| TOP Short Novel Long Novel Review Interview Colummn Cartoon BBS Diary |

Author Interview

インタビュアー:[雀部]&[松崎]

『今池電波聖ゴミマリア』
> 町井登志夫著
> ISBN 4-89456-932-9
> 角川春樹事務所
> 1900円
> 2001.12.8発行
第二回小松左京賞受賞作品
粗筋:
 西暦2025年、日本は国家財政が破綻し年金制度は崩壊し、老人はホームレスとなって街に溢れていた。少子化を食い止めるために制定された「中絶禁止法」により望まれない胎児は、闇に葬られるか生まれても虐待されて死んでいくしかなかった。そんな時代、高校生の森本聖畝は、凶暴だが単純な白石とつるんでなんとか生き延びていた。
 あるグループから上納金を要求された聖畝は、白石と共に国の特殊機関であるJDCの仕事をしている少女に目を付け、家に泥棒に入ったが……

 『バトル・ロワイヤル』とはまた違ったアプローチで描かれたスクールバイオレンス。現在の日本がさらに絶望的な社会になったときの人間の内面的な葛藤をダイナミックに描いた作品。荒唐無稽に見えて、リアリティがあるという不思議な雰囲気を持った作品です。


『諸葛孔明対卑弥呼』
> 町井登志夫著
> ISBN 4-7584-2002-5
> ハルキノベルズ
> 990円
> 2002.10.8発行
粗筋:
 八門遁甲すなわち魔道を操る諸葛孔明は、魏王・曹操の80万の大軍に炎の雨を降らせ潰走させた。この赤壁の戦いにおける大敗という屈辱に歯ぎしりする曹操は、その黒幕が諸葛孔明であることを知り、彼に匹敵する奇門遁甲の遣い手を捜していた。その彼のもとにもたらされた名こそ、邪馬台国の女王卑弥呼だった!
 混沌とした倭国において勢力を増しつつある邪馬台国。奴国の王位継承権のない嫡男である難升米は、王の命を受け卑弥呼の動静を探る旅に出ることとなった。

『爆撃聖徳太子』
> 町井登志夫著
> ISBN 4-7584-2033-5
> ハルキノベルズ
> 952円
> 2004.2.8発行
 「日出る処の天子、日没する処の天子に書を致す」遣隋使の小野妹子は我が目を疑った。聖徳太子から隋の煬帝に送られた書状にはこう書かれていたからだ。大帝国の皇帝にこのような物言いで国書を送って無事なわけはない。日本中火の海にされても文句は言えないではないか。
 隋の琉球・高句麗侵略戦争に巻き込まれた傷心の遣隋使小野妹子の視点を通し描かれる聖徳太子像。神出鬼没にして、自らをイエス・キリストになぞらえる聖徳太子こと厩戸皇子の常軌を逸した言動を見よ!(笑)
 大帝国の長として権勢並ぶ者無き煬帝に、聖徳太子が闘いを挑む!!

『血液魚雷』
> 町井登志夫著
> ISBN 4-15-208672-6
> ハヤカワSFシリーズ Jコレクション
> 1500円
> 2005.9.30発行
粗筋:
 放射線科の医師・石原祥子のもとに心筋梗塞を起こして搬送されてきた若い女性は、彼女の元恋人である羽根田医師の妻、緑だった。複雑な感情を抱きながら冠動脈の血栓を除去する手術中に、X線透視画像に映りこんだのは、血流に逆行して高速移動する不気味な影だった。
 羽根田医師の強硬な主張により、試験稼働中の最新鋭の血管内観察用カテーテル〈アシモフ〉が投入されることとなった。それは挿入したカテーテルから、ビームを照射し、血管内をリアルタイムで映し出す世界初の血管透視装置だ。〈アシモフ〉のゴーグルを装着し、血管内世界を体感していく祥子の前に現れたのは、ミサイルのごとき形状と鞭毛状のプロペラを持った謎の生命体だった……

雀部 >  今月の著者インタビューは、9月30日にハヤカワSFシリーズ Jコレクション『血液魚雷』を出された町井登志夫先生です。町井先生よろしくお願いします。
町井 >  こちらこそよろしくお願いします。
雀部 >  『血液魚雷』は、病院の放射線科が舞台ということで、もうお一人、ゲストインタビュアーとして、放射線科医の松崎さんをお招きしました。松崎さんよろしくお願いします。
松崎 >  よろしくお願いします。
雀部 >  この『血液魚雷』は、“「このミステリーがすごい!」大賞”を惜しくも逃した作品とお聞きしましたが、本書を書かれようと思い立ったきっかけは、何だったのでしょうか?
町井 >  後書きにも書いたんですがなんと言っても映画「ミクロの決死圏」ですよね。小さい頃でしたから夢にも出て来るんですよ。血管の中が。
雀部 >  小さいころって、おいくつぐらいですか? 今、映画のパンフ見ながら書いているんですが、ラクェル・ヴェルチのお色気は、感じられなかったんでしょうね(笑)
町井 >  あの映画って女性って出ましたか? というか俳優の顔がまったく思い出せないし。ひたすらスペクタクルだけみたいだった。
雀部 >  あらら(笑) 幼心にはスペクタクルのほうが印象が強かったんですね。
 SF者として読ませて頂いた感じでは、あまりミステリという気がしなかったんですが、「このミステリーがすごい!」大賞に応募されようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。
町井 >  角川春樹事務所にホラーとして出したんですが、違うだろうって寝かせ状態になりまして。それではミステリとしてならいいかと思いまして。
 完全にジャンル無法状態ですね(^-^;
雀部 >  小松左京賞受賞作の『今池電波聖ゴミマリア』にも、医学ネタが出てきたんですが、本作は、医学ネタ真っ向勝負で驚きました(笑) 『ミクロの決死圏』におけるSF的考証の最大弱点であるミクロ化の問題を取り除いた21世紀の『ミクロの決死圏』。面白かったです。医学的な考察がしっかりされていて、しかも筒井康隆先生の流れをくむハチャメチャSFでもあるという。だいぶ医学関係の資料は参照されたんでしょうね?
町井 >  実は調べたっていう印象がないんですよね。今も言ったように子どもの頃から血管とかばかり考えてたからかな、書いた頃にはなぜかもう資料がそろってた(*^-^*)
雀部 >  調べずにあれだけのものが書けるというのは、すごいですね。よほど『ミクロの決死圏』の影響が大きかったんですね。
松崎 >  現役の放射線科医として、愉しく読ませていただきました。いや、もう本職が書いてるんじゃないかって錯覚するくらい放射線科の内情をわかってらっしゃるなと。とくに、導入部でのフィルムの山に埋もれて疲れ切った主人公の描写とか。
 かなりつっこんだ取材をされたのでしょうか?
町井 >  本の末尾に謝辞を述べました。現役放射線科医師、技師さんです。先生たちのキャラクターがかなり生かされていると思われます(^-^;
松崎 >  たしかに、こんな先生いるよなー(笑)って、相づちいれつつ読み進めました。飄々としつつも、肝心なときには頼りになるベテラン放射線科医の高木部長がいいですねえ。
 ところで、血管フィルター、コイル、アブレーションと多彩なIVR(注:Interventional Radiologyの略称。手術を行わず、血管造影法などの画像診断を用いて侵襲性の少ない治療を行う方法)の手技を繰り出して血液魚雷と闘うくだりは、わくわくさせられました。いや、まさか、放射線科の地味な仕事場を舞台に、ここまで手に汗握るサスペンスフルな展開のドラマが作れるとは。私がもっと偉い立場なら、帯に「日本医学放射線学会推薦!」と入れたいところ。でも、あんまし宣伝効果はないかなあ(笑)。
 しかし、「ミクロの決死圏」の世界を現代に蘇らせたせっかくのアシモフ。これだけではもったいない気がしますが、続編の予定とかはないのでしょうか?
町井 >  それこそ宣伝しまくるか早川に放射線科医師会で手紙攻勢かけてくださいよ(^-^; 「続き出して」と。
松崎 >  そうですね。まずは放射線科の専門医会誌にレビュウを投稿してみます。学会の偉い先生が、この本は放射線科のアピールにいいんじゃないかって思ってくれればしめたものなんですが(笑)。
 もし続編が出るとして、すでに構想とかはたてられているんですか?
町井 >  出せるとなればそこは一応プロだからなんとかするつもりです。というか謝辞の先生たちまだ近くにいますので(^.^)b
松崎 >  期待して、続編を待たせていただきます。高木部長が活躍するといいなあ。
 ところで、この「血液魚雷」ですが、医者や技師などの医療従事者や、医療メーカーからの反応はいかがでしたか?
 インスパイアされて実際にアシモフの開発に取り組むメーカーとか出てきたら、楽しいですね。
雀部 >  私は、羽根田医師の活躍するパートが読みたいです。クールな彼が非情に徹して、自分自身と祥子と緑を実験台にして、血液魚雷をさらに追いつめ、そして病魔に倒れる様を。
町井 >  非常にもうしわけないというか期待していただいてうれしいというか、ただもし現在書けるとしたら、「魚雷」のストレートな続きじゃなくてアシモフの設定だけ同様にしてまったく登場人物も病院もかえたいな、と。
 もし正式な続編ができるとしてもいろいろ他をまわってからにしたいな、と。だって脳とか脊椎とか、魚雷で見てないところがまだいっぱいで。
 それと医療従事者からの反応ですが私の情報網がたりないせいで純粋な読者としてはソラリスが初めてです。ありがとうございます。病院関係の人は事前に相談したので白紙からではないから。
松崎 >  アシモフで探る脳神経の世界! いやあ、読んでみたいなあ。
 いっそカテーテルにマイクロコイルを仕込んで、超微細なMRI画像を撮像するアシモフ2号なんてのもどうでしょうかね。神経線維に沿って縦横無尽に脳内を走査する神経放射線医なんて、かっこいいかも。
町井 >  自分もすごいいいと思います。ただ血管と違い神経線維は中がつまっているのでも一つ技術の飛躍が必要と思うしもはやIVRじゃなくなっちゃいますね(^_-)-☆ でも今度はどんな絵になるか、試してみたいですよね。
松崎 >  是非とも御願いします。
雀部 > (以下ネタばれ注意)
 あ、お聞きするのを忘れてましたが、羽根田医師の名前は、あきらかに血液魚雷くんの驀進手段であるプロペラ=羽根から来てますよね?
町井 >  そんなにネタばれしていいんですか?(^-^)
雀部 >  やっぱり(笑)
 ネタバレついでに書いちゃいますが、血液魚雷のエネルギー源が、ATP(アデノシン三リン酸)と書いてあったのは、おぉ!と思いました。クエン酸回路、学生時代は暗記してました(笑) やはり、生命体のエネルギーというとATPを利用するのが手っ取り早いですよね。
松崎 >  や、ありましたねえ、クエン酸回路。効率よく高いエネルギーを得るためには、正しい発想なんじゃないでしょうか。
雀部 >  あと、血液魚雷が一匹だけなのは、孵化しないように特殊なホルモンを出しているというアイデアも感心しました。これって、そのホルモンを合成できれば、血液魚雷治療法に繋がりますよね?
松崎 >  そうですね。腫瘍や病原体を完全に叩いてしまうんじゃなくて、発症しないよう押さえ込む治療法というのは現実にも行われているわけですが、おっしゃるように血液魚雷に対しても効果的と思います。あ、でも、これは続編のネタバレになる可能性もあるのかな(笑)。
(このやり取りの部分はネタバレなので、白いフォントにします。)
雀部 >  『今池電波聖ゴミマリア』と『血液魚雷』の双方に共通した点として、良くできたゲームをするようなスピード感とスリルがあると思うのですが、ゲームはお好きなのでしょうか?
町井 >  いえ、とくには。それより手塚治虫とか石森章太郎とか、アニメじゃないかな。
雀部 >  アニメは、どんなものを見られてました?
町井 >  ずっと見てますよ。この前も『ハウルの動く城』、観たばかりです。
雀部 >  なるほど。
 もう一つの共通点として、ふたつとも絶望小説ではないかと思います。
町井 >  絶望小説はゴミマリアはそのままかも知れませんが魚雷は違ったつもりなんですがね。一人も死にませんし(^-^;
雀部 >  死なないけど、治らない(笑)
 魚雷の立場から言うと、宿主の生命に危険を及ぼしながらでないと自らが生存できないというのは、かなり絶望というか複雑な立場だとも言えますが?
町井 >  大腸菌も体内が住家ですがあまりに適応しすぎて増えすぎると腸環境は破壊されます。家ネズミも安住して増えすぎると家が壊れて終わり。人間も増えすぎて地表壊して終わりです。生きようと思われるなら子孫は増やすより減らせ。
雀部 >  私も血液魚雷君は、人類そのものじゃないかと感じてました。でも、展開を読んでみると、どうやら血液魚雷のほうが、人類より賢いんじゃないかと(笑)
 こういう小説を書くのは凄くエネルギーが要るんじゃないかと思いますが、どこからそのエネルギーを得られているのでしょう?
町井 >  どこからエネルギーをと言われても、日本の現代、現実は私の小説よりずっと絶望してませんか。
雀部 >  それは「小松左京マガジン」のインタビューでもおっしゃられていましたよね。
 普通の人は、そこらあたりはあんまり考えないで子供作ったりしているとおもいますが、町井先生のその絶望感というのは、何歳ぐらいからどういった経緯で抱かれるようになったのでしょうか?
町井 >  よくは思い出せないですが作家福島正実のファンでして。
 それとしばらく日本を離れて戻って来たら日本が知らない間に勝手に絶望状態してたんで。
雀部 >  それは大学卒業後にフィリピンのタクロバン大学に留学されていた時期なんですか?
町井 >  そうですね。バブルの最中に留学して、戻ったら街がなんか派手に縮こまったという感じっていうか。
雀部 >  で、ご専攻は何だったのでしょうか?
町井 >  留学について言うと専攻は心理学です。信じられないことに日本人は私一人で、だから両国民の心理の相違など一人で考えさせられていました。
雀部 >  日本人とフィリピンの人の心理学的な相違ってどんなところなんでしょうか?
町井 >  ないです(^-^; 当時も今も答えに変わりありません。少なくともフィリピンは同じアジア人で宗教もキリスト教、全然違和感なかったんです。それに遺伝子もフィリピン人は九州人と同じこともわかりましたし。人類みな兄弟みたいなことは言いたくないけどフィリピンはそうだったです。西洋とかイスラムに行ってたらまた違ったでしょうが。
雀部 >  そうなんですか。国民性なんかは、違うかと思ってました(驚)
 そういうところが、キャラクター設定に活かされるということはありますか?
町井 >  まぁどこに行っても人間なんて汚いとこも含めて同じだと思えるという点では。
雀部 >  至言ですね。そういう人間観察が活かされているんでしょうけど、羽根田医師なんか嫌みなヤツなんですが、とてもリアリティがあって実際のモデルが居るんじゃないかと思いました(笑)
町井 >  それはありがとうございます(^-^)
雀部 >  フィリピンを舞台にした(フィリピン人を登場人物にした)小説を書かれる予定はおありでしょうか?
町井 >  実はもういろいろ書いたり企画出したりしてるんですがね、セールス的にそういうものは弱いということで採用になってないだけで。異形コレクションの「アジアン怪奇」に書いた「ギーワン」くらいですね。今のところ発表できたのは。
雀部 >  そういえば、あまり目立たぬ登場の仕方ですが、デビュー作『電脳のイヴ』の主人公麗子ちゃんの母親はフィリピン人ですよね。
 『電脳のイヴ』を書くにあたって一番苦労された点はどこでしょう?
 ネタ的には、医学ネタもあるし絶望した少女も出てくるしで、以後の町井先生ご著作の傾向が内包されてる感じを受けました。
町井 >  デビュー作かなつかしいですね。
 1997年受賞の私はもう少しで十年作家やってるんですね。あれは書くのには苦労した覚えはないです。ただ直しには時間いりました。ティーンズ向けなのでいっさい偏見とかが入るといけないってことで。読んでわかると思いますが結構国際色が強いんですがフィリピンとか香港について記述を削除して表現を書き直したりしました。
雀部 >  なかなか難しいものなんですね。
 そういう制約があるティーンズ向けと、一般読者向けとではどちらが書きやすいとかありますか。制約が多いほど燃えるタイプとか?(笑)
町井 >  私は両者区別してないんですよ、おかげでというかティーンズ向けでも容赦なくやるせいかこのジャンル、没の山(>_<) ホワイトハートでも以後一冊も出ませんでした。
雀部 >  あれ、そういった理由で次が出なかったんですか、変だなとは思っていたのですが。
 『諸葛孔明対卑弥呼』や『爆撃聖徳太子』のキャラクター設定も面白いですね。こういう設定を考えるのは楽しいのでしょうか?
町井 >  あ、そっち系統も読んでいただいてますか。うれしいです。私の読者はネットなんかひくと作品ごとにばらばららしくて。私が脈落なしに違ったもの書いたせいですけど(^-^;古代史ファンや三国志ファンがそれぞれとりあげてくれてとてもそれはうれしいですよ。
 このインタビューは少なくともここまでは魚雷中心だったんでSF系統だけかと思ってました。みんな町井登志夫の頭から飛び出してきた設定で、自分が楽しくなければ書いたりしませんよ。
雀部 >  特に聖徳太子のキャラは、エキセントリックでけっこう現代的なキャラだと思うのですが、やはり狙ってこういう設定にされたのですか?
町井 >  聖徳太子は完全にパソコンについた霊か憑き物です。というより小野妹子が先で、その景色として突然出現しました。ストーリーはかっこいい狙いだったのになんであんな変になるかな(^-^;
雀部 >  小野妹子が、まあ普通の人で、聖徳太子に振り回されて大苦労する役柄ですよね。
 困った上司を持ったサラリーマンは身につまされる話というか(笑)
 そういや『小松左京マガジン』第7巻に「サイバーパンクな邪馬台国」との一文を寄稿されていたんですが、サイバーパンクやから、あの聖徳太子なのでしょうか?(笑)
町井 >  私としては日本式スチームパンクが狙いなんです。スチームな時代じゃないから担当さんが「ハイパー歴史アクション」というジャンルを考案してくれました。
雀部 >  スチームパンクかぁ。確かに『酸素男爵』あたりに通ずる面白さもありました。
 それとその記事の写真が、自動小銃(?)をかまえたものなのですが、あれは何でしょう?
町井 >  それについてはご想像にお任せします(^-^)
雀部 >  ありゃ(笑)
 この二つの作品の共通点として(町井作品すべてに共通すると言っても良い)、荒唐無稽に見えながら、実はその当時までの発明・発見に照らしてみても、あまり無理のない、科学知識を元にした作戦・技術が使われるので、SFファンも安心して読めます。普通の伝奇小説みたいに、魔術とか陰陽道を出さなかったのは、やはりSFがお好きだからですか。
町井 >  それももちろんありますが私には魔法とかそういったものがさっぱりわからない(^-^; どう使うかも何なのかも。
雀部 >  知っていたら魔道師になれます(笑)
 資料が乏しく良く分からない時代だからこそ想像しがいがあると書かれていましたが、例えばよく分かった現代を舞台にした小説を書かれるのと、どちらが楽しいでしょうか。
町井 >  書いてる時にはどれも楽しいですよ。次ぎは時代小説書きたいと言ってるんですがOKは出ません。私が時代もの書いたらまともな古き良き江戸時代小説ファンから怒りと抗議が殺到すると言うので。
雀部 >  架空戦記というジャンルがあるぐらいだから、大丈夫なのでは(笑)
 さきほど、作家としての福島正実氏がお好きだという話が出ましたが、特にお好きな作品はなんでしょうか。私は、頭の中に歯車が回っている感覚を治してもらうと、今度は女性が色っぽく迫ってくる感じがしてきて、しょうがなくて元の歯車に戻すという短篇が非常に印象に残っています。
町井 >  私は福島さんが専業作家になるくらいからのSFだか純文学だか不明な作が好きです。「離れて遠き」とか「就眠儀式」とか。あまり怨念がこもってないとものたらないっていうか。
雀部 >  怨念がお好きですか、うう〜ん(笑)
 福島先生の「離れて遠き」は、妻を殺した男が司直の手を逃れてバンコクに逃げてくる短篇で、さきほど名前が挙がった「ギーワン」は、フィリピンの怪奇譚。ちょっとウェットで、異国情緒を強調するのではなく、日本との共通点を感じさせる雰囲気が似てるような気がしました。フィリピンを留学先に選ばれるにあたって、福島先生の作品の影響があったということはないでしょうか?
町井 >  あったらバンコクに行ったと思うんです。作品を書く上では影響されていたはずですが。
雀部 >  そうかぁ、フィリピンとタイでは確かに違いますね(汗)
 福島先生がお好きというのと、専攻に心理学を選ばれたというのは関係ありますか?
町井 >  関連は意識してないんですが、趣味かな(^-^;
雀部 >  小説を書くうえで、心理学をやってて良かったと思われたことはおありですか?
町井 >  引き出しになります。デビュー作もそういえないこともないし「異形コレクション」発表の短編なんかも心理学ネタです。
雀部 >  井上雅彦さんが、医療ホラーということで、コナン・ドイルの恐怖短篇を思わせると解説なさってますね。
 『血液魚雷』は、女医さんの微妙な心理がよく描かれていて感心したんですが、心理学を真っ正面から扱った長編を書かれる予定はあるのでしょうか?
町井 >  日進月歩してる医学最先端に比べると心理学はひろまり過ぎてて不利ですね、「羊たちの沈黙」で驚いてたのが二十年近く前です。なんか誰も思いついてないようなアイデアでもうかべば書きます。
雀部 >  期待してます。
 最後に、近刊予定とか現在執筆中の作品がございましたら、お教え下さい。
町井 >  小説ではないですが現在発売中の「小説すばる」2月号にコラムを書きました。これが今年初仕事です。これからもみなさんよろしくお願いします。
 どうも有難うございました。
雀部
松崎
>  こちらこそ、お忙しい中ありがとうございました。
 医療関係のちゃんと考証されたSFは、ありそうであまり無いので期待しております。
町井 >  実は2月12日のNHK−BS「週刊ブックレビュー」で篠田節子さんが『血液魚雷』を紹介してくださるそうです。(^-^)/‾
雀部 >  あの篠田節子さん(『ハルモニア』をブックレビューさせてもらいました)ですね。
 それは、楽しみが増えました。待ち遠しいです。


[町井登志夫]
1964年愛知県生。南山大学教育学部卒。'97年『電脳のイヴ』で講談社ホワイトハート大賞優秀賞受賞。'01年『今池電波聖ゴミマリア』で小松左京賞受賞。
[雀部]
今回の著者インタビューは、ウィルス感染を嫌われて、町井先生のマシンがInternet接続環境下にないため、こちらからはFAX、町井先生からは携帯のメールでコメント頂くという変則的な方法をとらせて頂きました。町井先生、ほんとうにありがとうございました。
[松崎]
30年来のSFファンで、ネット通販にて読むあてもない原書を買い漁る日々。ふだんは放射線科医としてCTとかMRIとかをいじくっております。

トップ読切短編連載長編コラム
ブックレビュー著者インタビュー連載マンガBBS編集部日記
著作権プライバシーポリシーサイトマップ