一つのサービスとして容易に実現可能。まあ、私のこだわりとしては、ひと部屋くらい3管式プロジェクターとJBLかB&Wの大型スピーカーをマッキントッシュのアンプでドライブ、てなスペシャルスイートルームを設けて欲しいところだけれど。普通は、ありがちなBOSEに液晶プロジェクターという組み合わせで特に文句は出ないだろう。

試算してみると。

液晶プロジェクター:25万円
スクリーン:4万円
DVDプレイヤー:3万円
AVアンプ:6万円
スーパーウーファー:2万円
装置合計:40万円

ケーブル他内装代:10万円

計50万円:1日1万円の売上として50日で回収

カラオケがストレス解消という人も多いが、私はカラオケに行くと自分の声域に合った曲が少なく(新しい曲を知らないというのもあるけどね)、うまく歌えなくて逆にストレスがたまる一方だ。連れにしたってプロじゃあるまいし、うまいといってもたかが知れている。聴きたくもない他人の歌を大音量で聴かされること、これは拷問に等しい。こういうカラオケに縁遠い人をも取り込めるのだ。

帰宅途中、一人でカラオケ熱唱して疲れをいやす、というお父さんは少ないだろうが、受験生のいる自宅では出せないような音量でナイターや映画を大画面観賞しながら一杯やる、というのは楽しいだろう。日中は、ワードショーを見るしかない、暇を持て余している主婦層もやって来る。塾に行く前の子供が集まって大画面でTVゲーム大会というのもアリ。別にDVD観なくても、CDをかけて思いっきりクラッシックやジャズに浸ることだってできる。なんて場所があれば流行ると思いません?

立地のベストはズバリ、TSUTAYAの隣。TSUTAYAにとっても、当日返却が増えて好都合だろう。飲み食いだって客が持ち込めばいいので、コンビニが近所にあればなおベター。厨房設備がいらなくなるのでコストは大幅に削減できる。またはソフト量販店の近く。アキバに出店したら、ソフト発売日に観賞オフ会、というマニアの予約で一杯になるかも。

日本でフェラーリを買っても走らせる道はいつも渋滞であるように、日本のAV機器は世界に誇れるクオリティであるにもかかわらず、その真価を発揮できる部屋を備える人は限られている。一方で圧倒的多数は「買ってもこんな大きい音出せないよね」という現実はいつまでたっても変わらない。メーカーはそんなことはおかまいなし、売れればオッケーで半年ごとの新製品ラッシュ、雑誌は専用ルームを持つ特権階級ばかりを紹介してる。

そんな非現実的な提案で夢を抱かせるのもけっこうだが、一般的な家庭、賃貸住宅や集合住宅での視聴を真剣に考えていますか、メーカーも雑誌も、と私は問いたい。アンプにサイレントモード(音量ピーク時にリミットかけちゃう機能)を付けているから、それで我慢して聴け、ではユーザーに失礼でしょう。雑誌だってインストラー(シアタールームの施工業者のこと)紹介記事ばかりで、結局広告でしかなく、我々に対するソリューションを全く提供していない。結局ハードを売るのが第一義のメーカーや雑誌に現実的な解決策を求めても無理があると思う。

ならば、別に自宅に一式揃えなくてもいいんじゃないの、一日中家にいるわけじゃ無いし。観たいときにそこに行けば理想の環境で観られる、そんな場所があれば、日本の娯楽産業、一大変革ではないでしょうか>ご検討下さい:関係業界の方々。

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