それは、例によって一枚のソフトから始まった:「羊たちの沈黙:英国PAL盤」。
以前、ヤフオクで某仏映画のパチモンをつかまされて以来、「PAL盤を再生してみたい」という思いは心の隅にずっと引っかかっていたのだろう。
PALとは、映像信号の一フォーマットで、主としてヨーロッパ圏で採用されているもの。一方、アメリカや日本はNTSCというフォーマットで、両者間に互換性はない。だから、米国盤を輸入して、リージョンの壁さえ破れば、普通に日本の家庭用TVで見ることができる一方で、PALは日本のTVでは通常ダメだが、PCのモニター、プロジェクター等は視聴可能なのだ。それ以前に、DVDプレイヤーがPAL対応である必要があるが、据置型では少ないにしても、PCのDVDドライブではあらかた再生できるようだ。
皮肉なことに、PAL圏のリージョンコードは日本と同じ「2」。つまりプレイヤーのリージョンは適合しても、それを表示できるTVモニターは少ない。一方で表示形式が同じであっても、リージョンコードでハネられるリージョン1。このようにDVDの国境というのは、分厚い壁で2重に施されているのだ。だからDVDは国内ソフトを素直に楽しむのが一番平和。輸入盤に安易に手を出すとフラストレーションが溜まってしょうがない。
円安がさらに進行し、国内ソフトの値段も下がってきた昨今では、あえて輸入盤にこだわるポイントは、リージョン1については、もはや2点だけ。
1:未公開のマイナータイトルが楽しめる
2:リリースタイミングが日本公開より先行している
逆に言うと、国内発売まで待てる、という余裕を持つことができ、未公開であっても日本公開/発売が見通せるのであればアセることはない。
最近私はネット通販にツイてなくて、DVD.com(かつての定番サイトexpress.com)でオーダーしたResident
Evil(邦題バイオハザード)は、7月末米国発売だが、結局10月末の今となっても、私の手許に到着していない。カード決済は行なわれてしまっている。amazon.comなら一ヶ月たって未着なら丁重なお詫びと共に再送してくれるが、DVD.comは最悪。何度メールを送っても返事無し。米国内でも被害者は多発しているようだから、札付きのワル、確信犯である。安い送料に釣られて絶対オーダーしないように>ALL
バイオハザードの日本封切りは8末。普通に届けば日本の大多数の人々を追い抜いていち早く鑑賞、優越感に浸れるところだったが、未到着の毎日に辛抱たまらず、結局映画館に観に行ってしまった。映画自体は、まあハンドルネームのよしみで(すいませんねゲテモノ映画好きで)一応押さえる必要はあったが(トレーラーはワクワクしたんだけどね)、コレクションとして大事に所有し続ける程ではなかった。本家「ゾンビ」(Dawn
Of The Dead)へのオマージュととれないこともない設定だったりシーンがあったりしても、登場人物が揃いも揃ってバカばっか。基地に潜入するスペシャリストが仮想敵のこと調べてこなくてどうする。「早くアタマを撃てよー」と何度画面に叫びたくなったことか。映画は大したことなかったわ、DVDは届かないわ、で完敗である。
てなことで、我々日本人は、ハリウッドが「お前らにそろそろ見せてやろう」と許可された時期に(スターウォーズの例から顕著なように、公開時期はたいてい世界中で一番遅いのだ。もしくは、「日米同時公開!」だったり「日本先行独占」なんて映画は殆どカス)、世界一高い料金を払って、小一時間直立不動の行を強いられ、そののちにありがたく拝見せねばならないのだ。
ハリウッドにとって日本というのは海外市場におけるかなり大きなボリュームを占めるので、プロモーション等の段取りをきちんと経て、十分に投資分を回収する必要がある。海外通販が日常的になったこんにち、米国でもう発売されたDVDが日本に流入して容易に家庭で再生されては新鮮味がなくなり、宣伝で飢餓感をあおる狙いが希薄化する。だから家庭内再生にもうひとつ壁を設けることは、ハリウッドビジネスの海外戦略を補完する要素として必要だ、と太平洋の向こうで誰か強欲なオッサンが考えたようだ。
しかし、それは日本人を買いかぶりすぎ、というものでは。
日本の大半の人々は、日本語字幕が無いというこの時点で二の足を踏む。実際の話、DVDの話題で、私が日本語字幕無しで観ている、なんて周囲にもらすと、「すごい英語力」なんて尊敬の目で見られる。英語力というよりもむしろ映画をなんとしてでも観てやろうという意志の力であり欲求の強さがなせるものだし、加えてそれまでの数多くの映画鑑賞を通じ、映画の筋運びにおける文法は学習できているから(自慢ではないです、観てれば自然にそうなる)、台詞に頼らずともなんとなくわかってしまう、というようなことが英語のヒアリング力よりも大きいと思うのだが。しかしまあ、インターネットでamazon.comにオーダーする(できる)ということは、それなりに英語に対する抵抗感は少ないからこそ、ではある。
ここでいいたいのは、リージョンコードが無かったとしても、個人輸入してあえて家で観ようとする人々は、ロードショーの興収に影響を与えるほどには増えないはずだ、ということ。言い換えると、日本のR1な人々というのは、ショウビズを毎週チェックしたりして米映画情報に敏感で(大々的プロモーション不要)、国内映画館のサービス業としての水準の低さにあいそをつかしたからこそ(ハナっからロードショーなんか行かないのだ)言葉の壁に臆することなく、ロストの危険もおかまいなしで、あなたのお国=アメリカから商品を購入してあげているわけだから(個人輸入しても米国にお金が行くだけで、日本の景気は良くならないのだ)、リージョンコードなんてセコイ手で邪魔などせずに、むしろロードショー前の口コミ宣伝の尖兵として、もっとリスペクトを以って扱われて然るべきなのではないだろうか。
さて、PAL盤である。リージョンコードが日本と同じ「2」であることから、前述したようなリージョンコード設定の背景からしても、リリースタイミングの早さは期待できない。日本でPAL盤にこだわる意味は、「画質が日本盤よりも米国盤よりも良い(らしい)」という点だけ。なぜ画質がいいかというと、水平方向の走査線がNTSCよりも100本多いので、よりきめ細かく表示される、のだそうである。我が家のプロジェクターは対応信号PAL、とマニュアルに書いてある。DVDプレイヤーにもフロントパネルにNTSC/PALと印字してある。これらの機器のスペックで、果たして水平解像度プラス100本の恩恵を十分に被ることができるかどうかはわからない。でも自分は机上の理屈よりも実践する方を好む。かっこいい言い方をすると、登山家がそこに山があるから登るのと同様に、再生可能(らしい)フォーマットが存在するのであれば試してみたいのが人情というもの。
ヤフオクでいつものR1盤よりもやや高め、3千円台で落札した「羊たちの沈黙 英国盤」。今回はパチモンではなく、れっきとした正規デジタルリマスター盤である。
で、DVDプレイヤー(パイオニアDV−S737)での再生結果は、というと、映ることは映る。が、しかし、画面の下方1/6部分に、さながらVHSのトラッキングがうまくいっていないかのような帯状のノイズがずっと出ている。英字幕も出たり出なかったりだし。そもそもこのジャギー(輪郭のギザギザ)って、プログレ再生できているのかな? プレイヤーとプロジェクターの設定をいろいろといじってみたが、最良点は見出せず、こんな低クオリティじゃ映画鑑賞以前の話だ。どうもプレイヤーの処理速度が追いついていないように思える。素早いパンのシーンなどで後景がズレたりするから。
さて、ここで素直にあきらめて盤を一枚ヤフオクへ奉公に出し、金輪際PALのことなど忘れて被害を最小限に留めるのが常識人。しかし、先日のバイオハザードの一件がまだ心の中で尾を引いていたのか「負けは取り返さねば」の気持ちが強く働いた。これは金銭的な面だけではなく、精神衛生上バランスをとる、という意味の方が大きい。
部屋を見渡すと、先月iPod対応で苦労した我が家のボロPCが目に入った。いやいや、CPUがセレロンの466じゃ遅すぎるし、そもそも、DVD用のデコーダボードはスロット不足で外したのだったっけ。試しにボード無し、ドライブのみで再生してみた。実はこの時点で、他でイヤなことがあって、ウサ晴らしにけっこう新しめのグラフィックカード(64メガ:安いでしょ)をヤケ買いしていたのだった。CPUが非力でも、グラフィックカードでカバーできるのでは、と思ったのだ。
しかし、予想していたとおり、再生結果はコマ落ちが激しく、見られたものじゃない。人物の歩き方なんて皆カクカクして、スターウォーズのC3POみたいだ。まあ、ゲームのパフォーマンスは格段に向上したし(解像度アップ、安定稼動)、6千円の費用対効果としては悪くない。
と、この時点でも、子供と久しぶりにPCゲームで遊ぶなどして頭を冷やせばよかったのだろう。しかし、グラフィックカードを購入した時点で、もう既に腹は決まっていたのだろう。Point Of No Return通過。再度PCでのDVD再生にチャレンジしよう。いや、DVDが再生できる位にはPC全体をグレードアップさせるといった方がよいか。もうPAL盤をちゃんと観る、という当初の目的は二の次にプライオリティが下げられた。PCでのDVD再生という手段が目的になってしまっていたのだ。
こうして、ボロPCを解体しバカPCを構築するという一大プロジェクトの幕は上がったのである(以下次号!!)。
<おすすめDVD>
・RAT RACE:この作品はもうR2盤がTSUTAYAで借りられるので、あえてR1盤を買うメリットは無いといってよい。しかし、もしヤフオクでR1盤が1千円程度で売っていたら、保護してやる価値はある。コメディながら、言葉のギャグは少ないので、台詞がわからなくとも十分理解できる。それほど下品でもないし、かなり前から伏線を張ったよく考えられているギャグもあり、観終わった後で少なくとも時間を返せえ(コメディ映画でありがち)という気持ちにはならない。急な来客でもおもてなしに使える(笑)お得な一本だ。
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