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カバー写真 『地球環』

堀晃著
画=寺澤昭
2000年10月18日刊
ISBN4-89456-781-4
C0193

インタビュアー:[卓]&[雀部]

ハルキ文庫 820円
収録作:
「恐怖省」「地球環」「最後の接触」「骨折星雲」「宇宙猿の手」「猫の空洞」「蒼ざめた星の馬」「過去への声」「宇宙葬の夜」「虚空の噴水」「柔らかい闇」「バビロニア・ウェーブ」
 大脳皮質と連動した脳内コンピュータ、情報省との通信装置を体内に内蔵し、自身の情報識別能力も格段に訓練された人間=情報サイボーグ。この情報サイボーグ・シリーズ全12篇に、星雲賞受賞の長編版の原型となった「バビロニア・ウェーブ」(短編版)を収録。
 '70年の「恐怖省」から、2000年の「柔らかい闇」まで、30年間の集大成。日本にはスティーブン・バクスターが居ない、とお嘆きのハードSFファンに、ぜひ読んでいただきたい短編集です。壮大な、それでいて繊細な情感あふれる短編群が、あなたを待っています! 



[雀部]  今月の著者インタビューは、10月18日に『地球環』を出された堀晃先生です。どうぞよろしくお願いします。
[堀]  こちらこそよろしく。
[雀部]  この本は、これまでに発表された<情報サイボーグ・シリーズ>の短編をまとめたものなんですね。最近、ハルキ文庫は、日本SFの再版(新しい書き下ろしも出てますが)にことのほか熱心で、SFファンとしては、足を向けて寝られないです(笑)
 このシリーズが一冊にまとめられハルキ文庫から出された経緯などございましたらお聞かせ下さいませんか。
[堀]  角川春樹事務所はSF出版に熱心で、ハルキ文庫に限らず、小松左京賞を設定して新人の登竜門を開くなど、SFファンにもSF作家にもありがたい動きです。
 角川春樹氏のカリスマ性によるところが大きく、「これからはSFだ」と断じたところが凄い。予言どおりに状況が変わると面白いですが。
 10月にはSFフェアをやるということで、こちらにも声がかかりました。……まあ、頭数もある程度必要ということでしょうが、ありがたいことです。
 実質的に編集してくれたのは日下三蔵さんです。
 ぼくの短編のなかにはシリーズ形式のがふたつあります。
 「遺跡調査員」シリーズ(結晶状の生命体とのコンビであることから、<トリニティ・シリーズ>と呼ばれることもあります)と、「情報サイボーグ」シリーズで、それぞれ約10篇。ただ、設定や背景が一貫した「未来史」に基づくシリーズではなくて、それぞれ単発のアイデア・ストーリーとして書いています。
 <トリニティ・シリーズ>については、『遺跡の声』(アスペクトノベルス/アスキー)としてまとめられましたので、今回は「情報サイボーグ」シリーズをまとめもらうことになりました。まあ、未収録だった作品もありますから、ちょうどいい機会だったと思います。
[雀部]  最も古い短編が冒頭の「恐怖省」('70)ですね。'69年は、アポロ11号の人類初の月面着陸とか、IBMがハードとソフトを初めて分離販売を開始した年です。
 情報サイボーグとは、脳とコンピュータが直接接続して、その情報を最大限に利用できるエリート達を指していると思います。言ってみれば、ギブスンの『ニューロマンサー』('84)のご先祖様のような存在だと思うのですが、この発想はどこらあたりから思いつかれたのでしょうか。
[堀]  「恐怖省」の原型になる短編は1965年に「パラノイア」という同人誌に書いたものです。……最近、ロボット競技に関するイベントなどがあって、ロボットSFをまとめて再読しましたが、日本の場合、当時はロボットよりサイボーグものが多かったんですね。理由は色々あるのですが、光瀬龍さんの年代記シリーズの影響が大きいですね。特に一編といえば『落陽2217年』でしょう。第4回日本SF大会でお目にかかって感激しましたが……。
 ただ、肉体強化型のサイボーグは多く書かれていましたから、頭脳強化型ができないかなと思いついた……強いていえばそんな発想でしょうけどね。ただ、正確なところは思い出せませんね。二十歳そこそこの思考なんて、日替り定食みたいなものですから(笑)
 小説を書く場合はイメージ先行で、「恐怖省」の場合、廃墟になったコンビナートでレイガンを構えた活劇を書く……というのが最初にあったと思います。それに似合う設定を作っていったらああなった、ということでしょう。
 その後、活劇はどうもぼくの体力では無理だとわかってきます。とくに宇宙空間での活劇は難しいですね。で、トーンが動態から静態へ変化していくのは、後の作品をご覧になればおわかりのとおりです(笑)
[雀部]   あ、光瀬龍さんでしたか、ちょっと盲点だったなぁ。
 訓練(サイボーグ化された)人間が、膨大な記録を扱うという話で一番記憶に残っているは、アシモフ氏の「まぬけの餌」なんです。あと、ヴォークト氏の『ビーグル号』の総合科学なんかも好きでしたね〜。もっと直接的にコンピュータと人間が接続して意識の拡大を計るというとポール・アンダースン氏の『アーヴァタール』('78)が思い出せますが、堀先生の「地球環」('76)も、有機脳にリンクされると人間の意識が、ぱぁーっと拡大される描写が凄く好きです。この中にでてくる<雑音理論>というのは、実用化されるあてのあった理論なんですか?
 それと、「ハリー博士の自動輪」(異形コレクション4『悪魔の発明』所載)のアイデアは、関係があるのでしょうか?
[堀]  雀部さんらしく、懐かしい作品が色々出てきますね。アシモフの書く万能科学者についてはしゃべりたいことがたくさんありますが、これは別の機会にしましょう。
 「地球環」に出てくる<雑音理論>というのは、SFマガジンの64年11月号に載った、レイモンド・F・ジョーンズ『騒音レベル』がベースになっています。原題は「ノイズ・レベル」で、「雑音」と訳す方が正確です。熱力学
第二法則の通信工学版で、有意の信号を重ねていくとノイズになるが、ノイズから有意な信号は取り出せない、ということですかね。ジョーンズの「理論」はこれを逆転させていて、ノイズから重力制御の原理を導き出してしまうというもの。むろん架空理論ですが、石原藤夫さんに聞いたところでは、通信工学の初歩でよく間違う操作ミス(演算の)で、ジョーンズも経験があって、この経験を逆手に取った発想ではないかというこことでした。
 こういうジョークと背中合わせのアイデアは、当時のハードSF好きを喜ばせました。
 作中にジョーンズ博士が出てくるのは、むろん先人に対するから敬意です。
 これに「マクスウェルの悪魔」のパラドックスをからませると、よりトリッキーになります。「ハリー博士の自動輪」も確かにそのバリエーションですが、自分ではもっともうまくいった思うのは「悪魔のホットライン」という短篇です。これは超光速通信と組み合わせました。
[雀部]  そうですね、そういう作品はリアルタイムで読みたかったです。大人向けのSFにどっぷり浸かり始めたのが、'65年からなんで。今読んでも、ころっと騙されそうなアイデアですね。そういう上手く騙してくれる作品というのは、なかなか出会えないものですから。
 「悪魔のホットライン」('78)読み返してみました。あっ、この作品ですか!
これ当時ずいぶん感激した覚えのある短編です。このメインのアイデアは「ハリー博士の自動輪」にも一脈通じてますね。ゾンビ(もしくは悪魔がついている)と呼ばれる謎の通信士の正体は?ということで、落ちの鮮やかさ(と寂寥感)に感激しました。
 すみませんが、この作品はどの短編集に収録されていたかお教え下さい。
[堀]  「悪魔のホットライン」は短編集『太陽風交点』の最後に入ってます。一度、日本SF短編集を英訳して出版する企画があり、自薦してほしいという話がありました。その時に自薦したのがこれ。残念ながらこの企画は流れました……。
英語力があれば自分で英訳してホームページに掲載したいところですが。
[雀部]  ありゃ、ほんとだ。『太陽風交点』に載っていたんですね(^_^ゞポリポリ
 SFマガジンのこの号の矢野先生のインタビューは、眉村卓さんなんですね。
実は、最近『EXPO'87』('67)を読み返してみて(日本の国際的地位向上のためというか、国際世界でリーダーとなるために、人為的な"進化"を促し、"産業将校"というエリートが出現する。あ、これも光瀬龍さんの影響下なぁ)堀先生の情報サイボーグとちょっと似ているなぁと思いました。
 堀先生の作品の登場人物は、どちらかというとアウトサイダー的な要素が多いと思いますが、眉村卓先生のSF作品の登場人物は、インサイダーですね。
私の友人の説明によると『司政官』は、サラリーマン社長の苦悩を書いた傑作SFだそうです(笑)
 眉村卓先生は、意識してインサイダーSFを書かれているようですが、堀先生はそういう観点から書かれることはあるのでしょうか。
[堀]   眉村さんとは先日「おもしろロボット塾」というイベントで同席しました。
眉村さんの司政官シリーズは、いってみれば「世界最長のロボットSF」で、このシリーズについても色々と話を聞けました。
 司政官はサラリーマン社長というより「官僚」の苦悩でしょうね。むろん組織のトップという立場では通じるものがありますが、「利益追求」か「行政執行」か目的がちがってます。「消滅の光輪」では一惑星の全住民の避難という大プロジェクトですし。
 ぼくの情報サイボーグの場合は、情報組織の一員だが、組織から離れて(宇宙空間で通信距離が離れて)はじめて「個」を取り戻すというパターンが多くて、これはインサイダー志向ではありませんね。
[雀部]  あれくらい領民のことを考えてくれる"官僚"ばかりなら、日本国民は大船に乗った気持ちで、安心していられるのですが(笑)
 ロバート・J・ソウヤーの『スタープレックス』で、恒星がショートカット(ワームホール?)を通り抜けるシーンがあり「げげっ、とんでもないことを」と感心して読んだんですが、堀先生は、すでに「骨折星雲」で更に大規模なことをされていたんですね(申し訳ないけど忘れていました。m(._.)m ペコリ)
 以前に、宇宙SFでは、五感のうち視覚的効果が一番大事だとお伺いしたことがありますが、まさにめくるめく様なシーンがヴィヴィッドに描かれてますね。
 また、この作品に出てくる宇宙空間をメモリーとして使用するというアイデアは、どこから思いつかれたのでしょうか?
[堀]  あれはどちらかというと論理よりはイメージの産物ですね。ちょっと話が飛躍しますが、どんな物体でもいわゆる「固有振動数」を持っていて、何かと共振する。これはごく物理の初歩で、オカルトでいう宇宙波動とかとは別ですが。ここから妄想を広げると、森羅万象がメモリーである、一種の原始アニミズムの世界が出てきそうですね。これを宇宙空間に当てはめると……とか、まあそんな思いつきですね。
[卓]  堀先生、お久しぶりです。『地球環』を入手し、感涙にむせびつつ読んでおります。
 ずばり、21世紀の正しいSFの姿を予見していただきたいです^^;)
[堀]   21世紀もあと一月後……と、まるで実感がないなあ(笑)。必要あって、2、3年前の週刊誌の「近未来予想」をチェックしたら、全然当たってない。政治も経済もお先真っ暗な予想ばっかり。危機感というよりも、不安を煽る方が売れるのですかね。
 21世紀まで世界はどう変わるかという質問に、20年前の田中光二さんの回答がいちばん正確な予想をしてます。いわく「惰性でもつ」(笑)。
 SFもそうだといってしまうと実もふたもありませんので、ちょっと希望的観測も入れていいますと、フルタイムのハードSF作家が増えることと、宇宙SFの復権ですね。
 この1年半ほどの動きにそういう胎動を感じます。具体的には、新人の作品が、藤崎慎吾さんが『クリスタル サイレンス』で火星を、三雲岳斗さんが『M.G.H.』で宇宙ステーションを、平谷美樹さんが『エンディミョン・エ
ンディミョン』で月を、さらに『エリ・エリ』で木星を舞台に、それぞれ力作を書かれいてます。野尻抱介さんが『太陽の簒奪者』で星雲賞獲得。林譲治さんの『侵略者の平和』も面白いですし、ぼくの見るところ、横山信義さんや小林泰三さんも書ける人です。あ、むろん谷甲州がいるし。あと、まあ微力ながら堀晃もお忘れなく(笑)……というところですか。
 SF全般についてはコメントできませんが、宇宙SFがこの10年少なすぎたのですね。
[卓]  それとバイオテクノロジー全盛の昨今ですが、工学系SFの復権はなるか? などといった点についてもお聞かせいただければ。
[堀]  むろん復権?はなりますよ。
 先日、瀬名秀明さんと話す機会がありました。……今度の『八月の博物館』はバイオSFの印象が強かった瀬名さんの印象を大きく変える傑作です。この作品についてはぼくのホームページに感想を書きますので見てください。その瀬名さんが、現在、ロボットに興味を持って精力的に取材されているのが面白いです。
 ロボットSF=工学系SFとはいいきれませんが、70年代に「滅びた」(……「ロボットSF」というジャンル分けに意味がなくなったという意味ですよ……)ロボットの人気復活は確実ですね。
 もう少し広げていえば、ネガティブな面が強調されてきたエクノロジーのポップな面がまた浮上してくる周期ということですかね。
[卓]   あとですね
 2足のわらじの履きかたというか どうやって時間を工面して原稿を書くか、その辺になにかコツがありましたらぜひお聞かせ下さい。
[堀]  これはねえ……。
 自ら積極的に開示していくことではないのですが、どこかから声がかかれば『「さぼる」技術』という本を書きたいところです。
 先例としては、10年以上前に松本富雄が書いた『超二流セールスマンへの道』という、経験的サボリの裏ワザをセキララに公開した快作がありますがね(笑)。いかに手抜きして自分用の時間を作り出すかという実用書ですが、松本がいかんのは、現役で書いたことと、それで作った時間をネオン街で消費してしまったところ(笑)。
 ぼくのサボリは、まあ、メインは会社の仕事でしょうけど、これはあとしばらくは書けないなあ。会社の仕事で手抜きできなければ家庭の手を抜く、家庭が無理なら、遊びの手を抜く。遊びの手を抜いて意味あるのかといわれそうですが(笑)、SFの方が好きだから、突き詰めればそうなってしまうのです。
 そのコツの最大のポイントは味方というか支持者というか、ようするに理解者を作ることです。あ、絶対に共犯者じゃありませんよ。べつに悪事を働いてるわけじゃないけど。
[卓]  私は自営業ですけど、いかにして自分のための時間を作るか、理解者を作るかが大事というのは身に沁みて^^;)よーくわかります。時間を作るためというのとは違いますけれど、意欲を持続するためには同好の士というのか、仲間も大事ですよね。
 今後の執筆予定なども、お伺いしたいのですがよろしいでしょうか?
[堀]  なんだかんだいいながら、なかなか実績が伴わないのがこの十年の実績(笑)……
具体的な予定はご勘弁いただいて、来世紀になるとある程度時間が自由になりますから、もう少しは書けると思います。少し長いものに取りかかっていますが、何しろ遅いですからねえ。目途が立ちましたら、これからは自分のホームページでも積極的に宣伝していこうと思います。
[卓]  最後に、「Anima Solaris」へのご注文(アドバイス等)がございましたら、お聞かせいただけませんでしょうか。
[堀]  創刊時に感想などお送りするといってながら、さぼっていて申し訳ありません。
 全部精読という状態ではないので、全般的な感想をいいますと、ネット雑誌としての「設計」が素晴らしいです。これは幾つかある半商業的サイトと比べても遜色ない……というよりも、「Anima Solaris」の方が上だと思います。ぼくのサイトの改造にも参考にさせていただきたいのですが、ある程度以上の大きさになると、ひとりでリ
ニューアルは面倒でねえ。その点、「Anima Solaris」は最初からよく検討されて作られたのだと感心しています。
 それからTomさんの表紙画は毎号素晴らしい。
 作りとイラストを誉めて、肝心の中身ですが(笑)……いや、これは改めて、ぼちぼち書かせていただきます。長くなりますし。
 コラムも面白いし、「日本宇宙開拓史」も楽しみにしています。
 アドバイスとしては、皆さんもっとあちこちの掲示板などで積極的に宣伝することです。こんなに出来がいいのに案外知られていない。ネットも「口コミ」の社会ですから。ネットに限らず、作品を書くだけでなくプロモーションが必要な時代になっているのは確かです。この号が出ましたら、ぼくもちょっとお手伝いしましょう。
[卓]
[雀部]
 長い間、どうもありがとうございました。
 これからも、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いしま〜す。
[堀晃]'94年兵庫県生まれ。大阪大学基礎工学部卒。'70年「イカルスの翼」でデビュー。宇宙SFを中心に創作を続け、『太陽風交点』で日本SF大賞、『バビロニア・ウェーブ』で星雲賞を受賞。宇宙作家クラブ会員。ホームページは、http://www.jali.or.jp/hr/
[卓]本誌編集長。
[雀部]49歳、歯科医、SF者、ハードSF研所員。ホームページは、http://www.sasabe.com

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