『ハイウェイ惑星』 石原藤夫著、あさりよしとお表紙・イラスト インタビューア:[雀部] |
徳間書店 | 676円 | '01/2/28 |
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[雀部] |
今月号の著者インタビューは、2/28に、徳間デュアル文庫より『ハイウェイ惑星』が復刊された石原藤夫先生です。石原先生よろしくお願いします。 |
[石原] |
こういうことは初めてです。どうかよろしく。 |
[雀部] |
SFマガジンの定期購読を始めた'65/8月号に載っていたのが、同誌初登場の石原先生の「ハイウェイ惑星」だったんです(当時中学二年生) 道路のある惑星で進化した生命体は、必然的に車輪を持つようになるという論理は、中学生にも分かりやすく、はっとするほど新鮮でした。同誌の紹介にミリ波通信のエキスパートとあったのですが、この短編のアイデアはどちらかというと、生物進化に関してのものだと思いますが、少し畑違いのこのアイデアはどういうところから発想されたのでしょうか? |
[石原] |
中学二年で『SFマガジン』を購読とは凄いですね。 私の中学時代には考えられないことです。 「ハイウェイ惑星」は思い出の多い作品ですが、最初はSF同人誌の『宇宙塵』に投稿しまして、それが『SFマガジン』編集長の福島さんや副編集長の森さん(南山さん)の目にとまって、すこし修正したうえで転載になりました。 あのアイディアは、東京オリンピックのために自宅(当時は東京の原宿に住んでいました)の近くが、道路をつくる工事で大変な騒ぎだったときに浮かびました。 工事中の道路を見ているうちに、道路だらけの惑星がもしあったらどうなるだろうかと考え、あのアイディアに行き着いたのです。 はじめは、ただ単に車輪生物がいるだけの短い話でしたが、『宇宙塵』の編集長の柴野さんに「もっと理屈をこねて長くしたらどうか」と助言されまして、それからあわてて進化論を科学事典の類で勉強して、ああいう話をでっちあげたのです。 ですから、生物進化そのものについては、あとで付加したので、あまり自信はありませんでした。 「はじめに道路ありき」というのが、あの作品のミソだろうと思います。 そして、この「はじめに・・・ありき」というのが、私ののちのかなりの作品のアイディアの元になりました。 超技術による人工物が放置されて、そこに自然法則で生物が発生し進化したらどうなるか――という思考実験です。 今度の短編集では、「ブラックホール惑星」もその一種です。 今回は見送ったものでは、「アンテナ惑星」などもそうです。 |
[雀部] |
東京オリンピックのために自宅の近くの道路工事が、あの作品のアイデアの元だったんですか。う〜ん、聞いてみなくては分からないもんですねぇ。 『宇宙塵』の編集長の柴野さんに助言されて、長くされたそうですが、当時の『宇宙塵』の雰囲気は、どんな風だったんでしょうか。 |
[石原] |
とにかくSFという言葉がまだ通じない時代で、空想科学小説も通じず、科学小説ならやっと通じるという時代でしたから、例会に集まる人たちは先駆者だという気概があったようです。 柴野さんはSFの普及に家族を犠牲にして(?)挺身しておられました。 で、みなでいい作品を書いたり、外国のSFを紹介したりして、なんとか市民権を得ようと、普及活動に邁進していたと思います。 もちろん、例会などでの話題は、いまのSF関係の集まりにくらべれば幼稚なものだったと思いますが、熱気だけはムンムンしておりました。 私もそれに刺激をうけて、のめり込むようになりました。 宇宙塵と宇宙気流の例会で知り合ったのが、柴野さんのほかに、野田昌宏さん、伊藤典夫さん、荒巻義雄さん、といった人たちでした。 SF作家クラブで多くのSF作家や翻訳家と知り合ったのは、そのすこし後のことでした。 |
[雀部] |
「ハイウェイ惑星」が掲載されてから、石原先生の短編が次々とSFマガジン誌上を賑わせるようになったのですが、当時の編集長の福島正実さんは、こういうハードSFは、お好きだったんですか? |
[石原] |
超お好きでした。 いっぱんに当時のSF関係の人たちは、書くものは文系であっても、理系のことに理解のある人たちばかりだったと思いますが、福島さんはその中でも筆頭で、『SFマガジン』でも理系の執筆者を必死で探しておられました。 しかしなかなか見つからず、そういうときに私がひょっこりと顔を出したので、どんどん載せて下さったというわけです。 |
[雀部] |
そう言えば、あの頃のSFマガジンには「さいえんす・とぴっくす」とか連載異色コラムで「SF人類動物学」が取り上げられたりしてましたね。けっこう好きで、隅から隅まで読んだものです。 石原先生ご自身は、特にお好きなSF作家とかいらっしゃいますか。 |
[石原] |
書き始めたころのことを思い出しますと、日本の海野十三らは別にしまして、やはり、クラークが随一で、あとアシモフ、ブリッシュ、ブラッドベリ、などでした。同じハードSFでもクレメントはちょっとしんどかったです。 それから少し後になってレムが紹介されるようになって、衝撃を受けました。 あのころ(昭和30年代から40年代前半)に著名な海外作家が良質な翻訳で紹介されたことは、日本のSF界にとって幸運なことでしたが、その点でも福島さんの功績はきわめて大きなものがあったと思います。 |
[雀部] |
クレメントがしんどかったというのは、意外ですね。ハードSF的な設定はともかくとして、あまりお話つくりは上手い人じゃないですからね。 「ハイウェイ惑星」も含めて、ご自身の作品で一番思い入れのある本は何でしょうか? |
[石原] |
惑星シリーズとか銀河を呼ぶ声のシリーズとかオロモルフ号シリーズとかコンピュータが死んだ日とかですが、あまり書いていないので・・・。 ノンフィクションではやはりSF相対論入門とSFロボット学と銀河旅行四部作ですね。 SF相対論入門は一般相対論のやさしい解説書としては日本で最初だったと思います。SFロボットは今読むと平凡な内容ですが当時としてはとても珍しく、大学の有名な教授の方から講演してほしいと声がかかったりもしました。また銀河旅行は、海外でも類書はほとんど無いと思います。いまでも・・・。 |
[雀部] |
講談社のBLUE BACKSシリーズの『銀河旅行と特殊相対論』『銀河旅行と一般相対論』なんかは、何回も読みました。ほんとわくわくする本ですね。 ちょっと話は変わるのですが、ハードSF研を設立されようと思いつかれたきっかけは何だったのでしょうか? 同時に、何年頃に設立されたのかもお教え下さい。 |
[石原] |
思いついたというよりも、卒論の学生が私の研究室で学んだ記念に何かやりたいと言い出して、1982年の夏ごろに始めたのです。それがきっかけで、学生より私の方が夢中になってしまったわけです。 もともと同人誌に投書するのが好きだったのですね。 はじめてから、ハードSFの人材を集めようという気持になったので、設立前からそう考えていたわけではありません。 しかし、最盛期には会員が700名にもなり、優れた人材がたくさん参加して下さったので、こちらが驚いてしまいました。 いまSFやSF的科学解説で活躍しておられる方のなかには、世に出る前からハード研の会員だった方が多くいらっしゃいます。 おそらく今でも、日本のSF界では最大のファンクラブだと思います。 お陰さまで・・・。 |
[雀部] |
石原先生はハードSF研主宰としても有名であると同時に、SF書誌学の分野でも世界的に有名ですが、この分野に手を染められるようになったのは、どういう理由からでしょうか。 |
[石原] |
これははっきりしていまして、昭和40年ごろに、野田昌宏さんがSFの同人誌の宇宙気流に、アメリカのSF書誌活動を紹介され、日本でも負けずにやるべきだ――と気合いを入れたのです。 それを読みまして、アメリカに負けてなるものかと、始めたというわけです。 |
[雀部] |
いまご自宅に何冊くらいのSF関連本を所蔵されているのでしょう? |
[石原] |
どこまでをSF関連というかですが、幅広く考えれば、10万冊くらいだと思います。純SF本については、海外のSF雑誌まで含めて5万冊くらいです。 なお私のSF書庫は、熱心なSFファンには公開しておりまして、真面目な研究者が資料調査にいらっしゃいます。『SF書誌の書誌』でファンジン賞を受賞された野村真人さんもそのお一人ですし、科学解説の金子隆一さんもそうです。 |
[雀部] |
10万冊ですか〜。うちにあるのが三千冊弱ですから・・・二十倍以上なんですね。う〜ん想像もつかないなぁ(呆然) それはそうと、『ハイウェイ惑星』と同じ日に、金子先生の『新世紀未来科学』も出版されましたね。後書きに、石原先生の蔵書とデータベースがなければ、この本の執筆は不可能だったとあります。こういう本は、金子先生が執筆されるまで日本には存在しなかったのですが(書ける人が居なかったのかな)読まれてみていかがでしたでしょうか。 |
[石原] |
金子さんも野村さん同様、再三お見えになって調査しておられましたので、期待していたのですが、これはほんとうに素晴らしい本で、期待以上のものです。 日本のSF界にもやっとこういう種類の本を書く人材が現れたかと、感無量なものがあります。 SFの科学技術面のオリジナリティに着目したSF解説書の金字塔ですね。 |
[雀部] |
本来は、早川あたりが出さなきゃいけない本だと思うのですが(あ、これはオフレコにしたほうが良いかな^^;)出来映えは素晴らしいですね。金子先生渾身の力作だと思います。石原先生は、こういう本が出版された意義についてどうお考えですか。 |
[石原] |
欧米――とくにアメリカとイギリス――のSF解説書を見ますと、たとえばアッシュの『SF百科図鑑』とかニコルズらの『SF百科事典』とかがその好例ですが、あるテーマやアイディアのオリジナルが、誰がいつ書いたどの作品にあるか――ということが、じつに丹念に調べられています。 日本の場合は、一般的には、小説としての面白さとか文学的価値とかの方が優先されて、アイディアの先取性にはあまり注意を払わないことが多いように思います。 そういう意味で、金子隆一氏の『新世紀未来科学』は、日本のSFの水準が、あらゆる面で世界的になったことをあらわしていると思います。 すぐに重版になったそうですし、書評も出ているようです。 ハードSFファンの評価も高いものがあります。 意義深い出版だと思います。 |
[雀部] |
今回はお忙しいなか、インタビューに応じていただきありがとうございました。 日本にハードSFとSF書誌学が確固たるモノとして根付くことを期待して止みません。 |
[石原藤夫] '33年、東京都生まれ。早稲田大学電気通信学科卒。工学博士。専門はマイクロ波導波管回路素子。 '65年、「ハイウェイ惑星」でSFマガジンデビュー。以降日本では数少ないハードSFの書き手として活躍。 書誌研究家としても知られ「SF図書解説総目録」「『SFマガジン』インデックス」で、第12回日本SF大賞特別賞を受賞。 その活躍は、海外でも有名でGROLIER社の"THE MULTIMEDIA ENCYCLOPEDIA OF SCIENCE FICTION"にも名前があげられ、業績が紹介されている。 [雀部] 48歳、歯科医、SF者、ハードSF研所員。 ホームページは、http://www.sasabe.com/ |
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