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Author Interview

インタビュアー:[雀部]

『原色の想像力 2』
> 大森望・日下三蔵・堀晃編/岩郷重力+WONDER WORKZ装幀
> ISBN-13: 978-4488739027
> 東京創元社
> 980円
> 2012.3.23発行
○オキシタケヒコ「What We Want」
SFファンには一押し作品。たった一人生き残った大阪弁をしゃべるアメリカ人の女性船長と雇われた異星人の珍道中。この船長はんのキャラが強烈で、可哀想な異星人ちゃんは度重なるストレスで……。ラリイ・ニーヴンの《ノウン・スペース》に出てくる宇宙人も、いい加減地球人にカモられている気がしますが、さらに悲惨かも(笑)
ジョン・ヴァーリイ描くところの宇宙人に支配された《八世界》を舞台に、野田昌宏大元帥の描くところの銀河乞食軍団的な柄の悪さ(まあ、こちらは”べらんめえ”口調ですけど)をつけ加えた感じと言えば、あながち間違いではないような(笑)
それにしてもオキシさん、「地底種族ゾッドゥリードが通商網に加入した経緯」物語、ぜひ読ませて下さいよ!!

『夏色の想像力』
> 今岡正浩編/加藤直之カバーイラスト
> 夏色草原社
> 2000円(Amazon価格)
> 2014.7.19発行
「夢のロボット」オキシタケヒコ
 ユーモアSF。量子コンピュータ施設のトラブルで、行方不明の小学生由来と思われる不定形のヒト型巨大ロボットが現れた……
「イージー・エスケープ」オキシタケヒコ
 地球人と亜空間ゲートを発見した恒星間宇宙船の子孫達の軋轢の中、プロの逃がし屋に面談してきた一癖ある依頼人。エフィンジャーの『重力が衰えるとき』の世界も持ち込んだ虚々実々の駆け引きの結末とは……

『筺底のエルピス―絶滅前線―』
> オキシタケヒコ著/toi8イラスト
> ISBN-13: 978-4094515275
> 小学館ガガガ文庫
> 593円
> 2014.12.23発行
 ヒトに取り憑いて人間を殺しまくり、殺されれば(死ねば)死因の因果関係の一番強い相手に乗り移り更にパワーアップして殺戮を繰り返す、「殺戮因果連鎖憑依体」――通称「鬼」。それに対抗し狩る人類側の組織は《門部》と呼ばれる。彼らは、通常人には判別不能な鬼のオーラを見ることのできる眼〈天眼〉と、ある範囲内の時間を停める柩〈停時フィールド〉を自由に操る二つの特殊能力を持っているのだ。
 ネタバレの解説はこちら

『波の手紙が響くとき』
> オキシタケヒコ著/Geco Hirasawaカバーイラスト
> ISBN-13: 978-4152095381
> ハヤカワSFシリーズ Jコレクション
> 2100円
> 2015.5.25発行
収録作:
「エコーの中でもう一度」「亡霊と天使のビート」「サイレンの呪文」「波の手紙が響くとき」
 音声録音だけが手がかりの失踪人探し、深夜に囁かれる幽霊の声の調査…。零細企業の武佐音響研究所には、今日もワケアリの難事件が舞い込む。
 天使の声帯を持つ所長・佐敷裕一郎、口を開けば罵詈雑言の音響技術者・武藤富士伸、そして2人にこき使われる雑用係・鏑島カリン。彼らの掟破りなサウンド・プロファイリングが、“音”に潜む人々の切ない想いを解き明かす。さらに、彼らと因縁浅からぬトラブルメーカーのミュージシャン・日々木塚響が生み出した不思議な音色の謎は、皆を壮大な生命の秘密へと導いていく―個性的な解析チームが東奔西走するSF音響事件簿!

雀部 > 今月の著者インタビューは、昨年の12月に小学館ガガガ文庫から『筺底のエルピス―絶滅前線―』を、今年の5月にハヤカワSFシリーズ Jコレクションから『波の手紙が響くとき』を出されたオキシタケヒコ先生です。
 オキシ先生よろしくお願いします。
オキシ > よろしくお願いしまーす。あ、でも先生はちょっと。おっさんとはいえペーペーの新人ですし、普通でお願いします。普通って何だって話もありますが。
雀部 > あ、すみません。それでは普通にオキシさんでいかせていただきます。。
 オキシさんの作品を最初に読んだのは、『原色の想像力2』に収録された「What We Want」でした。この大阪弁をしゃべるアメリカ人の女性船長と雇われた異星人の珍道中は、細かいSFネタがてんこ盛りで、目茶苦茶ツボでした。
 cakes(ケイクス)でのインタビュー記事では、“影響を与えたSF作家・作品”として、野尻抱介先生や飛浩隆先生をあげられていますが、海外作家・作品ではどうでしょうか。ラリイ・ニーヴンやジョン・ヴァーリイあたりとかは。
オキシ > ありがとうございます。はい、ニーヴンもヴァーリイも、もちろん大好物です。あとはベスターやヴァン・ヴォークト、コードウェイナー・スミス、あとなによりバリントン・J・ベイリーが好きですね。ティプトリーも外せませんし。
 多忙だった九〇年代に海外SFをあまり読めてない、というのもありますが、だいたい八〇年代終わり頃までの成分だけで、頭の中の「海外SF」枠が占領されてます。
雀部 > 私もそこらあたり全部好きです。実にまっとうな(笑)コアSFファンの道を歩まれているように感じられます。「What We Want」が『原色の想像力2』の人気投票で1位になったのも、その面白さがSFファンの琴線に触れたからだと思いますし。この人気投票の結果で、SFを書く自信がついたとかはあるでしょうか?
オキシ > はい、もちろん励みになりました。もともと「俺が読んで楽しい」を基準にして好き勝手に手を動かしたものだったので、書き終えて応募してから「あんなの送って許されるんだろうか……」と腰が引けていた部分もあったんです。
 でも一位を頂いたことで「ああ、このまま行っていいんだ俺」という気分にはなりましたね。吹っ切れたというか。
雀部 > 「What We Want」をよんで、ああこの人は相当なSFファンだな、SFをそうとう読まれているぞと感じたんですけど、オキシ先生のSFとはこういうものだというのは何でしょうか。
 先週、「昭和30年代のSF系 NHKラジオドラマ」に関するラジオ番組の収録で、「SFとは何ですか?」と聞かれたんで、私は「異常な状況に陥った人間(達)がどういう行動をするかを描いたのがSF」まあ「SFファンの数だけSFの定義はあると言われてるんですよ(笑)」とも言いましたけど。
オキシ > ぬぅ。これまた難しいご質問を(汗)
 えーと、私、書き手になる前は「これはSFじゃない」とかすぐ言っちゃう系のSFファンだったのですが、いざ書く側に回ってみると、そういうのって全部ブーメランで返ってくるんですよね。
 口に出すことで、枠を狭めちゃうというのもありますし。
 なので、SFとは何かについては、今はあまり考えずにやってます。
 おっしゃる通り、SFファンの数だけSFの定義はあるわけで、私としては、「自分的にはこれはストライクだぜ」と感じるものを投げるようにするだけです。
 変化球なのか直球なのかは別としてですし、当然、押し出しとボークも避けたいですが。
雀部 > それは松崎有理さんのインタビュー記事でもおっしゃられていましたね。>「これはSFじゃない」とかすぐ言っちゃう系
 上記のインタビュー記事で、座右の書として諸星大二郎さんの『無面目・太公望伝』をあげられてますが、執筆されるときに意識されることはおありですか。
オキシ > や、それはないですね。真似できるものではありませんし、純粋に読者として崇め奉ってまして。はい。
 そういえば、東京創元社の今年の年間日本SF傑作選『折り紙衛星の伝説』には、諸星先生や星野先生のお名前が。まさかお二人と同じ場所に自分の名前が並ぶとは、とおののいております。数年前の自分に告げても信じないでしょう。
雀部 > おっと、『折り紙衛星の伝説』に「イージー・エスケープ」が収録されたんですね。
 実は、「What We Want」の後に読ませていただいたのが「夢のロボット」「イージー・エスケープ」(『夏色の想像力』所載)だったんですよ。とても面白かったんですが、宇宙船が出てこないのが……(笑)
 「イージー・エスケープ」は宇宙物だし、ワームホールも出てくるんだけど。
 なんか、オキシさんは次も「What We Want」系の作品を書いてくれると思っていたので(汗;)
 読者からそういう声はなかったでしょうか。
オキシ > まあ少々は、はい(笑)。ひとまず「What We Want」は眠ってる背景設定も山ほどありますので、いつか続きを書こうとは思ってます。短編として連作にするのか、それとも全面リライトして長編にするのか、とかそういったものはまだまだですけど。
雀部 > おっと、それは楽しみです。>短編として連作にするのか、それとも全面リライトして長編にする
 第3回創元SF短編賞で優秀賞を受賞した「プロメテウスの晩餐」は、まだ読めませんよね? 『拡張幻想』刊行記念 第3回創元SF短編賞・贈呈式のレポートで、“目玉焼きから宇宙進出までの人類の進歩を、すべて料理でつなぐという話に……”とおっしゃられてますが、これは宇宙SFなのでしょうか。
オキシ > いえ(笑)、宇宙SFではなく、料理SFです。つか、大森さんが選評で書かれてたように、男二人が荒野で飯を食うだけの話です。冗談抜きに。その「プロメテウスの晩餐」は、もうすぐ『原色3』で出るんじゃないかなぁ……(遠い目)
雀部 > 以前のお話では、とりあえず『原色3』までは出る(出す)というお話を聞いたんですけどねぇ。そういえば、オキシさんのホームページを拝見すると「プロメテウスの晩餐」は連作短編なんですね。
オキシ > こちらは中編「礎のランチ」と「虹の向こうの朝餉(仮)」が続いてちょうど一冊分ぐらいのセットになる予定ですね。要するに晩飯、昼飯、朝飯の話なんですが、まだ最後のが書けてません。おやつとか夜食を掌編で入れろ、という声を聞いたこともあります。
雀部 > 「裸のランチ」じゃなくて?(笑) なんか題名にも仕掛けがありそうですね。
 こちらは、創元社のSF叢書で出るのでしょうか?
オキシ > その予定のはずなのですが、いつになることやら。いやその、私がちゃんと書けてないからなんですけど。誠に申し訳ございません(そっち方面に土下座)。
雀部 > 『筺底のエルピス―絶滅前線―』は読んだ時、うへぇ〜何て設定だと唸って、作者はきっと相当なM体質じゃないかなと思いましたが、どうなんでしょう?(笑)
オキシ > Mかなぁ。むしろSな気もしますが、どうなんでしょう?(質問を質問で返す)
雀部 > 設定を考えている時はSで、本文を執筆しているときはMとか(笑)
 もの凄くよく考えられた設定だというのは読んでいてひしひしと伝わってきました。
オキシ > いやー、組んでるときはほんと楽しかったですよ。「はいはい人類滅亡滅亡、滅べ!」とか言いながらやってました。
 あと、私としては珍しく「主人公をできるだけキャラ立てしない」方針でやったので、その分設定の方を「立てる」べくこねくり回した、というのもあります。だからあの作品の場合、真の主人公はたぶん設定の方なんですよね。ラノベとしていいのかそれで、とは思わないでもないですが。
 ちなみにシリーズとして継続中なのですが、二巻でさっそく大変なことになって、三巻あたりで悲惨なことになるはずです。五巻ぐらいまでは続けたいんですけど、そこまで書かせてもらえるかどうかは売れ行き次第ということで(汗)。今しばしお待ち下さい。
 ていうか買ってください皆様(宣伝)。
雀部 > 続編、読みたいです。みんなで買って、盛り上げましょう。三巻、もの凄くえげつないことになるのかな、牧野修さんを超えるのかな←違う?(笑)
 とりあえず、未来に飛ばされて、人類が生き残っていたらどういうことになるか世界的な影響も知りたいぞ(笑)
 ゲームのシナリオを書いたり小説を書くとき、制約があるほど燃えるタイプ(書きやすい?)なのでしょうか。
オキシ > 制約、と言えばまあ、締め切りが無いと書かないとか……あ、そういうのじゃないんですねはいはい。
 うーん、どうなんでしょう。有限のリソースをこねくり回してでっちあげる、というのは、まあ確かに得意かもしれません。でも好きでやってるのかと問われたら、たぶん否じゃないかと。必要に迫られてやってる感じでしょうか。
雀部 > 『波の手紙が響くとき』は、音(聴覚)がテーマの連作短編だと思いますが、オキシさんは音楽を聞くのは、お好きなのでしょうか。作中にバックロードホンが出てきたりするんでオーディオにもお詳しいのかと思ったり。それとも演奏する方がお好きとか、はたまた楽器製作に凝っていらっしゃるとかはおありでしょうか。
オキシ > それが、音楽もオーディオ技術も、なーんにも知らないんですよ私。楽器もできません。ハーモニカぐらい?
 音楽を聴くこと自体はもちろん大好きなのですが、テクニカルなことに関してはまったくのトーシロです。なので武佐音研シリーズは基本、毎回毎回ひーこら言いながら勉強しつつ書いてました。いやほんと。
雀部 > そうなんですか。ひーこら勉強の効果大ということですね(笑)
オキシ > 音楽って本当に不思議ですし、中に分け入ると難しいですよ。「音とは何か」って問いは、作中でも述べているように「波だ」で終わっちゃうんですけど、それが「音楽とは」になると、もう明確な答なんて出せなくなりますし。
 でもまぁ、音楽は聴くしか出来ないそんな人間とはいえ、小説の中でなら私でも、どかーんと盛大にホラ吹くぐらいならできるかと思いまして。音楽を愛する方に楽しんで頂けるような大ボラを目指したつもりです。いかがでしたでしょうか。
雀部 > いやぁ、良かったですよ。個人的なお気に入りは最初の「エコーの中でもう一度」ですね。SFファンじゃない方にも広くお薦めできるし。『波の手紙が響くとき』は、帯の煽りを飛浩隆先生が書かれているんですが、飛先生の音楽SFの大傑作「デュオ」級の連作短編集ではないかと思います。
 
オキシ >  いやいやいや、それはさすがにないとは思うんですが(汗)。まだまだ遠いですよー(雲間を眺める)。
 ともあれ、お褒めいただけるのはうれしいもんです。ありがとうございます。
雀部 >  あと、書き下ろしのラストの中編、地球から一歩も出ないにもかかわらず、広大な宇宙を感じさせてくれる結末、しびれました。ひょっとして、これを書きたくて連作短編を書いたとかおありですか。
オキシ > 第一話の時は、続きを書かせてもらえるかどうかもわからなかったのですが、シリーズ化が決まったらこうしよう、ぐらいは考えてました。たぶんその時点で、ラストまでの大枠はできてたと思います。実を言うと、それぞれのストーリーは当初予定していたものとは微妙に変化しちゃってるんですけど(汗)でもなんとか、自分への約束は守れたと思います。
 具体的には、四つ合わせて一本の長編になるようにしよう、とか、三話までを踏まえたお祭り篇を最後にどかんとやって大ジャンプしようとかですね。すとん、と着地点に降り立てるようにするのが、ミステリとしては大切なことだと思うのですが、最後だけは床がトランポリンか何かにこっそり差し替えられてて(笑)、彼方まで飛ばせたらいいなぁ、と思ってました。
雀部 > 宇宙まで飛ばされました(笑)
 『波の手紙が響くとき』が聴覚、「プロメテウスの晩餐」が食事ということで味覚、残りの五感についても書かれるご予定は?
オキシ > いえその、別に五感制覇を狙って書いているわけじゃないので(汗)、特に予定は、はい。
 視覚と繋がる形で、カメラの話をひとつ書いてみたくはあるのですが、今はもっとこうコテコテな、異星生物生態ものとかエスパーものとか、ポストアポカリプスものとかやってみたいですね。あともちろん、スペオペも。書かせてもらえる場があればですけど。
雀部 > カメラ、SFファンは好きそうなのでぜひお願いします。
 非常にお忙しい時期に、インタビューをお受け頂いてありがとうございました。
 最後に、近刊情報とかがございましたらご紹介下さい。
オキシ > ガガガ文庫の近刊予定につい先日載ったところですが、エルピスの二巻目となる『筺底のエルピス2―夏の終わり―』が近々出る予定です。
 実は書いてる真っ最中です。まだ出来てませんし非常にヤバい状況です。マジ寝てません。本当に間に合うのかどうかは、サブタイトル通りの季節に書店でお確かめください(汗)。
 というわけで皆様、何とぞよろしくお願いいたします。
雀部 > あれっ、『筺底のエルピス2―夏の終わり―』、なんか8月に出るというツイートが流れていた気がします(笑)→6月20日頃
オキシ > あ、そうこう言ってるうちに日付の告知も出ましたね。8月の18日発売です。間に合うのかこれ。
 と、ともあれ、よろしくお願いいたします(土下座しつつ原稿に戻る)。


[オキシタケヒコ]
1973年徳島県生まれ、大阪府在住。ゲームプランナー、シナリオライターとして、コンピュータゲーム開発に携わる。代表作は「トリノホシ 〜Aerial Planet〜」など。2012年「プロメテウスの晩餐」で第3回創元SF短編賞優秀賞を受賞。2014年『筺底のエルピス ─絶滅前線─』を刊行。
[雀部]
音楽SFに目がない私。カードの「無伴奏ソナタ」を筆頭に、ディッシュの『歌の翼に』や、日本では中井紀夫さんの「山の上の交響楽」とか飛浩隆さんの大傑作「デュオ」などに続く音楽SF(音楽ばかりではないけど)が誕生したとの想いが……

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