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Author Interview

『神の仕掛けた玩具』
 

収録短篇および粗筋:

「超網の目理論」
 語り口がユーモラスなハードSF短編。宇宙交通事故の発生点を統計処理することによって、絶対空間の存在が明らかになります。最後は主人公が、この特異点に再突入した後行方不明になります。その影には超知性体の存在が示唆されます。
 主人公達が、その特異な時空に突入して、レーザー光線を外部の宇宙に向かって放つことによって、突如、通常の宇宙空間に無数の網の目状の星々が出現するくだりは、ハードSF的こじつけがある分、F・ブラウンの「狂った星座」にも増して破天荒であります。
 超網の目理論とは、宇宙には絶対空間が存在し、それは通常宇宙から観測すれば無数の網の結び目のように見えるが実は一つの時空としてつながっているというもの。

「スミレ」(この作品のみハードSF研広報掲載作品)
 冥王星外縁軌道で、彗星探査の任務に就いていたアキヨシは、彗星の核にニュートリノ波でヒトDNAの情報を送り込み調査をしていたところ、彗星の表面に小さなスミレの花を見つけた。アキヨシは、宇宙暮らしを嫌う妻とやむなく別居生活をしているのだが、送信したDNA情報は、その妻のものだったのだ。

「豊饒なる空孔」
 辺境惑星開発機構の二等宙士は、惑星生態の秩序レベル測定のために観測艇で着陸するが、発見した遺跡で緑の壁に飲み込まれてしまう。そうして彼は、下半身から徐々に宝石様の異物に置き換わっていく。

「神の仕掛けた玩具」
 人類全体に対して憎しみを持つ異形の天才科学者と、その友人の天才科学者。間近に控えた太陽のフレア化を防ぐ計画を実行中、小惑星地帯から反重力装置を備えた物体が発見されたとの連絡が入ります。この物体に乗り込んだ異形の科学者が、その存在を研究するうちに自らの人間としての記憶(原罪)は捨て去ることはできないことに気づきます。
 そして謎(物体は生命体なのか?内部の部屋の中の仕掛は、友人が仕掛けたものなのか?)は解決されないまま、物語は余韻を残して終わります。

「モネラの断想」
 《立体様相》なる新しい法則表現を発明した男の私小説的心情風景と、その霊魂を研究しているモネラ種族の長の思考の流れを、交互に取り上げながら物語はすすんでいきます。そして宇宙は滅び、最後に世阿弥の能の世界のように寂寥感だけが漂います。
 《立体様相》とは、漢字(表意文字)で表された方程式を重ねあわせることによって、ニュートンの力学体系は三層の《立体様相》で言い尽くせるというアイデア。
 霊魂は極微の時空の歪みであって膨大なエネルギーが蓄えられている。よって霊魂の数が臨界量を越えると真空の相転位がおこり、宇宙が綻び崩壊するのだそうです。

「白い飛翔体」
 星間分子雲のただ中にある惑星で、調査隊は銀河系規模の《渡り》をする飛翔竜と遭遇し、全滅の危機におちいります。しかし、その惑星の知性体の自己犠牲によって、それを乗り切ります。
 星間塵を餌にする飛翔竜と、竜が銀河間を飛翔する際の目印である四重クェーサーを模倣して竜を引き寄せそれを捕食する食虫植物のアイデアが壮大。しかし、2億5000万年も待つと飛翔竜たちも腹がさぞかし減るに違いない(笑)

「とけい座イオタ星系における有機知性体の研究」
 ユーモアハードSF。有機知性体と無機知性体の、どっちが鶏でどっちが卵か、というちょっとひねった短編です。やはりここでも作者の、誰が知性体の主人か(誰が創造主か)に対してのこだわりがうかがえます。
 電脳知性によって創造された有機知性体と、人類によって創造された電脳知性との対比が面白いです。

「エルティブーラの黙示録」
 ビッグバン・ビッグクランチ対称理論と絶対時空理論を主張し、星流しにされていたエギリの元に、かつての時空研究所所長が訪れた。何光年も離れた惑星上で、同じ原因から生じたと思われる奇病が、同一の絶対時刻に発生したというのだ。

「再会」SFマガジン'89/6収録(収録作ではありませんが、一番好きということで)
 クラーク氏をほうふつさせる情感豊かな短編で、現在のところ、私の一番好きな作品です。(しかし、昔の作品を一番に推すのは、作者に対して失礼になるのではなかろーか? 確かクラーク氏も『私は「太陽系最後の日」から、全然進歩していないということ』と、ぼやいていたような気もしますね。
 虚無の宇宙を放浪する小世界が滅亡の危機に瀕したとき、冷凍冬眠に入る仲間を後目にたった一人で、コンピュータの中の情報としての存在を選んだ男。ここでは、超知性体ではなくこの男の分身であるマスターコンピュータが作りだした生物が、最後に自分の存在理由を理解しカタルシスを得る様が感動的に描かれます。
 コンピュータによる人間の知性維持装置《中枢》と《中枢》によって作り出された人間の作業を代行する知性体がビビッドに描かれていて感動を呼びます。

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