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Author Interview

インタビュアー:[雀部]&[CON$]

『今日の早川さん』
> coco著/Cover Illustration=coco
> ISBN-13: 978-4-15-208855-0
> 早川書房
> 1000円
> 2007.9.15発行
 SF者の早川さん、ホラーマニアの帆掛さん、純文学読みの岩波さん、ライトノベルファンの富士見さん、レア本好きの国生さん。個性豊かな女の子たちの、本と読書をめぐる日常のアレコレ。

『今日の早川さん2』
> coco著/Cover Illustration=coco
> ISBN-13: 978-4-15-208923-6
> 早川書房
> 1000円
> 2008.5.20発行
 早川さん、帆掛さん、岩波さん、富士見さん、国生さん、おなじみ本オタクの面々がくりひろげる、本と読書の日常と非日常、そしてときどき非日常。

雀部 >  さて、今月の著者インタビューは、『今日の早川さん』作者のcocoさんです。
 なんで今までインタビューしなかったのかと訝しげに思う方、お待たせしました(笑)
 cocoさん初めまして、よろしくお願いします。
coco >  はじめまして。
 逆になんで私のところに来たのかと本人は驚いておりますが、どうぞよろしくお願いいたします。
雀部 >  やはりSF者としては、『今日の早川さん』は外せないでしょう(笑)
 cocoさんは、相当のスティーヴン・キング氏ファンとお聞きしましたが。
coco >  キング作品は海外小説を読み始めたごく最初の頃に読んだのですが、すぐにはまってしまい、以来日本語で読めるものは全部読んでいますね。
雀部 >  キング氏の作品はいっぱい出てるので、それはかなりのもんですね。
 他の作家とは違うスティーヴン・キング氏の魅力はどこでしょうか。
coco >  幼い頃からホラー好きだったのですが、そのルーツがクリストファー・リー主演の映画『吸血鬼ドラキュラ』なんです。これの文学的パスティーシュ(キング談)『呪われた町』を読んで、長編小説としてのホラーの可能性みたいなものに触れたのが大きいですね。
 あれだけの分量でしかも横道とも思えるような描写も費やし、でもそれが最後にはちゃんと恐怖につながるよう処理されているというところがキングならではだと思います。
 ファン気質があって悪乗りしてるようなところもあるけれど、実はしっかり抑制も効いていて恐怖の本質の部分は外していない、といったところでしょうか。
雀部 >  リーとピーター・カッシングですなぁ。うちのカミさんは恐がりでホラー映画は大嫌いなんですが、あれは好きだそうです(笑) あそこまで来ると様式美ですよね。
coco >  まさに映画ならではの様式美ですよね。あれらの時代の映像における造形物や物語としての構造は、その後ホラーを読む上で大いに助けになっています。影響が強すぎて、スタイルに沿わないものに辛口になったりするのが困りものですが…。
雀部 >  というと?
coco >  最近だと『ヴァン・ヘルシング』なんて映画はまさにそうでした。先日刊行された『夏への扉』の新訳版にあったような気概も感じられず、オールドスタイルへの愛着もなく、ただひたすら空回りしているだけのような、こういうのを見ると悲しくなってしまいます。
雀部 >  あのど派手なCGの映画ですね。狼男は出てくるわ、フランケンシュタインは出てくるわで。
 吸血鬼映画の名を借りたB級アクション映画?(笑)
 では、活字でのホラー初体験と言うと?
 SFだと、昔は少年少女世界科学冒険全集なんてのがあって、小学生の時に読んでましたが。
coco >  児童本以後の普通小説に限ってのことなら、やはりスティーヴン・キングですね。お小遣いで文庫本を買うようになって間もなく買ったものがこれです。それまではミステリや古典を読んでいましたが、書店で目にした『クージョ』には何かびびっとくるものがあったんでしょうね。それまではホラー映画マニアでしたが、これで活字のホラーに目覚めました。
雀部 >  えぇ〜、なんと『クージョ』ですか。本当に怖い小説ですね。私は、子供の頃に読まなくて良かった(汗)
 創元社の帆掛け船マークとか、早川のモダンホラー・セレクションあたりをぼつぼつとは読んでいたんです。最初のキング氏は、私も『呪われた町』なんですけど――あの饒舌さを含めてとても面白いんですが。一番好きな『IT』も含めて――SFファンに無条件に薦めるとなると(笑)
coco >  キング作品はブライアン・オールディスのSF評論『一兆年の宴』の中で普通にSF的括りで取り上げられたりしていましたが、超能力ものが結構多いのでそういう作品はSF側からアプローチするのも面白いのではないでしょうか。
 キング本人はSF的に細部を煮詰めたりしないですが、幽霊屋敷ものの『シャイニング』でもなぜか特殊な能力を持った子供が出てきたりして、それがまたスタージョンの『人間以上』のようなものと根っこがよく似ていたりするので、意外とすんなり読めるんじゃないかと思います。
 ただキング自身はかなりSFを読んでいるようですが、自身の評論集ではSFとホラーの間にある差を明確に解いていたり、短編で『虎よ、虎よ!』のジョウントのアイディアををそのまま借用しながらも完全にホラーとして描いたりして、資質としてはやっぱりホラーであることに意識的なようです。
雀部 >  キング氏の作品はSFとしては、破綻してるというのが通説ですし(笑) まあ、キング氏ほどストーリーテリングの才能があるSF作家となるとほとんどいないですけどねえ。
 SFファン向けとなると、ダン・シモンズの『殺戮のチェスゲーム』が好きなんですが、おぞましい能力を計器で測るというあたり、SF味がかなり感じられます。まあ、一番好きなのは短編集の『愛死』ですけど(笑)
 シモンズ氏はどうでしょうか。
coco >  シモンズもキングみたいに大長編志向なところが好きなんですよ。最初に読んだのは『カーリーの歌』でしたが、これなんか安易な暴力に対する危険を説いてすごく意欲的なホラーだったと思います。 直後に「黄泉の川が逆流する」という短編を読んで、その後が超大作『殺戮のチェスゲーム』。さあ今度はどんなすごいホラーを読ませてくれるんだろう、と期待が最高潮になったところでSFに行ってしまったという…。たまにはこっちにも帰ってきておくれよ、と(笑)。
雀部 >  たまになら、ホラー書いても良いです(笑)
 和モノだと、地元岡山弁ホラーで一躍有名になった『ぼっけえ、きょうてえ』の岩井さん。由緒正しい怪談話を書かれてると思っていたら、なんかTVに良く出るようになって、あれっこんな下ネタオンパレードのおばさんなんだっけと(笑)
coco >  岩井さん大好きですよ。『ぼっけえ、きょうてえ』を最初に読んだときは脳髄痺れましたもの。怪談から随分遠い作品もありますが、何を書いても岩井さんならではというものになっているのはさすがだと思います。
 『ぼっけえ、きょうてえ』の海外ドラマ版でも御本人怪演されてましたね。ああいったノリも含めて大好きです。
雀部 >  同じ頃の小林泰三氏の『ΑΩ』なんかは、角川ホラー文庫にはいってますけど、SFファンからすると、あれはSFですよねぇ。
 あれこれ数値計算しながら書くのを楽しんでる方だし(笑)
coco >  一般的に「SF・ホラー」と一括りにされることも多いですが、取り上げられる事象についてどういうスタンスを取るのか、リアリティをどう保たせるのかといったところで、この二つは明確に分かれる部分もあると思うんです。でも小林さんの作品はそれがいい具合に絡み合っていて、まさに私の理想とするSF・ホラーだと感じます。ただし、私の場合はどうしてもホラー側から読んでしまいますけどね。
雀部 >  『ネフィリム』なんかは、題材からしてホラーですけど、『ΑΩ』のネタは違うでしょう(笑)
 『パラサイト・イヴ 』は、SF風ではあるんですが、話が全世界には広がらないので、ホラーかなという気がしますが(ラストで個人に収縮している)
coco >  『今日の早川さん』で、各ジャンルに分かれたキャラクターを出していますが、私自身はそういう境界は意識しない読み方をしたいといつも心がけています。
 それ以上に強く思うのは、自分の心に植えつけられ成長すると共に開花した種みたいなものがあって、そういうごく私的な哲学に根ざした読み方をしたいということが一番にあります。
 その一つが簡単にジャンルで言ってしまえばホラー。これは心のおののきとか未知への畏怖みたいなものを忘れない心ですね。センス・オブ・ワンダーとはまたちょっと違って、もっと身近にある世界の驚異を見過ごさないようにしようってことなんです。自然や生き物を写真を撮って歩くのもまさにそういうことかな。
 超常現象を絵空事と笑うのではなく、日本人は古来そういう現象をもっと身近に感じていたはずだし、一応の科学的理解があるようなものでも、ちょっと自然の中に入れば理性とは別の部分で感じ驚くことの方が多いんです。だから理詰めよりも皮膚感覚を信じたいと、それがホラー的読み方になってしまう要因ですね。だから私には『ΑΩ』もホラーでいいんです(笑)。それにあれのルーツの一つを『ウルトラマン』とするならば、私の親しんできた50年代辺りから続くSFホラー、モンスターホラーにも通じますし。
雀部 >  はいはい(笑)
 すみません。私も特にジャンルにこだわった読み方をしているわけではないのですが、こういうインタビューだと、そこらあたりから攻めていくとインタビューしやすいんで……
 確かに日本人にはそういうところがありますね。八百万の神様がいらっしゃるし。
 そう言えば、ブログでは「今日の早川さん」のほかにたくさんの昆虫をはじめとする生き物の写真が多く楽しめました。あの飛んでいる昆虫の写真なんか上手く撮れてますねぇ。私なんか上手く撮れた例しがありません。
coco >  写真は腕じゃなくてカメラに頼っている部分が大きいですね。それと運。掲載するのは上手く撮れたものだけなので、そりゃあ腕もよく見えますよ(笑)。
 それでも徐々に使いこなせてきていることは実感できていますし、でも完璧なんてものはありえないわけで、その不自由さや偶然といった要素がまた面白いところですね。
雀部 >  それと、使われているカメラがペンタックスということで、一挙に親近感がわきました。
 実は、30年前からのペンタックス使いなんもので。最初に自分で買ったカメラがME。
 SFファンは変わっていると言われると誉め言葉ととるんですが、ひょっとして、cocoさんもマイノリティがお好きだとか?(笑)
coco >  そういうオタク気質は確かにありますが、さすがに最近は大人になったと証なのか(笑)自分にとって本当に良いと思えるものだけを選んでいるつもりです。レンズの選択肢とか泣けてくることもありますけどね。でもどこのメーカーを選んでも一長一短あるでしょうから、後悔はしていないです。
雀部 >  ボディ内蔵の手ぶれ防止が付いてるから、昔のレンズを使うときも、手ぶれしにくいとかありますし。
 『今日の早川さん』ということで、cocoさんのSFファン度は高いと思われますが、本を読まれる割合としたら、ホラー・SF・ファンタジー・純文学と分けるとどれくらいになるでしょうか。
coco >  SF者の主人公を描いてはいますが、心情としてはホラー10割です(笑)。でもそんなにホラー作品は刊行点数がないので、適度にバランスよく。そのバランスは歳と共に変わってきますが、今はSFが多めでしょうか。学生時代は古典文学ばかり読んでいましたが、かなり背伸びというか無理していたところもあったので、そういったものを今の目でもう一度読んでみたいというのは常に頭にあります。
 SFは変なところばかり読んできたので、有名作品の読み逃しとか結構あるんですよ。なのでその辺りも今後読んでいければと思っています。
 でも基本は面白ければなんでもいいです。あ、やっぱり怪物とか出てきたほうが嬉しいかも…。
雀部 >  え、ホラー10割なんですか!それは、真性のホラー者ですね(笑)
 好きな分野の小説がなかなか出なかったのは、SF者も同じで、昔はエイブラム・メリットや、C・A・スミス、ウィリアム・ホープ・ホジスンなんかも、SFマガジンに載ってましたからねぇ。
 ホラーの古典作品もお好きなのでしょうか。
coco >  まあ10割はさすがに言いすぎました(笑)。ジャンル小説として見た場合なら、今はSF率が相当高いですから。
 ただ歴史的なことを紐解けば、両者の蜜月のようなパルプ期あたりのものが、いい具合に混沌としていて好きなんです。SFと捉えるとしてもあのくらい屈託ないものの方が気軽に読めていいです。まあこれは私が科学とか物理とか苦手なせいもありますが。
 それ以前のホラーの古典というと、これはもう今後新たな紹介もほとんど進まないでしょうから手持ちを再読するしか愉しむ余地もほとんどないんですが、創元のこの手の短編集などは今でも頻繁に手に取るくらい大好きです。基本は怪談好きなんですよ。
雀部 >  いい加減な話は私も好きです。ラファティ氏とかも(笑)
 怪談というと古典では日本の「四谷怪談」とか「番町皿屋敷」あたりでしょうか。
coco >  そういった有名どころもそうですが、私の嗜好のルーツの一つは、祖母から夜布団の中で訊かせてもらったもっとローカルな怪談なんです。それらの仕入先が何処なのかは今となってはもうわかりませんが、内容は割とオーソドックスなものでした。
 道を踏み外して怖い目に遭う、といった類のものですね。その「道」というのは、実際の道を逸れて森に迷い込む場合もあれば、人の道から外れる行為のことでもあるわけです。女の子は道を逸れて暗いところに行くとエライ目に遭うよ。女を大切にしない外道な男はものすごい恨みを買うよ、といった具合。子供に対して倫理を説くようなものが根底にあったのだと、今にしてみればよく判ります。
雀部 >  それは素晴らしいお祖母さんですね。例えば、人を殺めたら化けて出るぞということを子供心にたたき込まれたら、殺人なんて野蛮な行為も減るのではと思います。
 日本の怪談は、幽霊になった人間が怖いんですが、西洋の怪談は違うのもありますよね。鬱蒼たる森の怖さというか……
 先日鬼籍に入られた栗本薫先生の《グイン・サーガ》でも、森は魑魅魍魎の住処だし。
 ロバート・ホールドストックの『ミサゴの森 』という森の魔力を描いた本がありますが、確かに怖いんですけどいまいち日本人には怖さが分かりにくい感じがしますね。
coco >  死してなお消えない情念みたいなものはまさに日本的な恐怖としてはそうなんですが、私の中には因果応報というものがまずあるので、そこに至るまでの人の業とか欲とか心の闇とか、そんな部分に恐怖するところが大きいです。
雀部 >  やはり一番怖いのは人間の心ですね。
coco >  西洋ものはどうだろう……。もっと不条理なところがあるかもしれません。グリムなんかの童話でも正直者が莫迦を見たりとか、大きな権力の前では必ずしも報われないとか。
 『ミサゴの森』はものすごく地域の限定性があるので判りにくいところはありますが、自分の中の原風景と重ねて楽しむことはできるかな。田舎暮らしだし山とか川の中ばかり駆け回っていたので、自然に対する畏怖というのはどうしようもなく刷り込まれているんです。なので西洋ものを読むときは感情移入というよりも、上手く心の中でアレンジして愉しむといった感じでしょうか。
雀部 >  確かにグリム童話の元の話は怖いというか、めでたしめでたしで終わらないモノが多いですね。
 私の生まれたところも田舎でした。今住んでいるところも田舎ですけど(笑) 自殺の名所でもある富士の樹海は、行ったことがありませんが、そういう魔的な雰囲気があるのかと想像してます。
 さきほど、『ヴァン・ヘルシング』の話が出てきましたが、小説のほうではどうでしょうか。ドラキュラ伯爵がヴィクトリア王女と結婚しイギリスを統治する時代の話であるキム・ニューマンの『ドラキュラ紀元』なんかは如何でしたか。私はけっこう楽しめたんですが(笑)
coco >  キム・ニューマンのあのシリーズこそは、『ヴァン・ヘルシング』とは逆に理想的なリボーンだと思います。姿を見せないことで存在感を匂わせるルスヴン卿とか、上手いですよね。色んな要素が絡み合いすぎて純粋な恐怖小説とは言えないかもしれませんが、作者のマニアックな血に共感して随分楽しませていただきました。ホラー好きにとってはあの血塗られた歴史こそが正史ですよ(笑)。
雀部 >  なるほど(笑)
 では、cocoさんがお薦めするSFファン向けホラーというと何でしょうか?
 吸血鬼ネタでは、私の一番のお薦めは、ティム・パワーズ氏の『石の夢(上・下)』です。
coco >  境界にこだわりなく読むので今ひとつピンとこないところはありますが、想像するにSF者はホラーの曖昧なまま残される部分に許せないと思うところがあるのかな。そこを暴いてゆくとホラーでなくなってしまうし、そういうところを上手く処理している本というのはちょっと…難しいですね。
 ポオやメアリ・シェリーのように、当時の科学水準を前提にという条件でならまあよいのでしょうが、現代ものだと難しいなあ。理想は小林泰三さんですが、これは普通にSF側からも読まれているでしょうから、となると後はデヴィッド・アンブローズの『覚醒するアダム』みたいなものを読んで、トンデモ具合にふふんと笑ってみるとか(笑)。
雀部 >  では、反対にホラーファン向けのSFというと何でしょう。
 短篇ですがジョン・ヴァーリイ氏の「PRESS ENTER■」(『ブルー・シャンペン』所載)あたりはどうかなぁ。あと、中村融編訳の『影が行く』<ホラーSF傑作選>も。
coco >  異種族との邂逅を描いたものは大体ホラーで通じますよね。レムが『ソラリス』や『砂漠の惑星』で取った手法は、ホラー好きにも受け入れやすいものではないでしょうか。
 『宇宙船ビーグル号』の滅び行くクァールのエピソードなんかも、現代で生き難くなっている人狼ものなどに似たようなものがありますね。
 SFとは何かという定義は難しいけれど、恐怖という感情はどんなジャンルにも潜むものだから、そういう点ではホラー好きのほうが柔軟に読めるところもあるかもしれませんね。
雀部 >  では最後に、ホラーファンならこれは必読という作品は何でしょうか?
coco >  これも難しいなあ。
 やっぱり古典は読んでおくといいですよね。人類がどこまで進歩しようが、恐怖のバリエーションなんてほとんど増えていませんから。
 あとはキングの評論集『死の舞踏』。恐怖そのものについていやになるほど語っていますし、先の質問にあったようなSFとホラーの間に横たわるものも、とても判りやすく暴いていると思います。
雀部 >  SFとホラーの間に横たわるものですか。それは読んでみたいですね。
 その系統だったらSFファンには、ジュディス・メリルの『SFに何ができるか』。SFファンの心構えを説く本です(笑)
 某SNSで、私とのマッチ率が100%(笑)ということで、気になっていたCON$さんが、cocoさんとはかなり昔からのお知り合いであるということなので、急遽参加して頂きました。CON$さんよろしくお願いします。
CON$ >  CON$です。よろしくお願いいたします。話が来た時にはびっくりしました。cocoさんのお名前はインターネットはじめた頃に知った筈ですが、もうそんな月日が流れたのかと思い返して少し唖然としました。
雀部 >  CON$さんのブログが、『今日の早川さん』が始まるきっかけになったそうなのですが?
CON$ >  「Radio CON$ MINI」というブログを2002年12月からヤプログで初めて、2004年2月にはてなダイアリーに移行して続けています。今は日々の記録でしかありませんが以前は時折、ホラーほか趣味の感想ごとなどをちょこちょこ書いていました。
 それでさっき読み返したら2006年の7月17日でしたね。その日は部屋を片付けていて本の多さに嫌気がさしてブログに自虐ネタを書いていたら、cocoさんがその妄想をさっと絵にしまして。
coco >  そうなんですよね。振り返るともう驚くほど長いお付き合いになってます。なので自虐ネタにはさらに追い討ちをかけるようなツッコミを入れるのが礼儀といったところがありまして(本当か?)、それであんな絵にしてみたのが始まりでした。
雀部 >  『今日の早川さん』の最後の場面で、早川さんが“CAFE CONDOR”で本を読んでいるのですが、この店名は[CON$]さんですか?(笑)
coco >  ええ、彼女たちの着ているTシャツのデザインなんかと一緒で、ちょっとしたお遊びです。
 本の性質的に「判る人だけ判れば」といったところがあるんですが、それでも判らない人にもできるだけ楽しんでいただけるようにと苦労しているところは多いんです。その反動みたいなものから、こういったさらにマニアックというか楽屋落ち的ネタもちょこちょこと仕込んでは遊んでいます。
CON$ >  ホラー好き男はだいたいMじゃあないかと思っているんですが、自分も初対面の人に指摘されるぐらいM属性の持ち主です。ですので初めて早川さんを見た時は、自分の自虐という名の馬車もこれで星につながれたか、無駄じゃあなかった、と嬉しかったですね。
coco >  私は逆に頭に「超」のつくドSですから、そこは帆掛さんそのまんまですね。
 でも主要2キャラが嗜虐と被虐の間で上手くバランスが取れたかな、と今になってみると感じます。
CON$ >  ドSな感じはしていたのですが、やっぱりそうなんですね。本の精神的な面に対するツッコミとホラーが精神に与える影響が、親和性の高いものなのかなとか真面目に考えてしまいました。しかしドMとしては単純に嬉しかったりします。
雀部 >  CON$さんの、お好きなキャラは誰でしょうか?
CON$ >  国生さんは嫁、愛人が帆掛さんですね。最初は逆だったんですよ。ホラー者だったら選ぶのは帆掛さんだろう、話も一番合いそうだし、という事で。ところが元来、あまり多く持っていませんが国書刊行会の本も好きで、一時期は真面目に転職を考えていたほどです。
 回を追うごとに性(さが)といいますか、マイノリティの中のさらにマイノリティに目がいってしまいまして。これ、本棚を見ているのと気持ちは同じなんです。そこが上手いなぁ、といつも思います。
 ちなみに早川さんは娘のようなので、1コマ目で早川さんが出てくると今日は娘の運動会当日だ、とすっかり父親の気分になります。一番かわいいと思いますが、娘に手を出しては駄目だろ、と。少し気色の悪い話ですみません。
coco >  どん引き中………というのは嘘ですがね(笑)
 アニメ方面のオタクでよくいわれる「○○は俺の嫁!」ってアレ。あんな風に受け入れられるのも大事なことなんじゃないかなと思います。私たちの世代の若い頃は「萌え」なんて言葉も含めこういった上手い表現はなかったけれど、思っていることは同じだったんじゃないかなあ。若いオタクの子とはギャップを感じることも多いですが、ネットを背景にこういう的確な表現がポンポン出てくるところは素直に感心してしまうところです。
 まあ、そこにあっけらかんと摺り寄るCON$さんにも感心してしまいますが(笑)
雀部 >  私は、早川さんをカミさんにして、一生涯尽くしますとも(笑)
 夫婦そろってオタク道邁進したいなぁ。
coco >  早川さんはイタいところばかり目立つよう描いていますが、その一方ですごく堅実で家庭的な面も持っているんです。裁縫とか料理とか普通に出来ますし。だからいいお嫁さんになると思うんだけどなあ。ほんと、誰かもらってやってくれないものでしょうか(笑)
雀部 >  『今日の早川さん』の面白さは、本好きの人たちに思わず「あるある」と共感を覚えさせるところだと思います。これは必ずしも作者であるcocoさんの体験・経験したことばかりではない気がします。コロッケさんのデフォルメされたモノマネの面白さとか、柳原可奈子さんの「109のカリスマ店員」「総武線の女子高生」などのように、本人も視聴者もあまり知らなくても、いかにもありそうに思えるネタの面白さに通ずるものがあると思いました。
 CON$さんは、そこらあたりはどう感じられましたでしょうか。
CON$ >  ネタに客観性がある分、もちろん早川さん=cocoさんではないんだと思いつつ「このあたりの話はガチでないと出てこないな」と探りながら読む楽しみがありました。返事する時は否定から入るネタとか。もともと答えのないお話とかお遊びが好きなのですが、それがキャラクターでできるんだなぁとこの歳になって思い知りました。
雀部 >  で、どうなんでしょう、『今日の早川さん』ネタの何割くらいが事実に基づく部分なんでしょうか?(笑)
coco >  最初の頃ものすごく描きやすかったのは、やはり自分自身のことを描くだけだったからなんでしょうね。それこそこんなネタなら腐るほど身に覚えがあるよ、という(笑)。
 それがある時点からキャラが自己主張を始めまして、そこからがらっと変わりました。早川さんだけでなく他の子たちも同じですが、皆それぞれ私のコントロールを離れて勝手に動きだして、こういうのは初めての体験でした。話にはよく訊くけれど、あぁ、これがそうなのかと。
 もちろんある程度舵取りするところもありますが、それが先のお話にも出た「あるある感」を出すという部分ですね。本のことだけでなく何かオタク的こだわりのある人種全般に通じるような描き方をしようと、そこだけは意識しているところです。
雀部 >  キャラが勝手に動いていくというヤツですね。または小説の神降臨(笑)
 インタビューさせて頂いてると時々聞きます。
 では反対に、読者からのフィードバックで出来上がったネタとかはあるんでしょうか?
coco >  その辺は企業秘密で(笑)。
 ただ周囲もオタクばかりですから、そういう人たちを観察したり、何気ない一言を訊いて思いついたネタは確かに沢山あります。
 そしてそういったネタを漫画に移し変えるときにいつも思うのは、早川さんが汎用性の高いキャラに育ってくれてよかった、と(笑)。
雀部 >  そりゃ属性がSFですから、恋愛SFもあり熱血青春SFもあるし、ミステリSFに当然冒険SFも(笑)
 同じことはホラーに関しても言えるでしょうか?
coco >  恋愛SF、青春SFといった具合に分類しても、語尾のSFという部分が最終的に「SF」であると定義付けしていると思うんです。これが逆にホラーの場合は、恋愛ホラー、青春ホラーといっても、最終的にホラーでなくなってしまう場合の方が多いと思うんです。
 ホラーという感情は刹那的なものであって、長編ホラーが難しいという理由はまさにこの辺にあると思います。ブームになった大長編モダンホラー群を見ても、ブームの原動力となった要素というのは水増しにしかなっていないところが多かったと思いますし。ホラーの最良の形式は短編にあると言われるのはまさにそんなところなんじゃないでしょうか。
 実体のないものを一瞬だけでもあるかもしれないと思わせるに留めるのがホラーの美徳と考えるなら、それを暴くのがSFの仕事。着地点はかなり違うんじゃないかなあ。
 例えばパルプ的娯楽量産SFにあったような、開拓者精神みたいなものでもって征服、克服してしまうところまで行ってしまえばSFとか。でもこれは敗北を受け入れない、恐怖の種である未開や不安の種を取り除く行為というかある種のアメリカSFの象徴みたいなものが、そういう偏った翻訳ものばかり読んできた自分に根付いている結果の考えなのかもしれません。
 だから早川さんの汎用性というのは、人間であることの汎用性であって、必ずしもSF的理詰めでネタの全てをSFに結び付けようとしているわけではないということなのかな。これは私の多く読んできたアメリカSF的なるものに対して私自身の感性だけでは埋められないものがあるという結果なのかもしれませんが。
 逆にホラー好きの帆掛さんがなんでも強引に自分のカラーに染めてしまう行住坐臥全てホラーというあたり、私自身が日常的に身を置く場所ということでキャラ作りしやすかったのかもしれません。あ、こんなこと今初めて分析しました(笑)。
 まあ戯画化やキャラを絡ませ動かしやすくするという時点で、かなり恣意的に捻じ曲げていますし、今後まだ描き続けていくうえですり合わせる部分も出てくるのでしょうけれども。
雀部 >  あ、小松左京先生がおっしゃっているようにSFも「何でもあり」が身上です。だから帆掛さんのキャラはよく分かります(笑)
 ちと考えたのですが、時代小説と同じくSFは舞台装置による、ユーモア小説と同じくホラーは人間の気持ちによるジャンル分けかも知れないですね。
coco >  そういう考え方もありでしょうね。一方は理性や理論、あるいは外部装置によるもの。もう一方は本能や内部器官、それこそはらわたで読むものとか。
雀部 >  cocoさんの書かれている「異形の群れ」は、ホラーの挿絵付ショートショートとして面白い試みですね。『今日の早川さん』に引き続き書籍化の話はないのでしょうか。
coco >  4コママンガばかり描いていると他のこともしたくなったりしますので、そういうときに思いつきで描いてみたのが、最近の「異形の群れ」でやったショートショートですね。
 ただ、本当は大きな一枚絵、あるいは大まかなコマ割りイラストの中に、テキストも押し込めたものにしようと思ったんです。アメコミとか絵本みたいな感じで。でもblogという媒体の性質上どうしても時間に追われてしまうので、そこで妥協したのがあの形です。 
いつかはそういう形で描き直したいと思っているのですが、それも時間次第でしょうか。
雀部 >  なるほど。『今日の早川さん3』共々よろしくお願いします>早川書房さま
CON$ >  『今日の早川さん3』ほか、cocoさんの今後の活躍を楽しみにしています。蜂の本など自然関係もいつかぜひ。
雀部 >  今回はお忙しいところ急なインタビューに応じて頂きありがとうございました。
 最後に、新刊予定とか執筆中の作品がありましたらご紹介下さい。
coco >  二冊の本を出した後、あんな経験も初めてでしたので楽しく夢のようだった反面、反動も結構あったんですよ。だからちょっと一息入れつつ、他のものも何か描いていきたいということで少しペースダウンさせていただいていたんです。
 でもさぼり癖ばかりがついてしまいそうなので、ここらでそろそろまた走り出そうかと、ようやく腰を上げつつあるところです。
 描かなければ何も進まないし、自分自身やっぱり落ち着かないんですよね。ということで、明日から本気出す!と。今後ともどうぞよろしく御願いいたします。
雀部 >  期待して、お待ちしております(笑)


[coco]
『今日の早川さん』でデビュー。その他イラストやマンガのお仕事などをちょこちょこと。田舎住まいで虫と魚好き。冬場以外はカメラ片手にほとんどの時間を藪や川の中で過ごす。
[CON$・(こんどる)]
愛知県出身、東京都在住。ブログ「Radio CON$ MINI」に極私的な記録、写真など更新。秋の地方SFコンにはほとんど参加の予定。ワールドコンNippon2007企画スタッフを経て、春に行われるSFコンベンション「はるこん」実行委員。
[雀部]
cocoさんのプログ「coco's bloblog」
SF者にお薦めは、“『夏への扉』新訳版に出てきた「おそうじガール」(かつては文化女中器かな)のロゴ”のイラスト!
左のカテゴリーの中のラクガキにあります。


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