雀部 |
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青木先生、初めまして。
電子出版と“日本SF新人賞と小松左京賞の出身者で構成される『NEO ─Next Entertainment Order─』(次世代娯楽騎士団)”からの流れもあり、今回はぜひ青木先生にお話しをうかがいたいと思いまして、インタビューをお願いすることになりました。どうぞよろしくお願いします。 |
青木 |
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初めまして。よろしくお願いいたします。 |
雀部 |
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青木先生は、第1回日本SF新人賞佳作の『イミューン―ぼくたちの敵』でプロ作家としてデビューされたとのことですが、あとがきによりますと、“この話の着想を得たのは、実はずいぶん昔のことになります。”と書かれています。どういう経緯で着想を思いつかれたのでしょうか。 |
青木 |
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実は私、それほどディープではないのですが特撮のファンなのです。
特に登場人物たちの人間関係というか、そういったところが大好きで。それで、一度自分でも書いてみたいなと、そんな気持ちがずっとあったのですね。 |
雀部 |
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えっ、特撮もののファンであられたとは。
私は高校生の時、「ウルトラQ」とか「ウルトラマン」が全盛で。
『イミューン―ぼくたちの敵』ですと、特撮といっても戦隊ものがお好きなのでしょうか。 |
青木 |
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戦隊ものはもちろん大好きですが、どちらかというと「書いてみたくなる設定」です。ファンとして見るのが好きなのは単体の方ですね。ウルトラセブンは永遠のヒーローです(笑)
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雀部 |
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なるほど、それでこういう設定で書かれたと。
設定とかキャラはどうやって決められたのでしょうか。
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青木 |
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設定の方は後からついてきた感じです。ところがこの設定ですと敵役にはキャラクターというか個性すら存在しないので、だったら主人公チームの内部で諍いをさせてやろうと。チームといってもメンバーは突然寄せ集められた顔ぶれですから、目的を同じにして戦っていてもそう簡単に仲良くなれるわけがない。軋轢があるのは当たり前だろうと思ったんです。
キャラの個性については、登場人物が本当に勝手に走ってくれましたね。こういうふうなキャラにしようと思う間もなくどんどんできあがっていきまして、その点はとても楽しかったです。
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雀部 |
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あ、「キャラが勝手に」という話がまたもや(笑) ま、苦吟して書かれたという状態よりはお楽だったのでしょうが。
『イミューン―ぼくたちの敵』は、少年の成長譚であるとともに、SF冒険物語としても面白かったです。大元の設定そのものもそうですが、さらっと書かれたバイクやクルマの車種の選択がちょっとした遊び心を感じさせてくれて、“おっとやるな”と思ったんですよ(笑)
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青木 |
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ありがとうございます。その点に注目していただいてとても嬉しいです(笑)
実は結構こだわったところなんですよ。こういう人物ならどんな車種を選ぶかな?とか、でも本人の経済状態もあるだろうし……などと。あと、私は二輪には乗らないので、ライダーの友人に助言を貰ったりしましたね。
物語の本筋にはあまり関係のないところなんですけれども、そういうところもキャラクターの造形に役だったのではないかと思います。
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雀部 |
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SF者は総じてメカが大好きなので、そういう心遣いはうれしいんです。
(以下ネタバレなので、白いフォントにして背景色と同じにします)
大元のアイデア、個の免疫系を人類という種としての免疫系に外挿するアイデアはどこから思いつかれたのでしょうか。エクストラポレーションは、SFの醍醐味の一つでもありますよね。
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青木 |
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一つのところから思いついたのではないように記憶しています。あえて挙げれば、子供向けの科学まんがってありますよね。昔見たそういう読み物で「人体の仕組みを知る」みたいなテーマのものに、赤血球や白血球に顔がついていて、自分で自分の役割を解説してくれるというような運びのものがあったんです。それで、免疫細胞に自我があったらどんな感じなんだろう……と、そんな感覚がどこかにあって、それが発想の元の一つなのは確かです。
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雀部 |
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そういうの、私も見たことがあります。子供向けでは昔からの定番なのかも。>自分で自分の役割を解説してくれる(ここまで白フォント)
『イミューン―ぼくたちの敵』は都会の高校生が主人公ですが、『憑融』『忌神』『弥勒の森』の三部作は、共通した登場人物として大神亮平が出てくるものの、本当の主人公は、舞台となるある程度隔離された辺境の地とそこに暮らす人間たちではないかと感じました。民俗学に詳しい大神亮平もインディ・ジョーンズほど活躍しないし(笑)
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青木 |
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そうなんですよね。大神はどちらかというと後づけのキャラクターなんです。土地にいる主人公だけだと行動も思考もどうしても内部で閉じてしまうので、外部からの刺激というか、視点というか、そんなものがあった方がいいだろうということで登場させました。ですから、主人公に示唆はしますけど行動はあまりしないんです。シリーズタイトルが「奇象観測」なんですが、本当に観測者で。
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雀部 |
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観測者で、巻き込まれ型の主人公でもありますね。
「たたりつき」(SFJ '07 WINTER)の“アヤ姉”も位置づけが同じですよね。
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青木 |
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さらに「つっこみ役」も兼ねています。作品自体は小品ですが、アヤはキャラとしてわりと気に入っています。
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雀部 |
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では、アヤ姉と大神の仕事が交差するお話も希望します(笑)
サブジャンル分けすると『忌神』と『イミューン』は超能力もの、『憑融』『弥勒の森』は寄生体ものでしょうか。どちらも重苦しい雰囲気をまとった少年の成長譚としても面白く読めました。少年の成長譚をメインに据えるのは、何か特別の狙いがあるのでしょうか。
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青木 |
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狙ってそうしているわけではありませんが、やはりテーマとして好きなんでしょうね。成長はやはり少年少女に似合います。大人だって日々成長を忘れてはいけませんが(笑)。
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雀部 |
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私なんかは、日々退化しか感じませんが(汗;)
寄生ものだと度々映画化された『盗まれた街』系だと重苦しいホラーになりますが、『20億の針』なんかは、むしろ寄生してくれてラッキー的な(笑)
そういえば、『憑融』の設定はウルトラマン的な面も感じましたよ。
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青木 |
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『20億の針』ではウルトラマンとの相似性がときどき言及されるようですね。私もそちらの方が好きというか、関心があります。『盗まれた街』系の、侵略されて奪われて……というよりも、いかにして寄生者とwin-winでやっていくかを考える。『憑融』にウルトラマン的な面があるとしたらそのせいかもしれません。『憑融』に出てくるあれも、悪意や害意はまったくないんですよ。保身があるだけで。だから共生は可能なんです。
ウルトラ的といえば、夢幻∞シリーズの『つくもの厄介』に出てくる蒔田もややそういう側面があるんですよね。三人の手下のイメージはカプセル怪獣ですし(笑)
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雀部 |
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え、あの三人の出自がカプセル怪獣だったとは(笑)
思い出したのですが「銀の鋏」(『邪香草』所載)は幽霊(?)ネタのようなのですが、寄生ネタの可能性もありますよね。
ご著作を読ませていただいてふと思ったのですが、わたしも、もし愛する人が亡くなったとしたら、亡霊でも寄生体でもなんならゾンビになってでも会いに来てくれるなら、恐ろしいよりうれしい気持ちが強いですね。ま、取り憑かれて苦しめられたり喰われたりするのは困りますが(笑)
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青木 |
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まさにそんな気持ちから書いたのが「銀の鋏」なんです。本人(死者)さえ苦しくないのなら、どんなに姿になっていても会いたいと思うんですよね。そういう意味ではゾンビというのは気になる存在ですね。一般的にはゾンビに生前の記憶や自我はないことになっているようですが、もし残っていたらどうしたものか……。私は、相手が愛する存在なら食われるのは全然オッケーです……って、これ言うと結構引かれるんで内緒です(笑)
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雀部 |
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私も喰われるのは痛いので遠慮したいです(汗;)
青木先生のお話って、割と強烈に匂いとか手触りを感じることがあって、そこが好きなんですけど。「銀の鋏」の腐葉土と土塊の手触りとか匂い、『憑融』の川面に浮かんでいる死んだ魚の白い腹と同じようなぷよぷよした感じとか。
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青木 |
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ありがとうございます。文章で五感に訴えるのはいつも目指しているところですので、そのように感じていただけるととても嬉しいです。
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雀部 |
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五感と言えば、『イミューン―ぼくたちの敵』の作中に絵の具の名前が出てくるのですが、ご自身でも絵を描かれるのでしょうか。
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青木 |
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はい。実は元々は漫画家志望だったんです。高校では美術部にも入っていましたので、多少の絵心はあるというか、昔はありました。
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雀部 |
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ご自分で挿絵とかは描かれようと思われたことはないのでしょうか。
片理先生は、夢幻∞シリーズの「ミスティックフロー・オンライン」の挿絵をご自分で描かれてますが。
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青木 |
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片理さんはすごいですよね。私はもうすっかり腕が衰えてしまいました。それに単純に、人に描いてもらうのも楽しいのです。「ああ、私の文章はこんなイメージで伝わっているんだ……」みたいな発見にわくわくします。
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雀部 |
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読者のほうも、良い挿絵があると想像力の助けになりますし。
お好きな漫画家とかお好きなマンガ作品を教えて下さいませ。
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青木 |
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その時々によって填まる作家さんは変わるんですが、諸星大二郎さんはわりといつも好きですね。伊藤潤二さんも好きです。ホラー漫画好きなんですね。
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雀部 |
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諸星大二郎先生は、お好きな方多いですね。
美術というと、《つくもの厄介》シリーズで主人公の豊志郎の「絵魂」って、美術部出身者的にはどうなんでしょうか?(笑)
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青木 |
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私、美術部的にはみそっかすだったんであれですが、マンガを描いているときには時々どういう弾みでかすごくいい絵が描けることがあったんですよね。後で見て「えっこれほんとに私が描いたの?」みたいな。まさしく自画自賛ですが、ああいうのが魂かもしれません。まあ、実際には紙から出てこられても困るんですが(笑)
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雀部 |
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思ったときに紙から出せるなら、それこそカプセル怪獣になりませんか?(笑)
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青木 |
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ほんらい絵魂は知性も自我もいまいちな、下等の化け物というと聞こえが悪いですが、そういう存在なので、カプセル怪獣のように言うことを聞いてくれないでしょう(笑) アラはかなり例外ということで。
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雀部 |
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アラは例外なのか。骨になった魚の「人化け」が優秀だったとは(笑)
豊志郎の描き出す「絵魂」と、「人化け」や「地化け」の闘いも見てみたいです。
この《つくもの厄介》シリーズは12巻の「這う女」が一番新しいみたいなのですが、“黒貂”もまだ捕まってないし、続編はまだでしょうか。個人的には、るいさんが愛おしいし(笑)
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青木 |
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お待たせして申し訳ありません。しばし休止しておりましたが、近日中に再開予定です。これはややネタバレになりますが、実は主人公の豊志郎は鳥山石燕の少年時代という設定なんです。細かい考証はところどころ変えていますが史実では八十歳近くまで生きた人ですし、大岡越前守の町奉行在任期間ももうしばらくありますので、話はまだまだ続きます。るいも活躍しますのでどうぞご期待ください。
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雀部 |
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鳥山石燕って『画図百鬼夜行』の。なるほど確かに話が繋がりましたし、期待度も上がりますね。
関西学院大学文学部卒業後に大阪文学学校昼間部・通信教育部で学ばれたそうですが、どんな授業だったのでしょうか。
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青木 |
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大阪文学学校は文章塾ですので、授業は学生が作品を書いて提出し評価を受ける形になります。ただ、この学校に特徴的なのは講師が添削するのではなく学生同士で評価し合うところですね。私が学生で在籍していたのは二十年以上前ですが、それは今も変わっていません。
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雀部 |
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はいはい。私もそれと同じようなこと堀晃先生主宰の「ソリトン」でもやりました。無記名でショートショートを書いてお互いに批評し合い互選するやつ。まあ、私は才能無かったんですけど(汗;) しかし、二十年以上続いているのは凄いですね。
同学校夜間部で教鞭を執られているそうですが、どういった授業なのでしょうか。
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青木 |
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上でも申し上げましたように基本は学生同士が相互に評価する形ですので、私はクラスの方向付けをする感じで進めています。そのあたりはクラスによってかなり自由なんです。学生さんも二十代の方もいれば八十代の方もいますし、同人活動中心の方から本格的なプロ志望の方まで様々です。直木賞作家の朝井まかてさんや同賞候補の木下昌輝さんなどもここの出身ですね。
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雀部 |
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なるほど、大阪近辺の文学を志す方は要チェックの学校なんですね。
ご所属の大阪女性文芸協会では、どんな活動をされているのですか。
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青木 |
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協会の主な活動は「大阪女性文芸賞」という応募者を女性に限った文学賞の運営ですので、それ関連の仕事ですね。私自身もこの賞の第15回の佳作受賞者なもので、そのつながりで。
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雀部 |
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それはなかなか大変そうな仕事ですね。
あと、「SF Prologue Wave」に掲載されている短編について教えて下さい。トップページの左にある「作者別索引」から“青木和”さんの"Tags"をチェックすると、ずらずらっと読むことが出来ますね。書かれているショートショートはファンタジー系(おとぎ話系か奇談系?)が多いように感じましたが、もっとSFっぽいものは書かれないのでしょうか。
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青木 |
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日常系ホラーが私の基調でしたので、そちらの方を中心に書かせていただいてます。ですがアイデアはありますので、いずれお目にかけることがあるかもしれません。
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雀部 |
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楽しみにお待ちしております。
そういえば、「ある市職員の遺書」(『月刊アレ!』'13/02月)がありましたね。これは生物学ネタのSFで、長編4冊も生物学ネタ、短編も生物学ネタが多い感じがしました。ひょっとして生物学がお好きとか、もしくは生物学(生化学)と日常系ファンタジーの相性が良いと言うことでしょうか?
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青木 |
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生物学は大好きです。本当は大学もそちらへ進みたかったのですが、数学が壊滅的に苦手なもので受験で躓きまして(笑)
日常系との親和性と言えば、確かに他の分野より高いかもしれません。生き物の世界は実に不思議に満ちていますが、その不思議がその辺に普通にごろごろ転がっているわけですから。
「ある市職員の遺書」も、さらに細かい世界設定が実はあります。作中に出てきたのはほんの一部で、いつかその世界設定を使ってまた書いてみたいですね。
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雀部 |
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おっと、その新作も期待してます。>細かい裏設定
今回はお忙しいところ、インタビューに応じていただきありがとうございました。
新作、首を長くしてお待ちしております。
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