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Author Interview

インタビュアー:[雀部]&[松崎有理]&[小浜徹也]

『NOVA 書き下ろし日本SFコレクション 5』
> 大森望責任編
> ISBN-13: 978-4309410982
> 河出文庫
> 950円
> 2011.8.20発行
収録作:
「ナイト・ブルーの記録」上田早夕里
「愛は、こぼれるqの音色」図子慧
「凍て蝶」須賀しのぶ
「三階に止まる」石持浅海
「アサムラール バリに死す」友成純一
「スペース金融道」宮内悠介
「火星のプリンセス 続」東浩紀
「密使」伊坂幸太郎

『NOVA 書き下ろし日本SFコレクション 7』
> 大森望責任編
> ISBN-13: 978-4309411361
> 河出文庫
> 950円
> 2012.2.20発行
収録作:
「スペース地獄篇」宮内悠介
「コズミックロマンスカルテットwith E」小川一水
「灼熱のヴィーナス」谷甲州
「土星人襲来」増田俊也
「社内肝試し大会に関するメモ」北野勇作
「植物標本集」藤田雅矢
「開閉式」西崎憲
「ヒツギとイオリ」壁井ユカコ
「リンナチューン」扇智史
「サムライ・ポテト」 片瀬二郎

『拡張幻想』
> 大森望・日下三蔵共編/Nakaba Kowzu装画
> ISBN-13: 978-4488734053
> 創元SF文庫
> 1300円
> 2012.6.29発行
収録作:
「宇宙でいちばん丈夫な糸 ―The Ladies who have amazing skills at 2030.」小川一水
「5400万キロメートル彼方のツグミ」庄司卓
「交信」恩田陸
「巨星」堀晃
「新生」瀬名秀明
「Mighty TOPIO」とり・みき
「神様 2011」川上弘美
「いま集合的無意識を、」神林長平
「美亜羽へ贈る拳銃」伴名練
「黒い方程式」石持浅海
「超動く家にて」宮内悠介
「イン・ザ・ジェリーボール」黒葉雅人
「フランケン・ふらん ―OCTOPUS―」木々津克久
「結婚前夜」三雲岳斗
「ふるさとは時遠く」大西科学
「絵里」新井素子
「良い夜を持っている」円城塔
「〈すべての夢|果てる地で〉」理山貞二(第3回創元SF短編賞受賞作)
第3回創元SF短編賞選考経過および選評
2011年の日本SF界概況(大森望)

『原色の想像力』
> 大森望・日下三蔵・山田正紀編/岩郷重力+WONDER WORKZ装幀
> ISBN-13: 978-4488739010
> 東京創元社
> 1100円
> 2010.12.24発行
収録作:
高山羽根子「うどん キツネつきの」(第1回創元SF短編賞 佳作)
端江田仗「猫のチュトラリー」
永山驢馬「時計じかけの天使」
笛地静恵「人魚の海」
おおむら しんいち「かな式 まちかど」
亘星恵風「ママはユビキタス」
山下 敬「土の塵」(第1回創元SF短編賞 日下三蔵賞)
宮内悠介「盤上の夜」(第1回創元SF短編賞 山田正紀賞)
坂永雄一「さえずりの宇宙」(第1回創元SF短編賞 大森望賞)
松崎有理「ぼくの手のなかでしずかに」(第1回創元SF短編賞 受賞後第1作)
第1回創元SF短編賞 最終選考座談会 大森望・日下三蔵・山田正紀・小浜徹也

『盤上の夜』
> 宮内悠介著/瀬戸羽方装画
> ISBN-13: 978-4488018153
> 創元日本SF叢書
> 1600円
> 2012.3.30発行
第一回創元SF短篇賞山田正紀賞受賞
収録作:
「盤上の夜」囲碁
「人間の王」チェッカー
「清められた卓」麻雀→ネットで読めます。
「象を飛ばした王子」チャトランガ(チェスや将棋のご先祖様)→ネットで読めます
「千年の虚空」将棋
「原爆の局」囲碁(「盤上の夜」の後日譚)

雀部> 今月の著者インタビューは「盤上の夜」で、第一回創元SF短編賞 山田正紀賞を受賞され、表題作を含む短編集『盤上の夜』が平成24年度直木賞候補作になった宮内悠介先生です。宮内先生、よろしくお願いします。
 大学では囲碁・将棋(&麻雀)部だったので、インタビューさせて頂くのを楽しみにしていました。
宮内> ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします。かちゃり(と対局時計を押す)
雀部> では私も。ずいぶん汚れているんですが大学時代から愛用のチェス・クロックを押しておきます(笑)
 東京創元社からサイン本を送って頂いて、どんな方だろうかと想像してたんですよ。サインの感じからすると、落ち着いた和服でも着こなしていそうな方ではないかと。
宮内> わあっ、ありがとうございます!
 せっかくお呼びいただいて、現物がいまいち冴えないのがあれですが。
雀部> 略歴を拝見しますと、小学校の頃まではニューヨークに住んでらしたんですね。英語がお得意というほかに、アメリカ住まいが影響しているなぁと感じることはおありでしょうか。
宮内> 「経験に関係なく同じものを書きます!」となれば格好いいんですけど、もちろんそんなことはなくて、全方面的に有機的に影響しています。
 たとえば、言語。私はアメリカの現地校に長く通いながら、ついにバイリンガルにはなれなかったのですね。脳内には常に日本語のフィルターがかかっていた。だから、普遍文法といったものに惹かれる反面、「言語をまたいだ普遍」への本能的な懐疑もあります。
 あるいは、社会。ニューヨークといえば「人種の坩堝」ですが、「人種の坩堝」という表現は、実はアメリカ政府の人種政策だったりする。そういった二重三重のフィクションのなかで、しかし一つの現実としてさまざまな人種が混在している。ほぼSFです。
雀部> 生後まもなくの言語習得に当たって、英語と日本語では脳内のスイッチが入る場所が異なっているという説を聞いたことがありますので(畠山雄二著『情報科学のための理論言語学入門』)普遍文法とかは難しいような気もしますが、確かに魅力的ですね。
 つい最近、新聞小説の連載開始にあたって、医師でもある渡辺淳一先生が「小説を書く上で、なにより大切なのは色々な経験を積むことだ」と書かれていましたが、SFは経験よりむしろ想像力で勝負するジャンルだと思いますが、どうでしょうか。
宮内> 断然、経験よりも想像力です!……と言いたいところですが、経験には少なくとも二つの機能があります。
 ・想像すべき範囲をショートカットすることで、想像可能な範囲を広げる
 ・視野を広げるのでなく「狭める」ことで、思い込みと勢いが生まれる
   私自身は、このように考えて旅などを試みました。何しろ生身の人間なので想像の限界はたかが知れている。が、真の天才ならこんなもん不要であると強く思います。
雀部> 経験というと、「月刊アレ!」三月号掲載の「トランジスタ技術の圧縮」、最初はICチップの話なのかと思っちゃったんですよ(汗;)「トラ技」は何回か買ったことはあるんですが、宮内さんは実際に「トラ技」を圧縮された経験があるんでしょうか。
 私はオーディオ系の雑誌なら多いときには毎月3冊(「電波科学」「電波技術」「無線と実験」)読んでいたのですが、実際に製作した記事の載っているページ以外は捨ててたんで。
宮内> ICの集積化の話ではまったくないので、タイトル通りのタイトル詐欺といいますか。あの話は「トラ技」を圧縮している最中に思いつきました。おバカな競技には夢があります!
雀部> 馬鹿馬鹿しくてちょっとしんみりさせて……
 「盤上の夜」は、粗筋的には、若くして四肢を失った女性が囲碁に生きる道を見出すという話だと思いますが、テーマ的には、SFだと有名な『歌う船』とか、篠田節子著『ハルモニア』とかと近しい感じがしました。特に、事故により半身不随となった音楽家がパイプオルガンと一体化する『オルガニスト』(第10回日本ファンタジーノベル大賞受賞)は作者の山之口さんがプログラマということなので、なんかプログラマの人は感覚が一般人より拡張しているのかなと思ったりしました(笑)
宮内> もちろん人によるでしょうし、優秀なプログラマはもう少しドライな気もします。とはいえ車の運転などと比べると、「拡張した身体はまるっきりのフィクションでいくらでも置き換えられる」といったことを実感しやすい、というのはありそうです。離人症的な感覚をドラスティックに全肯定しやすいというか。逆に「ゲーマーとの違い」はあるだろうか、あるとしてそれはどのようなものか、といったことを時々考えるのですが、これは答えが出ていません。
雀部> ゲーマーとプログラマーの違いですか、それも興味深いですね。SFの仮想現実ものでも、役割的にはほぼイコールな扱い方だったような気がします。でも、それを言うなら実装にタッチしないプログラマーとSEも違うような気が(笑)
 早稲田の文学部を出られて、色々な遍歴の後でプログラマになられたとのことですが、大学でプログラミングをやっていた人との違いを感じる事がおありでしょうか。
宮内> ええっと。採用をやっていたこともあるので迂闊なことが言えないのですが、たとえば、ソフトウェアのテストにフルパスチェックというものがあります。これはプログラムの分岐すべてを網羅して問題がないか確認するのですが、当然、項目は指数的に増えていく。ところが、ある種母語のようにプログラムを扱う人間は、プログラムを見た瞬間に「すべての分岐や動作を同時に把握」できる。もちろん重要なのは適性で、晩学でもこれができる人は多いですし、逆にできるからといって優秀とも限らない。だから一概には言えないのですが、基本的には自然言語と同じで、小さいころからやっていれば有利ですし、適性が生まれる可能性は高くなる。
雀部> 長男の親友が、アセンブラを見てどういう動作をするプログラムかわかる高校生だったんで、適性ってのは確かにあると思いますね。
 「スペース地獄篇」(『NOVA 7』収録)は、ダンテの『神曲』がモチーフと言う「スペース金融道」シリーズですが、これなんかも、本来は文系と理系両方の基礎知識があったほうが楽しめますね。友達のSEに読ませたら、腹をよじって笑ってましたよ(笑)
宮内> あのシリーズはソフトの話が毎回出てくるのですが、「プログラマやSEが読んでも面白い」を目標にしています。詳しい人もそうでない人もそれぞれに楽しめれば最高です。
雀部> 『順列都市』みたいに、プロセッサもメモリもほぼ無限に使えるような設定と、どちらも有限な設定だと、どちらが書きやすいんでしょうか。
宮内> これ、すごく面白い質問です!「スペース地獄篇」の仮想世界はそのまんま「ぼくの考えたグレッグ・イーガン」なのですが、言われてみると、リソースが有限なほうが断然書きやすいです。「一行プログラム」やショートコーディングの類いが好きだったからなのか、Z80のメモリ8Kが当たり前だったからなのか。なぜでしょう……?
雀部> 実はマゾヒストなのでは(笑)
 私は、アップル2で「スタトレゲーム」をやりたくてPCに触るようになり、本格的にいじり始めたのは、MS-DOSの時代です。片理誠さんへのインタビューの時にも、640KBしかないコンベンショナルメモリには散々苦しめられましたよねと盛り上がりました。わずかな空きを見つけてそこを使って、メインメモリを出来るだけ大きくするとか。autoexec.batとconfig.sysをうまく使いこなすとか。
宮内>  ありがとうございます。こういう話がしたくてしたくて。 思うのですが、こうしたメモリのやりくりは、不便ではあってもけっして窮屈ではなかった。それがMなのだと言われるとぐうの音も出ませんが。
雀部> 今はメモリは、何ギガの単位ですからねぇ、当時の創意工夫を生かすことができるというのはなかなか得難い経験でした。
 「スペース金融道」(「NOVA 5」収録)では、量子金融工学の説明と金融破綻の原因が面白すぎますよ。
 宮内さんは、物語進行上の必要性があれば、科学常識を無視することにためらいはないですか?(笑)
宮内> 量子金融工学は真面目に提唱されているかたがいます!……と冗談はさておき、なんであれ、「いかにロジックを積みあげて科学常識から飛び立つか」という面はありますよね。もっとも、「非科学や擬似科学との違いは何か」と問われると言葉に窮します。「詐欺行為や被害者の存在があるかないか」と分類してしまえば楽ですが、それだとどこか浅い気もしますし。
雀部> 福島原発に関連して、様々な非科学的な噂や説が流布されましたが、こういうのは困りものではありました。
 作者がわかってやっていることが明らかで、読んで面白ければ擬似科学でも非科学でもなんでも可なんですけどね。ほら、こんなお馬鹿なことを思いついたぜ、という感じなのも大好きで、ニヤニヤしてしまいます(笑)
宮内>  このへんの感覚は私も近しいものがあります。ただ、悩ましいですよね。天然でも面白ければいい気がしますし、逆にいくらわかってやっていても悪用は可能であったり。といいつつ、「SFにおける非科学」には「本質的な違い」があるのではないか、と実は思わなくもないのですが、このあたりは、たぶん突き詰めはじめるときりがない。
雀部> お好きな小説とか映画が(作家と監督でもかまいませんが)ありましたらご紹介下さいませ。
宮内> クストリッツァの「黒猫・白猫」! ああいう大人のコメディが書ければ最高です。
雀部> 『黒猫・白猫』観ました〜。ものすごく猥雑というか生きるエネルギーと人間愛を感じました。舞台背景は結構深刻なんですけどねぇ……。
 個人的には、祖父の二人が、そろって前歯に金歯を入れているところがツボでした(笑)
 「ヨハネスブルグの天使たち」(SFM'12/02)からも同じような印象を受けたのですが、どうなんでしょう。
宮内> 「ヨハネスブルグの天使たち」を書いていたころ、ちょうど『アンダーグラウンド』のリバイバル上映がありまして、資料を読んだ後に観に行きました。想像の話ともつながるのですが、なんでも想像可能だからこそ、戦争さえ想像可能だからこそ、深刻な物語を見て想像力を制限しよう、ということを考えました。
雀部> 『アンダーグラウンド』、凄いですねえ。いわゆるハリウッド映画大作とは全然方向性が違うけど。深刻な中にも明るさと猥雑さがあって、でもやっぱり切ないです。
 ただ見終わると―どうしても集中して見ちゃうのと、長いと言うこともあって―疲れます(笑)
 そういわれてみると、作品の方向性は、『アンダーグラウンド』のほうに近い感じがしました。
宮内> クストリッツァの「ある種の構成上の不格好さ」のようなものにも惹かれます。『アンダーグラウンド』で言うと、第二部がどう贔屓目に見ても長かったり。普通は省かれる箇所というか、「その章いらないじゃん!」みたいなものが好きなのです。その意味では、「ヨハネスブルグの天使たち」での、少年が青年になるまでのパートですとか。
雀部> あそこを無くしたら、話にこくが無くなってしまいますよ〜。
 「ロワーサイドの幽霊たち」(SFM'12/08)、ものすごい力作ですね。J・G・バラードがまだ存命だったら悔しがるかも知れません。
宮内> 好きな小説は何かと問われるといつも口籠もるのですが、『コカイン・ナイト』は「ほぼ理想」の作品です。なので、バラード的な問いというものはよく考えます。わかりやすい例では、「ヨハネスブルグの天使たち」の「人はクラッシュにも飽きる」という箇所ですか。だからこそ、バラード本人が悔しがるかというと、そんなことはない気がします。
雀部> 『コカイン・ナイト』ですか、なるほど。
 「濃縮小説」(コンデンスド・ノベル)はどうなのでしょうか。
宮内> 時空のシャッフルは「ロワーサイドの幽霊たち」で少し試みましたが、さすがに読者に苦労をかけすぎたと言いますか……。まずはドラマ作りの力をつけるのが先だと結論しました。
雀部> ドラマを作るとコンデンスド・ノベルにならないような気が……
 この二作品は、媒体(SFM)を意識して書かれている感じがしたのですが。
宮内>  「どんな媒体でも同じ作風で行くぜ!」とは言えない状況です。そもそも作風と呼べるほどのものがないですし、ましてやSFMのページを割くわけですから。
雀部>  渡辺淳一先生だと、どの媒体でも同じだろうなあ(笑)
 でも、同じ出版社でも、「オール読物」と「文學界」では編集者が求めているものは絶対違いますよね。
宮内> よく言われる「オリジナルなどない」には同意なのですが、その反面、「誰が何を書いても、悲しいまでにオリジナルな変な代物ができる」のではないかと疑っています。だから、要求に応じて、あるいは要求を想像して書くくらいがちょうどいい気もするのです。すみません、これは答えになっていますか。
雀部> は〜い(笑)
 ということは、新潮社や文藝春秋社等々から依頼があれば当然張り切って執筆されると。
宮内> 喜んで!……なのですが、ミステリの類いを書いてみたくもあり、SFに注力しなければならないときだという思いもあり、悩みます。
松崎> そんな。悩むことないですよみやうちさん。みやうちさんは、SFにこだわらずすきなものをすきなようにかけばいいと思うんです。わたし「トランジスタ技術の圧縮」だいすきですよちっともSFじゃないですが。
 ああすみません。雀部さんから電波が送信されてきたので参りました。みやうちさんと同期デビューの松崎有理です。ほらお約束どおり、デビュー版元の担当編集者もつれてきましたよまだ寝てますけど。
小浜> ZZZ……
松崎> だからすきかってしゃべるならいまのうちです。
雀部> 松崎さん、ご無沙汰してま〜す。
 電波で飛んでくるなんて、松崎さんはUFOだったのか(笑)
松崎> いやその。オキシさん(=第三回創元SF短編賞優秀賞・オキシタケヒコさん)いわく、「松崎さんは電波を送受信している」(大意)と。しかし今回はUFOではなく羽田からふつうに飛行機で岡山まで。あ、小浜さん機内でも空港からのタクシーのなかでも爆睡でした。新幹線でなければ問題なく眠れるようです。
雀部> 「小説すばる」7月号、松崎有理さんの「おらほさきてけさいん」読みました。じんわりとほっこりする話でありましたよ。
松崎> わあよんでくださったんですか。ありがとうございます。じつはあれ「北の街シリーズ」最新作です。今回は主人公を奥新川までさまよわせてみました、とかいう仙台ローカル話ははやめにきりあげましょうね。
雀部> 前回、だいぶローカルな話題に終始しましたからねぇ(汗)
  それと、わたしの「おらほさきてけさいん」電波も無事届いたようですね。
 で、松崎さんの短編の次のページが、宮内悠介さんのエッセイ。
松崎> そうそう。小すばの担当編集者に「このページ順、おなじ賞出身者ということで配慮してくださったんでしょうか」ときいてみたら「いえ。ぐうぜんです」と。ちょっと拍子抜け、な裏話でした。
宮内> ええっ。あれ、「これは粋なはからいだ!」とばっかり……。
雀部> あ、私も粋な計らいだと思ってましたよ。
 そうかインドにも行かれていたんだ。「象を飛ばした王子」に出てくるチャトランガも買われたのでしょうか。
宮内> そのときはチャトランガの存在を知りませんでした!(胸を張りながら)
雀部> ありゃま(笑)
 「超動く家にて」(『拡張幻想』収録)は、読んで“あらま意外・わははやるなあ・脱力・そっちかよぉ”と様々な感情のせめぎ合いが楽しめるちょっと人を喰った感のあるミステリSFなのですが、発表された媒体からすると宮内さんの本来の持ち味が出ているのでしょうか。
松崎> わたしあれだいすきですよー「トランジスタ技術の圧縮」とおなじくらいに、ってそんな評価でよいのでしょうか。なお初出の媒体でよみました。ちょっとじまんです。
宮内> どうしてもパロディ寄りの発想が先に来てしまいます。とはいえ、建設的でないことが多いので、なるべく抑えようとはしています。かといって、まるきり遊び心がなくなっても困る。このあたり、皆さんはどうされているのかすごく訊きたいところです。
松崎> えっわたし。わたしですか。むずかしい振りだなあ。
 ええと。パロディ要素はなるべく避けるようにしてます。「元ネタを知っていないとおもしろくない」というのは読者に不親切だとおもうので。
 ただパロディをまったくやっていないか、というと嘘になる。たとえば代書屋シリーズの根幹となるネタ「出すか出されるか法」は現行の研究業績評価制度のパロディで、だから研究者以外のひとにはあんまりおもしろくないはず。でもこのばあい、一部のかたにばか受けすればそれでいいや、と割り切っています。そう必要ですよ遊び心。たとえ万人には通じないにしても。
 いずれにせよ。わたしミステリちっともくわしくないのですが「超動く家にて」たのしくよめましたし、『トランジスタ技術』なんてみたこともないのに「トランジスタ技術の圧縮」とてもおもしろいとおもった。だから大成功ですよ。
雀部> 女性って、あまり雑誌を取っておくということはしないのかなぁ……
 最近はMOOK本しか売れないみたいやし。MOOK本だとオマケのバッグとか小物とかは取っておくのだろうけど。
松崎> 女性って、といいますか。わたしが例外的に、ものをとっとくことをほとんどしない、いわゆる捨て魔だからでは。たかやまさん(=第一回創元SF短編賞佳作・高山羽根子さん)なんて雑誌だいすきだそうですよ。
雀部> そう言えば「Stereo」8月号の付録は、10cmのスピーカーユニット(x2)だった。SPユニットが付録に付くのはこれで三回目。それに合うSPボックスのMOOK本も併せて買ったので、結構な出費になった(汗)
 予約してあったVツイン蒸気エンジンが付録の「大人の科学マガジン」が今日届きました。まあこれは動くモノが大好きな孫用に組み立てるのですが(笑)
宮内> 雑誌のみに宿る「いままさに文化が生まれている感じ」というのもありませんか。その瞬間それを見た人は誕生に立ち会った気にさえなる、ジャンルが生まれる瞬間のかけがえのない勘違いというか。私の場合、『MSXマガジン』とか「フジロックの入場パス」とかがいまだに捨てられない。で、いまの子供は将来何をもって昔を懐かしむのか、ということもやっぱり考えます。ノスタルジーは自制すべきかもしれませんが、少なくとも、未来においてノスタルジーとともに思い出されるのは一つの目標であるはずで。
雀部> 私も雑誌大好きではあるんですけど。漫画週刊誌は、7冊/毎週購読中(汗;)
 あれっ、小浜さんはまだ午睡中だなあ、どうしよう。そろそろ起こしちゃうか……
 今月も、東京創元社のSF担当編集者でもある小浜徹也さんがご参加下さることになりました。
  「「小浜さん、小浜さん。松崎さんインタビューの際にはお世話になりました、今回もよろしくお願いしまっす。」」
小浜> うわ。はい。ええ。
 突然呼ばれて目が覚めました。はい。こんばんは。今回もよろしくどうぞ。
 (というわけで、来月号の後半に続きます)

[宮内悠介]
1979年東京生まれ。92年までニューヨーク在住、早稲田大学第1文学部卒。在学中はワセダミステリクラブに所属。インド、アフガニスタンを放浪後、麻雀プロの試験を受け補欠合格するも、順番が来なかったためプログラマになる。
囲碁を題材とした「盤上の夜」を第1回創元SF短編賞に投じ、受賞は逸したものの選考委員特別賞たる山田正紀賞を贈られ、創元SF文庫より刊行された秀作選アンソロジー『原色の想像力』に同作が収録されデビュー。また同作を表題とする『盤上の夜』は第一作品集ながら第147回直木賞候補となった。
[松崎有理]
1972年茨城県うまれ。だから納豆を愛している。茨城県立水戸第一高等学校卒業後、東北大学に進学。理学部卒の真性理系女子だが電子工作には弱い
2010年、渾身のバイオ一発ネタで勝負した「あがり」で第一回創元SF短編賞を受賞してデビュー。計算されたボケとたくみなフォローで笑いをとることを生き甲斐とするもテキスト限定、リアルタイムでの受け答えはかなしいほどにがて。座右の銘は「基本はつねにサービス業」=つまりお笑い系。作風とのギャップがはなはだしいことで有名。
公式サイトhttp://yurimatsuzaki.com/index.html
2012年7月現在の近況:
「小浜さんにいじめられながら『イデアル』(第20回日本ファンタジーノベル大賞最終候補作)絶賛改稿中です。ちっともすすみません。わたしが仕事おそいからでもありますが、大半は小浜さんのワーカホリックな完璧主義のせいだと信じています」
[小浜徹也]
1962年徳島県生まれ。1986年、東京創元社入社。SF以外にも、案外ファンタジーやホラー、海外文学セレクションも担当しています。もっとも、ミステリだけは国内外とも一切つくったことがありません。ウンベルト・エーコと島崎博の来日イベントの司会をつとめたことが生涯の自慢です。2000年に柴野拓美賞を頂戴しました。
[雀部]
将棋・麻雀・チェスを少々。囲碁はセンス無し(汗;)

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