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Author Interview

インタビュアー:[雀部]&[ケダ]

『からくりアンモラル』
> 森奈津子著/タカノ綾画
> ISBN 4-15-208563-0
> ハヤカワSFシリーズ Jコレクション
> 1680円 (本体:1600円)
> 2004.4.30発行
収録作品:
「からくりアンモラル」「あたしを愛したあたしたち」「愛玩少年」「いなくなった猫の話」「一卵性」「レプリカント色ざんげ」「ナルキッソスの娘」「罪と罰、そして」

『西城秀樹のおかげです』
> 森奈津子著/浅田弘幸画
> ISBN 4-15-030772-5
> ハヤカワ文庫JA
> 735円 (本体:700円)
> 2004.11.15発行
収録作:
「西城秀樹のおかげです」「哀愁の女主人、情熱の女奴隷」「天国発ゴミ箱行き」「悶絶! バナナワニ園!」「地球娘による地球外クッキング」「タタミ・マットとゲイシャ・ガール」「テーブル物語」「エロチカ79」


『地下室の幽霊』
> 森奈津子著/矢島たすく画
> ISBN 4-05-201705-6
> 学研エンタティーン倶楽部
> 840円 (本体:800円)
> 2004.8.20発行
粗筋:
 小学6年生に進級した衣緒は、親友の恵美と別クラスになり、ちょっと落ち込んでいた。体育だけが得意な衣緒は、同じクラスになった一子と仲良しになる。彼女は衣緒と違って、いつも冷静で頭が良く(しかし運動はダメな)今まで付き合ったことのないタイプだった。新しいクラスで話題になったのは、“幽霊屋敷”。そこで幽霊を見たという話が出た際、一子が「そんなものは、私は信じない」と断言したため、衣緒とー子が、その幽霊屋敷を訪ねる羽目に……

『姫百合たちの放課後』
> 森奈津子著/榎本太郎装幀
> ISBN 4-901722-22-0
> フィールドワイ
> 1470円 (本体:1400円)
> 2004.1.21発行
収録作:
「姫百合たちの放課後」「姫百合日記」「放課後の生活指導」「花と指」「2001年宇宙の足袋」「お面の告白」「一九九一年の生体実験」「お姉様は飛行機恐怖症」


『電脳娼婦』
> 森奈津子著/江川達也画
> ISBN 4-19-861942-5
> 徳間書店
> 1575円 (本体:1500円)
> 2004.11.30発行
収録作:
「この世よりエロティック」「シェヘラザードの首」「たったひとつの冴えたやりかた」「電脳娼婦」「少女狩り」「黒猫という名の女」

元々、SF作家になるのが夢でした

雀部 >  今月号の著者インタビューは、4月にハヤカワSFシリーズ Jコレクションから『からくりアンモラル』を出された森奈津子先生です。森先生、どうぞよろしくお願いします。
>  よろしくお願いします。
雀部 >  インタビュアーとして、お馴染みのケダさんにも加わっていただきました。
 ケダさん、お待ちかねの森先生です!(笑) 今回もよろしく。
ケダ >  よろしくお願い致しますっ!(心臓バコバコ)
雀部 >  私が最初に森先生の作品に接したのは、おおかたの人と同じく『お嬢さまとお呼び!』なんですが、確かSFマガジンで紹介されていたので読む気になった覚えがあります。読むと後書きで森先生が書かれているように、少女小説では悪役の、お金持ちで鼻持ちならないお嬢様キャラにスポットを当てたということで、SFにも通ずる新鮮さが面白かったです。
 で、この本の著者紹介のところに(スタジオぬえに所属)と書いてあって、なんか変に納得しちゃったんですけど“ぬえ”にはどういう経緯で入られたのでしょうか?
>  スタジオぬえの人たちが呼びかけ人になっていた、SF系のクリエーターを目指す人のためのサークルがあって、私もそのメンバーだったんです。サークルと言っても、別に作品を見せあったりするわけではなく、単に月に一度喫茶店に集まって、雑談をするだけだったんですけど。
雀部 >  なるほど、SFを目指す同志の集まりだったんですね。
ケダ >  ……あのぉ、すみません(恐る恐る……)。「スタジオぬえ」というのは、アニメを作っていたところですか? 「ぬえ」=「(アニメだけじゃない)SFな人の集まり」とわかる人にはわかるものなのでしょうか?
>  スタジオぬえの主な仕事はアニメの企画だったはず……。でも、私が所属していた頃は、メンバーは個人で仕事をしているほうが多かったのではないかと思います。私も小説書きしかしていませんでしたし。他の方々の仕事をちゃんと把握していたわけではないので、はっきりお答えできず、すみません。なにしろ「ぬえ」なので、正体不明で……(笑)。
ケダ >  なるほど、そうだったんですか。
 それから、『お嬢さまとお呼び!』は1991年刊行ですが、森先生がそのサークルに入られたのはいつ頃で、最初から「クリエーター」の中でも「小説家」を目指しておられたのでしょうか?
>  確かサークルに入ったのは、1988年前後です。最初から私は小説家になりたいと思っていました。漫画家やイラストレーターを目指したことはありません。
雀部 >  SFマガジンの'04/6月号に載った柏崎玲央奈さんによるインタビュー記事に、そこらあたりのことが書かれていますが、版元さんがOKだったら、SF作品でデビューしていた可能性大だったのでしょうか?
>  もちろんです。元々、SF作家になるのが夢でしたから。
雀部 >  どんなSFだったのかなぁ。意外にストレートSFだったりして。
 同じインタビューのなかで、SFとの出会いは、星新一さんに始まり、眉村卓さん、筒井康隆さんもお好きだったとか。では、海外作家でお好きだった方は?
>  ジョージ・アレック・エフィンジャー、オースン・スコット・カード、タニス・リー、C・J・チェリイ、エリザベス・リンなど、同性愛的な香りがする作品を書いている人たちが好きでした。それから、大御所ではハインライン。
ケダ >  そういった作家さんの作品に、森先生が「SF作家になろう!」と思われたきっかけとなるものがあったのでしょうか? こんな作品を書きたいとか、こんなんじゃなくて自分ならもっといい話を書ける、とか……。
>  中学時代に読んだ新井素子さんの『あたしの中の……』と、高校時代に読んだ大原まり子さんの「イル&クラムジー」シリーズと、海外の名作SFに影響されたのではないかと思っています。
ケダ >  ……あの、ちょっと質問なのですが、森先生が挙げておられる日本人作家、特に新井素子さんと大原まり子さんの作品って、「同性愛の香りがする」ものですか?(^^;)
>  新井さんの作品はあまり同性愛的ではありませんが、大原さんの作品は時折、その手の香りがすることがありますよね。
 このお二方は、若い女性だというだけで、十代の私には「萌え!」でした。
 変な意味ではなく、「共感できる」とか「おやじくさくない」とか、そんな意味で。
ケダ >  なるほど、そうでしたか。
 SFに出会う前にも小説を書きたい、というお気持ちはおありだったのでしょうか?
 それとも、SFに出会われて、SF=小説=自分が創作したい世界を一度に発見なさったのでしょうか?
>  10歳のときに作家になりたいと思い、15歳でSF作家になろうと決意したと記憶しています。
ケダ >  では、森先生が具体的に「SFを」書きたいと目覚める前、10歳〜15歳までの5年間は、どういう方向の小説を書きたいと思っておられたのでしょうか?
>  大人向きの文庫本を読みはじめたのが、小学五年生のときだったのですが、私自身、どんなジャンルが好きなのかはっきりしていなかったので、特に「このジャンルを書きたい」というのも、なかったですね。漠然と「読書が好きなので、小説を書いて暮らしたい」と考えていました。

“最高にアンモラルなSF作家”というのはいかがでしょう(笑)

雀部 >  ハインライン御大もお好きなんですね。そう言えば、「地球娘による地球外クッキング」(『西城秀樹のおかげです』所載)に、『夏への扉』を読む少女が出てきましたよね。この短編を『SFバカ本 白菜編』で読んだときは、ほんとうにぶっ飛びました。それはもう、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの「男たちの知らない女」(『愛はさだめ、さだめは死』所載)を読んだときと同じくらいの衝撃でした。“食欲の勝利”、まさに至言です(笑)
 このときから“アメリカにはティプトリーがいたけど、日本には森奈津子がいる”と思っています。
>  ティプトリーですか! 畏れ多いです(笑)。私はユーモラスな「愛しのママよ帰れ」が好きですね。それから、白状すると、「たったひとつの冴えたやりかた」には泣けませんでした。
雀部 >  「愛しのママよ帰れ」とはちょっと意外な気が……でも、森先生の作風からすると、当然な気も(笑)
 「たったひとつの冴えたやりかた」は、同感です。いたいけな少年少女をいじめて涙を誘うというパターンには、どうしても辛い点をつけてしまいます。まあ、好きか嫌いかと言われると、好きなんですが(爆)
 そういえば、最新刊の『電脳娼婦』に「たったひとつの冴えたやりかた」の題名を借りて、すごいのを書かれてますよね。知り合った女が「<たったひとつの冴えたやりかた>って知っている」と聞いてくるという都市伝説風の導入部から、ああいう結末になろうとは(笑)
 この短篇の初出は「SF Japan VOL.06 」翻訳の載らない“翻訳SF特集”なのですが、評判はいかがでした?
>  どうだったんでしょう? 不評だったのか、好評だったのか、まったくわかりません。普段から、読者の皆さんとも、ほとんど接触していませんし……。すみません。
ケダ >  いやー、あれは素晴らしかったですね。
 森奈津子ファンなら、たぶん結末(何がsingle bestか)は予想できたと思うんですが、他の作家さんの小説だと「ほーら過激だろう、こんなとこまで書いたのはすごいだろー」と肩で息をしながらぜーぜー言ってるみたいで、はあそうですか、としか思えないことが結構ありますけど、森奈津子(敬称略)の手にかかると、書いてあることはすごいのに、なんというか「過激」はそこがせいいっぱいの限度なのではなくて、「まだまだわたくしには書けていない奥深い世界があるのでございましょうねえ、もっと心して精進しなくては」と襟を正すような勤勉さ、清楚さ、慎ましさを感じてしまうのがすごいというか……。
雀部 >  むぅ。あれよりすごい世界とは。想像できん(爆)
 ティプトリーの作品は、ほとんど全部好きなんですが、一番が「接続された女」で、二番が「そして目覚めると、わたしはこの肌寒い丘にいた」かなぁ。
 ティプトリー女史というと、最高に理知的なSF作家と言われることも多いのですが、森先生はどう呼ばれるのが一番うれしいでしょうか?
>  うーん、とっさに思いつきませんね……。お好きなように呼んでくださって結構です。
雀部 >  では、“最高にアンモラルなSF作家”というのはいかがでしょう(笑)
>  うれしいけど、誉めすぎです。いや、誉められていると解釈してよろしいのでしょうか?(笑)
雀部 >  もちろん誉め言葉ですとも!
 この短篇が収録された『電脳娼婦』の後書きに“中高年男性を性的に興奮させるために書かれた作品”とあり、おぉ〜と思ったのですが、対象が女性の場合と比べると、やはり違う書き方をされるんでしょうか?
>  男性が読んで傷つくようなことは書けませんね。普通、ポルノを読む男性は、セックスにおける男性器の威力を信じたがっていますので、男性器を否定する表現は、なるべく避けます。ヒロインに「ペニスなんかより女の子の指のほうがいいわ!」と言わせるとか。でも、言葉責めではOKの場合もありますね。
雀部 >  なるほど、男はすぐ自信を無くすから色々配慮されるんですね(笑)
 ちなみに、私が一番色っぽく感じたのは表題作の「電脳娼婦」でした(爆) (なぜ"爆"なのかは、読めば分かります(笑))
 で、『からくりアンモラル』なんですが、これが、"immoral"じゃなくて、"unmoral"というところに、SF魂を感じたんですが、いかかでしょう? SFは、アンモラルを目指していて欲しいし、目指すべきだと、常日頃から思っています。
>  道徳というものは、文化によって異なりますし、時代によって変わってゆくものですからね。未来や異世界を描いているのに、登場人物の性的価値観が現代日本と同じというのは、いかがなものか……。と言いつつも、あいかわらず私の作品の中の美少女たちは、百年後の世界でも二百年後の世界でも、羞恥プレイに大興奮しているわけですが(笑)。とにかく、自分の心に染みついた性的価値観を覆すのは、心理的に大変な作業ですよね。
雀部 >  特にSFは、その方面は保守的ですから(笑)

「自分と読者、共通のオカズを作る」ぐらいの意気込みで書いてますね

ケダ >  森先生にとって「SF」と「性愛」というのは密接にリンクした世界なのでしょうか?
>  特に密接にリンクしているわけではありません。単に性愛SFに惹かれるから自分でも書いている、といった程度で。それから、短編に関して言えば、中間小説誌から官能小説の依頼が来たときに、官能SFを書いてしまうことがたびたびあります。現代物はできるプレイが限られているので、書いていて物足
りないと感じることがあり……。ただ、そういった官能SFは、普段SFを読まないおじさまでも理解できる程度のSFにならざるをえませんが。
ケダ >  おお! ということは、編集者さんから「SF好き読者のためのSF(兼性愛)小説を書くように」と言われれば、遠慮なしの森奈津子版本格SFが読めるってことですね!
 森先生が書いてみたい「SF濃度の高いSF」って、たとえばどんなものでしょうか?
>  ささやかではありますが、まずは第一段階として、SF用語を遠慮なく使える小説を書きたいです。中間小説誌では「タイムマシン」「ロボット」あたりが、使えるSF用語の限界です。と言いますのは、昭和十年代生まれの自分の母親にSF用語を言ってみて、意味がわかるかどうか訊いてみたことがあるんです。その結果、通じるのが「タイムマシン」と「ロボット」だけだったんですよ。 「アンドロイド」とか「サイボーグ」は、もう、ダメ。ここ数年で「クローン」は通じるようになっているかもしれませんが……。「タイムマシン」が通じるのは、「ドラえもん」のおかげですね。
ケダ >  ああ、そういえば、うちの母親もサイボーグは大丈夫でも――ただし009限定だから、人名だと思ってるかも(笑)――アンドロイドは厳しいかもしれません。

 先ほど名前の挙がっていた『重力が衰えるとき』の訳者あとがきで、著者がこの作品を書くに至った――SFという形を選んだ――理由が紹介されています。ゲイのダンサーが殺された現実の事件で、被害者の父親が市の高官でスキャンダルを恐れたために自殺で処理されたけれど“どうして自分の後頭部をバットでなぐって、バルコニーから飛び降りられるんだ。まるでオカマには当然の報いといわんばかりじゃないか。あまりのことにあきれはてて、どうすれば小説にできるのか、見当がつかなかった。写実的な小説にしようとしたが、うまくいかない。もっと誇張したかたちでSFにするしかない。”

 森さんの作品でも、性的マイノリティに対する無理解以前に、「自分と違うもの」が「いるかもしれない」と考えてみる想像力が欠如したマジョリティの傲慢に対するいらだちのようなものを描くために、ファンタジーあるいはSF的なものを背景に選んだ(と思われる)作品がありますが、意図的にそうしておられるのでしょうか?(ちょっと今本が出てこないので、細かいところを忘れていて例としていいかどうかわかりませんが、たとえば「翼人たち」(『エロティシズム12幻想』所収)とかをイメージしています)
 それとも、「SF」も「性愛」も書きたくて、書いてみたら一緒になっちゃいました、という感じでしょうか?
>  両方ですね。鈍感なマジョリティに対するいらだちを描きたいがゆえにSF的な設定を選ぶこともありますし、単に「SF」と「性愛」を一緒に書きたかったこともあります。
雀部 >  どこから、ああいう素晴らしくも無茶苦茶な発想を思いつかれるのですか。特殊なネタ帳でも?
>  ハードディスクの中に、ネタ帳は作ってます。ただ、あまり活用していませんね。ストーリーは、原稿の依頼が来てからあわてて作るというパターンが多いです。
雀部 >  ネタ帳は作っているけど、活用はしてないという作家の方、多いですね(笑)
 エフィンジャー氏の作品には、主人公の恋人が性転換した元男だったりしますから同性愛的雰囲気は分かるんですけど、カード氏ってそんな香りがしますか?
 私の中では『エンダー』『ソングマスター』『消えた少年たち』など、子供をいじめる作家という認識が(笑)
>  カードの作品は、少年愛の世界だと思いますよ。読者は主人公の少年に同情し、愛するように仕向けられているように感じます。カード自身、少年を描くのが好きなんでしょうし。彼が子供をいじめるのは、愛ゆえでしょう。アン・マキャフリイの作品のヒロインが異様にいじめられるのと同様、SMです。
雀部 >  SMですか、なるほどね。作家だと、例えば『歌う船』なんかの場合、ヘルヴァをいじめるのはSなんでしょうけど、書いているときはヘルヴァになっているからMでもあるから、自己完結してますね(爆)
 カード氏もなんか屈折してますよねぇ。ご自身に障碍者のお子さんがいることも関係しているのでしょうが。森先生は、ご自分の趣味・嗜好にあった作品を書くことが、代償行為となるようなことがおありですか?
>  官能小説を書くときは「自分と読者、共通のオカズを作る」ぐらいの意気込みで書いてますね。妄想するのは好きですから。同じように、他のジャンルを書いているときでも、内容がなんらかの代償行為になっていることは多いと思います。と言うより、代償行為でなくては、楽しく書けないような気がします。小説をけなすときに「作者のオナニーのようだ」という表現が使われますが、私が言われても「そうだ、これが私のオナニーだ。文句あるか」ってこたえるしかないですね。
ケダ >  お金を払ってでも見たいオナニーと、金をやると言われても見たくないオナニーがありますよね。森先生のオナニーはお金を払うに値するものなので、これからもお金を払って存分に拝見したいと思っていますっ!

 ……あ、あの、もちろん小説のことですけど(焦)。
>  んまっ。うれしい(笑)。
雀部 >  わはは(爆) さきほど話に出た森奈津子版「たったひとつの冴えたやりかた」のSF的結末が、まさにそうですね。この短編に限らず、森先生は、よくSMをモチーフとされているんですが、登場人物は虐められてもそれを快感と感じるようなタイプばかりで、あまり痛みが伝わってこないような気がします。私は残念ながらMじゃないので分からないのですが、こういう描写はその道の人にとっては、読んでいて痛みを感じるような書き方と、その快感が伝わってくるような書き方だとどちらがオカズになるんでしょう
か。
>  私は快感が伝わってくる描写のほうが好きなので、こちらのほうがよりオカズになると信じています。SM描写に関しては、私はもろに団鬼六先生の影響を受けていますね。苦痛よりも恥辱による責めを好むという点で。私のSM描写は、Mが屈辱を感じながらも快感を得てしまうというパターンがほとんどです。

たぶん塩澤編集長が読者に伝えたい<森奈津子の魅力>なんですよね

ケダ >  早川書房から出た「性愛SF短編集」『からくりアンモラル』ですが、森先生の作品の中でも、無理解・無神経・想像力欠如による孤独感をエネルギーに変えて爆笑にもっていっちゃうパワフルギャグSFよりも、無理解・無神経・想像力欠如へのいらだちとか、怒りを持て余しつつ克服しようとする、まじめ系の作品が集められましたね。
 作品を選んだのは塩澤SFマガジン編集長さんだそうですが、ラインアップをご覧になって、なにかお感じになりましたか?
 意外な組み合わせだなあ、とか、これを入れるのなら本当はあれも入れてほしかったなあ、とか、「さーすが塩澤編集長、わかってらっしゃる!」とか……。
>  「さすが塩澤さん」と思いました。少女SF短編集として、うまくまとめていただいたと感じています。ただ、他の編集者や同業者から「あの短編集は塩澤さんのシュミでしょう」と言われてしまいましたが(笑)。確かに『西城秀樹のおかげです』とは作風が違いすぎますから……。
ケダ >  わはははは>編集長のシュミ。
雀部 >  私には『からくりアンモラル』と『西城秀樹のおかげです』は、背景に流れているトーンといい、エロチックな方向へのネタふりといい、同じ作風のように思えました〜。
ケダ >  えええええええええええっ!
 そ、それはわたしとはだいぶ意見が違いますねっ!(笑)

 最初と最後の短編の選び方に、如実な方向性の違いを勝手に感じ取っていました。「孤独」「憂い」「わかりあえるものを発見する喜び」みたいなもので閉じられているのがからくりアンモラルで、愚民のことなど我関せず欲求達成するは我にあり、といったギャグとパワー全開なのが西城秀樹のおかげです、というか……。
雀部 >  おお、そう言われれば……私はあまり気にしてなかったなぁ(爆)
 普通の小説から入ってきた読者と、小学生時代から読書といえばSFだった人間の違いかも(笑)
 というのは、森先生の作品って、SFであって、しかもSFの掟破りのところがあるんですよ。性愛をメインテーマとしているところといい、SFの暗黙の了解という点でもアンモラルだし(笑) SFというのは、昔から<え〜かっこしいの物語>やと思うんですよ。人類の行く末を論じ、宇宙全体の盛衰を気にかけるというか。さきほど名前の出た「たったひとつの冴えたやりかた」(海外短編オールタイムベスト1)にしても、少女が人類全体に悪影響が及ぶのを防ぐために自らを犠牲にする話やし。「西城秀樹のおかげです」じゃないけど、森先生の作品の登場人物だと絶対にしそうにない(笑) だもんで、森先生の各短編の細かい違いなんか、実はあまり気にしてない(爆)
ケダ >  え、わりと最近、ありましたよね?
 「少女が人類全体に悪影響が及ぶのを防ぐために自らを犠牲にする話」ばぁい森奈津子。『姫百合たちの放課後』に入ってるアレ……。
>  「2001年宇宙の足袋」ですか!
 いや、あれは、人類を救うという大義名分の下でやりたい放題する話ですよ(笑)。
雀部 >  宇宙人の地球侵略にかこつけて(笑)
 SFマガジン'04/11月号で、ハヤカワSFシリーズ Jコレクション中間総括ってのが掲載されていて、そこで福本直美さんが『からくりアンモラル』を取り上げてるんですが、そこでも「2001年宇宙の足袋」が激賞されてますね。
 あと、塩澤編集長の理想の女性は、自ら公言されているように、和久井映見さんだから、ほんとうに少女趣味なんかなぁ(笑)
ケダ >  ちなみに、森さんの「さすが塩澤さん」というご意見に、別の意味で同感で、SFにそんなに詳しくない人間から見て、「ああ、いかにもいわゆるSFファンの人が好きそうな作品を選んであるな」と思ったんですね。SFだからでも、少女だからでもなく、あの「憂い」とか「いらだち」の霧の濃さみたいなものが、どことなく。
雀部 >  たぶん塩澤編集長が読者に伝えたい<森奈津子の魅力>なんですよね。
ケダ >  おお、それは納得です!
 メッセージを伝える背景なんていう小難しい話ではなく、「必要はSFの母!」というとてつもない――いかにも森奈津子小説な――バイタリティあふれる「あたしを愛したあたしたち」(『からくりアンモラル』)は本当にエッチで大笑いで大好きなんですが、でも、これ、初出がSFバカ本じゃなくて、小説NONなんですよね。どういう読者層なのかよく知らないのですが、いずれにせよ、まじめなSFの人や、エロ一筋の人が読んだら、かなりびっくりするんじゃないかと思うんですが、「びっくりさせよう」という意識はおありだったのでしょうか?
>  まったくありませんでした。単に私はSFが書きたかったので、中間小説誌でできる範囲のSFを書いてみただけです。
ケダ >  森先生は、本当にSFがお好きなんですね。
 では、森先生にとって、SFをSFたらしめている要素ってなんでしょうか?
 あるいは、作家として、そして読者として、SFにはこういうところあるから好き、というようなコアというか、そんなものがあれば、教えていただきたいのですが。
>  私が十代の頃にSFにのめり込んだのは、現実がつまらなくて仕方なかったからです。SFの世界では、テクノロジーは大いに発展していますし、人間も超能力を持っていたり、あるいは人体改造で超人的な能力をものにしたりしていますよね。それは、簡単に言えば「夢がある」ということです。ですからSFには、つまらない現実、つまらない自分を忘れられるような、夢のあるジャンルであってほしい。
雀部 >  まったくそうです〜。
 しかし、一方ではSFと銘打つと、本が売れないという現状もあるしで(爆)
 SF作家にも、夢のあるマーケットであって欲しいですよね。
ケダ >  森先生のギャグの破壊力はものすごくて、ひたすら憧れていますが、いったいあれは何なのでしょうか――と聞かれても困るかもしれませんが。いや、もしかしてご本人は全然ギャグのつもりじゃなくて、ちょっと楽しい展開ぐらいで書いておられたりするんじゃないかと不安というか期待というか……。
>  当然、作品にはギャグのつもりで書いた部分と、ちょっと楽しい展開ぐらいのつもりで書いた部分がありますが、読者がどうとらえているかは、私にはまったくわからないので、ちょっと心配ではありますね。
ケダ >  ちょっと楽しいぐらいのおつもりが破壊力を持ってしまっていることはありそうな気が……(笑)。
 えっと、あと、どの作品かはネタバレになるので申し上げませんが、『からくりアンモラル』所載作品に出てくる某アンドロイドや、「哀愁の女主人、情熱の女奴隷」(『西城秀樹のおかげです』所収)のハンナなど、森作品に登場するアンドロイドは、独自のへんてこりんな価値観を持っていて、おそらくそれは「作られた」「プログラムされた」もののはずなのに、創造主の存在がかすんでしまうほどの確固たる個性になっていて、でもそれが歪んでいようがへんてこりんだろうが「ひたむき」なので、なんとも愛らしいんですよね。
 表題作「からくりアンモラル」は、そういう個性が作られていく様子をちょっぴり覗き見ることができる珍しい(?)作品ですけれど、森さんにとって、アンドロイドやロボット、お人形はどういう存在、モチーフなのでしょう。
>  人間の夢と欲望を体現した存在ですね。特に、わざわざ人間に似せて造られたアンドロイドは、人間の身勝手さ、しょうもなさを受けとめるための存在だと感じます。もし、アンドロイドがいたら、みんな、人間相手じゃできないことをアンドロイド相手にしようとするに決まっていますから。それだけに、アンドロイドには、私自身ものすごく惹かれますね。私も身勝手でしょうもない人間ですので。
ケダ >  ふーむ。「身勝手でしょうもない人間」と冷静かつ謙虚におっしゃれるのは、ちっともしょうもなくないと思いますけれど……。
 SFの中には、人間の創造したモノが人間を超える脅威・恐怖を描いたものも結構ありそうですが、森先生にとっては、創造主攻めのアンドロイド受けの世界のほうがしっくり来ていたりなさいます?(敬語が変だったらすみません)
>  「創造主攻めアンドロイド受け」ですか! いい表現ですね(笑)。個人的には「創造主攻め」が好きです。なぜなら、自分がアンドロイドを造ったら、自分が攻めたいから(笑)。人がアンドロイドを創るなら、当然、美形にするじゃないですか。いや、不細工な顔より美しい顔のほうが造りやすいと、私は思いますし。で、私は自分がSなら、M役は自分より美しかったり、自分より優れた人ではないといやだという人間なので……。作品の中でも、人間より美しく能力も優れたアンドロイドには、ぜひ、受け役をやってほしいわけですよ。
ケダ >  おおー。『からくりアンモラル』には、まさしくそういう作品が入ってますね。ここでもさすが塩澤編集長!?
 それから、『からくりアンモラル』には、ロボットやアンドロイドの他にも各種「ペット」が出てきますね(人ペットも含めて)。そうしたペットに対する「飼育」というのも、団鬼六先生の影響線上にあるSMなのでしょうか。それとも真に愛情を注ぐ対象は、ちゃんと育てないと手に入らない……?
>  両方ですね。私はどちらのパターンも好きなので。

『地下室の幽霊』は児童向けとなっていますが…

ケダ >  「読書が好きなので、小説を書いて暮らしたい」から「SF小説を書きたい」に目標が明確になり、でも実際にお仕事を始められてからは、出版社の依頼を踏まえて、ジャンルやらターゲットやらを考慮し、ひとり小説工房として職人的に作品を作ってこられたわけですよね。
 今年は百合コメディ短編集『姫百合たちの放課後』、お耽美出版業界コメディ『耽美なわしら 完全版』、性愛(まじめ)SF短編集『からくりアンモラル』、男性に優しい官能SF短編集『電脳娼婦』、そして『地下室の幽霊』という児童向けミステリまで出ています。
 『地下室の幽霊』は児童向けとなっていますが、知力と行動力を組み合わせた謎解きのあるミステリであると同時に、自分と友達というものを認識し、折り合いをつけて成長していく物語で、大人にも楽しく、かつノスタルジックな味わいのある素敵な一冊だと思います……って、感想を長々と申しあげてすみません……。
 で。
 これはさすがにSFじゃないと思うんですけれど(笑)、SFや性愛小説とは違う執筆のご苦労などはございましたか?
>  『地下室の幽霊』は小学生向けの児童書なので、小学生にもわかる表現しか使えないのが、辛かったです。単語ひとつひとつにも、編集者のチェックが入って。とにかく、それが一番、大変でした。
ケダ >  お友達の小学生のお嬢さんがこの本を読んで、「怖かった」と感想を述べておられたそうなんですが、子供にとっての恐怖(昔の永井豪作品などを彷彿とさせる……って、これ、ネタバレじゃないといいなあ)を、少女向きに洗練させた感じで、なるほどこれは怖いだろうなあ、と思います。ミステリであると同時に、「怖い話」「ホラー」も意識して書いておられたのでしょうか?
>  最初、学研から依頼をいただいたときには、「ファンタジックミステリー館」という叢書の一冊として、ホラーがかったミステリを書いてほしいというお話だったんです。だから、ホラーのムード漂うミステリを書きはじめたのですが、私がのろのろしているうちに、ハードカバーの「ファンタジックミステリー館」(1200円)は撤退して、ソフトカバーで子供がお小遣いで買える「エンタティーン倶楽部」(800円)という叢書に代わってしまったんです。ですから、依頼の時点で「ホラー的なミステリ」というのは、決まっていたんですよ。ただ、あまり怖いと小学生の読者が本気でびびってしまうので、怖さはそこそこにしてほしいと、編集者には言われました。私としてはかなりソフトにしたつもりでしたが、読者にちゃんと怖がっていただけて、うれしいです。
ケダ >  学研レモン文庫などYA作品から大人向け一般小説に移られ、久しぶりの若い人向け(笑)作品だったのではないかと思いますがいかがでしたか?
 たとえば、何か執筆する森先生ご自身に変化のようなものはありましたでしょうか?
>  自分自身には変化はなかったと思います。ただ、レモン文庫は少女小説だったので、羽目を外しても許されるようなところがありましたが、エンタティーン倶楽部は児童文学のレーベルなので、あまり悪ふざけはできませんでしたね。あぶないギャグは一切ナシで書きました(笑)。
雀部 >  「エンタティーン倶楽部」ということで、ティーン(小学生高学年)が対象なんですね。うちは子供三人男ばかりなんですが、女の子がいたらぜひ読ませたいです。色々な性格の子供、運動の得手不得手、勉強の出来る出来ない。全部の子供に対する優しい眼差しがあるし、何より科学する心があるじゃないですか。
>  私は子供好きではないし、子供時代に戻りたいとも思わないのですが、子供という存在は好きなんだと思います。面と向かって子供をかわいがるのは苦手ですけど、遠くから観察しているのは好きだということですね。
 子供には無限の未来があるじゃないですか。言い換えれば、どんなにいい子も大人になったらどうなってるかわかりゃしないという(笑)。そこに魅力を感じますね。だからこそ、私は幼児虐待が本当に許せないわけですが。わが子を大切に育てる能力のないバカは繁殖するな、って。
ケダ >  近い将来の具体的な出版や執筆のご予定、そしていずれはこんな作品を書いてみたい、あるいはこんな媒体に進出したい、など遠大な野望、ご計画などございましたら、お聞かせください。
>  12月2日にぶんか社からレズビアン官能短編集『ゲイシャ笑奴』が発売されます。また、フィールドワイではゲイ・コメディ短編集『踊るギムナジウム』が企画されています。こちらは、2005年の早いうちに出る予定です。野望は、特にありません。本当は、かっこいい野望をとっさに考えようとしたのですが、思いつきませんでした(笑)。
ケダ >  インタビューにご一緒できるのが嬉しくて、ついつい自分の感想をだらだら申し上げてしまったりして、すみませんでした。的確かつ丁寧にご回答くださいまして、本当にありがとうございました。
>  こちらこそ、お二人の的確な進行に、助けられました。感謝です。
ケダ >  今後もついて参りたいと思いますので、お身体に気をつけて益々ご活躍ください!
雀部 >  今回はお忙しいところ、インタビューに応じて頂きありがとうございました。
 記録的な忙しさだったようですが、どうぞご自愛くださいませ。そうしてまたユニークかつアンモラルなエロチックSFの華を見せて下さいませ。
>  ありがとうございます。これからも、地道にやってゆきたいと思います。


[森奈津子]
1966年11月23日、東京都練馬区生まれ。立教大学法学部卒。日本バーテンダースクール・バーテンダー科卒業。1991年『お嬢様とお呼び!』でデビュー。現在では、性愛をテーマに、現代物、SF、ホラー等を発表。「エロス」と「笑い」は重要な創作上のテーマ。2000年に『西城秀樹のおかげです』(イースト・プレス)が第21回日本SF大賞にノミネート。
ホームページは、「森奈津子の白百合城」(http://homepage3.nifty.com/morinatsu/
[雀部]
オヤジにも優しい森奈津子さんのエロチック小説。今日のエロは明日の活力(笑)
[ケダ]
森奈津子ファンの1人

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