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Author Interview

インタビュアー:[雀部]


『22世紀のプロフィール: CはComputerのC』
> 橋元淳一郎著
 序章「進化する22世紀の恋愛」、Contact lense, company, community, comfortable, compact, commerse, compass, commodity, complex, combination, 終章「進化する22世紀の記録」
『物理の時間、生命の時間: 時間の流れの起源をさぐる』
> 橋元淳一郎著
 本書は、多文化間精神医学会の学会誌『こころと文化』に掲載された論文を加筆修正したものです。
 時間の流れがなぜ存在するのか、それは我々生命の内にあるのではないか、というのが著者の基本的な考え方です。本書をお読み頂ければ、なぜそのような直観的確信が持てるのかということが、お分かり頂けるのではないかと思います。
『相対論の直観的認識について: 物理学とリズムに関するエッセイ集』
> 橋元淳一郎著
 「白樺サロン」機関誌に寄稿した原稿を加筆修正したもの。
 エッセイは、表題のほかに「リズムと物理学」、「時間系列の話」、「相対論と主観的時間」、これらはいずれも相対論と時間の流れについての論考です。最後に奈良高畑に関する個人的なエッセイ「愚想雑感----奈良高畑との出逢い」を加えた。
『なぜ男と女が存在するのか 不思議の星のサイエンス1』
> 橋元淳一郎著
 標題のほか、「人はなぜ老いるのか」「地球の未来はどうなるのか」「コンピュータは自己意識を持てるのか」の合計4つのテーマが含まれます。雑誌『PHP』に2年間にわたって連載された科学エッセイです。全6巻
『宇宙人は本当にいるのか 不思議の星のサイエンス2』
> 橋元淳一郎著
 標題のほか、「アダムとイヴは誰なのか」「我々はかつて星だった」「ナノテクノロジーに未来はあるか」
『タイムマシンは実現可能か 不思議の星のサイエンス3』
> 橋元淳一郎著
 標題のほか、「タンパク質はなぜ必要なのか」「音楽はなぜ生まれたのか」「宇宙はどれくらい未知なのか」
『超能力は存在するか 不思議の星のサイエンス4』
> 橋元淳一郎著
 標題のほか、「ダニはどんな世界を見ているのか」「美人の絶対基準はあるか」「生きるのになぜ酸素は必要なのか」
『宇宙はどれくらい広いのか 不思議の星のサイエンス5』
> 橋元淳一郎著
 標題のほか、「我々は人をどのように認識するのか」「孫はなぜ可愛いのか」「コンピュータは人間を凌駕するか」
『時間はなぜ過去から未来へ流れるのか 不思議の星のサイエンス6』
> 橋元淳一郎著
 標題のほか、「地球はなぜ青い星なのか」「虹はどのように存在するのか」「科学とは何か」

雀部 >  今月の著者インタビューは、創刊準備号の時からお世話になっている橋元淳一郎先生です。
 橋元先生お久しぶりです。眉村先生の講演の後にご一緒して以来ですね。
 AmazonでKindle本を出された事を知り購入して読ませていただいております。
橋元 >  神戸での眉村先生講演、もう何年前になるのでしょうか、歳を取るとなかなか簡単に動けませんね。
 これを機に、またお目にかかれる日を楽しみに、少しはSF世界にも回帰したいと思っています。
雀部 >  2010/5/1だったようですから、6年前ですね。
 歳とると、何をやるにしても億劫で(汗;)
 橋元先生のSFは、『神の仕掛けた玩具』(2006)が最後ですもんね。
 Amazonでは、「hassy-world library」が、「相対論の直観的認識について」と「物理の時間、生命の時間」「22世紀のプロフィール」の三冊。
 「不思議の星のサイエンス」が「なぜ男と女が存在するのか」「宇宙人は本当にいるのか」「タイムマシンは実現可能か」「超能力は存在するか」「宇宙はどれくらい広いのか」「時間はなぜ過去から未来へ流れるのか」の六冊。
 いずれも100円台というお求めになりやすい価格設定ですね。
橋元 >  後ろの6冊は、数年前に雑誌『PHP』に2年間連載したエッセイを、4つずつまとめたものです。1冊にまとめて定価を高く設定するよりは、少しずつ安い定価で販売した方が手に取ってもらいやすいのではと思ったのです。Amazon Kindleの印税率は、正確に記憶していないのですが、大体2.5ドルくらい以下だと35パーセント、それ以上だと70パーセントです。印刷本の印税率がふつう10パーセントであるのと比較すると大変高いので、個人出版したい人には魅力的です。ですから、ページ数を増やして高い定価に設定した方が印税は2倍になるのですが、初めての個人出版なので、印税の額よりはたくさんの人に読んで欲しいと思い、安い価格設定にしたのです。
雀部 >  なるほど、確かに個人出版には向いてそうですね。まずは読んでもらわなきゃいけないけれど、印刷して売れ残って在庫を抱える事も無いし。
 これらの電子書籍は、他のサイト(例えば"honto")では購入できないのですが、AmazonのKindle版で電子書籍を販売するメリットとかがあるのでしょうか。
橋元 >  個人の電子出版は初めてで、アメリカの税務署に税金免除のfaxを送ったり、いろいろ暗中模索で面白い経験をしました。hontoなどで購入出来ないのは、手始めにAmazonからと思っただけで、いずれは他のサイトでの販売も検討したいと思っています。
雀部 >  Amazonはまず潰れないだろうし(笑)
 あと、プライム会員は無料で読むことが出来るようなのですが、無料で読む場合も原稿料は入ってくるのですか?
橋元 >  無料分の原稿料(印税)は入ってきません。これは、いわば献本による宣伝という意味合いですね。もちろん、プライム会員無料の設定をするか否かは、出版時に自由に選べます。前にも述べましたように、まずはたくさんの読者の方に読んでほしいという意味合いで、プライム会員無料の設定をしました。
雀部 >  そうなんですか。著者が設定出来るとは。
 あと、Amazonで電子書籍を売る際にかかる経費はあるのでしょうか。供託金的なものとかは?
橋元 >  いっさいありません。これも個人出版の魅力ですね。自分で原稿を書いて、表紙の画像を作って、それを電子出版の形式に則ったファイルに変換すれば、あとはAmazonへの登録の手続きが少し面倒ですが、それで自分の本が出版出来るわけですから、高い費用を払って自己出版するよりもずっと良いと思います。
雀部 >  ですね。ちょうど知り合いの歯科医の先生が、やはり電子出版に興味を持って、BCCKSというサイトに登録したと言ってました。“無料で電子書籍や紙本をつくり、公開し、販売することができるWebサービスで、電子書籍は主要外部ストアに配本し販売もできます”みたいです。
橋元 >  そうですね、高額なお金のかかる自費出版というシステムは、急激に衰退していくのではないでしょうか。ぼく自身、世代的に紙に印刷された本というものに非常な愛着はあるのですが、本を出版したい人に平等なチャンスが与えられる電子出版は、出版文化にとってトータルとしてプラスだろうと思います。
雀部 >  移行期まっただ中の感があります。
 同じくAmazonのKindle版で、「ミューズ叢書<1>特集『妖怪探偵・百目』対談&インタビュー」というのが出てまして、この中でSF作家の八杉さんが、自作のショートショートに関して“主観の時間(哲学での時間)に注目したSFというのがあまりないので書こうと思った。この前後に橋元淳一郎さんの『時間はどこで生まれるのか』が出て、ようやくそちらを書いてくれる本が出たと思った”との発言がありましたよ。
橋元 >  八杉さんの本は、まだ読んでいないのですが、そんなことを言って下さるのは、とても嬉しいですね。さっそく購入せねば。
雀部 >  ちょうど今、八杉さんのインタビューが進行中なんですよ。ということで、コメントいただきました。
八杉 >  うわああ、大変恐縮です。(汗)
 二十代のころ、哲学の時間論を駆使してSFにおけるタイムマシンという概念をぶっ壊してやろうという野心のもとあれこれ本を読んだりしたんですが、結局小説にできるアイデアが思い浮かばなくて挫折した経験があるんです。
 すると二年ほど前に橋元さんが人工知能学会誌に「人工知能の心」というショートショートを寄稿されて、まさにそれをうまくひねった素晴らしい作品になっていたので平伏いたしました……。
橋元 >  八杉さま、はじめまして。
 うわああ、あのショート・ショートまで読んで下さったのですか。こちらこそ恐縮です。
 おっしゃるとおり「人工知能の心」は、ぼくの時間論を取り入れています。じつは、ここで初めて明かすのですが、人工知能学会誌に掲載することには、少し不安がありました。というのも、ぼくは人間のような主観をもった人工知能は創れないだろうという信念がありまして(間違っているかも知れないのですが……)、作品の中にもそういう思いを入れているのです。それで、人工知能の研究者から、反感を買うのではないかと危惧したのです。じっさいはどうだったのか分からないのですが、何となくそんな雰囲気を感じたのは、勝手な思い込みかも知れません。しかし、八杉さんのお話を伺って、あたりまえですが、ぼくはぼくの信念で書くべきだとあらためて自信が湧きました。この作品は、いずれ電子出版にも収録したいなと思っています。
八杉 >  橋元さま、はじめまして。
 人工知能学会誌にはぼくもショートショートを掲載させていただきまして、そのとき見本として過去の掲載作品を送ってもらったので拝読することができたんです。
 個人的に褒められるより、反感を買われるぐらいの作品のほうがいいのかもしれないと思ってます。(思っていてもなかなかできることではありませんが)褒められるというのは批評する側がすでに知っていることを追認しているだけのことが結構ありますからね。反感というのは常識、観念をひっくり返される側面を不意に見せられた戸惑いが含まれていると思いますので。二割賛同、八割反対の企画のほうが優れたものに育つなんてことを聞いたことがありますが、小説もそのほうがたぶん面白いです。
 ところで、現状では主観を持った人工知能が創れないというより、機能としてそぐわないのでその方向には研究が進まないのではないかと思ってます。漠然とした印象ですが。主観を持った人工知能は人間そのものなんですが、求められている人工知能は一足飛びに人間以上の存在で、人間にできないことを代わりにやってもらおうということを主眼にしてる傾向があります。主観意識という機能は、極端なまでに情報不足の環境下(つまり現実世界)でもスタンドアローンな個体が自律および社会活動をするために発達したものですから、人間を見てのとおり、その求められている方向では思いのほか役立たない。だから人工知能が生まれたんですけど。
 もし主観機能を持った人工知能を創ろうとするなら、よほど世の中が必要としていない、何の役に立つのかまるでわからない、無駄と思われそうな方向に研究を進めていけば、もしかしたら主観を持った人工知能は生まれるのではないかなと、これは妄想の類になりますが、そう思ったりしてます。そのような研究をしていらっしゃる学者もいると思うんですが、主流にはなりにくいでしょうし、なかなか思うようには進められないのではないでしょうかね。
 でも、人工知能が人類に使役される現在の状態から、一つの「種」として人類から脱却したとき、人類と相互コミュニケーションを取るためにあえて主観を持った人間のような人工知能が開発されるかもしれませんね。人工知能自身の手によって。なんてこれはさらに妄想の類になりますけど……あ、十年ぐらい前にこれに近い設定の長編を書いたなあ、登場人物がすべて人工知能を搭載したロボットの。(なお出版社に採用されずお蔵入り)
橋元 >  こうしてお話しできるのも、アニマ・ソラリスのおかげです(笑)。
 人工知能に関するご意見、ごもっともです。主観というのは、科学的にも哲学的にもまだ解明されていない能力ですから、主観を持つ人工知能など創っても、あまり役に立ちそうにありませんね。実用面からいえば、そんなものは創らなくても、人一人いれば充分なんですから。
 しかし、哲学的には大いに興味がありますから、世界のどこかでは誰かが研究しているかも知れません。単に役に立つ人工知能は、あくまで機械に過ぎませんが、主観を持ったとたん、我々はとんでもない問題に直面することになります。
八杉 >  主観を持ったとたん、とんでもない問題に直面する……本当にそのとおりと思います。ただそのあたりのことを深く考えていこうとする姿勢が現実にはなかなか生まれてこないんですよね。全体としてまだそこまで考える必要がないと思われているからでしょうけど。
 ですが、そこを豊かに想像して掘り下げ、人々に気づかせたり考えたりを促していくことをできるのがSFですし、そんな役割も担っているのだと思います。もちろん娯楽として楽しく。(笑)
雀部 >  八杉先生ありがとうございます。
 八杉先生が第五回日本SF新人賞を受賞した『夢見る猫は、宇宙に眠る』や『Delivery』、短編にも量子論ネタや時間論・多元宇宙ネタがいっぱいありますね。
 橋元先生の時間の話は、Kindleストアだと、「物理の時間、生命の時間」や「時間はなぜ過去から未来へ流れるのか」がお薦めですよね。
橋元 >  個人出版では、そうですね。PHPサイエンス・ワールド新書の『時間はなぜ取り戻せないのか』もKindle版が出ています。ぼくの方には70パーセントのロイヤリティーは入りませんが……(笑)。
雀部 >  それは残念(笑)
 「22世紀のプロフィール」は、"C"で始まる単語についての未来予測ということで、面白かったです。特に序章の「進化する二十二世紀の恋愛」が一番面白かったです。結局、恋愛は退化する可能性が高いんですね(笑)
橋元 >  じつは「22世紀のプロフィール」は、Kindle版の中でいちばん売れていないのです。まだ、2、3冊ではないですかね、買ってくれた方の顔が浮かびます、ははは。このタイトルは、昔、SFマガジンに連載されていたアーサー・C・クラークの「未来のプロフィル」を意識して付けたのですが、そこまで考えてくれるSFファンは今では少ないでしょうね。
雀部 >  ありゃ、そんなものなんですか。確かに「未来のプロフィル」はインパクトありましたし面白かったなあ。クラーク氏とアシモフ氏のノンフィクションは、SFファンのネタ本の双璧でした。私も持ってます。
 あと「超能力は存在するか」の視覚も聴覚も持たず、匂いと暖かい感触と血の味だけのダニの世界「ダニはどんな世界を見ているのか」も、ものすごくSF的でお薦めです。
 どの電子本も気軽に読めて、しかも新たな知見が得られるというSFファンにはお薦めの本ばかりです。
橋元 >  まだ読んで頂いていない方、ぜひKindle版を買って下さいね(笑)。
雀部 >  iPhoneの方は良く知らないのですが、アンドロイド機には、最初からKindleのソフトが入っているようですから、敷居は低いですし。
 もう一つうかがいたいのですが、橋元先生は京大のSF研には入られていたのでしょうか。
橋元 >  ぼくが京大に在学したのは、1965年〜68年で、たぶん、その頃には京大SF研はまだ発足していなかったのではないでしょうか。(京大の天文同好会が始まったのがその時期で、ぼくは3期生です。)その頃は、SFから少し離れていたときなので、よく分からないのですが……。蛇足ですが、SFのファンクラブ的なものに初めて参加したのは、石原藤夫さんの「ハードSF研究所」です。SFを本気で書きたいと思った時期と、ハード研が発足したのが、ほとんど同じ時期だったので、ぼくのSF人生にとって本当にありがたいことでした。
雀部 >  京大では天文同好会に入られていたんですね。
 ハードSF研は、私もかなり後から参加させてもらっています。
 今回は急なお願いに応えていただきありがとうございました。
 次回は、ノンフィクションと同時にSF作品の著者インタビューをお願いいたします(笑)


[橋元淳一郎]
1947年大阪生まれ。京都大学理学部物理学科卒業後、同大学院理学研究科修士課程修了。SF作家・相愛大学人文学部教授。日本SF作家クラブ会員・日本文藝家協会会員・ハードSF研究所所員・日本時間学会会員
HP『ハッシー君の隠れバー』
[雀部]
ハードSF研究所所員。橋元淳一郎先生との出会いは商用BBS『日経MIX』sf会議。実際に会ったのは、京都でのハードSF研の会合でした。ちなみにこの時は、橋元先生の他に、小松左京先生、小野不由美先生、山本弘先生、福江純先生をお見かけしました。


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