地球の衛星軌道上に浮かぶ巨大博物館苑――“アフロディーテ”。そこには、全世界のありとあらゆる美術品、動植物が収められている。
音楽・舞台・文芸担当の“ミューズ”、絵画・工芸担当の“アテナ”、そして、動・植物担当の“デメテル”――女神の名を冠した各専門部署では、データベース・コンピュータに頭脳を直接接続させた学芸員たちが、収蔵品の分析鑑定・分類保存をとおして、“美”の追究に勤しんでいた。
そんな博物館惑星に赴任したばかりの新人自警団員・兵藤健は、同じく新人で、総合管轄部署“アポロン”配属の尚美・シャハムらとともに、インタラクティブ・アートの展示管理や、強欲な画商などにまつわるさまざまな事件に対処することになるが……。
アフロディーテの自警団員・兵藤健は、同期の総合管轄部署の尚美・シャハムらとともに、創立50周年記念フェスティバルの夜、国際的な贋作組織の摘発に臨む……。
東京湾に新設された超巨大フロート建造物“プリン”のメインテナント“サロン・ド・ノーベル”には、美容に関するすべてが収められていた。
理想の化粧品や美容法を求めて彷徨う“コスメ・ジプシー”たる岡村天音は、大学の先輩が生まれ変わったような肌をしていることに驚く。彼女は“美容+医療”を謳う革新的な企業コスメディック・ビッキーの“素肌改善プログラム”を受けたというのだが……。
やがて“ビッキー”は、アンチエイジング、身体変工などの新商品を次々に発表し、人々の美意識、そして生の在り方までを変えていく、驚愕の連作短編集。
登場人物は、アスリートだったり、一世を風靡した元歌手のおばあさまだったり、ビューティコンテストの優勝を狙う整形美女だったり、若作りの一般人だったりと多彩ですが、各短編の登場人物とその物語は独自の世界観で緩やかに繋がっていて、知らぬ間に菅ワールドを堪能することになります。
題名は、本文中に紹介のあるとおり、長唄「京鹿子娘道成寺」の“誰に見しょとて 紅鉄漿つきょぞ”から。“コスメディック”は、コスメティクス+メディックの造語。
冒頭と各章のはじめに適宜挿入された太古バージョン。太古の昔から化粧(刺青も含む)がどのような意味と価値を持っていたかが語られ、現代の化粧や整形美容のあり方とシームレスに繋がっていくところは上手いですね。太古の呪術的な意味合いの根拠が現代科学で呈示されたり、その反対もあったりとSFファンでなくてもニヤリとするところです。
肌をいったんターンオーバー(新陳代謝)させてから新しい化粧品を使うというのも、なるほどと膝を(笑) 30年以上前から実際にやっている化粧品会社があって、うちのカミさんも薦められて試してみたんですが、最初の段階で躓いて(肌荒れが酷かった)その化粧品を使うまでは至りませんでした。
自傷行為を扱った「シズル・ザ・リッパー」も興味深いです。太古の昔から、人間は身分証明や呪術的目的のために皮膚を傷つけ(身体の一部を変形させ)てきました。
V・ブラムは美容整形と自傷者を並べて論じていて、“心の内部が切断される恐怖を、身体という外部を切断することでコントロールする”、“自傷行為(美容整形)を通して、「社会秩序や制度や家族生活の構造・精神を失望や断片化から保護する」のだという”。とすれば、静瑠が人工鰓を選択し、トシがリルと同じ道を選ぶのは必然だと思いますね。
香りのアイデアとしては、どんな化粧品を混用しても変な香りにならないようにする基材〈ステラ〉が凄いです。コスメの分野だけではなく、全ての臭うものにも応用が効き、介護施設などでも使われる〈メディカル・ステラ〉は、尿臭も和らげる効果があるという優れものです。
一般的なアロマとか香りについてまとめてみました。「アロマ・ハーブ・精油」
また“コスメディック・ビッキー”の産みの親=社長の娘で、イメージキャラでもあるリルが、不幸な事故(?)により皮膚が損傷し、それ故に皮膚感覚が鋭敏になるところは、ありそうで上手いですね。『第三の脳――皮膚から考える命、こころ、世界』によると、皮膚は、脳・消化器官と並ぶ思考回路で、色を識別し、電波を発信し、情報処理を行うそうですから。
このアイデアと、皮膚に異物が混入しているが為に良く“見る”ことができる〈炭埋み〉から、〈日留子〉と〈日見子〉へと続く異能の系譜との対比も見事でした。
サイバーパンクはまったく判りません。ストレートに、美容から発展させた話です。資料と称して、5年くらいお化粧系やハリウッドゴシップ系の雑誌を買ってました。
化粧業界は、ちょっと科学用語を使うと「効きそう」な雰囲気を出せるから、似非科学っぽい広告もあって面白いですよ。テロメアを伸ばすだなんて、そんなことできるなら素晴らしいですよね……って、これは誇大広告に対する嫌味ですが。インビトロではできるかもしれないけど、化粧品に入れて肌に塗ってもなあ。シミを、ターンオーバーで早く排出させる派と、作らせない派の戦い――いや、私が勝手に脳内で戦わせてただけなんですが――も面白かったです。
古代から綿々と続く化粧(と美容)の取り組みが発展・進化するとサイバーパンク風の展開になってしまうとは思いませんでした。
最近髪切りに行ってる美容院のお兄ちゃん(SFは全く読んだことが無い)に読ませたら面白がってましたね。
動物が求愛や威嚇のためにするディスプレイはよく知られてますが、人間も同じなんですね。
人間は外見で人生が変わります。もうこれは断言します。自分に自信がある人は、態度にも出る。美容や医療でいい人生をゲットできると思っています。その考えを敷衍させたらどうなるか、という作品でした。
個人的には、太古バージョンで卑弥呼の周辺を書けたのが充実感に繋がりました。
太古と現代の呼応と対比が面白かったです。一番好きなキャラは、元歌手で今は一切の人工物を身体に入れることを拒否する意固地なおばあさんと化している藤崎多美恵。後見人の殺し文句で骨折治療とビューティークリニックのイメージキャラクターを務める仕事を引き受けますが、曰く「これからの人生で一番若いのは、今この時です。一秒後には一秒歳を取っているんです。先で後悔しないように、今すぐ、もう一度賞賛と嫉妬を浴びるチャンスを捉えましょう」と。凄いです、80過ぎの女性も、やはり芸能人の血が騒ぐとみました。これはどういうところから思いつかれたのでしょうか。
なにかのコマーシャルで、同じようなことを言っていたんですよ。今が一番若いんだ、って。ほんとうにそうだなあと思います。思い立ったらいろんなことにすぐさまチャレンジしないといけない。〈ビッキー〉のない現実では、若さを巻き戻すことはできないですからね。
2008年〜2013年だから足かけ6年、けっこう長期の連載でしたが、これには理由があるのでしょうか。
マガジンの注文のせいですね。連載枠と海外紹介枠でパンパンで、なかなか注文がありませんでした。それだけのことでございます。
なんと(笑)
文中の“時が〈満ちて〉た”という言葉に代表されるように『誰に見しょとて』は、化粧を通して語られる壮大な菅先生流の『幼年期の終わり』のような気がしました。
日本発×日本初のノンバーバル(=言葉に頼らない)パフォーマンス『ギア-GEAR-』をビジュアルブック化。
最初、普通の絵本だと思って読み始めたのですが、登場人物(ロボロイドたち)の行動をみて、やっと、あ、これは舞台だなと気がつきました(汗;)
バージョンアップしたそうです。予告編動画あり。
凄いです。現在(9月)、土日のみ12時〜と17時〜の二回公演みたいですね。
ぜひ見てみたい。京都へ行く理由が増えた(笑)
『GEAR [ギア] Another Day 五色の輪舞』は、どういう経緯で書かれることになったのでしょうか。
コンセプトアートの山田章博さんご夫婦に、同じ京都ということもあってよくしていただいているのです。チケットをいただいて観劇したら、すごくよかった! 家族みんなではまってしまいました。
その様子を、出版ワークスの編集さんがご覧になってて、最初はもっとがっつりしたノベライズのお話をいただいたんです。
けれどちょうどその頃、ノベライズ仕事が立て続けだったので、私が二の足を踏んでしまいまして。せっかく山田さんがいらっしゃるんだから、山田さんの絵をもっと見たいというファン心も下心もありまして。それで、ビジュアルブックのような形はどうですか、とご提案しました。
正方形に近い判型なのは、「ミッフィーみたいな感じがいいです!」と言ったせいです。すみません。
書かれるにあたって苦労されたところはどこでしょうか。
文章が映像に勝てないことは判っていますから、それでも文章でよかったな、と思えるように――これが第一目標でした。
最初から「擬音に凝る」と決めて、物語口調で書き起こしました。擬音好きなので、これは苦労というより楽しかったですね。
もうひとつの目標は、台詞のない舞台ですのでイメージでしか受け止められない設定関係を、自分なりに整理して伝えてみようかな、と。原作の小原さんの意図とは違うかもしれませんが、「日常に疲れた暗闇の世界に、エンタメが光をもたらす」というテーマを掲げました。
舞台では、悲しい終わり方だという受け止めかたもできるんです。もしかしたらあの突き放し具合がいいのかもしれません。けれど、私はハッピーエンドが好きなので、そう見えるようにテーマを自前で作った、ということですね。
でも、一番の苦労は、私がビジュアルブックなんて言っちゃったので、たくさんの絵を描かざるを得なくなった山田章博さん(笑)
素晴らしい本になりました。ありがとうございました。
いやほんと、文も画も装幀も素晴らしい出来映えです。ふつう2000円では出来ないでしょう。
擬音もユニークで素敵でした。
次に紹介する『試し読みと文章の工夫〜「放課後のプレアデス『みなとの星宙』」より〜』の中でも菅先生が、“拙作『誰に見しょとて』の時にも、水中のシーンで「のん、と、ひとつキックを繰り出し」と書いたのを、ミュージシャンの方に褒めていただきました。”と書かれていて、音にこだわる方(菅先生も音楽家だし)は、そういう語感の感覚がわかりあえるし評価されるんだなぁと……。
単行本『アンパン的革命』(1996年・アスペクト刊)を一部改稿し、2014年現在の補足と新作エッセイを加えたもの。
「アオイホノオ」(島本和彦)の少し後、いわゆるバブル期。「ナディア」の頃のガイナックスも舞台の一部となっている、お笑い日常エッセイ。京都やSFへの思い入れも。一般誌掲載だったので、多少猫をかぶっていますが、スガと楽しい仲間たち(?)の生態はこんな感じです。たくさん売れたら、ダンナ(武田康廣)のエッセイ集『のーてんき通信』もKindle化したいです。(大変面白かったので、コメントとか突っ込みを別ファイルであげてます。『アンパン的革命』)
「みなとの星宙」の試し読み(400字詰め原稿用紙約20枚)に加え、ちょっとした文章術(約20枚)も付けました。(→作家志望の方にもお薦め)
書籍「みなとの星宙」とTVアニメ「放課後のプレアデス」が一人でも多くのお目に止まるようになれば幸いです。
谷口悟朗×黒田洋介のヒットメーカーコンビが、3DCGスタジオのサンジゲンと共に手がけた最注目のSFアニメーション『ID-0』。オリハルト鉱石と記憶を無くした永劫変性者(エバートランサー)であるイドの物語を、『博物館惑星』の菅浩江がノヴェライズ。
発掘したオリハルトの中から出現した謎の少女――アリス。彼女を保護したエスカベイト社のストゥルティー号に、惑星連盟軍が、条約遵守機構が、そして移動天体が次々と襲い掛かる! 幾多の危機を乗り越えたイドたちは、失われた過去の記憶とオリハルト発見にまつわる恐るべき真実を目の当たりにするのだが……。最注目アニメのノヴェライズ、全二巻完結。
アニメのダイジェストとかも見ることが出来ます。
『アンパン的革命: バブル時代エッセイ集』、面白かったです(爆笑)
あまりに面白かったので、受けたところ茶々を入れたいところは別ファイルにまとめてます。
SFファンなら爆笑必至。もちろん一般の方も。バブル期を知っている人ほど楽しめると思います。未読の方はぜひぜひ。
決して後悔はさせません。
このエッセイは、バブル期に出ていたすごく立派な転職雑誌に連載していました。ほんとうにごくごく普通の方々がお読みになるので、楽しいオタ活……当時はこんな言葉はなかったですが……を、自分自身が楽しみながら書きました。人を笑わせるために文章を書く、という修行でもありましたね。
よくもまあ、これだけイロイロとドタバタしてたなあ、といつ読んでも遠い目をしてしまいます。
アニメ関係で困ると、この人ということで、迷子@岡山さん。よろしくです。
「ID-0」の感想をお聞かせ下さい。
「ID-0」当時リアルタイムで視聴していました(録画ですが)
小説も早速電子図書で読んでみました。
ノベライゼーションされた小説は、設定、心理状態が更に分かり易く感じました。
アニメでもしっかりSFしてました。「観測されて初めて云々」のセリフも。
ライトノベルやゲ−ムの効力でしょうか?
SFアニメに一般の方もついていける時代になったのでしょうね。
早速ありがとうございます。
ほとんど最近のアニメは見てないのですが、けっこう本格的な“設定”をしている作品も多い感じがしてます。『STEINS;GATE』(2011)とかも(見たのが今年なんで^^;)
ライトノベルでは何でも有りです。(「並行世界」何それと言う時代も有ったのですが下記のセリフが出てくるのですから、)
「絶対必中、絶対即死『インフィニティ・デストロイヤー』お前等は死。過去、現在、未来、並行世界、分岐世界、因果律、この世の全ての事情にも何者にも阻止出来ず、ただ、消滅あるのみ! 無限、永遠、亜光速でもたらされる死を思い知れ!」
ゾンビ系アニメでも、ゾンビそのものはともかくとして(笑)その他の設定はまずまず整合性がとれていて、ちょっと感心した作品もありました。
「ID-0」の作画は綺麗でしたが、方向性は私の理想とはちょっと違います。
宇宙の背景は綺麗でまずまず。
ややアメコミ風で良くも悪くも全体に熱い展開、派手に感じました。
Iマシンという人型ロボットのデザインはちょっと違和感が有りました。
意識転送はマトリックス、宇宙服のデザインはロケットガ−ルを連想しました。
女性は出演していますが萌え要素は薄く感じました。
Iマシンのキャラは表情が無いので、感情移入しにくい。
ノベライズでは一本筋が通っていますが、アニメでは後一歩突き抜けていれば、と。
題名からも推測されるように、イドの記憶とか、何をもって人間と呼べるのかがテーマぽいから、萌え要素少なめでもしょうがないです(笑)
最終決戦の盛り上げにソーラン節が流れます。
賛否両論ですが、私は有りと感じました。
しかし毎回最後の「ぷちアニメ劇場」は折角の雰囲気が壊れると思います。(お遊びについていけない)
ここは順当に用語解説で押してほしいと。
辛口批評になりましたが、個性的なアニメで観ごたえある作品でした。
アニメのダイジェストを見て、視覚的にも満たされました(笑)
迷子さんありがとうございました。
『試し読みと文章の工夫〜「放課後のプレアデス『みなとの星宙』」より〜』では、TVアニメ『放課後のプレアデス』を菅先生がノベライズされた『みなとの星宙』を例にあげ、色々な角度から「文章の工夫」のやり方を解説されてますね。
アニメの《ID‐0》シリーズをノベライズされるにあたって、心がけられたのはどんなところでしょうか。
オリジナルアニメの場合、アニメの製作者側が「設定したけど使ってない」のか「もともと設定などない」のか、という問題があります。ノベライズをするにあたって、まずは作品自体をもっといいものにしたいので、私が判らない、足りない、と思った部分は設定の有無を確認します。
「ID‐0」の場合は、どうやら雰囲気優先で作られたみたいでしたね。設定がない。またはおかしい。そこをアニメの雰囲気をそこなわないように足していけるように気を遣いました。具体的には、スケールがおかしいところは単位を抜いて書いたり。
一番たいへんで、けれど楽しく書きごたえがあったのは、アリスという少女の病気がどんなものか、と、ケインの魅力、です。アニメ版ではほんっとーーに判らなかった。設定がないのをいいことに、アカシックレコードやケイ素生命体まで持ち出してガッツリSFにしてしまいました。ケインはビジュアル的にも大好きだったので、変人だけど憎めない、だからジェニファーも好きになったんだ、という面が出ていれば嬉しいです。
放映中からファンのかたが「イドマヤ」、つまりイドとマヤのラブストーリーを望んでらして。私がわりとその方面に話を振ってノベライズしたので、喜んでいただけました。
振り返ると「鉄腕アトム」「エイトマン」の頃は原作には及ばないと感じていたのですが「魔法のプリンセス ミンキーモモ」「トップをねらえ」 オリジナルアニメ作品で楽しませてくれました。
昨今は、漫画、ライトノベルの原作が多くオリジナルアニメ作品が少なくなりました。
「ID‐0」の2017年には「Re:CREATORS」もオリジナルアニメで興味津々でした。
しかしノベライズは、菅先生の「ID‐0」が一番だと感じています。
「ID-0」小説版では「イドマヤ」もそうですが、ジェニファー、ケイン、アダムス、大人の恋愛ですね。
小説版は、アニメでは良くも悪くも軽く感じた所が払拭され整合性が上がり一級のSF作品になりました。
昨今、私の場合物語が読みたい観たいの衝動が抑えきれません。(残された時間が少なく感じる為でしょうね)
博物館惑星シリ-ズも、楽しく読ませて頂きました。
菅先生の今後の作品に期待してます。