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Author Interview

インタビュアー:[雀部]

『本当は怖い宇宙』
>福江純監修
>ISBN-13: 978-4781603865
>イーストプレス
>476円
>2010.6.10発行
1章:宇宙の誕生と星の秘密
2章:地球を狙う天体の脅威
3章:宇宙を支配する暗黒の謎
4章:宇宙と時間の不思議
5章:人間vs宇宙の運命

『空想ライトノベル読本』
>福江純著/緒方剛志カバーイラスト
>ISBN-13: 978-4840135733
>メディアファクトリー
>524円
>2010.11.30発行
 人気ライトノベル作品に出てくる設定を、科学の目線で徹底解説。《涼宮ハルヒ》シリーズでは、なぜタイムパラドックスが生じないのか? 『バカとテストと召喚獣』の召喚獣は、宇宙エネルギーを利用している? 『とある魔術の禁書目録』の超電磁砲はいったいどんな仕組みなのか? 『灼眼のシャナ』の異世界は普通の人にどうして見えないのか?などなど、科学と空想の接点に迫る『SFアニメを科楽する!』姉妹編。

『レヴィアタンの恋人』
>犬村小六著/赤星健次イラスト
>ISBN-13: 978-4094510140
>ガガガ文庫
>590円
>2007.6.24発行
 半世紀前の世界的ウイルス汚染により、人類の99パーセントが死滅した2077年の日本。コロニーと化した調布新町を守る「特進種」のひとり、久坂ユーキは二子玉川の鉄橋の上で異能の少年と闘い勝利した。少年も凄まじい回復力を持つ「特進種」の一人だった。その少年タマを配下としたユーキは、物資採集のキャラバンに同行する。一方、姫路コロニーより遠征してきた鳥辺野ミゲル率いる鳥辺野大隊は、「特進種」のリーダー澁澤美歌子の命により、ユーキを探していた。犬村小六オリジナルデビュー作。

『レヴィアタンの恋人 2』
>犬村小六著/赤星健次イラスト
>ISBN-13: 978-4094510409
>ガガガ文庫
>600円
>2007.11.21発行
 ユーキら特進種の活躍により、調布新町が壊滅を免れてから3か月半。平穏なときを取り戻し、近隣の共同体からの物見客も迎えた「星夕祭」でにぎわいをみせる人々。そしてその陰に隠れ、突如現れた鬼道衆たち。厭力を用いて幻戯を行う彼らの狙いは、ユーキの捕縛だった。調布新町町長の高比良啓十は、隅田川沿いに広がる大規模共同体白河コロニーの企てと見当をつけ、八王子を始めとする共同体に援軍を求める。それぞれの想いを孕み、戦端は新宿で開かれようとしていた…。幻想と退廃の戦記、新章「白河編」開幕。

『レヴィアタンの恋人 3』
>犬村小六著/赤星健次イラスト
>ISBN-13: 978-4094510461
>ガガガ文庫
>571円
>2008.1.23発行
 調布新町町長高比良啓十の指揮のもと「武蔵野共同戦線」800余名は、新宿御苑に陣を構えた「白河軍」1700余名に相対するため、新宿を目指していた。数に劣り苦戦必至の武蔵野勢が野戦を挑むのは、保有する特進種久坂ユーキに絶対の自信を持つがゆえだった。しかし武蔵野勢は、白河軍の戦術により新宿南口で戦力を分断させられてしまう。第二列で血まみれ執事雨宮と共に戦う沙也加を横目に、調布の負けを確信するタマ。そのころ第一列では、ユーキたちが孤独な戦いを強いられていた。そのとき、純白の兵装の男が動く。「白河編」決着。

『レヴィアタンの恋人 4』
>犬村小六著/赤星健次イラスト
>ISBN-13: 978-4094510935
>ガガガ文庫
>590円
>2008.9.23発行
 初秋の朝靄の中、ユーキの手紙を携えた岩佐木が調布新町を発った頃。澁澤美歌子率いる姫路軍4000は、門司に布陣した日向軍14000に相対していた。 20歳にして日向コロニーの市長職を継いだ岩切雨俊は、4年で九州統一を果たした万能型の特級特進種。日向軍は、圧倒的な戦力差と戦目付の鉄斎庵一舟の策を背景に、古城山門司要塞を陥落させ勢いに乗る。対する姫路軍の指揮を執るのは「万里眼」と称される最高司令官、白谷三座。そして、精鋭白狼兵団のなかにはユーキの幼なじみタケルとシュンがいた。幻想と退廃の戦記、舞台は関門海峡へ

『とある飛空士への追憶』
>犬村小六著/森沢晴行イラスト
>ISBN-13: 978-4094510522
>ガガガ文庫
>629円
>2008.2.24発行
 「美姫を守って単機敵中翔破、1万2千キロ。やれるかね?」レヴァーム皇国の傭兵飛空士シャルルは、そのあまりに荒唐無稽な指令に我が耳を疑う。次期皇妃ファナは「光芒五里に及ぶ」美しさの少女。そのファナと自分のごとき流れ者が、ふたりきりで海上翔破の旅に出るのか。圧倒的攻撃力の敵国戦闘機群がシャルルとファナのちいさな複座式水上偵察機サンタ・クルスに襲いかかる!蒼天に積乱雲がたちのぼる夏の洋上にきらめいた、恋と空戦の物語。

『とある飛空士への恋歌』
>犬村小六著/森沢晴行イラスト
>ISBN-13: 978-4094511215
>ガガガ文庫
>590円
>2009.2.23発行
 「これはきれいに飾り立てられた追放劇だ」数万人もの市民に見送られ、盛大な出帆式典により旅立ちの時をむかえた空飛ぶ島、イスラ。空の果てを見つけるため―その華やかな目的とは裏腹に、これは故郷に戻れる保証のないあてのない旅なのだ。式典を横目に飛空機エル・アルコンを操縦するカルエルは、6年前の「風の革命」によりすべてを失った元皇子。彼の目線は、イスラ管区長となった「風の革命」の旗印、ニナ・ヴィエントに憎しみを持ってむけられていた…。『とある飛空士への追憶』の世界を舞台に、恋と空戦の物語再び始まる。

『とある飛空士への恋歌 2』
>犬村小六著/森沢晴行イラスト
>ISBN-13: 978-4094511499
>ガガガ文庫
>571円
>2009.7.22発行
 なんて自由なんだろう。クレアの胸は喜びに満ちあふれていた。青空の下、ひとりで自転車をこぎ、カドケス高等学校飛空科の入学式へ向かう。たったそれだけのことがたまらなくうれしい。そして今日は「彼」に逢える…。空の果てを目指し旅立った空飛ぶ島イスラで、カルエルたちの新生活がはじまった。各国から選抜された個性的なクラスメイトたちと、彼らとの和気藹々な寮生活。そして飛空訓練。意を決し、クレアにペアを申し出たカルエルだったが―。希望と不安の狭間でゆれるふたつの鼓動。回り出す運命の歯車。

『とある飛空士への恋歌 3』
>犬村小六著/森沢晴行イラスト
>ISBN-13: 978-4094511772
>ガガガ文庫
>629円
>2009.12.18発行
 8月の強烈な日射しのもと、過酷な陸戦訓練を続けるカルエルたち。戦闘への不安と焦燥が募る中、それは若き飛空士たちの間に恋愛をも育んでゆく。そして、イスラはついに噴き上がる海「聖泉」へ到達する。これより先は「空の一族」が支配するといわれる未知の空域。カルエルたちは、イスラ後方への索敵飛行を余儀なくされるが―。「いつまでもみんなと一緒に空を飛びたい」ただそれだけを願った少年少女たちが飛ぶ空は、美しいだけでなく残酷で…。王道スカイ・オペラ「飛空士」シリーズ、驚愕と慟哭の展開を見せる。

『とある飛空士への恋歌 4』
>犬村小六著/森沢晴行イラスト
>ISBN-13: 978-4094512267
>ガガガ文庫
>667円
>2010.8.23発行
 「大好きだから…さよなら」級友の死に苛まれていたカルエルとクレアは、想い出の湖畔で思いがけず再会する。お互いの気持ちを確かめるため、正体を明かしたカルエルだったが、クレアには別れを告げられてしまう…。一方「空の一族」との戦いで多くの仲間を失い、疲弊した飛空科生徒たちは、悩みと苦しみを抱えたまま、再び決戦の空へ向かうこととなる。仲間の思いを受け継ぎ、潰滅の危機に瀕している大好きなイスラを、大切なひとを守るために…。超弩級スカイ・オペラ「飛空士」シリーズ、驚天動地のクライマックスに突入

『とある飛空士への恋歌 5』
>犬村小六著/森沢晴行イラスト
>ISBN-13: 978-4094512489
>ガガガ文庫
>629円
>2011.1.23発行
 イスラとの休戦交渉の座に就いた空の一族の要求は、風呼びの少女ニナ・ヴィエントの身柄だった。イグナシオの取りなしにより機会を得たカルエルは、出立の日、想いの丈を彼女にぶつける。「このまま逃げよう、クレア。ふたりで。空の果てまで―」かつての力を取り戻し、愛すべき人を救った風呼びの少女。革命によりすべてを失い、追放劇の果てにかけがえのない生を得た元皇子。ふたりの選ぶ道、未来は…。そしてイスラは「空の果て」にたどり着く。すべての謎が解き明かされる。感動のフィナーレ

 (『とある飛空士への恋歌5』が出版された日をはさんでメールインタビューさせていただきましたので、インタビュー途中までは『恋歌5』は読んでない状態です。)
雀部> 「ビッグコミック」(2011/2.10号)の《ゴルゴ13》シリーズ「異次元実験の危機 前編」で、Z粒子とか重力のエネルギーの多くが異次元に逃げていることを確かめることのできる「セルンの加速器」が舞台となってました。ゴルゴ13、侮れません(笑)。
 「日経サイエンス」'11/2月号でも、“暗黒物質で出来た宇宙?”と大きく表紙に書いてあったので、思わず買ってしまいました。
 これにもZ粒子が出てきますね。暗黒物質は、重力を介してなんとかその存在を確認できるようなのですが、73%を占めるという暗黒エネルギーの確認の方法はあるのでしょうか?
福江> いえ、それが、暗黒物質もかなり正体が不明ですが、暗黒エネルギーにいたっては、皆目わかんないですね。
 時空に密接に結びついた何かであることはたしかなようですが。
 もっとも、いまの宇宙では、見た目には、時空と物質と光は別物に見えますけど、たぶんもともとは同じものだったんでしょう。
雀部> それは理解しているつもりにはなっているんですけど、なかなか納得するのは難しい(笑)。>時空と物質と光は、相互変換可能
 『本当は怖い宇宙』の3章に“ダークマターは、宇宙の年齢である137億年よりも前から存在していること(寿命が長い)”とありますが、これはどういう意味なのでしょうか?
福江> あらららら、これはまずいかな。
 原稿はかなりチェックしたつもりでしたけど。
 宇宙の年齢である137億年よりも寿命が長いだろうというのはいいですけど、宇宙の誕生より前から存在していたことはないでしょう。この一行は見なかったふりをしてください(笑)。
雀部> 了解です(笑)。
 『空想ライトノベル読本』なのですが、掲載作を選ばれた基準とかはございましたでしょうか。
福江> 明確な基準というのはないですが、一つはぼくが読んで面白かった作品です。
 一方、ぼくもラノベのほんの一部しか読んでいないし、編集の方が膨大なリストを用意してくださって、話題になった作品や賞を取った作品なんかをピックアップしました。
 その結果、メジャーな作品はある程度入ったと思うし、逆に一般的にはそれほどメジャーでないのに?というのがあれば、ぼくが出したものですね、それは(笑)。
 もちろん『とある飛空士への追憶』のように、両方で入っているものもあります。
雀部> さて先月に引き続き、福江先生の『空想ライトノベル読本』に登場する作家の方お二人目は、『とある飛空士への追憶』の著者である犬村小六先生です。犬村先生、よろしくお願いします。
犬村> よろしくおねがいします。
雀部> 犬村先生は、珍しいペンネームだと思うのですがなにか由来でもおありでしょうか。
犬村> ペンネームの由来……あまりにも物悲しすぎて、知った人が引いてしまうので、語らないことにしています……。
雀部> えっ、それはますます聞きたいところですが(笑)。
 福江先生の『空想ライトノベル読本』では、『とある飛空士への追憶』は、“宇宙のどこかにこんな惑星があるのではないか?と思わずうなった作品”として紹介されています。私も、これはかなりSFにお詳しいのではないかと思った次第ですが、お好きな作品とか作家がいらっしゃいましたらご紹介下さい。
福江> 作家としては、クラシカルには海外ではクラークやアシモフかな、やはり。
 いまの流れでは、クラークの人工世界「ラーマ」の描写が驚きでしたね。
雀部> 「ラーマ」は外せませんね。ゲームになるくらいだし(笑)。
 犬村先生は、いかがでしょうか。
犬村> わたし自身はハードSF読者としては選ばれなかった人間でして、難解な科学用語がちりばめられる小説はたいがい途中で挫折してしまって最後まで読めていないです。SF作品への憧れはあるので、無理してイーガンとかアシモフとか読んでみようとはするのですけど、途中から内容を追い切れなくなって諦めてしまう……。小説でSF的な設定を使うときは、ほとんどが参考資料から得た知識で書いてます。
 SF作家としては唯一、筒井康隆先生の作品は読むことができます。あとは……ハルヒ。ラノベのSFは読みやすくて面白いものが多く、参考になります。
 影響を受けた作家はつかこうへい、三浦綾子、遠藤周作、吉川英治などなど。一昔前の日本の作家に好きな人が多い気がします。
雀部> そこらあたりは三十数年前の大学時代に読みましたが既に忘れてしまっております(笑)。
 イーガンはともかく、アシモフって難解ですかねぇ。ひょっとして、《ファウンデーション》シリーズでつまずかれましたか。
犬村> 大昔にアシモフの短編集かなにかを読んでみて「うおーよくわからん!」という感想を抱いて近づかなくなった記憶が……。SFへのあこがれはあるのですが、どうも肌に合うものが極端に少ないらしくて。
雀部> アシモフ氏の短編集ですか。それは簡単に特定できると思いますが、分かってもどうなるというものではないので止めときます(笑)。
 ガガガ文庫からは《レヴィアタンの恋人》シリーズも出されてますが、こちらはSFでいうとミュータント・超能力・ホロコーストものですね。ミュータント・超能力というと、私らの世代では《ウルフガイ》〜《サイボーグ009》あたりの洗礼を受けているんですが、犬村先生はどうだったのでしょうか。
犬村> 出身が宮崎県で、民放が2局しかなく、幼少時に見ていた番組が極端に限られてしまいますが、キャシャーンが好きでした。うさんくさい世界観が匂い立ってきて……。009ももちろん見ていました。
雀部> キャシャーンは、大学のころ見てました。ちとマニアックなアニメでしたねえ。福江先生のご著書でも取り上げられてます。
 福江先生は、『とある飛空士への追憶』の設定のどこに唸られたのでしょう。
福江> 『追憶』『恋歌』と読んでも、いまだに舞台設定がわかりません。
 人工世界のようにも思えるけど、それもよくわかりません。
 少しずつ明らかになると思うけど、とても興味津々です。
犬村> 現役の天文学者さまにそうおっしゃっていただけますと恐れ多くて腰が引けてしまうのですが……。
 『飛空士』の世界は天文関係の入門書などを読みながら得た知識を使って、「こんなんあったら面白いなー」くらいの大雑把な気持ちで作った世界設定なので、精緻な科学的考証に耐えうるようなものではないです。1月発売の恋歌5巻で世界のすがたが明かされますが、発売後、おそらくSF読者からは非難囂々になることでしょう。「どういう仕組みでこうなっているの?」と尋ねられても「わからない。しかし存在しているのだから仕方なかろう」という答えしか出せないといいますか……。
 福江さんのHPで飛空士世界の予想がされていますが、たったあれだけの情報提示であそこまで予想されてしまうとぐうの音も出ないといいますか……さすがにいま答えは言えませんが、5巻発売後に「アホかあ!」と怒られないか不安で仕方ないです。ただ、福江さんの予想はかなり近いところへ迫ってきているのは間違いないです。
雀部> 「大瀑布」と「聖泉」は、対称形ですよねえ。世界の裏側から見ると「大瀑布」が「聖泉」に見えるとか……。海水は循環している感じがするので、いくつかの世界が階層になっているんじゃないかなあ。「不動星エティカ」は、その階層間の移動用の穴だったりして、全体的にはリングワールドだとうれしい(笑)。
福江> ぼくは天文でも“理論屋”なので、まさに、「こんなんあったら面白いなー」くらいの大雑把な気持ちで作った世界設定ぐらいの感じで、大風呂敷を広げることがあります。
 だからこそ、むしろ、荒唐無稽に思える世界設定に興味があって、科学的考証でダメ出しをするんじゃなくって(それは簡単ですがぜんぜん面白くないので)、もしかしたら、こうなっていれば説明できるとか、科学が進歩したら、こうできるとか、科学的考証の先を想像するのが楽しいですね。
 そういう意味で、『飛空士』は、ぼく的にはとてもハードSFですね(笑)。
 もちろんストーリーが一番で、『追憶』のコミック版も買ってたりします(笑)。
 5巻は1月発売ですか、それは楽しみです。
犬村> そう言っていただけるとありがたいです。
 SF読者というとぼくのなかでどうしても「なにかとうるさい人」という固定観念があって(笑)、
勝手に身構えてしまったりしていたのですが、最近そうでもないことに気づきはじめました。「追憶」はSF評論家からは無視されましたがSFマガジン読者が選ぶ年間ランキングで7位とかに選ばれて驚いたことがあります。読者にSFとして支持されるのは本当にうれしく思っています。
雀部> SFファンは、確かに作品の整合性にはうるさいですが、作者が書こうとしてないものにケチをつける人は居ないっす(笑)。
 それとロマンチストが多いので、『とある飛空士への追憶』のように凛々しいお話は皆さん大好きですね。
 『とある飛空士への恋歌』の1巻に入っていた「ガ報」の“直撃Q&A”に、“散歩中に次のシーンを考えながら泣くことが出来ます”と書かれていますが、「空戦」シーンを考えているときはどうされているんでしょうか。
犬村> さすがに飛行機を操縦したことはないので、全部資料から得た知識で書いてます。資料はほとんど光人社NF文庫ですね。シーンは散歩したりサイクリングしたり靖国神社にお参りしたりしていると、そのうち自然に目の前に空戦シーンのイメージが見えてくるので、それを文章に書き写す……という感じです。大叔父が海軍航空技術廠少佐だった人で、サイパン沖で散華したのですが、うちの兄によると「大叔父のご加護だ!」とのこと(笑)。祖父も日本陸軍だったため子どもの頃から戦争関係の資料に触れる機会が多かったのが、いま役に立っている感じです。
雀部> はい。空戦シーンは、小説の神様が降りて来られると。それと大叔父様が航空関係だったんですね。
 《レヴィアタンの恋人》シリーズでは、「オリジナル・シン」や「不老不死ウイルス」などの人造ウィルスについて、かなり専門的な用語を並べての解説が出てきて、“ありゃ読者が引かないかなぁ”と思ったりしました(笑)。
 ここらあたりの設定はどういうところから出てきたのでしょうか。
犬村> 初のオリジナル作品だったので気合いを入れて調べすぎてしまいました。致死率98パーセントのウイルスによる世界滅亡はS・キングの『ザ・スタンド』が元ネタです。
 遺伝子改変で異形の生物が生まれて……という設定は、「指輪物語」の世界を日本の廃墟に持ち込むために作りました。あとは日本の軍記ものが好きなので群雄割拠にして……という感じで。ご質問に答えていて気づいたのですが、《レヴィアタン》ってSF要素が濃いですね(笑)。
雀部> SF要素が強い未来軍記物なんでしょうね。
 そういえば、「日経サイエンス」'11/2月号の「パンデミックの予兆をとらえるには」で、豚の「トリプルリアソータント」についての説明が出ていて、おっ《レヴィアタンの恋人》と同じだと思いました。
 しかし、『ザ・スタンド』が元ネタだったとは。ホラーは、お好きなのでしょうか。
犬村> 広く浅くなんでも読むタイプなので、興味がむいたものをちょこちょこと読んでます。ホラーだとS・キング、J・キャロルなどが好きです。キャロルっぽい小説にはあこがれるのですが、まだ腕が追いついていないので挑戦してません(笑)
雀部> 『レヴィアタンの恋人4』は、シリーズの中でもちょっと異色な巻で、恋人たちの痴話喧嘩(笑)。がメインのような感もあるんですが、続刊はまだなのでしょうか。
犬村> ライトノベルを書きはじめて、どんなものが読者に喜ばれるのか、と考えているとああなった、というか……。元々ゲームシナリオライター時代はギャグ担当だったので、くだらないシーンを書くのは苦痛ではないです。続刊は、いつか書きたいと思ってます。
雀部> そうなんですか、ギャグ担当であられたとは(笑)。『レヴィアタンの恋人5』期待しております。
 とインタビューしているうちに、『とある飛空士への恋歌5』が出ましたね。
 う〜む、こんな世界のすがただったのか。
 「感動のフィナーレ」ということは、最終巻なんですね。
 まだ、全然かたがついてない感じなんですけど(笑)。
福江> 2,3日前はまだなかったんですが、昨日、『恋歌』5巻をゲットしました。
 最近はネットでもよく本を買いますが、書店の店先で探すのも好きなんですよね。
 でもすぐに読みたい一方で、美味しいもんは後回しにしたい人間なんで、たぶんしばらくは表紙を飾っておくことになると思います。
 でも、表紙と帯と裏表紙とグラビアだけ観てしまいました(笑)。
犬村> 案の定賛否両論のようですが、クライマックスは四巻の四章で迎えているし、五巻の一章が終わったところで主人公とヒロインのドラマは結末に辿り着いているので、あれ以上つづきを書く意味がないのです。
 どうつづけても四巻の盛り上がりを越えることはないし、ドラマが解決された主人公とヒロインの物語を五巻以降つづけても、もうあのふたりにさらなるドラマは生まれない。新しいキャラクターを出したり新しいドラマを与えたりしても良いのですが、それだと「引き延ばし」になってしまう。クレアを取り戻すための戦いを描いても良かったのでは? という意見も編集からいただきましたが、ヒロインひとりを取り戻すために敵味方の大勢が死ぬ様子を描きたくない……と諸々考えた結果、あの結末になっています。作劇の観点から言って、あのふたりの物語はあそこで終わらなければならないのです。
雀部> そうか、寂しいけどもう終わっているんですね。
 個人的に、あの世界の果ては、ダークマターで出来たエキゾチック物質の壁とそれに開いた超多数のマイクロワームホールに違いないとにらんでいるのですが!
 世界像そのものは、フィリップ・ホセ・ファーマーの《階層世界》シリーズに出てくるポケット宇宙に似たもんじゃなかろうかと推測しています!
 それはそうと、飛行機の動力源が水素電池オンリーな理由はどこかに出てましたっけ?
 ベタな理由としては、ロケットが開発されると「不動星エティカ」まで到達されるのでマズイんじゃないかとか(笑)。
 単にプロペラ機による空戦がお好きだからとか(笑)。
 また、この世界はさほど大きくなく水資源が循環する閉鎖空間なので、環境問題を考慮してクリーンな水素電池が動力源となっている等々です。
犬村> そんな世界があるのですか(笑)。勉強のため、階層世界シリーズ読んでみます。
 動力源が水素電池のみ……という設定は、もともと「プロペラ飛行機で敵中突破一万二千キロ」というモチーフを実現するために作ったものです。プロペラ飛行機で一万二千キロ飛ぶにはどうしても燃料補給の問題があるのですが、できれば基地には立ち寄らず、ずっとふたりきりでいてほしい。ドラマを描くにはその方が都合が良いし劇的になる。ではどうしたら……と考えて「触媒いらずの燃料電池」という設定に辿り着きました。作劇の都合に合わせて設定を作る……という感じです。
雀部> なるほど、そういう大人の事情だったんですね。
 お忙しいところインタビューに応じて頂きありがとうございました。
 最後に、近刊予定と現在執筆中の作品があればお教え下さい。
犬村> 今年、星海社FICTIONSから読み切り長編『サクラコ・アトミカ』が出ます。畸形都市を舞台にした異形のふたりの純愛SFです。いまのところ読んだ人の評判はおおむね良いので、読者さんにも喜んでいただけるのではないかと。執筆中の作品は……ヒミツです!
 おそらく映画『とある飛空士への追憶』の公開時期くらいに発売ではないかと思いますが、まだ未定です。
雀部> えっ、『とある飛空士への追憶』映画化されるんですか。それは楽しみです。対空砲の砲身の上で見守るファナの目前で、シャルル(が操るサンタ・クルス)が舞い踊るラストシーン。埋めようとしても埋められない距離の切なさを描ききってますね。私の中では『イリヤの空、UFOの夏』の中で、遙か上空のイリヤのUFOが、地上の浅羽くんと踊るマイム・マイムのシーンと双璧なんですよ!
 それと、『サクラコ・アトミカ』も楽しみにしております。
福江> 私も新作を楽しみにしています。
 昨日、恋歌5を読みました。感激的でした。
(以下、HP(3月頭、奇数月、更新予定)用に書いた文をつけておきます)

 傑作『とある飛空士への追憶』の後では、とうてい続編は難しいと思っていたが、全5巻で綺麗に完結したのは見事というしかない。まだまだ読みたくなったのはぼくだけじゃないだろう。
 たしかに、一番のクライマックスは『恋歌4』だが、この盛り上がりをどうしたらいいの、という感じだったのを、『恋歌5』では綺麗にまとめあげられている。
 それに大きな盛り上がりはなくても、じーんと来るシーンも多くて、通勤の行きの電車(イグナシオとカルエルの異母兄弟のシーン)と帰りの電車(ミハエルとカルエルの親子のシーン)で涙ぐんでしまい、ドライアイ用の目薬でごまかした(笑)。
 アリエルたち全員の話も落としてあって、そっか、グラビアの「歌えない恋の歌もある」ってそういう意味かと、“恋歌”に込められた2重の意味がわかった。
 海猫の正体もわかって、読者サービスも至れり尽くせり。
 唯一、残念というか、もっと活躍が見たかったキャラが、俊才王子マニウスだったりする(爆)。
物語の流れ上、ちょい役的になっているが、こいつは絶対化けそうな感じ。

 さて、大問題の世界設定だが。
 前半でも読みながら、バレステロス、聖泉、大瀑布、レヴァーム、その先に不動星エティカなどと位置関係を略図にして、平面の階段かなぁ、円筒形か、円盤状か、いろいろ図面を描きながら、読み進んでいたが、p165にあっさりと全体図が出ていた。まぁまぁ、いい推定ができていたかな。

 うーん、ここまで設定が明示されると、物理的な考証がしたくなるなぁ。
・重力場の問題:空の果て近くを除き、鉛直方向の重力場はどこも一定のようだ。円盤状の物質分布ではそのような重力場にはならないのは以前に計算したので、物質の密度分布が一様ではないか、あるいは、別の力場があるか、そこらへんが気になる。
・空の果て(事象の境界面)の問題:これは+周囲のシールドも一緒に考えた方がいいだろうが、イスラを引きつける空の果ては、何か非常に特殊な境界面になっている。次元の境目らしいが、興味深い。
・水の循環機構:エネルギー的には、上記の問題に比べて、水や物質の循環機構はささいなもんだ。
そもそも、空の果ての目的は、水や物質を循環させて、世界の物質をリフレッシュするものみたいだし。
・天動説:ルイスは、不動星エティカ以外の天体が回転している天動説を主張しているが、たぶん事実は、世界の方が自転しているのだと思われる。重力場か力場を操作できているはずだから、世界の自転に伴う遠心力(慣性力)をキャンセルする方が、エネルギー的にははるかに簡単だ。検証してみたいけど、時間がとうてい取れないだろうなぁ。。。
犬村> 読んでくださってありがとうございます!
 実は五十代以上の読者の方からも反響はちらほらとあがってきておりまして、書き手としてはうれしい限りです。
 そして、すばらしい考証!
 すごい! 次作を書く際の参考にさせていただきます、ありがとうございました!


[福江純]
1956年、山口県宇部市生まれ。78年、京都大学理学部卒業。83年、同大学大学院(宇宙物理学専攻)を修了。大阪教育大学助手、助教授を経て、大阪教育大学天文学研究室教授。理学博士。専門は理論宇宙物理学。天文学者としてだけではなく熱心なSF、アニメファンとしても有名で、SFアニメやSF小説のアイデアを天文学の立場から考察した著書も多数ある。
ホームページ(奇数月更新予定)
[犬村小六]
1971年、宮崎県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。ゲームプランナー、ゲームシナリオライターとして活躍後、2004年にゲームソフト『Remember11 -the age of infinity-』のノベライズ作品を刊行し作家デビュー。
2007年、2年以上にわたる空白期間を経て小学館のガガガ文庫より初のオリジナル作品である『レヴィアタンの恋人』シリーズの刊行を開始。2008年には単発作品である『とある飛空士への追憶』を発表。
[雀部]
先月に引き続き、福江先生の『空想ライトノベル読本』の中で紹介されているライトノベルの作者さんにインタビューしようという特別企画です。

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