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Author Interview

インタビュアー:[雀部]

暗黒の城
『暗黒の城』
> 有村とおる著/藤田新策装画・装填
> ISBN-13: 978-4-7584-1044-1
> 角川春樹事務所
> 1800円
> 2004.12.18発行

第五回小松左京賞受賞作品

粗筋:
 中堅ゲームメーカー「リアリティ」に勤務する早川優作の仕事は、ゲームを行いその体験をフィードバックする被験者だった。現在開発中のバーチャルリアリティゲーム「ダークキャッスル3」の第一ステージに登場する大蜘蛛に弟の良人の映像が使われていたため、優作はそこで失敗してしまう。
 このホラーゲーム「ダークキャッスル3」開発中に、関係者が相次いで変死する事件が起きる。プロジェクトリーダーの小山高志はフェラーリを270km/hで走行中に激突死、もう一人の上野波雄は、密輸した拳銃を「リアリティ」社内に持ち込み、自らの後頭部を吹き飛ばすという凄惨な死を選んでいた。
 さらに優作は、同僚で恋人の佐藤美咲までもが死を恐れないような行為をとるのを見て愕然とした。
 大学時代の女友達で今は雑誌記者の鷹石茜が、「ダークキャッスル3」の取材にやってきたのを契機に、事件の真相を追いはじめた二人。
それは、現在は消されてしまった「死の恐怖を取り除く」外科手術に関する論文と、それを手伝ったと見られる日本から留学生の行方だった。
 彼はどうやら、8年前に集団自殺を遂げたカルト集団と関連してるようなのだ。


雀部> 今月は、第五回小松左京賞受賞受賞作『暗黒の城』の作者有村とおる先生をお迎えしての著者インタビューです。有村先生よろしくお願いします。
有村> こちらこそよろしくお願いいたします。
 私のような駆け出しの小説家にインタビューの機会を与えてくださったことを感謝いたします。
雀部> いえいえ、人生の大先輩でもあられますし。
 この『暗黒の城』は、ゲームが主要テーマの一つなのですが、有村先生のお年でゲームにお詳しいというのは珍しいと思います。実際にかなりゲームはされるのでしょうか。
有村> 息子が中学生のころからゲームに夢中でして、私はむしろ批判的な立場なんです(笑)。
 ホラーゲームに反感を持っていまして、小学生がホラーゲームにはまったときの心に及ぼす影響を憂いていました。
 ホラーゲームの悪口を書いてやろうというのが、あの小説の第一の発想ですね(笑)。
 もともとコンピュータのSEですから、ソフト開発の苦労とかゲームの場面を想像するのは自然にできました。
 ソフトの開発者として、ゲームクリエイターに親近感を持っています。
 でも、ネトゲ廃人なんかが騒がれているのを見ると、ゲームにタイマーをつけて、2時間ゲームしたら5時間強制的に休みにするなどの工夫が必要なように思えます。
 ゲームのおもしろさはわかるのですが、リアルとは比較になりませんから。
雀部> うちの息子もゲーマーですのでそのお悩みはよく分かったりします(笑)
 まあ、ゲームを始めるのは、思春期を過ぎてからでも良いのではとも思います。
 私もゲームには全然詳しくないのですが、ゲームのキャラに、自分の知り合いが登場するというのは怖いですねぇ。これは、有村先生が、そうなることを憂えてらっしゃるのでしょうか?
有村> 私も情緒が未発達のうちにゲームやPCを与えるのはよくないと思っています。論理的な思考力は思春期を過ぎてからいつでも身につきます。
 小学生や中学生のうちはPCゲームよりも小説やマンガにどっぷりと漬かるべきであると考えています。
 ゲームとPCは想像力を限定してしまうところがある。小中学生のころはできるだけ想像力の翼を広げて、可能性を追求するときだと思うのですが。
 息子にPCを与えたのは大学生になってからでしたが、ゲームは中学生で始めてしまい、早すぎたと悔やんでいます(笑)。
 ゲームのキャラが実感に近いと現実と混乱してしまう層がある程度存在します。それを恐れていますね。
雀部> 確かに、人間が言葉で考える生物である以上、本を読んで国語力をつけないと先が思いやられますね。
 「小松左京マガジン」第17巻の小松左京先生のインタビュー記事で、受賞当時59歳であられたと聞いて、大変心強く感じました。まだ私にもチャンスがある(笑)
 還暦を迎えられて、今までと違った感じがおありでしょうか。
有村> 年は考えません(笑)。今、ネットで遊んでいるのですが(2ちゃんねる)、頭は冴えています。
 ネットは年を召した方にもいい刺激になると思います。特に悪口の書き込みなどは(笑)。
雀部> 2チャンネルで遊ばれてるとは(驚)
 ああいう巨大匿名掲示板についてはどうお考えなのでしょうか。
有村> 情報とか傾向を見るのに役立ちますね。不特定多数に発言させて不満の捌け口になっていることもあるでしょう。
 でもね、今は特定の目的を持ってひとつの主張に誘導しようとする動きがあります。
 今評判の悪いネトウヨと呼ばれている人たちは、もうはっきりふたつに分けられます。
 ひとつは、ニート・引きこもりなど影響を受ける弱者ですね。もうひとつは、自民党や公明党が雇った意図的な書き込みをする部隊です。嘘を平気で書く(笑)。
 しかも指導者の指示のもとに特定のスレッドに集中して書き込むため、意見が右翼一色に見えるんです。
 あるスレッドで8時間に2600の書き込みがあったのを、私が雇われ書き込み部隊の仕業と指摘したとたん、書き込み数が12時間に100も行かなくなった実例があります。
 2ちゃんねるの管理人が言っているんですが「嘘を嘘と見抜けない人には危険」と言えるでしょうね。
 私も特定の目的(不正な課税問題の追及)を持って書き込んだんですが(笑)、政党の雇う物量には辟易としたことが多い。つまらないことしか書き込まないんですけどね。
雀部> 異星人賛美の書き込みが多発したら、異星人が地球に来ている可能性大ですね(笑)
 では、2ちゃんねるで得られた情報が、創作に活かされているということはあるのでしょうか。
有村> 2ちゃんねるでのやり取りを、今書きかけの小説の重要な部分として組み込もうかと思っています(笑)。
 私の知り合いが税金をめぐる行政訴訟を起こして国と戦っているんですが、安全を図るため一部始終を2ちゃんねるに書き込んでいるんです。
 その顛末を小説に書こうかなと思っています。
 後、ネットで検索する情報は小説の中で不可欠です。暗黒の城に書いた中でS&Wの拳銃の型式など、ネットが無ければ調べられませんでした。
雀部> ネットの利用法がプロですねえ(感嘆)
 有村先生は、早稲田の法科を出て、ユニバックでSEをされていたそうですが、当時は黎明期ですよねぇ。ユニバック(UNIVersal Automatic Computer)も世界初の商用コンピューターの名前ですし。
 黎明期ならではのご体験とかはありますでしょうか?
有村> 入力がパンチカードだったことくらいかな(笑)。ソフトの開発で徹夜をするのは常識でしたし、アセンブラーという機械語でプログラミングをしました。
 開発が主な仕事で、向いていたのか楽しかったですね。
雀部> パンチカード、昔の映画の中でしか見たことないです。
 航空会社向けのメッセージスイッチングを開発されていたそうですが、これは今も使われている飛行機と空港のメッセージのやり取りをするシステムのことでしょうか。
 「関空はテロリストに占拠されたから、伊丹空港に降りろ」とか(笑)
有村> この開発は大変だったですね。開発の終わったときは、力を出し尽くした気がしました。
 今まで長い年月を生きてきて、力を出し尽くした感覚に襲われたのは、この開発の終わったときと「暗黒の城」を書き上げたときです(笑)。
雀部> ということは『暗黒の城』を書かれて相当疲れたと(笑)
 最初に意識してSFを読まれたのは何歳ぐらいでしょうか。
有村> 小学生のころから本を手当たり次第に読んでいました。
 SFの可能性に目覚めたのは、高校生の時レムの『ソラリスの陽のもとに』を読んでからです。
 『ソラリス』の持つ「人間は記憶も心も自分の自由にできない存在」という深い考察に惹かれて、哲学的な内容を表現するのに最適な形式だと思ったのです。
 大学生のころは、マンガとSFと哲学書が常に近くにありました(笑)。
雀部> SF=Speculative Fiction ですね。難しいテーマを、エンターテイメントを通じて分かりやすく読者に伝えることができるのもSFの資質の一つです(笑)
 白土先生の『カムイ伝』がお好きだったそうですが、『忍者武芸帳』はどうでしょう。
 白土先生のマンガは、何げに科学的――厳密に考えるとアウトなんですが(笑)――な説明がついていて、他の忍者マンガとはひと味違っていました。
有村> 『カムイ伝』から読み出したもので『忍者武芸帳』は、後から読みました。
 『カムイ伝』と比較すると絵がまだ下手ですね(笑)。
 科学的な(笑)説明は、まあおもしろかったんですけど、階級闘争史観には影響されませんでした。
雀部> 私が読んだのは中学生の頃なので、そういう難しいところでは読み取ってなかったです(汗;)
 どういう傾向のSFがお好きだったのでしょうか?
有村> レムとかディック、アーサー・C・クラーク、小松左京先生、筒井康隆先生、豊田有恒先生のものを好んで読んだいたように記憶しています。
雀部> レムの『ソラリス』は確かに哲学的だと思いますが、ディックやクラーク御大の作品では、お好みは何だったのでしょうか。
有村> ディックは短編の発想、クラークは物語のテーマに感動がありました。『海洋牧場』には感激した記憶があります。あと、『幼年期の終わり』もよかった。
雀部> 『幼年期の終わり』も哲学的ですね。
 早稲田大学のご出身だそうですが、大学時代にSFファンと知り合いになられたことはなかったのでしょうか。
有村> それはありませんね。学生のころはむしろ分析哲学とか、非常に論理の細部にかかわる本が好きでした。
雀部> というと、A・E・ヴァン・ヴォークトの《非A》シリーズなどは?
 私もそうですが、あの本を読んで「一般意味論」の専門書を読んだという知り合いがいっぱいいます(笑)
有村> SFはあくまで娯楽を求めるわけでして(笑)、《非A》シリーズなんて難しい物語は読んだことがないんですよ(笑)。
雀部> ありゃま(笑) ま、そんなことはないと思いますが。
 脳のモジュールに関しては、ミズンの『心の先史時代』とか、マイケル・ガザニガの『脳のなかの倫理』なんかで知られるようになったと思いますが、それをゲームと結びつけたのはアイデアですね。
 ロバート・J・ソウヤー氏は《ネアンデルタール・パララックス》シリーズで、人間には「神」を知覚するモジュール――そこを刺激すると神が見える――があるとしてますが、総ての人間を愛するようになる脳の部位はあるとお考えでしょうか。
 また、そういう方向のSFは小説としてどうなのでしょう。
有村> あの物語で言いたかったことはたったひとつ、物語の途中で美咲が虹について語る部分があります。 
 あれは「価値と事実」の論理の二重性というか、他方が一方を否定するのものでない「論理事実」を語ったわけです。
 そのほかの99%の部分は、脳についてであれ死の恐怖についてであれ、エンターテイメントです。
 人間の存在の価値が「事実として」存在するか、それを知ることができるかというのが私の永遠のテーマでして(笑)、その一部をあの物語で書きたかったわけです。
 神を見ることのできる脳の部位の話は大変おもしろい。それが神の存在(人間の創造主として存在に価値を与える存在)を証明するものでも、否定するものでもないことはお分かりでしょう?
 愛を感じる部分は脳の中にあると思います。今、文鳥を飼っていまして(笑)、文鳥をみると「愛情」が生物に共通のものであるとわかります。
 人間と恐竜から進化した鳥に共通の愛情があるのは、脳の中に共通の部分があるからだと思います。大変に深いSFになるうるテーマだと思います。
雀部> 「虹がノアの洪水を二度と起こさないという契約の証に神が空に置いたという説明と、虹が大気中の水滴のプリズム効果で分光されて出来たものであるという説明は矛盾しない」と書かれてましたね。
 合目的性と合理性の間には断絶があると思っていましたが、『暗黒の城』によってそれは断絶ではなくて並立するものであることが分かりました。
有村> 並立するものというか、すべての被造物についてそのふたつの見方が必要だと思います。椅子を分解して調べればその構造がわかる。
 でも、椅子は座るために作られたというのは、分析してもわかりませんね。作った人間に聞いてみないとわからない。
 岡本太郎の「坐ることを拒む椅子」は、作った人に聞かないと目的のわからない代表みたいですが(笑)。
雀部> なるほど。「坐ることを拒む椅子」は確かに座りたくない(笑)
 ゲーデルの「不完全性定理」じゃないですけど、個人的には「人間の存在の価値が『事実として』存在するかどうか」というのは、人間には証明出来ないだろうし、出来なくても良いような気がしているんですけど(笑)
有村> 人間に人間の存在の目的が証明できないのは真実です。でももしかすると創った存在と対話できるかもしれないじゃないですか。
 証明できなくとも存在の目的を知ろうとするのが人間なんで(笑)。
雀部> 私も、人間を創った存在が居るならぜひ話してみたいもんです。
 文鳥が人間と同じように愛を感じるとしたら、たぶん爬虫類脳(中脳)の働きだと思いますね。そこもある種のゲームでフレームシフトを起こすとしたら一大事ですね(笑)
有村> 爬虫類どころかミツバチが人に懐くといいますし、脳の基本的な構造部分に、感情のもっとも下のレベルに、愛が組み込まれているような気がしますね。
雀部> 生存本能と同じくらい古いところかも知れませんね。
 『暗黒の城』の99%の部分は良くできたエンターテイメントであるというのは、これからどういう展開をするんだろうというワクワク感とともに、まさにその通りに感じました。
 最初は、謎解きの面白さで読者を引っ張っていくタイプの小説かなと思いながら読んでいたのですが、首藤が表舞台に登場したあたりからアクションも入ってきたりして。
 あのゲームボートでのシーンも計算して入れられたのでしょうか。
有村> ゲームボートのアイディアは途中で発想が拡大したものです。最初は新宿のビルが火災になるはずでした(笑)。
 優作君を痛めつけるのは、最初から想定していたことです。ディック・フランシスのファンですから(笑)。
雀部> あらま。優作君、可哀想(笑)
 「小松左京マガジン」の17巻に、インタビュー記事とともに「クリスタル・ボール」という短篇が載っているんですが、脳の各部位がどういう刺激に対応しているかは、最近かなり分かってきたようですね。
 この短篇では、人間の細かい反応まで総てが脳の細胞と一対一の対応をしているので、ある人間がどういう行動をするかは、総てDNA次第であるというアイデアが語られていますが、これは『暗黒の城』のアイデアに共通してますね。
有村> これは、リアリティを増すための部分で、「事実」について語ったものですね。
 人間のあらゆる心理と行動が対応する脳の現象であるという「恐れ」は、ドストエフスキーの「地下室の手記」で述べられています。
 生命現象がすべてDNAに記述されている事実は、その通りでしょう。
 人間のおもしろいところは、「自分がDNAに記述されたとおりの存在」である事実に反抗できることです。
 あの物語で首藤光希が「死すべき存在である人間に死の恐怖が組み込まれている」事実を罵りますね。
 これは、言いがかりもいいとこですが、でも存在そのものに異議をとなえる存在という人間の特性を表したものです。
 その意味で、首藤が美咲と並んで主人公なのです。
雀部> あ、それは分かります。『暗黒の城』の主要テーマを体現化したのが、首藤なんですね。
 ということは、ドーキンスの『利己的な遺伝子』については、ドーキンスの言う通りだが人間は遺伝子に反抗できる存在であるということですね。
有村> そうなんですが、少し違います(笑)。
 美咲と首藤に共通な点は「自分は被造物である」という意識なんですね。
 美咲は、被造物であるから目的があるにちがいないと考えます。
 首藤は被造物であることに抗議します。自分の存在に対して抗議しても仕方ないと思うんですけど(笑)。
雀部> 自分の存在に対して抗議するのが人間であると。
 「クリスタル・ボール」は長編の一部を短篇化したものだそうですが、長編版はもう書かれていらっしゃるのですか。
有村> えへへ(笑)。角川春樹事務所で却下されまして、その長編は書いていません。
雀部> それは残念ですね。長編のネタとしては難しいのかなぁ。
 では、他に執筆中の作品、または近刊予定などございましたらお教え下さい。
有村> 今は行政訴訟の問題と文鳥のかわいさを絡めたノンフィクション・ノーベル(こんな言い方があったかな?)を書いています。
 全く関係ないテーマをなぜ絡めるのかと訊かれても困るんですが(笑)。
雀部> さきほどの2チャンネルに書き込んでいるというお話ですね。期待してます。
 まったく関係ないテーマを絡めるのは、SFの常套手段だと思います。確か、フレドリック・ブラウンがショートショートの書き方で解説してました。
 本筋からは離れるんですけど、主人公の一人である佐藤美咲嬢は、「黒目の大きな眼と形良く引き締まった唇、鼻筋のとおった小ぶりの顔を持っている」との描写から、女優の伊東美咲さんを連想しました。
 ひょっとして、有村先生もファンであられるとかは?
有村> 当時はファンでした(笑)。
 おっしゃるとおり佐藤美咲は外見的に伊東美咲さんをモデルにしています。
 「みさき」の名を「美咲」という漢字で表すのが新鮮で、あの名前を選びました。
 あの物語は、佐藤美咲と首藤光希が主人公で、最初は「ザ・ゲームクリエイター」という題でした。
 ゲームクリエイターとは佐藤美咲のことですね。主人公が途中で死んでしまったらどうなる、という意地悪な気持ちでプロットを作りました(笑)。
雀部> ありゃ。優作君は典型的な巻き込まれ型の主人公だと思って読んでいたのですが、主人公が佐藤美咲と首藤光希だったとは(汗)
 でも優作君は、とても普通の人間で感情移入しやすかったし、美咲嬢に対する憧れも激しく同意しながら読んだのですが、これは狙いどおりなんでしょうか?(笑)
有村> 優作君と茜さんは進行係です(笑)。美咲はいい女であり過ぎますね(笑)。
雀部> ヒロインはとびっきりのいい女じゃないと(笑)
 首藤光希も悪人なりの哲学を持っている個性的な存在ですから「敵役が魅力的でないと小説はつまらない」という要件にも当てはまっているし。
 RPGなんかでは、囚われの姫様を勇者が助けに行くというのが定番だと思うのですが、それに対するアンチテーゼの意味もあるのでしょうか?
有村> 女主人公を途中で死なせたことを非難する方が多いですね(笑)。
 あの物語は、DNAで記述されたとおりに生きるしかない人間にDNAを超えた部分(存在の目的と価値)があるか、という観点から読まれると、また違った地平が開けるのではないでしょうか。
雀部> 美人で頭が良くて頼りになるお姉様キャラは、SFファンの最も愛するところですから、それは当然非難されるでしょう。こういう魅力的な女性が登場するコアなSFがいかに少ないかと言うことの裏返しですから(笑)
 また美咲嬢のようなキャラが登場するSFをぜひ書いて下さい。
有村> 次に書くとしたら、多分少年少女物語になるような気がします。男女の絡みは苦手なもので(笑)。ニュータイプと違った形で、人間が進化した姿を書きたいですね。
雀部> ぜひ男女の絡みもお願いします。コアSFには少ないので(笑)
 つい先日、小松左京賞が一時休止という発表がありました。しかも今年の受賞者は無しということで、一抹の寂しさは隠せません。そういえば、先月著者インタビューさせて頂いた平谷先生は、小松左京賞の第一回受賞者でした。
有村> 小松左京賞がなくなってとてもさびしい思いです。小松左京賞は私のようなロートルを拾ってくれる得難い賞でしたのに。
雀部> それを言うなら、歳を取られていても発想がお若いから若い人に負けないんでしょう。
 最後に一つ質問が。有村先生は「人間原理」についてはどうお考えでしょうか。
有村> 「人間原理」はよくわからないけど、有機物が偶然にシャッフルされて人間になったとは考え難いです。
 進化の中には知性化を目指す意志が感じられるし、今のところ人間がその頂点に立っていますが、だからといって人間が存在しなければ宇宙は存在しないと考えるほど傲慢ではありません。
 ひとつの意志に導かれて、宇宙が誕生し人間が誕生したと考えることがあります。
 でも地球外にも生物は存在すると思うし、その生物もDNAの解読によって成長し、知性を持てば地球人と意志の疎通を図れるような存在ではないかと考えています。
 つまり地球と同様な環境下で同様な生物が存在するのではないかと。重力が地球の2倍くらいあって、腕力ではかなわないというケースはあるでしょうが(笑)。
雀部> 反対に腕力は勝っているけど、知力では全く歯が立たないケースとか(爆)
 今回はお忙しい中インタビューに応じて頂きありがとうございました。有村先生、引き続き面白いSFをファンに提供して下さいませ。
有村> こちらこそこのような機会をいただいて感謝しています。「暗黒の城」について作者の意図を告げられて、とてもうれしいです。
雀部> そう言って頂けると嬉しいのですが、なんか要らんことをしている気もしてます(爆)


[有村とおる]
1945年、千葉県富津市に生まれる。早稲田大学法学部卒業後、IT関連業種勤務、自営業を経て、2004年、本作品で第5回小松左京賞を受賞。現在、浦安市在住
[雀部]
1951年生。有村先生が1945年生、伊藤致雄先生が1942年生まれと、同年代の方が活躍されているとなんとも嬉しいのは、私だけでしょうか?(笑)


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