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Author Interview

インタビュアー:[雀部]

『神は沈黙せず』
> 山本弘著/大路浩美装画
> ISBN 4-04-873479-2
> 角川書店
> 1995円
> 2003.10.31発行
粗筋:
 六歳の時、土砂崩れで両親を失い兄と2人だけ生き残った和久優歌は、それ以降神様が信じられなくなる。中学生の時、他人の本音を直感的に読み取ることのできる柳葉月と出会い生涯の友となった。高校の時、優歌はTVのやらせ番組に出演し、大きな代償を払うこととなり、一旦信じられた嘘は、真実より強いと思い知らされた。
 一方兄の良輔は、大学でコンピュータがソフトを自動的に進化させる遺伝的アルゴリズムを研究し、『ダーウィンズ・ガーデン』というシミュレーションゲームを完成させていた。
 大学を出た優歌は、編集プロダクションを経て、フリーのルポライターとして神の到来を信じる教団<昴の子ら>に潜入し、その実体を暴いた『プレアデスを目指して』という本を出版して評判となる。そして、インタビューを通じて知り合った加古沢黎という天才作家と親しくなり、恋仲にまでなるが、兄の良輔が発見した神の存在を科学的に裏付ける理論をその加古沢に盗まれたため、彼との間も疎遠になってしまう。
 良輔は、人工生命を進化させるゲームの開発をなげうって失踪し、一方加古沢は神の存在を予言した天才として賞賛されマスコミの寵児として祭り上げられていた……

『審判の日』
> 山本弘著/景山徹装画
> ISBN 4-04-873543-8
> 角川書店
> 1680円
> 2004.8.31発行
収録作:
「闇が落ちる前に、もう一度」
この宇宙が、極大エントロピーの大海のなかに、偶然に生まれた極小エントロピーの小領域だとしたら
「屋上にいるもの」
真夜中に響く屋上からの音。そして雑誌に載ったマンションの写真の屋上に写った裸にも見える人間とは……
「時分割の地獄」
コンピュータの中だけで存在するアイドル、AIドルの仕掛けた罠とは。
「夜の顔」
人間なんて何の意味もないと諦観した男が見た見えるはずのない貌とは……
「審判の日」
ほとんど総ての人間が消えてしまった世界。生き残った数少ない人たちの共通点とは……

『トンデモ本?違う、SFだ!』
> 山本弘著/白根ゆたんぽカバーイラスト
> ISBN 4-89691-832-0
> 洋泉社
> 1575円
> 2004.7.21発行
いわゆる名作SFは敢えて外し、山本先生自身が熱愛する作家を取り上げ、「SFの本質は『バカ』である」というコンセプトに基づいて選ばれた作品群。それらを熱く紹介したSF入門書(?)です。

大バカな話を大真面目に語るというのは、SFならではの快感ですね

雀部 >  今月の著者インタビューは、角川から、'03/10月に『神は沈黙せず』、'04/8月に短編集『審判の日』と立て続けに出された山本弘先生です。
 山本先生よろしくお願いします。
山本 >  よろしくお願いします。
雀部 >  今までファンの方は新作はまだかと首を長くして待たれていたと思うんですよ(私もそうですが) それがここへ来て、立て続けでしょう。うれしいやらびっくりするやらで(笑)
 変なことをお聞きしますが、なにかご理由がおありでしょうか?
山本 >  実は企画は『審判の日』の方が先だったんです。
 確か1997年頃だったと思いますが、角川さんから「書き下ろしのホラー短編集を出さないか」という話があったんです。僕はスニーカー文庫で『妖魔夜行』シリーズを書いていましたし、当時はホラー・ブームでしたから。
 それで他の仕事の合間に少しずつ短編を書きためていきました。『審判の日』に収録された「闇が落ちる前に、もう一度」「屋上にいるもの」「審判の日」は、その時に書いたものです。
 ところが、「先に長編を出してから短編集を出した方がいい」という話になりました。僕はライトノベルの世界ではそこそこ名を知られてるけど、一般的にはまだ知名度が低いから、まず長編を出して名前を売った方がいいと。そこで短編集をいったん棚上げにして、長編(『神は沈黙せず』)の執筆を開始しました。それが1999年の初頭です。
 ところがその長編が、完成までに4年かかっちゃった(笑)。いやほんと、あれは大変な難物で、途中で何度も「もうやめようか」と思ったぐらいです。編集さんの激励とかがあったおかげで、ようやく完成にこぎつけたんですが。
 どうにか『神は沈黙せず』が出版できたもので、ストップしていた短編集の方も残りの原稿を書き足し、ようやく陽の目を見たというわけです。
雀部 >  そうだったんですか、短編集の方が先に出来ていたとは。
 『神は沈黙せず』は、巻末の参考資料の量も半端じゃなくて、すごいですね。取材なんかも相当されたのでしょうか。
 それとこれは、「と学会」で、あらゆるものを何年もウォッチングされた成果が出ているのでしょうか。
山本 >  特に取材はしてません。もともと好きなジャンルですから、UFOや超常現象の事例なんかは、前から本棚にあった資料を物色するだけでどうにかなりました。
 むしろ苦労したのは宗教関係や経済関係ですね。特に経済に関してはド素人なもんで、にわか勉強しました。たぶん専門家の方から見れば間違いだらけでしょう(笑)。そこらへんはフィクションだということで許していただくしかありません。
雀部 >  宗教や経済というと「神の顔」が出現した後の宗教界の混乱、社会情勢の激変の様はビビッドで読み応えがありましたよ。
 山本先生はネタの絡ませ方が絶妙でいつも感心してるんですよ。『時の果てのフェブラリー』のチョムスキー文法とか『サイバーナイト』のゲーム理論、『ギャラクシー・トリッパー美葉』は特にネタの宝庫(笑)
 『神は沈黙せず』はこれらの集大成みたいに感じられて、とても面白かったです。
山本 >  ありがとうございます。
 SFというのはもともと荒唐無稽なものなんですが、その荒唐無稽な設定をどのように成立させるか、どんなネタを引っ張ってきて補強するかを考えるのが楽しいんです。
 うまい理屈を考えついた時は「やった!」と思いますね。
 『神は沈黙せず』にしても、「この世界は仮想現実だ」という発想の作品はこれまでたくさんあったんですが、考証を突き詰めていないものが多かった。人間の作ったコンピュータでは、どんなに進歩しても世界をまるごとシミュレートするなんてできない。じゃあ、神のような存在が作ったことにすれば……というように、設定の穴をひとつずつ潰していったんです。
 だから超常現象を持ちこんだのは、設定上の要請なんですよ。登場人物たちに、世界が現実ではないと気づかせるには、物理的に不可能な現象を起こすしかない。だったら実際に報告のあるUFOとかファフロツキーズの事例と結びつけたらリアルになるだろう……というように突き詰めていったら、最終的にああいう話になったんです。
雀部 >  読者にとっては、荒唐無稽なものを屁理屈(擬似科学とか)をこねて、著者がどれだけ飲み込みやすくしてくれているかがまた醍醐味(笑)
 私は、UFOコンタクトなんかにとてもそれらしさを感じました。人間が、動物とか昆虫相手に同じようなことをしているし、説得力あります。あとサールの悪魔の絡め方も感心しました。で、どうなんでしょう、こういうツボにはまったアイデアを思いついた瞬間はどんなお気持ちなのでしょうか?
山本 >  それはもう「やった!」ってなもんです(笑)。
 特に嬉しくなるのは、ものすごくバカなことを考えついた時ですね。『神は沈黙せず』では、「あれはモアレだと思う」というあたりで、自分でも「そんなアホな!」と笑っちゃいました。理屈を積み重ねた末に途方もない結論に持っていく、大バカな話を大真面目に語るというのは、SFならではの快感ですね。
雀部 >  モアレというとウェブの網目のやつですか(笑) 確かに馬鹿馬鹿しいけど、本当にそうだったら怖いという面もありますね。
 『神は沈黙せず』のラストにかけて総ての事象が一つの結末に向けて収束していく様は一種快感でもあります。ちょっとハインラインの「大当たりの年」にも似てます。
 もっともそれより近しい感じを受けたのは、イーガンの『宇宙消失』なんです。『神は沈黙せず』が、帯にあるとおり“UFOも、怪奇現象も、超能力も、すべて「神」からのメッセージだった”という一点だけを押し通した傑作SFなら、『宇宙消失』は、“波動関数が収縮したら困る存在が居たら”というアイデアだけで突っ走る超ハードSFだし。そうそう、イーガンとかはお好きでしょうか?(笑)
山本 >  もちろん大好きです。現代最高のSF作家だと思ってます。『宇宙消失』を読んだのは『神は沈黙せず』を書き出した直後なんですが、太陽系が壁に囲まれてるというあたりは、似たような発想ですね。僕も『パラケルススの魔剣』とかで量子力学の観測問題をネタにしてるもんで、〈バブル〉が作られた理由が説明されるくだりでは、悔しかったですね。「ちくしょー、何でこれを思いつかなかったのか」と(笑)。
 あと、確かに「大当たりの年」にも影響を受けてますね。と言うか、僕はいろんなSF作家から影響受けまくってるんで、細かく言っていくとどのネタもたいていどこかにルーツがあるんですよ。ラストで明かされる真相にしても、ブラウンの「さあ、気ちがいになりなさい」がヒントだし。
 僕がこれまで吸収してきたいろんなSF作品が、創作の肥やしになってるのは確かですね。「あの作家のあの作品を、こういう視点で書き直してみたらどうか」とか、そういう発想で書いた作品もいくつかあります。
雀部 >  もちろん「さあ、気ちがいになりなさい」は思い出しましたとも(爆)
 ブラウンといえば、「SF Japan VOL.06 」翻訳の載らない“翻訳SF特集”で、「宇宙をぼくの手の上に」の題名だけ拝借した短編を書かれてましたね。これも、もの凄く好きなんです。読んですぐ、某SF系メーリングリストに、あれは良かった良かったと投稿したんですよ。ほんと、山本さんのハードSF系の作品を読むのは久しぶりだったし。
 これは『審判の日』収録の短編より後に書かれたんですか?
山本 >  あれは「闇が落ちる前に、もう一度」「屋上にいるもの」「審判の日」の後、「時分割の地獄」より前に書いた話ですね。あの短編集で最後に書いたのは「夜の顔」です。
 「宇宙をぼくの手の上に」は、実際にアマチュア時代に参加していたSFサークルをヒントにしてるんですが、自分でもすごく好きな話なんで、ぜひ次の短編集に再録しようと思っています。
雀部 >  ということは、すでに次の短編集用の短編を書きためてらっしゃるのですね?
山本 >  「ミラー・ガール」「ときめきの仮想空間」「ブラックホール・ダイバー」など、雑誌に発表した短編で、単行本未収録のものが多いので、それに書下ろしを加えて短編集にしようと思っています。人工知能やバーチャル・リアリティが題材で、なおかつヒロインの一人称という共通項のある作品をまとめて、『火星年代記』みたいに全体としてひとつの大きな話になる……というのを構想しています。

僕らが夢中になったSFって、もっと熱いもののはずじゃないですか

雀部 >  それは楽しみに待たせて頂きましょう!
 『審判の日』収録の短編は、上で紹介している通りなんですけど、全体的に暗いトーンの作品が多いですよね。『神は沈黙せず』と同じく、現実に対する微妙な違和感から、我々が抱いている世界観を覆すようなテーマに結びついているところが共通していると思います。これは、やはり同じ時期に書かれたということも関係しているのですか。それとも、角川さんからホラー短編集と依頼されて、こういうテーマで行こうと決められていたのでしょうか?
山本 >  子供の頃、強い現実逃避願望があったんです。『神は沈黙せず』で少女時代の優歌がこの世界は長い夢じゃないかと思って「目覚めの日」を待ち望んでいるというエピソードがありましたが、あれは僕自身の小学生時代の体験なんです。あと、遠くの山って平板に見えるじゃないですか。だからよく山を眺めて、「あれは実は書き割りなんじゃないか」って妄想したりしてました(笑)。
 今はもうそんなこと考えてないんですが、それでも「この世界は本当に現実なのか」というテーマには心惹かれるんです。この前の『トンデモ本?違う、SFだ!』で紹介した、スタージョンの「昨日は月曜日だった」とか、ガロイの「今宵、空は落ち…」などはそうですね。他にもハインラインの「彼ら」とか、ポールの「幻影の街」とか、映画だと『うる星やつら/ビューティフル・ドリーマー』とか、『ダークシティ』とか……。
雀部 >  やはり、小さい頃から変なことを考えられていたんですね。SFの定番テーマではありますが、小学生とは、ちと早いのでは(笑)
 では、いつ頃からSF作家という職業を意識されるようになったんでしょうか?
山本 >  学研の『6年の科学』のアンケートハガキの「将来なりたい職業は?」という質問に「小説家」と書いたのを覚えています。その頃から大学ノートに、怪獣の出てくる小説とか書きためてましたから。
 はっきりSF作家を目指すようになったのは高校の時ですね。自分の将来を想像したら、背広着てネクタイ締めて毎朝出社してる姿なんて想像できない。「自分はSF作家にしかなれない人間だ!」と気がついて愕然となったんです(笑)。将来の夢とかいう漠然としたものじゃなく、もうそれ以外に道がなかったって感じですね。
雀部 >  山本先生も学研の科学を購読されてたんですか。私もそうです。確か私が小学4年生の頃に創刊されたんですよ。あれは付録の実験セットとかがまた凄くて。
 山本先生というと、小説家としての顔と同時に、と学会の会長さんでもあられますよね。『歯は中枢だった』が、「2003年度日本トンデモ本大賞」において、第12回日本トンデモ本大賞を受賞しましたが、まさか歯科界から受賞者が出るとは思ってもいなかったです(爆) 一番の決め手は何だったのでしょうか?
山本 >  難しいですね。実はトンデモ本大賞って、ノミネートの作の中からこちらの予想通りの本が受賞することが少ないんですよ。2003年に関しては、僕はメジャーな『ゲーム脳の恐怖』の方が票を集めるんじゃないかと思ってたんだけど、蓋を開けてみたら『歯は中枢だった』がダントツでした。
 結局は会場のノリなんですね。会場のみなさんは僕の紹介を聞いて投票されるわけですが、紹介のしかたがうまくツボにはまればドッと受けて、票が集まる。僕はどの本も面白く紹介してるつもりなんですが、どれが受けるかはなかなか予想できないです。
 ただ、これまでの受賞傾向からすると、オリジナリティのあるもの、意外な発想のものが受けるようですね。超能力やアトランティスが出てくるだけならよくあるけど、それが歯の本に出てくる(笑)という点が、意表を突いてたんじゃないでしょうか。
雀部 >  なるほど、そうなんですか。その場のノリしだいなんですね(笑)
 トンデモ関連ではないんですけど、前述の近著『トンデモ本?違う、SFだ!』は、SFに対する愛情あふれる一冊ですね(先ほど話に出た『宇宙消失』も載ってます)
 これは、SFとはあまり関係なさそうな『monoマガジン』に連載されたものが元になっているそうなのですが、どういう経緯で連載が決まったのでしょうか?
山本 >  その前に『ああ懐かしき未来』というコラムを連載してたんです。1999年に連載開始して、2年ほど続いたかな。21世紀を前にして、SFに出てくる定番のガジェット――テレビ電話とかエアカーとかドーム都市とか冷凍睡眠とかがなぜ実現しないのか、なぜSF作家の未来予想ははずれまくったのか、というようなことを論じるコラムだったんです。
雀部 >  それも面白そうですね。SFマガジンあたりに載っていても違和感ないでしょう。
 単行本(ハヤカワ文庫NFあたりでも)化されないんですかねぇ?
山本 >  いや、分量が少ないですし、単行本にはちょっと……それに、連載開始当初はともかく、書き続けていると、自分でつまんなく感じてきたんですよ。だって「未来予測は当たらない」なんて、当たり前のことじゃないですか。昔のSF作家が予測したことを、後知恵で「こういう理由で間違っていた」と批判するのは簡単だけど、じゃあお前は正しい未来予測ができるのかと(笑)。天に唾する行為ですよね。
 だいたい、不可能なことを「不可能だ」と切り捨てるなんて、誰でもできることでしょ? 不可能なことをどうすれば可能になるかを考えるのがSFじゃないですか。
雀部 >  なるほど。そう言われればそうですよね(汗)
山本 >  そのネタが尽きてきたもんで、そろそろ新しいコラムに衣替えしなくちゃいけなくなった。それで、かねてからやりたかった、自分の好きなSF作品を紹介するというものに変えさせてもらったんです。本当は単行本もワールドフォトプレスさんから出させてもらう約束だったんだけど、なぜか急に「うちでは出せない」って言われて(笑)、それで洋泉社さんに持ちこんだんです。
雀部 >  ありゃ。題名に『トンデモ本?違う、SFだ!』と、SFの二文字が入っているからかな(爆)
 読者からの評判はいかがだったのでしょうか?
 例えば早川書房編集部編の『SFハンドブック』などは、ある程度SFを読んでいるファンを対象としていると思いますが、これは初心者(例えばSFアニメファンとか)をターゲットにしているなぁと感じました。
山本 >  僕は「打倒『SFハンドブック』&『SF入門』」を意識して書きました(笑)。というのも、『SFハンドブック』や『SF入門』って、面白くないんですよ。欧米にはこういう作家がいて、こういう作品があって、SFにはこういうジャンルが……と、淡々と筋道立てて解説してあるだけで。内容的には正確かもしれないけど、あれでは初心者に「SFはどう面白いのか」というかんじんの部分が伝わらないと思うんです。
 僕らが夢中になったSFって、もっと熱いもののはずじゃないですか。それを冷静に紹介してどうする(笑)。思いきり熱い語り口で、読者に「この作品を読んでみたい!」と思わせなきゃいけないはずでしょ。
 僕が参考にしたのは野田昌宏さんの『SF英雄群像』(ハヤカワ文庫)です。野田さんの語り口って実に熱くて、読むとスペースオペラが読みたくなってくる――まあ、実物を読むと、野田さんの紹介ほど面白くなくて「騙された!」と思ったりもするんですが(笑)。でも、初心者に対しては正しい戦略だと思うんですよ。
 だから読者からの反響の中で嬉しかったのは、「『航時軍団』を読んでみたくなりました」とか「『マイクロチップの魔術師』はどうすれば手に入るんですか」というものですね。「ごめんなさい、『マイクロチップの魔術師』は絶版ですから入手困難です」と謝ったりもしましたけど(笑)。でも、僕の本のおかげでSFの読者が少しでも増えてくれるとしたら、ありがたいですね。

子供のためのエンターテインメントSF

雀部 >  そうですね。それは読んでいて確かに感じました。ライバルは野田大元帥閣下であると(笑) いや、本当に山本先生の熱い心を感じました。あ〜この人、SFを愛してるんだなって。紹介の仕方がうまいと、ほんとその本を読みたくなりますもんね。野田先生はもちろんですが、SFスキャナーをやっていた当時の伊藤典夫さんもうまかったです。
ディッシュの「リスの檻」(SFマガジン'69/3月号)の紹介記事なんか何遍も読んで、そりゃ読みたくて読みたくて。あまりに伊藤さんの紹介が素晴らしすぎて、既に読んだつもりになっていた私は、待望の作品を読んだ時はそれほど感動しなかった(爆)
 これからSFを読んでもらうために、一番ご苦労されているところはどこでしょうか?
山本 >  まずSFの発表媒体が少ないこと。僕は短編SFが書きたいんですが、発表の場がSFマガジンぐらいしかない。昔は中間小説誌にも、小松さんのけっこう本格的な短編SFが載ってたりしたもんなんですが……短編の市場を開拓する必要があると思いますね。
雀部 >  ですねぇ。ホラーとかファンタシー系なら『異形コレクション』とかがあるんですけど、山本先生の書かれるようなハードSFとなると……
山本 >  それと、昔は子供向けのSF本がずいぶんあったんですが、最近あまり見かけない。やっぱりああいうのは小学生の頃から親しまなくちゃいけないと思うんです。岩崎書店が「冒険ファンタジー名作選」なんてのを復刊してくれたり、講談社の青い鳥f文庫で日本作家のジュヴナイル作品を復刊してくれたりと、状況は変わってきてると思うんですが、まだまだ少ないですね。
 あと、書き手の側の注意としては、SFマニアの自己満足に陥らないことですね。一時、難しい用語を説明せずに使うのがかっこいい、みたいな風潮がありましたけど、あれはSF界を閉鎖的にする一因ではないかと思ってます。常に読者に理解できるものを書くように心がけたいです。
雀部 >  子供向けのSFモノは、本当に少ないです。私なんかは、講談社の少年少女世界科学冒険全集を小学生の時むさぼるように読みましたからねぇ。まあ、今はゲームやマンガもあるから、ライバルは多いけど、ファンタシーでの『ハリポタ』みたいなお化けが、出てくれれば一発で活気づくんでしょうが。
 ところで、紹介された中で「騒音レベル」という短編があるのですが、この短編、ここの著者インタビューの中でも二回も名前が出ているんですよ(堀先生と梶尾先生)
 よほど、SF作家と相性が良いアイデアなのでしょうか?(笑)
山本 >  たぶん「ノイズの中に新しいアイデアが隠れている」という発想が、共感を呼ぶんだと思います。それってまさにSF作家の創作法そのものだから(笑)。普通の人ならバカにして見向きもしないような発想の中から、使えるものを拾い出してきて、磨きをかけて宝物に変える。頭の中にあるフィルターをぶち壊すことで、新しいものが見えてくる……それがSFなんじゃないですか。
雀部 >  あ!!まさにそれですね(^o^)/
 設定基準が、理系的なものと、バカ話系のものとあるように感じたのですが、山本先生がご自身の創作で目指す方向はどちらでしょうか。ミックス?(笑)
山本 >  両方ですね。バカ話を支えるために理系のトピックスを持ってくる。そして理系のネタをバカ話に発展させてゆく……パラドックスみたいに聞こえるかもしれないけど、理詰めでやればやるほどバカになるんですよ(笑)。
 野尻抱介さんの『ロケットガール』(富士見ファンタジア文庫)とか、笹本祐一さんの『ほしからきたもの。』(ハルキ文庫)なんて、まさにそれでしょ? 設定を支えているロケットや飛行機の考証の緻密さがすごい。バカ話であるにもかかわらず……というか、バカ話だからこそ、知力を絞って、大真面目に語らなくちゃいけないんですよ。バカ話で設定がいいかげんだったら、本当にただのバカ。『ワンダバスタイル』になっちゃう(笑)。
 実は『神は沈黙せず』も壮大なバカ話だと思ってるんです。バカだからこそ、ギャグを入れずに、最後まで大真面目に語りきらなきゃいけないと思ったんです。
雀部 >  うんうん、SFの本質をついている意見だと思います。それは、『神は沈黙せず』を読んだ方は全員が納得されるのではないでしょうか。
 さて、さきほど短編集のお話が出ましたが、他に執筆中・近刊予定の作品はございますでしょうか。短編集収録予定の題名は、宇宙ものぽい感じがしますので、長編もそうかなと期待が(ワクワク)
山本 >  小学生の娘に、一週間に一度、寝る前に読んで聴かせるために書き続けてきた話があるんです。それがかなりたまってきたので、出版できないかと考えてます。近未来が舞台で、女の子が主人公で、アクションとギャグとSFガジェット満載の……雰囲気としては小林信彦さんの『オヨヨ大統領』シリーズですかね。
 どうもジュヴナイルというとお行儀が良くなくちゃいけないみたいに思われてますが、子供ってハチャメチャなものが好きなんですよね。僕自身、小学生の頃から筒井さんの短編を読んで育ちましたし(笑)。これだけ派手なアクションだらけのアニメやマンガが氾濫している時代なんだから、ジュヴナイル小説もそれに負けちゃいけないはずなんですよ。次世代のSFファンを育成するためにも、子供のためのエンターテインメントSFというジャンルを、もっと開拓すべきじゃないかと思うんです。
雀部 >  子供のためのエンターテインメントSF、良い響きです!!
 もちろん、先陣をきるのは山本先生ですね! 私のところは、三人の息子をSF好きにしようという目論見は崩れ去っていますけど、どうか山本先生の娘さんがSF好きな女の子に育ちますように祈っておきます(笑)
 今回はお忙しい中、どうもありがとうございました。これからもどしどしハードSFを書いて、我々SFファンを楽しませて下さいませ!(よろしく >>出版社の方々)


[山本弘]
SF作家。ゲームデザイナー。1956年京都生まれ。最終学歴は洛陽工業高校電子科。長いアマチュア創作およびフリーター生活を経て、1987年、ゲーム創作集団「グループSNE」の一員となり、作家およびゲームデザイナーとしてデビュー。現在はSNEから独立してフリーで活動している。と学会会長。
代表作として『ラプラスの魔』『パラケルススの魔剣』『サイバーナイト』『ギャラクシー・トリッパー美葉』『妖魔夜行』(角川スニーカー文庫)『サーラの冒険』(富士見ファンタジア文庫)『時の果てのフェブラリー』(徳間デュアル文庫)など。小説以外では『トンデモノストラダムス本の世界』(洋泉社/宝島社文庫)『トンデモ大予言の後始末』『山本弘のハマリもの』(洋泉社)『こんなにヘンだぞ!「空想科学読本」』(太田出版)など。
【山本弘のSF秘密基地】
[雀部]
ハードSF研所員。う〜ん、今回は久しぶりのハードSFだ(笑)

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