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Author Interview

インタビューア:[雀部]&[おおむら]

『サムライ・レンズマン』
> 古橋秀之著/岩原裕二イラスト
> ISBN4-19-905092-2 C0193
> 徳間書店
> 733円
> 2001.12.31発行
 トランジア第二惑星に派遣された新米レンズマン、ビル・モーガンは、麻薬業者を追いつめたものの装甲されたビルに籠城され手をこまねいていた。しかし、そこに到着した軍情報部のレンズマン、クザクは、あっという間に麻薬業者一味を片づけ、風のように去っていった。
 一方、デスクワークに明け暮れる第二段階レンズマン、キムボール・キニスンは、ストレスの塊と化し我慢の限界を超えたため突発的に休暇を取ることとなった。折しも同じ第二段階レンズマンであるリゲル第四惑星のレンズマン、トレゴンシーから、トレーニングセンターに赴くよう連絡が入った。そこでキニスンが見たのは、アルタイ柔術の模範試合でトレゴンシーに勝ち、続く試合ではキニスンを子供扱いし、居並ぶヴァレリア人たちを苦もなくはねとばすクザクの姿だった。こうしてキニスンにも認められたクザクは正式に麻薬組織のリーダーであるカロニア人の捜索に就いたのだった。

 ん〜、面白い!
 なんといっても、偏屈な盲目の日系サムライ・レンズマン、シン・クザクのキャラが傑出。誇張してあるとはいえ、あのキニスンの頑固・駄々っ子ぶりも相当な描かれ方ですね(笑)
 カイル氏の『リゲルのレンズマン』『ドラゴン・レンズマン』に満足されなかった諸子も、ぜひ読んで下さいませ。

原作の「枠組み」を取るか、「勢い」を取るか

雀部 >  今回の著者インタビューは、昨年の暮れに『サムライ・レンズマン』をお出しになった古橋秀之先生です。古橋先生よろしくお願いします。
古橋 >  よろしくお願いいたします。
雀部 >  この本の元になったE・E・スミスの《レンズマン・シリーズ》というのは、私のようなオールドSFファンには、なんとも懐かしいシリーズなのですが、どういう経緯で、この作品を書かれることになったのかお教えいただけませんでしょうか。後書きによると、元々は角川春樹事務所から持ちかけられた話だということなのですが。
古橋 >  はい、以前から私は、自作やインタビューなどの中で、よく《レンズマン》ネタの話をしていて、そこに興味を持たれた角川春樹事務所の編集さんが「《レンズマン》お好きでしょう? 外伝をやりませんか」と言ってくださったのが最初のきっかけです。しかし、まあその時点では、版権者のOKが出る確証のない、冒険的な企画でありました。
 で、その後、検討用のプロットができたあたりで、この話は角川春樹事務所様の社内的に一旦ポシャってしまったのですが、同じ編集さんが企画の引き受け先を探してくださって、徳間書店様に拾っていただくことができました。なんだかんだで結果的には自由にやらせていただくことができて、私にとって思い入れの強い一本となりました。
雀部 >  色々紆余曲折があったわけですね。
 『サムライ・レンズマン』は、元の《レンズマン・シリーズ》のいわば番外編といった位置づけになると思いますが、書かれるに当たって気をつけられたところ、苦労された点などをお聞かせ下さい。
古橋 >  これは二次創作一般について回る制約だと思いますが、原作の「枠組み」を取るか、「勢い」を取るか、という部分で選択を迫られました。端的に言うと「原作中の『最強の敵』より『もっと強い奴』を勝手に出していいのか」「かと言って『今までより弱い奴』しか出てこなくていいのか」ということです。この部分に関しては、今回は敵も味方も「個人レベルでは最強に近いが、大局には影響しない人物」といったふうに設定し、原作との矛盾をなるべく避けながら、できるだけ派手な展開をするようにしました。
 また、作業的な面では、執筆中に原作(旧訳版《レンズマン・シリーズ》の文庫本)や資料(アメリカで発行された『レンズマン事典』のようなもの――新訳版《レンズマン》の翻訳をされている小隅黎先生にコピーをいただきました)を参照できるように、それらのインデックスを表計算ソフトで作ったのですが、その工程にけっこう手間がかかりました。
雀部 >  そうとう「勢い」を重視されたのかなぁ。スケール感から言えば、原作を凌いでいる感じがしましたから〜。
 特に超空間チューブを使ったあのシーン。あれは凄い!
 超空間チューブというと「レンズマン」以外では、フリッツ・ライバーの『放浪惑星』にも登場しましたし、ロバート・J・ソウヤーは、『スタープレックス』で、ショートカットから恒星を出現させて、SFファンの度肝を抜きましたが、これって超空間チューブみたいなものですよね。古橋先生は、やはりこれらの作品のスケールを上回ってやろうと意識されて、ああいう描写になったのでしょうか(笑)
古橋 >  他作品と比べてというよりは、やはり「《レンズマン》世界の上限ぎりぎり」が狙いどころでした。
 また、私は元来発想が大味なので、派手にすることよりもむしろ、地に足をつける方向に書くのが大変です。今回はダイソン球のスペック等について、金子隆一先生の著作などを参考にさせていただきました。あとはレンズマン世界のテクノロジー(及びその描写)の応用で、特に飛躍した発想というわけでもないかと思います。

原作のキャラクターを斜めから見るとこう見える

雀部 >  ダイスン博士自身も、ダイスン球核と太陽を丸ごと恒星間飛行させる可能性を示唆していたみたいですね(永瀬唯著『疾走のメトロポリス』INAX刊)さすがに超空間チューブは思いつかなかったようですが(笑)
 また反対に書いていて楽しかったところはおありでしょうか。
古橋 >  いやあ、「トレゴンシー」とか「ノシャブケミング」とか「QX!」とかいった名詞や特殊用語を打っているだけでも、楽しくて仕方なかったです。
 また、原作の主人公「キムボール・キニスン」を書くのがとても楽しかったです。原作とは微妙に性格づけを変えてあるのですが、設定変更というより「原作のキャラクターを斜めから見るとこう見える」というくらいな感じを狙いました。この「斜め視点」は「現代日本人が書く《レンズマン》」ならではのものだと思います。
 日本人といえば、“サムライ”がらみの「勘違いジャパネスク」ネタも、「海外SFの定番のお楽しみ」へのオマージュとして、楽しんで書きました。
雀部 >  わはは(爆)
 確かに、キムボール・キニスンは"俺が、俺が"としゃしゃり出てくる性格ですわ。
 創元SF文庫からは、デイヴィッド・カイル氏の書かれた続編『ドラゴン・レンズマン』『リゲルのレンズマン』の二作品が出ていますが、古橋先生は書かれるにあたって意識はされましたか。私は、元の《レンズマン・シリーズ》のアメリカのスペオペらしい脳天気なところと、日本のヤングアダルト向け小説のギャグの感覚、キャラがたっているところが絶妙にミックスされた『サムライ・レンズマン』のほうが、数倍面白く思えました。
 まあ、この『サムライ・レンズマン』という題名を古橋先生がつけた瞬間から、面白さは保証された感じもしますが(笑)
古橋 >  カイル版《レンズマン》は「参考作品」的な扱いとさせていただきました。おいしいネタがあればちょっと拝借し、ノリが合わなかったり設定に矛盾が生じそうだったりする部分には目をつぶってもらう――という感じで。
 カイル氏自身は、新しいネタをガンガン突っ込んでいくことによって「今風(1980年当時)にカッコいい、ハードな《レンズマン》」を作っていこうとされていたのだと思います。オリジナル《レンズマン》のほうも、執筆当時(1937〜)は「最新の科学的知識に基づいた先鋭的作品」だったわけで、前向きにその志をつぐと、ああいう形になるのでしょう。私のほうは《レンズマン》のスペオペ的要素に焦点を合わせ、「アナクロ&ノスタルジー風味で勝負!」とか言っているので、方向性としては、カイル氏とは丸っきり逆かもしれません。まあ、「他の人(カイル氏のような)を差し置いて、『俺が《レンズマン》を“進化”させる!』なんてのは出しゃばりすぎだろう」みたいな気持ちもありましたし。
 『サムライ・レンズマン』のタイトル(というか企画自体)は、ちょっと胡散臭く、かつ、力の入りどころが微妙にズレている感じが、自分でも気に入ってます。全力で「笑ってゆるして」と主張してる感じで(笑)

天目茶碗を見ると感動のあまり腹を切る

雀部 >  なるほど、「笑ってゆるして」ですか。非常に雰囲気がわかりますねぇ(大笑)
 ところで、主人公のクザクの名前なんですが、最初は日本人だから、九雀とか、あるいは孔雀がなまったのかと考えていたのです。でも、古橋秀之先生ご自身のホームページには、ロゴが"ターンA"してあるでしょう。そこで、Qザクとか、旧ザクとかもあるかと思ったり。でも、それじゃ敵役だからまずいか(笑)
古橋 >  あ、いえ……特にザクは意識してなかったです。先ほど話に出ました「勘違いジャパネスク」の一環として、「日本語っぽい発音だけど、実際には存在しない名字」ということで考えました。
おおむら >  なんというか、日本だからこそ出てきた作品という感じがしました。でも、その一方でなんとか本場のアメリカの人たちにも読んで欲しいな、と思わせるノリがうれしかったです。
 まさか、そういう企画はないですよね? ^^;;;
古橋 >  いやあ、あったらいいんですが、今のところそういう話はないですねえ。
 まあ、それゆえに好き勝手にやらせてもらえたわけですけれど。
 アメリカにご友人がいらっしゃるかたは、どうぞ宣伝してくださいな(^^)
雀部 >  ジャパネスク・レンズマンとして受けるかも知れませんね。
 あと、名前といえば、同じくレンズマンのクジラのジョナサン。これには吹き出してしまいました。これは明らかに『カモメのジョナサン』とデイヴィッド・ブリン氏の『スタータイド・ライジング』が入ってますよね?しかし、クジラの宇宙パイロットとは豪快ですなぁ。まさに、バーゲンホルムの慣性中立化装置が無くては出来ない大技ですね!
古橋 >  あと『ジョナサンと宇宙クジラ』とか『スターシップと俳句』とか。
 原作の書かれた年代からはちょっとずれると思いますが、「海外SFならクジラネタも入れとけ」くらいの気持ちです。それにしても、クジラは出てくるだけで雄大なイメージが喚起されてイイですね。ネタ的にレンズマン向きだなあ、と思います。
雀部 >  おっとその二つは、外していたなぁ。(^_^ゞポリポリ(汗)
 そういえば、クザクのやたらと腹を切りたがる性格づけにも、『スターシップと俳句』が入っていませんか?(というか、やはり「勘違いジャパネスク」の一環でしょうね) また《レンズマン》と言えば、拷問シーンと上級者への通信シーンが印象深い(というか、良く出てくるし)のですが、それがちゃんと踏襲されていて大受けしました。
 テレビの戦隊モノの敵役に親玉から命令が伝えられる場面などを見るにつけ「あ、ボスコーンの真似や」って(笑)
 やはり、古橋先生もこういうシーンがお好きだったのでしょうか。
古橋 >  あの天目茶碗を見ると感動のあまり腹を切るという(笑) ああいうノリは大好きです。
 ボスコーンのシーンも、好き嫌いで言うとやっぱり好きなんですが(笑) 執筆前に《レンズマン・シリーズ》全巻のプロットを書き出して、「要塞攻略」「艦隊戦」「潜入捜査」「拷問」などの“お約束ポイント”をチェックしたのですが、その中には「ボスコーンの悪者会議」というのもありましたので。これは外せませんね(笑)
 なお、私の方は特撮ヒーローやアニメに先に接した世代なので、むしろボスコーンが「マンガの悪役みたいなこと言ってる」という印象が強いです。まあ、その手の話の共通のご先祖のひとつなわけですけど。

あの辺が原作中で一番おいしい時期

雀部 >  岩原裕二先生のイラストなんですけど、クザクがあまりハンサムではなく、なんかいかにも偏屈そうなところが特に良いです(失礼)
 古橋先生の元々の考えられていたイメージと近いですか?
古橋 >  私の場合、ビルとかキャットあたりはほぼイラスト通りのイメージだったんですが、なぜかクザクだけは外国のイラストレーターっぽい絵柄で想像してました。妙に頬骨が張ってるとか、変なクマドリしてるとか、なぜか中国テイストが混じってるとか。その後、岩原先生の絵を見て、「あ、こっちが正解だよなあ」と思いましたが。
 どちらにしても、特に美形とは思ってなかったです。
おおむら >  キャットの弟や妹たちの描写も、渦動破壊者のチームを彷彿させてくれてましたね。 時期的にも渦動破壊者とレンズの子らの間を縫うものとなっていたので、結構なにが起きてもおかしくないような感じでしたね。
 ところで、第二段階レンズマンとレンズの子らの間というと、結構時間があいているので、すきま的な作品を入れようとすると丁度よい時期ですよね。次回作はそこらへんをねらうのでしょうか?
古橋 >  やはり、あの辺が原作中で一番おいしい時期だと思いますので。それに、キニスンの現役時代は本編で描かれた以上の「大事件」は出せませんし、かと言って、『レンズの子ら』よりあとの時代にはさすがに手を出すのがはばかられますしね。
 続刊の予定はまだ正式には決まっていないのですが、『ファースト・レンズマン』の時代の知られざる事件が“現代”に絡んできて――みたいな話がやれると面白いかな、とも思っています。博物館に入っているシカゴ号の中からヴァージル・サムズのメッセージが発見されたりとか……。
おおむら >  それってものすごくおいしいネタですね。キニスンに張り合う“サブキャラクタ”となるとやはりあのファースト・レンズマンしかいないですよね。
 それに『ファースト・レンズマン』と『銀河パトロール』の間とかも今回のような記録に残らない「大事件」があってもおかしくない時期ですよね。使われている大道具とかが古い分、派手さに欠けるかもしれませんが、そんな時代の話も見てみたいような気がします。
 『正式』にというところがまたなんとも今後のことが期待できてうれしいです。是非またあの『変』なレンズマン世界を楽しめる日が来ることを楽しみに待ちたいと思います。
雀部 >  私は、もっとクザクのシリーズ(及び外伝)を続けて欲しいです。一巻だけで終わらせるにはあまりに勿体ないキャラですし。
 第二段階レンズマンたちやヴァン・バスカークとの絡みももっと読みたい。
 キャット・モーガンも、もっと出番があって良いし。レッド・レンズマンの向こうを張ってピンク・レンズマンになるとか〜(笑)
古橋 >  《レンズマン》に関しては、基本的に「ファン活動」的なスタンスを取っていますので、やるならどんどんウケそうな、お祭り的な方向に行きたいですね。「新・女性レンズマン登場」は「ウケる」と「顰蹙を買う」のバランスがかなり微妙ですが(笑)
 地球人とヴェランシア人とリゲル人とパレイン人のレンズマン候補生のチームもので全員女の子とか、ちらっと考えたんですが、やったら怒られるでしょうねえ……(笑)
雀部 >  かまわなければ、現在執筆中の作品についてお教え下さい。
古橋 >  メディアワークスさんの新シリーズです。
 内容は、まだ一応秘密ということで……。
雀部
おおむら
>  今回は、お忙しいところ時間を割いていただき大変ありがとうございました。
 次回作も、その次も、楽しみに待たせていただきます。
古橋 >  どうもありがとうございました。今後もよろしくお願いいたします。

 

[古橋秀之]
'71年生まれ。'95年、『ブラックロッド』で、第二回電撃ゲーム小説<大賞>受賞。
著書に『ブラックロッド』シリーズ、『ソリッドファイター』、『タツモリ家の食卓』など多数。
[雀部]
48歳、歯科医、SF者、ハードSF研所員。
ホームページは、http://www.sasabe.com/
[おおむら]
同人作家。ホームページは http://www.t3.rim.or.jp/‾yutopia/

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