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六畳間シアターより愛をこめて

パチモンの世界

ゾンビ

パネライというブランド名の時計をご存じだろうか。
なんでも、イタリア海軍のダイバーに数十年前支給されていたウォッチを復刻したもの、とのことで、肉厚・デカ径で独特の丸みを帯びたデザイン、リューズをガードするレバー付きカバーが目をひく。ロレックスやオメガのようにメジャーじゃなくても、ヨーロッパの時計というのはプライスタグが尋常ではなく、パネライも30万〜と、まあ私にとっては「アウトオブお小遣い」の世界なのであるが・・・

ヤフオクのブランド物ウォッチのカテゴリーを暇つぶしにウォッチしていると(例えばオメガ)価格が激安(〜 2万)、中程度(〜7万)、それ以上という、価格帯がだいたい三つに分化していることがわかる。
「それ以上」帯は、当然本物新品。「中程度」帯は本物中古。で、「激安」帯が今回のテーマである、「パチモン」の世界なのだ。
「パチモン」と言っても、よく海外旅行のみやげ話に出てくるような、NYの街角でアタッシュ広げたブラザーから購入、10m歩いたら時計が止まってしまったので文句言おうと振り向いたらもういなかった、などという「動きさえしない」最低ランクばかりではなく、ちゃんと時計の機能はクロノグラフなどを含めて完全に動作するし、少なくとも遠目には「ぽく」見え、電車の吊革や飲み屋で見栄を張るくらいの役目は果たせる、といったクオリティのものもある(ように画面上では見える)。いやむしろ、ぱっと見で後者のレベルでないと、ヤフオクでは出品しても値が付いてこないようだ。
というわけで、ひとつ試しに手を出してみようと思ったのが冒頭のパネライ。「その手」の業者さん(時計ばっかり出品しているんだもの、業者さんだよなあ)の出品を細かくチェックすると、なかなか楽しい。偽物を偽物として売るのはマズいらしく、「真偽はわかりません」が常套句。「価格からご判断ください」とか「価格でご理解いただける方のみ入札ください」とか。笑ったのは「価格とクオリティがバランスのとれたいい品物だと思います」だって。「未加工写真のそのものを出品しているので安心」(ということはそう記述していないのは、別モノ:同モデルでもどこかにキズが付いているかも、を送られる可能性アリ?)とか、それ以前に2カット目の写真がどう見てもパネライではなくカルチェだったりして、アコギな業者さんもまだまだいるなあ。
さらに、取引が成立した後を追っかけてみると、商品の画像を削除して「証拠隠滅」をはかったり。評価の項も、「大変よい」が殆どだけど、中にはマイナス評価(けっこうこじれた様子がうかがえる)もあるので、架空の買い手との間でカラ評価を吊り上げているのでは、なんてことも疑ってしまう。要は本当に買った人が使ってみてどうなのか、ということが見えてこない物に対して、5桁のお金を払うのはかなりリスキーではないか、との結論。

こうなると一番信用できるのが、実際そういう業者から買って、飽きたから、気に入らなかったから出す、という非業者のシロートさんの出品物。いわば「パチモンの中古」というネット以外ではなかなか成立しないすごい市場である(笑)。口八丁の業者という関門はロダリングされているわけだし、質問すれば正直にリスク開示してくれる。新品での価格帯がはっきりしているのでそれ以上にはならない(即ち4桁で落札できる)、という安心感。
私が6600円で落札した白文字盤のパネライGMT。出品者が新品のつもりで業者から買ったのに(私の落札価格の倍以上したそうだ)、ボディとベゼルにはっきりしたキズがあり、文句を言ったが返品には応じてくれず、気分が悪くて使っていなかったものとのこと。ガラスにキズがあれば致命的なマイナスポイントだけど、他の部分は自分が使っていても遅かれ早かれキズがつくものだし。本物はウィンドウ越しでしか見たことがなく、街でもまだはめている人にも出会ったことがない。だから本物と比べて質感がどう、とは言いようがない。6600円でけっこうかっこいい時計を買えたなあ、と思えてなかなか満足していたのだが・・・
買って一週間しない内にフローリングの床に落としてしまった。慌てて拾い上げると、ががーん。秒針が軸から完全に外れてしまい、ケース内の異物と化している。これは目立つ。当然ながらこのままでは使い続けることはできない。その上、長針と短針の間にはさまってその駆動を邪魔している。このまま放っておくとムーブメント本体に致命的なダメージを起こすのも時間の問題(って、シャレている場合ではない)。さすがはパチモンである(って、感心してどうする)。
世の中にはこういうパチモンでも修理してくれる時計屋というのもあるらしいが、修理代に1万も取られるんだったら、他のパチモンを買う。キズもののこの状態のまま、ヤフオクに出してしまうか。「安物買いの銭失いだった」てな教訓めいたオチだけは付けたくない。ここは自分で修理するしかないのだ。裏蓋(一応スケルトン)を見るとレンチで回せるように角は立っている。ラジオペンチでグリグリ。何度かのトライの後(このせいで裏面についたキズ多数)裏蓋は回り、外れてくれました。しかし、リューズが邪魔をして、ぱかっと気持ちよくケースからムーブメント本体が外れてくれない。何とか隙間をだましだまし空けて、秒針を取り出した。さらに、秒針をピンセットでつまんで隙間から差し入れ、元の軸に戻すことさえできたのである。ついでに、スケルトンで見えていた、内部メカにベッタリ残っていた職人さんの指紋も丁寧に拭き取った。この達成感。
というわけで、見事現状復帰、自分の腕にも馴染んできた今日この頃であるが、最近気になることは、この時計を着けている日は、左手に光る粉が妙に付着しているのだ。もしや、と思い、バンドの裏側を見ると、メッキの薄い膜が細かい気泡状に浮き上がり、ところどころ剥がれてきているのであった。爪でこするとアルミ箔みたいに簡単に一皮剥けてしまった。だから、その後の着用時は左手がとてもサビくさい。金属アレルギーの人なら即アウチだろう。数年後私も皮膚ガンに、なんてコワいオチが無きにしもあらず?

長い前置きでスイマセンでした、やっとDVDの話題に入ります。

DVDにもパチモンは存在する。週末アキバの裏道を歩いていると、宮崎アニメのDVD(まだ未発売のはずのタイトル)が路上で一枚4千円程度で売られている。
実際これらを買ったことはないけれど、たぶんアジア圏で勝手に焼いて(ソースはLDか?VHSか?)パッケージをもっともらしく整えて作った物のようだ。
以前、この種の中国ものにヤフオクで手を出し、ちょっとヤな目に会ったことがある。PAL盤がDVD史上最高画質と評判の某フランス映画。amazon.frにオーダーして新品を入手する、というのが正道だが、ユーロはレートが高いし、フランス語でのオーダーもようわからん。ヤフオクにもたまに出品されるがamazonから買うよりさらに高い値が付いたりする。
そんな中、同タイトルの中国ものが出品された。PAL盤だとのこと。画質はどうか?と出品者に質問したところ、「中国で正規発売されたものだから、画質は充分期待できます」ってアンタ実物チェックしてないんか?と思ったことは思ったのだが、「正規盤」という言質は取ったので3千円台で落札。しかし、やっぱり。

送られてきたブツは、はっきり言って誰がどう見たってパチモン。正真正銘の正規パチモンだ。だって、それらしく作ったパッケージ、裏部分をよく見ると、主演ブルース・ウィルスだあ?ブエナビスタだあ?これ、The Kidという全く別作品のクレジット部分をパッケージに切り貼りしているのである!さすが中国3千年の歴史。この位の細かい事はこだわらない国民性。英語さえ書いてあればね。

まあ、ガワは良しとしよう。肝心の本編クオリティさえ良ければ、自分だってノープロブレムだ。ところが、クオリティ以前の問題だった。中盤まではまあ、最高画質には程遠いがそこそこ観られたものが、さあ盛り上がるぞ、てな段になってブロックノイズの嵐。フリーズ、再生不可。
以上の状況からとうてい正規盤とは思えない、とクレームしたところ、「細かいことは言いたくないので、返金します、送り返して下さい」とのこと。結局、返金はされたのだが、振込手数料と送料と、貴重な時間を無駄にしてしまったし、この映画の結末を未だに知らずにいることも心に引っかかっている。この出品者、私が返品した同タイトルを懲りずに同じ値段で出品し続けている。まあ、ヤフオクではこういう人にも出くわす、ということだ。

他には、別の人から千円程度で入手した「エボリューション」。字幕にアジア圏の様々な言葉がやたらと選べるようになっているし、リージョンフリーだし、で、いかにも怪しい。しかしこれは最後まで安定して再生することが出来た。画質は、正規盤というにはノイジー、色もくすんで見えるが、VHSやLDよりは良いし、ドルビーデジタルの5.1再生は、飛行クリーチャーの360度周囲移動、クライマックスのボスキャラの巨大さを表す重低音の包囲感など、その演出効果がクリアーで全く問題なかった。正規盤はサラウンドのデモやベンチマークに重宝するだろう。この盤については、千円程度で入手して3桁で売れたので、コストパフォーマンスは良く、満足できたといってよい。

では、中国パチモンDVD、その出自は?という点がちょっと知りたい今日この頃であろう。丁度、中国に仕事で行って現地で何枚か購入したという友人から、スターウォーズ:ジェダイの復讐、ロード・オブ・ザ・リング、モンスターズ・インクの3枚をお借りすることが出来たので、その現地入手事情などについても聞かせてもらった。

<中国のどのあたり?での販売状況(おおっぴらなのかウラなのか)、町並み、店の様子を教えて下さい>
「北京の繁華街の「鼓楼」という地域の一角に、小さなCDショップや、本屋等が並ぶ通りがあって、大体のお店では、ダンボール箱にだーっと無造作に入ってそこから探して選ぶと言う感じですかね。お店の雰囲気はピンきりです。ちゃんとしたショップもあれば、昔の駄菓子屋みたいな雰囲気のお店もあったり。歌舞伎町の裏ビデオやと同じで、実際はまずいんでしょうが結構堂々と売っています。
でも、たまに摘発とかあるみたいですけど。まあ、中国はコピー天国ですからね。アイスエイジなんか、アメリカ公開後2週間目でもうスクリーン撮り(と言ってもかなりの好条件)のコピーソフトがでまわっていましたね。」

<購入価格はいくらぐらいですか?(日本円換算では?)>
「私は、10元(約160円)で買いましたが、別の日に行った人は、7元で買ったようです。
パチモンDVDは、約10元でしたが、VCDの映画は約20元でした。クオリティと言うより、枚数で値段が決まっているみたいですね(笑)DVDなら映画1本1枚ですが、VCDだと2枚になってしまいますから。」

驚くべきこの安さ。100枚買っても1万6千円。それらをなんとか日本に持ち込めたとしたら、最新作ならヤフオクで最低2千円で捌ける。100枚売って20万。ボロい商売なのかも。何ヶ月かかって全部捌けるのか、という話もあるけどね。

さて、それらのレビュー。スターウォーズについては冒頭でLUCAS FILMのロゴが出るし、内容からしても、「特別編」のLDをコピーしたものと考えられる。タイムコードが表示されないのと、チャプター切りがされていないため、観たいシーンへのアクセスに難ありだが、画質はVHS並みにしても、最後まで安定していた。ドルビーデジタル5.1ではあるが、サラウンド効果は弱く(エンドアのバイクチェイスとか)ラストのクレジットに流れるテーマも力が無いので感動は薄くなってしまう。

ロード・オブ・ザ・リング。モンスターズ・インクもそうだが、何回か画面下に「Promotional use onlyなので、もしそれ以外の販売やレンタルなどで入手されたらココにお電話ください」というテロップが流れる。ソースの流出元が想像できるポイントだ。画質は充分鑑賞に耐えうる。確かに暗いシーンや、森林のディテイルなどはかなり再生がきびしいが、登場人物の表情は立体的で、ノッペリしたところがなく、レターボックス収録ならこの位の解像度だろう(おまけに付いていた予告編は何故かスクイーズ収録で、こちらの画像の方が数段良かった)。

モンスターズ・インク。同様にレターボックス収録だが、こちらはさらに画質が良いように感じた。サリー(大きい方の主役)の体毛のフワっとした感じがディテイルも含めてよく出ている。CGアニメーションというのは、画面内にあいまいなものが無いせいかとてもすっきりしてわかりやすい。逆に言うと、非CG映画では写りこんでいる画面内のいろんなものが解像度が悪いせいで、なんだかわからないものとして視覚される・・・この蓄積が無意識にもフラストレーションになっているのではないか。このような「抜けの悪さ」はパチモンDVDに共通して感じられる特徴であった。

というわけで、ヤフオクで3千円、4千円を払うのは無理がある(再生不可というリスクもある)が、PCのモニターや20インチのブラウン管位の大きさなら、画質はレンタルVHSとさほど変わらないと感じるだろうし、リージョン1の正規リリースよりもさらに何ヶ月か早く家庭で視聴できるという点には、それはそれで価値を見い出せる。
一回観たら手放す人もパチモンについては多いだろうから、先の時計の例と同じく中古を安く入手するのが良い。そして、正規盤が出る前に売り抜ける、というのがパチモンDVDとの賢いつきあい方ではないだろうか。深入りは禁物。著作権者に無断で複製し販売するのは当然ながら違法行為だ。コピー物を買うということはそういった犯罪行為にほんの少しの間でも関わりを持ってしまうということ。8月1日には、「ハリー・ポッター」の海賊版DVDをインターネットオークションで販売した、として中国籍の岡山大大学院生が逮捕されている。おそらくこの人はかなり手広く商売していて見せしめの意味もあったんだろうけど、「愛知県の公務員(45)ら二人に販売した」とのことなので、買った側も事情聴取されたのだろう。おーコワ。自分もオークションの取引履歴をチェックする必要があるかも。

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