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Author Interview

インタビューア:[雀部]

『腐敗の帝王
メモリー オブ レイン』
> 久美沙織著/子安武人原案/川添真理子画
> ISBN 4-04-430302-9
> 角川ビーンズ文庫
> 514円
> 2002.12.1発行
 とあることから不死者となった稀代のハンターである雨竜堂揚羽は「慈悲大天使修道騎士団<ハーデース>」に囚われ、日夜の拷問を受ける身となっていた。
 一方、2999年世紀末のロンドンに忽然と現れた美少女マースは、大銀河の経済を牛耳るラ・ザルス財団の継承者であったが、陰謀に巻き込まれたため、着の身着のままの状態で地球に放り出されてしまったのだ。なにげに目立つ容姿をしているため、ここでももめ事に巻き込まれたマースは、やおら畳んであった翼を開き、飛んだのだが、犬型浮浪獣人のジョシュのカスミ網に引っかかってしまう。

『腐敗の帝王
ヒューマンファクター ファクトオブヒューマン』
> 久美沙織著/子安武人原案/川添真理子画
> ISBN 4-04-430303-7
> 角川ビーンズ文庫
> 648円
> 2003.2.1発行
 元の恋人である雨竜堂揚羽を助け出したいマースと、自分を生み出した教授と再会したいジョシュの二人は、邪魔者としてハーデースに付け狙われていた。
 一方、相変わらず幽閉の身である雨竜堂揚羽は、人体の解体が趣味という変態女医によってもてあそばれていた。

成り立ちからして普通の本とは違っているようですが

雀部 >  なかなか人気が高いようで、みなさんこのシリーズがどれくらい続くのか気になっているようなのですが、あとどのぐらい続くんですか?(笑)
久美 >  わぁ、また聞かれた〜〜(泣)!
 なんとアレで終わりなんです。とりあえず。二巻までなんです。
 いまでてるので全部なんですー!
 終わってるように見えないかもしれないけど完結しているつもりなんです。
 ああ、だから「メモリーオブレイン上・下」にしよう! って言ったのに〜〜。
 カド○ワビーンズ文庫さんは、そういうの、ナシなんですって。
 「腐敗の帝王123……」とかも、ダメなんですって。
 そうすると売れないからそうしないんですって。
 けどさぁ、それって結果としてとっても不親切なんじゃないかなぁ?
雀部 >  くみ先生が、後書きで「終わりだ!」と書かれたら良かったかも(笑)
 そもそもの成り立ちからして普通の本とは違っているようですが。
久美 >  そうなんです。
 とっても恩のあるかたから、ちょっと変則的なご依頼がありましてねぇ。
 人気声優さんが、短編小説を書いて、サイトに発表した。
 それをゲームとかアニメとかにどんどん展開したいんだけど、本人は忙しくてたくさんは書けないから、同じ設定で、主人公で、長編をいっこ書いてくれないか。
 それが子安武人さんで、『腐敗の帝王』だったということ。
 公式サイトは  http://www.koyasutakehito.com/huhai/
 わたしが依頼をうけた時点で、そこに、子安さんの書いた小説がえーと、二つ、とカウントしていいのかなぁ、ひとつはいまだに途中までなんだけど……があって、あとやっぱり同じ設定のドラマCD『揚羽蝶の烙印』が既に発売になっていました。
 最初にアタマにうかんだのはネタもキャラもみんな時代劇にずらして『揚羽蝶のご落胤』とかにしようってふざけたものだったんですけど、あいにくと(?)もっとマジな話でねぇ……。
 わたしは当初寡聞にしてよーわかってなかったんですが子安さんってすっっっっごい人気あるかたで、あまり悪乗りしたりからかったりしようもんなら、子安ファンのおねーさまたちを、すっごい怒らせちゃいそうで。
 版元とかもそれはやりたくないと。
雀部 >  『揚羽蝶のご落胤』だと水戸黄門のシナリオと間違えるから?(爆)
 あ、すみません。私も子安さん存じ上げませんでした。
 Webで見てみると、『十二国記』や『天地無用!』(地元だ〜)なんかにも声優として出られているんですねぇ。だったら、聞いたことはありますよね。
 で、そういう制約があるので、ことわろうかと思われたとかは?
久美 >  それはまったくないです。恩返ししなきゃならないと前々から思っていたかたから「やってくんない?」っていっていただいたんですから、なにがなんでもやるしかないです。
 そのうえ、すごい人気のあるひとのファンが漏れなくついてくる、アニメにもゲームにもなる、映画にだってなるかもしれない! なんてトラタヌ的欲望はどんどん広がりましたもん。
 ここでやるっていわなきゃプロじゃないです。
雀部 >  で、くみ先生のプロ根性に火がついたと(爆)
 頼まれた方も、くみ先生が、そういう困難があるほど燃える作家だと見抜いて頼んで来られたんでしょうね。
 後書きには、最初に書かれたオープニングの部分が載っていましたが、構想をねられているうちに変わってきたんですか?
久美 >  最初に、おねーちゃんがいきなり裸になって翼はやして夜の橋から飛ぶシーンをやろう! やりたい! と思ったのは、それが、劇場の大画面アニメでくっきりと自分に見えてたからですよ。おおー、むちゃカッコえーやんか! って。
 久美は二十五年もプロやってますけど、いまだにただのいっこも映像化してもらったことないですからねぇ……。そりゃみてみたいんですよ。自分が空想したものがかたちになって動くとこ。アニメ好きだし。
雀部 >  私も「オカミキ」とか「ドラファ」とか、アニメで見たいですぅ。
 あ、今回のインタビューはそういう話ではないか^^;
久美 >  問題は、気がついたら、そのシーンを実現させるためにおねーちゃんの設定にいれこんでて、そのコにわたしが夢中になっちゃってすっかり可愛くなってしまってて、肝心の主人公がすっかりかすんでしまったというところっす……とほほ。
 第一稿をみせた時、関係者一同みな異口同音に「カッコいい、悪くない、おもしろい、でも、……雨竜堂はどこ?」っておっしゃったので、「しまったそうだった」って大反省して、とにかく一行でも多く雨竜堂さんを出そう、まずはじめにも彼がいるとこから書かないと……とかって軌道修正したんですけど……失敗した。正直いって。
 子安さんの雨竜堂さんとわたしの雨竜堂さんはどう見ても別人ですよね。
 言い訳をすれば、わたしの雨竜堂さんはあくまでレインであって、マースの目からみた「ウチのカレ」なのであーなんだ、ってことになるんですけどね。

気がついたらあんなのになっちゃってたんですーー!

雀部 >  結局、雨竜堂揚羽の登場は、最初と最後のほうだけですもんね(笑)
 この小説版“腐敗の帝王”の雰囲気というか出てくるガジェットはかなりSF的ですがこれは意識してですか?
久美 >  だってだって「30世紀の未来」なんですよぉー(泣)!
 30世紀っつったら、そりゃあスーパージェッターで流星号でしょう!
 20世紀から21世紀にかけての「科学技術の発展」カーブがそのままどこまでも続くたぁ思えないですけど、
それにしたって、なまはんかじゃない未来ですよねぇ。
雀部 >  まあ、確かに想像の埒外にありますわ。
 とてもそれまで人類が持つはずがないという可能性はおいといても(泣)
久美 >  子安さんの小説はね、さすが声優さんで、ははぁ、たぶんこれはご自分がやりたいキャラなんだな、言いたいキメゼリフなんだな、って感じがよくわかるんですよ。
 それはもちろん当然だし、彼のファンのひとたちもそういうのを読みたがるだろうから、まさに「正しい」んですけど、それにしては設定のツジツマがちょっと……あのう、ここだけの話なんですが、子安さんちの雨竜堂さん、30世紀の住人に見えます? 見えないですよねぇ。むしろ古風ですもん。マントだし。フリルひらひらだし。ガソリン車、それもいまでさえクラシックカーなタイプをのりまわしてたりとか。
 おそるおそるそう申し上げたら「ああ、ええ。でもどうせ架空の世界で嘘ですからね、自分の好きなものを並べたので!」ってなことを子安さんは元気よくニコニコとおっしゃるんですけどね(泣)
 大きな声ではいえませんが「だったらなんでそんな未来なんかにしたのよー! なんで19世紀とか20世紀初頭ってことにしておいてくれなかったのよー!」と、ちょっと恨みました。
雀部 >  まあ30世紀なんだから、なんでもありということかも。なまじ未来予測を入れても、外す可能性のほうが高いですもんね。携帯電話一つにしても、SF作家はもとより、誰も、こんな普及した日常風景を予想した人はいなかったですからねぇ。
 時代設定はちょっと棚に上げるとして、キャラ設定のほうは、いかがでしたか。
久美 >  サイトのキャラ表みると、イラストがあって、身長が何センチで、年は1200歳とか3000歳とか書いてある。それ、かみさまですよねぇ。かみさまたちのおはなしって神話ですよねぇ? ていうか独自の足跡でもついてたら怪獣百科っすよ。体重何トンとかっていちいちまるでマジに見てきたように書いてあって、ウノミにするとどうなるか柳田理科男さんに解説してもらって大笑いみたいな。
 けど! いっしょうけんめい、そういった設定をとにかく可能なかぎり全部のんで、よほどツジツマのあわないとこ以外は全部きっちり生かそうとしたら、気がついたらあんなのになっちゃってたんですーー!
雀部 >  わはは(爆)
 後書きにも最初の構成案や文体見本とはずいぶん違ってきたように書かれていますね。
久美 >  ええ。わかってたんです。きっとヤングアダルト系のゾンビハンターものみたくするのが正しいって。
雀部 >  ゾンビハンターというと、平井和正さん!懐かしい。
久美 >  カッコいいヒーローが、次々に現れてくるいろんな敵を、いろんなワザと知恵でんちゃかやっつけてぶちかましていきゃいーんだって。
 でも、わたしにはどうやらそういう才能がまっっっったくないらしくて……しくしく。
 そもそも『るろ剣』とか『幽遊白書』とか、最初すっごい好きだったのに、なまじ人気がでてくると、なぜか決まって「対戦モード」になっちゃって、とにかくどんどん出てくるいろんな敵と毎度せっせと戦うだけになったりする。ストーリーはそこでとまって、もう進行しないのよね。そうなると、わたしの読みたいものではなくなってしまう。で、読まなくなっちゃうほうだったりする。
雀部 >  『るろ剣』や『幽白』は、子供が好きで一緒に読んでました(爆) 『烈火の炎』なんかも同列やなぁ。あれは、『ドラゴン・ボール』が大当たりしたんで、編集部のほうからそういう要望が出るんでしょうね。
久美 >  たぶん、連載が続くと気力も体力もつづかなくなってくるのにますます時間に追われるのと、テレビアニメにしやすいようにとか、話がすすむと終わっちゃうんで人気があるうちはぐるぐる同じことまわしておいて引き伸ばそうとか、その手でみんな成功しているってんで編集さんもそっちに誘導するんだろうと思うんですけど、あれはもったいないと思う。
 好き好きかもしれないけど。
 そういうほうが好きなひともなかにはいるのかもしれないけど。
 わたしはとにかく「ああ、はじまった、戦闘モードになっちゃった、これからとうぶん毎度同じパターンで次々にいろんな敵をやっつけるだけなんだな」ってミキリがついちゃうと、もう、かなりうんざりしちゃうほうなのよね。
雀部 >  ええ、ああいう武道会、好きな人大勢います。どこまで新たなパターンを出せるかが勝負みたいな。SF系にもいっぱいありますよね。うん、私も嫌いではないな(笑)
久美 >  平井先生や獏さんや菊地さんはそりゃもうなんてったってうまいからー。
 「対戦モード」も毎度ちゃんと工夫があってカッコいいし、ちゃんと特殊なキャラがそれぞれのいい味を出して盛り上げるよね。
 獏さんはプロレスとかお好きでしょう?
 やっぱ好きこそものの上手なれっていうか、そもそも戦士がおのれのニクタイをかけて戦いあうことそのものが熱烈に好きだってひとに、そういうのはむいてるのかもしれない。
雀部 >  SF系で古典的なそういうのは『縄の戦士』あたりかなぁ。戦士ものなんだけど、渋くて好きだったなあ。SFのジャンルの一つかも知れませんね。
久美 >  そういえば雀部さんに前にご紹介いただいたキャサリン・アサロさんの作品が(ありうる未来で)とっても参考になりましたです。ありがとうございました。
雀部 >  あ、そうなんですか。そういえば、出だしでマースちゃんが、幽閉された恋人を助け出しに行こうと決意する設定なんか《スコーリア戦史》と良く似てますね。
久美 >  すみません。まねっこしたのかも。
 もっとロコツに参考にしてまねしようとしたのは、ナンシー・A・コリンズの吸血鬼もの『ミッドナイト・ブルー』シリーズ。セクシーで退廃的な感じが子安さんのサイトの雰囲気にあってるなぁって思って。けど、久美の資質とは違うんだよねぇやっぱり。エッチにしよう、きわどくいかがわしくしよう! と心がければがけるほど、なんかミョーなほうへミョーなほうへいってしまって……
雀部 >  全然エロチックにはならなかったと(笑) 『ミッドナイト・ブルー』は、かっこいいんですが、30世紀って雰囲気じゃないですよね。私的には、子安さんのサイトから受けるイメージを膨らますと―ここが大事(笑)―エリザベス・ハンドの『冬長のまつり』あたりを連想したんですが(24世紀末、ウィルス兵器による汚染と遺伝子改造によるモンスターが跳梁跋扈するワシントンDCが舞台)
久美 >  ○○博物館とか○○カフェとか○○農場とか○○百貨店とか、30世紀の英国にはこんなもんができてたりしない? あったらちょっとのぞいてみたくない?
 ってなオタな方角に、もうどんどん走ってしまって。
 気がついたら、そういったどーでもいいような設定をやたら熱心に詳しく説明ばっかしていて、なんのことはない未来英国探訪記になってしまった(泣)。
 エスエフとバレると売れないので、バレないように可愛い絵でごまかしてもらいました。

 川添真理子さまに。
 川添さまは、ジョシュが結局あーなってこーなったのを知ったときには「そうだったんですね……」って担当に寂しそうにおっしゃってくださったそうで、そんだけ愛してくださったのがバッチリわかる絵ですー!
 ほんまにありがとうございます!
雀部 >  うんうん、ジョシュ君可愛くて健気ですね。
 30世紀が舞台となると設定的に苦労されたと思いますが?
久美 >  30世紀のロンドンに狼男とかグールとかが跳梁跋扈しちゃってるとしたらそりゃあ「ナノテクの暴走」以外、かんがえられないっすよねぇ?
雀部 >  ナノテクが暴走しなくても、変な人間はいっぱい居ますから、狼男とかグールに限らず、ゴルゴンとかバジリスクとかドワーフとかになりたい人も居るんじゃないでしょうか(笑)
久美 >  そーか。なりたがったらなれるのか! いま眼からウロコ落ちました。そういう設定もありでしたねぇ。
 わたしはすっかり、ほとんどのひとは生まれつきならされちゃったまんまだろうと。でも考えてみると30世紀なら、プチ整形ぐらいの覚悟とか費用で、いつでも変身できちゃうかもなぁ。
雀部 >  このシリーズは二巻で終わりと最初にお聞きしたんですが、そのわりには余韻を持ったラストになっています。番外編を書かれる予定はありますか。
久美 >  後編に出てくる阿玲のサイドストーリーはあるんですよ。できてるんです。メモはとってあります。
でもそれをダーッと書くと、またまた雨竜堂さんまったくぜんぜん出てこない部分がながーくなっちゃって、あまりにもやばかったんで、やめたというか、自分のきもちとしては「後回し」にしておいたんです。
 いつか出せるといいなと。
 ひょっとしてもしかして『腐敗の帝王』全体がうんとこ盛り上がって、ほんとにゲームとかアニメとかになったりしたら、サブキャラのサイドストーリーにも需要が生じてくるかもしれない。そしたら書かしてもらえるかなぁと思います。
雀部 >  それでは、みんなで応援しなきゃ。


[久美沙織]
岩手県盛岡市生まれ。上智大学文学部哲学科卒。在学中の'79年、「小説ジュニア」にてデビュー。集英社のコバルト文庫を中心に活躍し、代表作である少女小説『丘の家のミッキー』がベストセラーに。異世界ファンタジー『石の剣』、SF長編『真珠たち』(早川書房刊)、ホラー長編『夜にひらく窓』(早川書房刊)や『電車』、ホラー短編集『孕む』など著書多数。ほかに「ドラゴンクエスト」「マザー」など、人気ゲームのノベライズも手がける。軽井沢在住。
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[雀部]
50歳、歯科医、SF者、ハードSF研所員。
ホームページは、http://www.sasabe.com/

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