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Author Interview

インタビュアー:[雀部]

『ハイドゥナン(上)』
> 藤崎慎吾著/田中一村装画
> ISBN 4-15-208655-6
> ハヤカワSFシリーズ Jコレクション
> 1700円
> 2005.7.31発行
粗筋:
 2032年、伊豆の鄙びた海に潜っていた共感覚を持つ岳志に、「お願い」と若い女の声が聞こえてきた。同時刻、与那国島の柚は、夢のなかに出てくる青年に、思わず声をかけていた。
 この与那国島に、総ての感覚がお互いに影響を及ぼし合うという共感覚の持ち主、伊波岳志が、指導教官に伴われて訪れる。ダイビング中に聞いた助けを求める声の正体を突きとめようとする岳志は、その声の主の柚が、ムヌチだった祖母の後を無理やり継がされ困惑している事を知る。彼女は、“神”から「琉球の根を掘り起こせ」と無理強いされていたのだった。一方、岳志を連れてきた研究者グループの真の目的は、地殻変動により判明した、南西諸島沈没に備えて対策を立てることだった。

『ハイドゥナン(下)』
> 藤崎慎吾著/田中一村装画
> ISBN 4-15-208656-4
> ハヤカワSFシリーズ Jコレクション
> 1700円
> 2005.7.31発行
粗筋:
 与那国島の海中遺跡のポイントが“14番目の御獄”であることを突き止めた岳志は、柚とともに、南西諸島の地殻変動を食い止めるためプロジェクトに参加する。
 一方、木星の衛星エウロパの氷の下の調査を進めるホーマーは、死にかけている祖父のハリーから、不可思議なメッセージを受け取っていた。
 日本政府が目論む海底資源の既得権確保と、それに対する中国の干渉のなか、ついに海底火山が噴火を始め、一刻の猶予もままならない状態に突入してしまう……
『ストーンエイジCOP』
> 藤崎慎吾著/浅田寅ヲ画
> ISBN 4-334-07479-0
> 光文社カッパ・ノベルズ
> 848円
> 2002.8.25発行
粗筋:
 ヒートアイランド現象が進んだために亜熱帯の気候になった2030年の東京。町の中に作られた公園では、捨てられたペットのワニやヘビが増殖しジャングル化していた。
 バイオテクノロジーの発達で誰でも気楽に顔や体型が変えられる時代、大手コンビニ「4U」の警備員で政府から委託された民間警察官である滝田は、コンビニ強盗を企てた少年の一人から不思議な話を聞かされる。その少年は、ゲームの人気キャラに顔を変えて三日後、家に戻ると自分の元の顔をしたニセモノが居たのだと言うのだ……。

『ストーンエイジKIDS』
> 藤崎慎吾著/浅田寅ヲ画
> ISBN 4-334-07557-6
> 光文社カッパ・ノベルズ
> 933円
> 2004.3.30発行
粗筋:
 ストリートチルドレンの中で最も活動的なグループ“山賊”。独自の社会を築きつつある彼らの前に、カラスの群れを率いた“人食い鳥”が現れた。一方“山賊”のサブリーダーであるクシーは、監視カメラを盗もうとした少女を捕まえた。その少女、9はなんと旨そうにペットボトルを焼いて食べるのだ。
『与那国島海底遺跡・潜水調査記録』
> 木村政昭編著/琉球大学海底調査団
> ISBN 4-88397-058-2
> ザ・マサダ
> 1800円
> 2000.8.4発行
同じ著者の『海底宮殿 沈んだ琉球古陸と失われたムー大陸』(実業之日本社)もお薦め
雀部 >  今回の著者インタビューは、再開したハヤカワSFシリーズ Jコレクションのトップ『ハイドゥナン』著者の藤崎慎吾先生です。我が「アニマ・ソラリス」では、僭越ながら『クリスタルサイレンス』『蛍女』とブックレビューもさせて頂いております。
 藤崎先生よろしくお願いします。
藤崎 >  よろしくお願いします。
雀部 >  さっそくですが「ちきゅう」取材は、いかがでした?
藤崎 >  「ちきゅう」を取材したのは、今回が三度目です。最初は岡山で、掘削櫓(デリック)が載せられる前の状態を見ました。その時は「とにかくでかい」という印象でしたが、次に長崎でほぼ完成状態の船を見ると、それほどでもない。デリックがあるのとないのとでは、ずいぶんちがうもんだなと思いました。今回はそのデリックの下や周辺を特別に見せてもらったわけですが、いかにもパワーのありそうな重機に上下左右を取り囲まれている感じで、うっかりしていると大事故につながりかねない危険な場所だなという気がしました。ロケットの打ち上げ施設などもそうですが、いかにも「ビッグサイエンスの現場」という雰囲気と迫力があって、圧倒されましたね。
雀部 >  ありゃ、「ちきゅう」は、岡山の三井造船玉野で進水したんですね、知らなかった(爆死)(詳しくは、山北さんの見学記をどうぞ)
 この『ハイドゥナン』を執筆されるにあたっても相当取材もされたと思いますが、一番苦労されたのはどんなところでしょうか。
藤崎 >  科学以外の土地勘のない分野に関する取材や調査には、やはり手間取りました。
 特に沖縄の歴史や民俗についてのフィールドワークでは、いったい何から手をつけたものかと途方に暮れていた時もありましたが、様々な人の助力を得て結果的にはかなり効率よくやれたと思います。
雀部 >  沖縄が舞台のSFというと、池上さんの『レキオス』なんかをすぐ思い浮かべるのですが、沖縄とか南西諸島には、ああいうマジックリアリズム的な雰囲気が良く似合うと思います。NHKの朝ドラ「ちゅらさん」で、沖縄の“おばぁ”には特殊能力があることが全国に知れ渡ったし(笑)
 主たる舞台を与那国島にするというのは、最初から決まっていたのでしょうか?
藤崎 >  2000年11月に書いた構想メモ段階では、すでに決まっていました。しかし「最初から」と言われると、どうも……。何を「最初」と言っていいのか、よくわかりません。例えば第一章で伊波岳志が後間柚の声を聞く場面なんかは、1990年くらいに書きかけた短編小説の一部に手を入れて使っています。そのころは与那国島の存在すら知りませんでした。
雀部 >  いえ、阿蘇山・桜島から琉球列島へ続く霧島火山帯が、最近では一番危ないと言われているのかと思いまして。そこから必然的に決まったのかと……
 とすると、やはり与那国島の海底宮殿あたりが、与那国島が舞台になるきっかけになったのでしょうか。
藤崎 >  きっかけは『南島論序説』(谷川健一著)を読んだことです。そこにクブラバリやトゥングダの伝説が紹介されていて、大きなショックを受けました。ハイドゥナンや島抜けについての記述もあって、一気に全体の構想が固まっていったと記憶しています。ちなみに同書を読んだのは、同じく谷川先生の小説『海の群星』を読んで感銘を受けたからです(読む前にドラマを見ていましたが)。その主人公(ミーチラー)とヒロイン(カマ)が、伊波岳志と後間柚の言わば原型になっています。海底遺跡について知ったのは、もっと後のことでした。
雀部 >  『海の群星』て、石田ゆり子さんのドラマデビュー作なんですね(実は見てない^^;)
 『海の群星』早速読みました。史実を元にした重みというのでしょうか、とても感銘を受けました。じつは、新婚旅行が南西諸島だったので、なんとなく親しみを覚えたというのもあります。残念ながら与那国島には行ったことがないのですが、海底遺跡はぜひ見に行きたいです(久米島・宮古島・竹富島・石垣島・西表島に行きました) こういう本を読んでから出かけると、また違う感慨を抱けるはずですから。
 しかし『ハイドゥナン』を読むに当たって『海の群星』(集英社文庫)は、必読ですね。岳志と柚がなかなか結ばれないのも、現代の若者たちとは思えないくらい奥手なのも、必然性があるんですね。ただ『南島論序説』(講談社学術文庫)もそうですが、絶版なのが残念です。序章の部分も、史実に基づいているので訴えてくるものが大きいんだろうなぁ。
 さて、さきほど出た伊波岳志が後間柚の声を聞く場面なんかは、1990年くらいに書きかけた短編小説の一部が元になっていて、SFマガジン(2005/9)のインタビューによるとこれは実体験だそうですが、他にもそういう超常現象を体験されたことがおありでしょうか?
藤崎 >  いわゆる超常現象(UFOや幽霊、超能力など)を体験したことはありません。海中で人の声を聞いたのも超常現象なのかどうかは「?」です。セレンディピティみたいなものはよく経験しますが、あれも不思議ですね。
雀部 >  不思議なモノを見たとか聞いたとかいうのも超常現象に入るのではないかと思われます。脳の神経細胞の働き方が、単なるON-OFFではなくて、量子力学的な重ね合わせの状態にあるのではないかという説は、確かペンローズ博士の本で読んだことがありますが、セレンディピティは、それこそ<ISEIC理論に関係しているのではないでしょうか?
藤崎 >  まさにそうです。セレンディピティというのは辞書を引くと「思わぬものを偶然に発見する才能(能力)」となっていますが、ISEIC理論によればそれは偶然ではないということです。かといって超能力でもない。誰にでも起こりうることですから。
雀部 >  一生懸命にある課題について考えていると、脳細胞が同じ問題を考えている平行宇宙に存在するあまたの脳細胞群とリンクしちゃうんでしょうね。
 藤崎先生ご自身は、セレンディピテの体験はないのでしょうか。
藤崎 >  (前の発言で申し上げましたが)よくあります。そもそも小説を書くこと自体がセレンディピティの連続みたいなものです。「ああ、この先どうしよう」と悩んでいるうちに、ぽろっとストーリーやアイデアが落っこちてくるんですから。
雀部 >  そうすると、平行宇宙の藤崎氏にも感謝しないといけませんね。でも、同じ藤崎慎吾氏に変わりはないので、お互い様なのか(笑)
 藤崎先生は、メリーランド大学で海洋・河口部環境科学を専攻されたそうなのですが、これはどういう特色のある分野なのでしょうか?
藤崎 >  海洋だけでなく汽水域も重点的に研究しているところです。何しろメリーランド州とバージニア州に囲まれたチェサピーク湾というのは、東京湾の8倍近い面積がありながら汽水なんです。もともとは巨大な河の下流部分だったようですね。
雀部 >  汽水というと、河口の淡水と海水が入り交じったあたりですよね。東京湾の8倍とはバカでかいなあ。チェサピーク湾の変わった(面白い)生物がいたらご紹介頂けませんか。
藤崎 >  特に変わった生物はいませんが、カキとワタリガニ(blue crab)の名産地です(でした)。ワタリガニの方は「ソフトシェルクラブ」として輸入され、日本でもべられるところがあるようです。脱皮したてで甲羅が紙のように柔らかいカニを天ぷらなどにして丸ごと食べるんですが、非常においしいですよ。もちろん甲羅が硬くなった普通の状態のカニも、ゆでて肉を食べます。私の修論は、そのカニについての研究でした。他にもスズキやヒラメ、ナマズの仲間などがよく穫れます。大学の調査船やチャーターした漁船などでそういう魚介類を採集し、計測や標識調査などをした後は一部、腹の中におさめていました。自己流で魚をおろせるようにもなりましたね。
雀部 >  自然に魚がおろせるようになられたとは、さすが現場の海洋学者。
 ソフトシェルクラブは、唐揚げ(フリット?)食べたことがあります。甲羅から身をほじくる手間が省けてうれしい(笑)
 海洋学者でSF作家というと、『ダスト』の作者でタイタニックの探査やエウロパの海洋モデルを構築したチャールズ・ペルグリー氏や、『腐海』のジェームズ・ポーリック氏などがいらっしゃいますが、どちらも膨大な知識が随所に散りばめられた傑作となっています。これは、海が地球の表面の70%を閉めていて、海洋学と一言に入っても、海洋地質学・海洋物理学・海洋化学・海洋生物学・海洋気象学・海洋環境科学などと多岐にわたっていることも関係しているのではないでしょうか。
藤崎 >  私は海洋生物学者のなりそこないですから、お名前を挙げられた方々とは比較の対象になりません。しかし、それは棚に上げておくとすると、海は言うなれば地球のインナースペースですから、あらゆる分野の知識が投入された小説があっても全く不思議ではないと思います。その点は宇宙(アウタースペース)SFと同じことでしょう。人間のインナースペースたる脳も広大なフロンティアですが、海はそれ以上に多くの謎を秘めているのではないでしょうか。
雀部 >  いえいえ、藤崎先生の小説もあらゆる知識を総動員して書かれた感があって、ハードSFファンとしては、嬉しい限りです。『ハイドゥナン』でも、そのまだまだ謎を秘めた海洋と、アシモフ氏が“6000kmしか離れてないのに、宇宙にもまして手が届かない場所”と形容した地球の核の最新知見が出てきて、感心しっぱなしでした。例のマントル菌のアイデアとか、その他のアイデアなんかはどういうところから思いつかれるんでしょうか。またネタ帳みたいなものは、作られていらっしゃいますか?
藤崎 >  マントル菌のアイデアは研究者から「マントルにも細菌がいるかもしれない」という話を聞いたのと、「電気を栄養源にしている細菌がいるかもしれない」という論文を読んだことで生まれました(おっと、ネタばれか?)。二つの情報は全く別の時期に得ていたのですが、それがある時にばしっと結びついた感じです。
 そういうふうに普段から色々な研究者に会ったり、科学関係のニュースや論文を読んだりしているところから着想を得ることは多いですね。ネタ帳やスクラップは、大雑把にですがつくっています。
雀部 >  日常からのそういう努力が傑作に結びつくんですねぇ。創作方法、なんか小松左京先生に似てらっしゃる様な気がします。『ハイドゥナン』に、前作『蛍女』の登場人物が出てきて、おおとか思いましたが、『クリスタルサイレンス』や《ストーンエイジ》の二冊もひょっとして、同じ小説世界の未来にあたるということはありますでしょうか?
藤崎 >  厳密には関係ありませんが、基本的な世界観みたいなものは共通しているかもしれません。
雀部 >  主人公の二人は、共に特殊な能力を持っているのですが、それにもかかわらず、かなり現実味のある男と女として描かれていて感心したんですよ。今までは、ちょっと存在感が希薄な主人公たちでしたので。これは、何かそうせざるを得ない作品設定上の要請があったのでしょうか、それとも藤崎先生の心境(実体験)の変化でしょうか?
藤崎 >  そう言っていただけるのは意外ですが、うれしいですね。『ハイドゥナン』でもキャラが弱いと批判する人はけっこういますから――。もし、そうでもないと感じてくれる方が同じくらいいるとすれば、少しは進歩したのかもしれない。というわけで私も自分の弱点は認識していまして、それを改善しようという努力はしているつもりです。今回は実際に数人のユタに会って判示をしてもらったり、色々と話を聞かせてもらったのがよかったのかもしれません。
雀部 >  そうだったんですか。ユタというか、神様に見込まれちゃう人の苦労など、とてもリアルで真実味がありましたもの。
 ん、ということは、後間柚を悩ませる“神”が、存在感はあるものの結局よく分からない存在のままなのは、ユタ取材を通じて得たリアルさを活かすためだったのでしょうか?
藤崎 >  よく分かっちゃったら神じゃなくなってしまうのでは? ちなみにキリスト教的な唯一神・造物主だけはイメージしないでください。よけいにわからなくなると思います。
雀部 >  私は、生物・無生物にかかわらず、原子で構成される総てのものの“集合意識体”のようなとらえ方をしていました。
 もう一つお聞きしたいのですが、ちょっと唐突に出てくる感のある「エウロパダイバー」のエピソード、これはエウロパが「ハイドゥナン」の一つである可能性とともに、圏間基層情報雲(ISEIC)の広がりが、太陽系全体にも及んでいることを示唆しているように読めました。そして、エウロパの何度も発生と絶滅を繰り返している生命体たちの間にも、原始的ながらISEICが存在し、それが存在するからこそ、地球の“神”もそれを知ることが出来たと。
藤崎 >  すいません、さっきはちょっとふざけた答えかたをしてしまいました。雀部さんは「結局よく分からない」とおっしゃっていましたが、実はよくおわかりになっていらっしゃるのではないでしょうか?
 今、解説してくださったことに私の方から付け加えることは特にありません。
雀部 >  先程の話に戻りますが、小説の中で、人間が描けているかどうかというのは、その本が想定している読者を抜きにしては語れないと思います。純文学として見れば『ハイドゥナン』のキャラでも弱いのだろうし、ハードSFとして書かれたものならば、過剰かも知れません(笑)
 ハヤカワSFシリーズ Jコレクションは、コアSFより少しだけ主流小説寄りだと私は感じているので、丁度良いバランスだと思いました。藤崎先生は、Jコレとして刊行されるということを意識されて『ハイドゥナン』を書かれたということはありますでしょうか?
藤崎 >  いいえ、そういうことは全くありません。なるほど、メディアや読者ターゲットを考えて書かないから悩むのかな。特に長編の場合「これはコアな人向け」とか「これはノベルズ向け」とか意識して作品に向かったことはないんです。とにかく、なるべく多くの人に読んでもらいたいと思うだけで。
雀部 >  SFと銘打ったシリーズで、万人が満足するような小説を書くのは難しいんじゃないかと思います。小説中に科学的な知見が出てきただけで、引いちゃう読者もいらっしゃいますから(汗)。
 塩澤さんからの執筆依頼が、『クリスタルサイレンス』刊行直後ということで六年越しなのですが、編集者からのこういうパートを増やして欲しいとかいう依頼はなかったのでしょうか?
藤崎 >  もちろん、ありました。しかし、それはどちらかというと小説としての面白さやバランスの良さを高めるためのアドバイスで、SFとしての先鋭性を追求するものではありませんでした。塩澤さんご自身がマニアではないからでしょうね。
雀部 >  ガチガチのSFというんじゃなくてちょっと文学寄りというJコレのカラーが出来てきてるような気がしますし。まあ、日本SFには、ガチガチのコアSFというのは、ほとんど存在しなかったから、ここは一番そういう方向に『ハイドゥナン』をして欲しかった気もします(笑)
 しかし、日本SFとしては珍しいことに、伊波岳志・後間柚の切ない恋愛感情の描き方が出色で、そこはとても良かった気がしているので二律背反なんですが……
 人類科学vs地殻変動のサイエンス面と、伊波岳志・後間柚のロマンスは、どちらに力を入れて書かれましたでしょうか?(笑)(もしくは、どちらが書きやすかったでしょうか)
藤崎 >  力の入れかたがちがいますけど、同じくらいじゃないでしょうか。
雀部 >  同じくらいなんですね、納得。
 話は変わりますが、マイクル・クライトンが『恐怖の存在』で、地球温暖化議論(というか似非科学)を糾弾してますが、藤崎先生はこの問題についてどうお考えですか。海が汚れてきているのは事実でしょうし、人間が地球に長期的な影響を及ぼすのは不可能な気がするのも確かな気がしますし……
藤崎 >  不勉強で『恐怖の存在』は読んでいないのですが、地球温暖化が人間活動の影響かどうかについて、確固たる結論はまだ出ていないと思います。にもかかわらず、それが単なる政治の道具にされているのは問題でしょう。ただし人間が地球に長期的な影響を及ぼすのは十分に可能だと思いますし、科学的な結論が出るまでは「疑わしきは罰する」くらいの態度でいたほうが賢明でしょう。
雀部 >  やはり。『ストーンエイジKIDS』の舞台である未来の日本は、温暖化により亜熱帯化して南方系の動植物が闊歩してるという設定でしたから。まだまだ人間の英知は自然に打ち勝つまでにはなっていませんが、藤崎先生は、人間が自然を屈服させる時がいずれ来るとお考えでしょうか、それとも自然現象にあまり干渉しない方がよいとお考えでしょうか。
藤崎 >  人間はあくまでも自然の一部というか構成要素の一つだと私は思っています。したがって人間が自然に「打ち勝つ」とか「屈服させる」とか「干渉する」とか言われても、何だかピンときません。それは譬えれば私の肝臓に知能があって「俺はいつか藤崎を屈服させることができるだろうか」とか「藤崎にはあまり干渉しないほうがいいだろうか」などと考えるのと同じことのように思えるからです。
 まあ『パラサイトイブ』のミトコンドリアだったら、考えるかもしれませんが。
雀部 >  なるほど。癌化しないことを祈るだけです(汗)
 ところで、『ストーンエイジKIDS』は、最後に“了”とあるのですが(前作の『ストーンエイジCOP』のほうには無い)続編はあるのでしょうか。滝田がその後どうなるか知りたいし、ゼロやオジイのような光合成人間の行く末も興味があります。
藤崎 >  すいません“了”の件については気づいていませんでした。自分の原稿の最後には必ず“了”を入れているんですが、たまたまそれが残ってしまったんでしょうかね。
 いずれにしても続編を書く予定はあります。というか、早く書かなければならないと気持だけは焦っています。おそらく次が完結編になるでしょう。積み残している謎を解決するのはもちろんですが、間があいてしまったぶん、より独立色の強い作品に仕上げなければならないと考えています。『螢女』と『ハイドゥナン』の関係ほどではありませんが、『COP』と『KIDS』よりスケールの大きな物語になるでしょう。またノベルズではなく、ハードカバーになる可能性が高そうです。
雀部 >  続編あるんですね、ホッとしました。しかも大作になる予感(嬉)
 あ、一つ聞き忘れていたことが(汗;)
 コンピニCOPという秀逸なアイデアはどこから思いつかれたのですか?
藤崎 >  ずばり「ロボコップ」シリーズです(笑)。あの映画に出てくる警察は企業ですよね。しかしアメリカの警察には「交番」というものがない。あれは日本独特のシステムです。それをふまえて日本の警察が民営化された場合を考えると、交番として機能しうるものはコンビニだろうという発想です。
雀部 >  えっ、『ロボコップ』がヒントだったんですか。気が付かなかった(汗)
 既にコンビニは公的な業務の代行を始めているから、なおさら現実味がありました。
 今回は、お忙しいなかインタビューに応じて頂きありがとうございました。
 最後に、近刊予定とか、現在執筆中の本がございましたら、お教え下さい。
藤崎 >  11月中に『クリスタルサイレンス』が早川書房から再文庫化されます。また来年の2月ごろには同じく早川から短編集が出る予定です。その次は現在「別冊文藝春秋」に連載中の『鯨の王』が出版されるのではないでしょうか――って何か他人事のようですが。一方、来年の夏ごろに共著でノンフィクションを出す計画もあります。『鯨の王』とは前後するかもしれません。
 この度は私を取り上げていただいて、ありがとうございました。今後ともご支援、ご指導のほどをよろしくお願い致します。
雀部 >  SFファンとしてはどうしても海底調査の裏で組織された「マッドサイエンティストたち」のプロジェクト、オペレーション・ヒヌカンのほうに目がいってしまいがちなんですが、『ハイドゥナン』が岳志と柚の出会いとお互いを思う心の描写にも、同じくらい力を入れて描かれているということがわかったのは最大の収穫だったと思います。今後も、男女の機微が描ける希有なハードSF作家としてのご活躍も期待しております。


[藤崎慎吾]
1962年、東京都生まれ。埼玉県在住。米メリーランド大学海洋・河口部環境科学専攻修士課程修了。科学雑誌の編集者や記者、映像ソフトのプロデューサーなどをするかたわら小説を書き、1999年に『クリスタルサイレンス』(朝日ソノラマ)でデビュー。同書にて「ベストSF1999」国内編第一位を獲得。以後、『蛍女』『ストーンエイジCOP』などの作品で、新時代の本格SFを担う書き手として注目を集めている。現在はフリーランスの立場で小説のほか科学関係の記事やノンフィクションなどを執筆している。日本SF作家クラブおよび宇宙作家クラブ会員。
ホームページは、http://www.hi-ho.ne.jp/shinichi-endo/i-Fujisaki/
[雀部]
ハードSF研所員・小松左京研究所会員
あのぅ〜、比べるのが無理なんですけど、石川雅之さんのマンガ『もやしもん』と『ハイドゥナン』って、ポイント・ポイントで似ているところがある気がしませんか?

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