Author Interview
インタビュアー:[雀部]
『貸し物屋お庸謎解き帖 桜と長持』
  • 平谷美樹著/丹地陽子装画
  • だいわ文庫(大和書房)
  • Kindle版815円
  • 2022.5.15発行

江戸っ子の暮らしを支えるレンタルショップをめぐる悲喜交々を描く収録作:

「桜と長持」同業者から貸した長持が湿っていて変なことに使われたのではとの相談が

「遠眼鏡の向こう」鳥を見るからと遠眼鏡を借りに来た呉服屋の若旦那。いやな感じがするのだが

「小猿の面」座興に使うからと猿の面を借りに来た番頭。延長もあるということは?

「つぐらの損料」赤子の寝床としてもつかわれる藁製のつぐら。捨て子を救おうと蔭間の面々は

「ちびた下駄」芝居に使うからと歯がすり減った下駄を借りにきた自称旅芸人。調べてみると……

「大歳の客」橋の袂にいた少女から湊屋で膳を借りて息子を訪ねろと言われてやってきた老人は……

◆人物紹介◆

【お庸】「無い物はない」と評判の江戸で一、二を争 う貸し物屋・湊 屋両国出店店主。口は悪いが気風のよさと心根の優しさ、行動力で多くの味方を得、持ち前の機知でお客にまつわる難事や謎を見抜いて解決する美形の江戸娘。

【幸太郎】庸の弟。両親の死後、数寄屋大工の名棟梁だった仁座右衛門の後見を得て大工の修業に励んでいる。

【りょう】生まれず亡くなった庸の姉。童女姿の霊となって庸の実家に棲み、家神になるための修行をしている。

【湊屋清五郎】浅草新鳥越町に店を構える貸し物屋・湊屋本店の若き主。「三倉」の苗字と帯刀を許されており、初代が将軍の御落胤であったという噂もある。

【松之助】湊屋本店の手代。湊屋で十年以上働いており、両国出店に手伝いに来ることも多い。

【半蔵】清五郎の手下。浪人風、四十絡みの男。

【瑞雲】浅草藪之内の東方寺住職。物の怪を払う力を持つ。

【熊野五郎左衛門】北町奉行所同心。三十路を過ぎた独り者。庸からは「熊五郎」と呼ばれている。

 「招き猫文庫」(白泉社)から刊行された既刊四巻の概略はこちら
『霊は語りかける 実録怪談集』
  • 平谷美樹・岡本美月共著
  • 2022.6.18、ハルキ文庫
  • Kindle版、597円
  • Kindle版は、2012.7.18発行の第一刷を底本とした電子版。
 ある峠で起きた恐怖の出来事、船旅での怪事件、古いマンションに棲みついていた見えないモノ、どこかで聞こえる不思議な足音……「百物語」を上梓してきた著者のもとに集まってきた、奇妙で恐ろしい話の数々。全三十三篇を収録した、新たなる怪談集
 東日本大震災に関連した話や釣り人の話が多数収録されています。UFOの話もあります。
実録怪談集
雀部  >

前回のインタビューの際に“だいわ文庫から5月刊行予定”とおうかがいしていた平谷先生の《貸し物屋お庸謎解き帖》シリーズがついに刊行されたということで、またインタビューをお願いすることになりました。今回もよろしくお願いいたします。

平谷  >

よろしくお願いします。お待たせしましたの《貸し物屋お庸》です(笑)

雀部  >

《草紙屋薬楽堂ふしぎ始末》シリーズと同じく、装画は丹地陽子先生なんですね。隠れファンなので嬉しいです(笑)

長谷部 >

はい、平谷さんから、装画を薬楽堂と同じ丹地さんにぜひ、というご希望もいただき、無事お受けいただけました。

お庸さんの魅力をとても素敵に表現していただけたと思います。(帯無し書影はこちらに)

雀部  >

お庸ちゃん、可愛いです。「綾太郎をはじめとする蔭間衆が良い味出していて大好きなので、ぜひ装画にも登場させて欲しいです。ご一考をお願いします。」とお伝え下さい(笑)

長谷部 >

作中のお庸さんも装画のお庸さんも本当にかわいいですよね。新キャラクターの綾太郎もかっこよく、魅力たっぷりで私も大好きです。装画のことはこれからの話ですが……お伝えしますね。

雀部  >

まあ、綾太郎が再登場して大活躍しないと無理ですよね(笑)

お庸ちゃん、しっかりしているようでも、まだまだおぼこ娘なので、読んでいてつい応援しちゃいます。父親目線というか、まあ父親だったらあの男は止めておけというかも(笑)

女性目線だと、どういう所が読みどころでしょうか?

長谷部 >

情にあつくて知恵もあり、美形で口が悪い、しかも純情、というのは女性読者から見ても応援したくなるのではと思います。恋の行方が気になる女性読者も多いかもしれませんね。お庸さんはわたしにとっては娘世代ですので、別の意味で恋愛事情は気になります(笑)。

女性に限らないと思いますが、人情をもってお客の抱える厄介事を解決するお庸さんの謎捌きの痛快さ、ときにホロリとさせられる優しさ、周囲の人を巻き込み、かつ助けながら成長していく姿などは、やはり大きな魅力ですし、読みどころだと思います。

雀部  >

やはりそうなんだ(笑)

《貸し物屋お庸》の設定上の魅力というと、TV番組の「家、ついて行ってイイですか?」のような他人様の生活をのぞき見する面白さと、なぜそんな品物を借りる?という謎解きの魅力かなと思いつきましたが、他にはあるでしょうか?

長谷部 >

重なりますが、貸し物屋が舞台なことが、設定の魅力の要ではと思います。江戸っ子の暮らしに寄り添う貸し物屋だからこそ、些細なことから重大なことまで、日常の謎的な事件や不思議が吸い寄せられてくるというか……。

雀部  >

悪者も吸い寄せられているのかも(笑)

で、平谷先生、どうなのでしょう。蔭間のみんなは、自分たちが苦労してるから他人が困っているのを見ると損得勘定抜きで助ける心意気があって、このシリーズにぴったりのキャラだと思います。これからも活躍するのでしょうか?というか、して欲しいです(笑)

平谷  >

綾太郎たちは、これからも活躍してもらうつもりです。以前から蔭間を主人公にした捕物帖のようなものを書いてみたいなと思っていたのですが、シリーズ再開の新キャラとして出したのでした。

お庸に恋をする男としても、彼女と対等に渡り合えるからいいかなと(笑)

雀部  >

あ、それ良いですね~。新シリーズ希望します(笑)>蔭間が主人公

両刀遣いになるのかな。当然江戸時代にも「LGBTQ+」の方たちは居たと思いますが、生計を立てるため(職業としての蔭間)にやむなくなっている人も多かったのでしょうか。

平谷  >

どういうネタで書けばいいかなと迷っていたんですよ。彼ら単独で物語を作るのは難しそうで。

まずはお庸と絡ませて、方向性が見えたら考えます(笑)

雀部  >

お得意の傑作隙間シリーズかな。天下を揺るがす時代小説巨編も歓迎します(笑)

以前のレーベル(招き猫文庫)は、時代小説のラノベ枠(栞に“ネコろんで読める時代小説”とあり)だとうかがったことがあるのですが、書くスタンスはお変わりになってないでしょうか。

平谷  >

お庸はあまり「ラノベ」という意識をしないで書いていましたね。「若い女性が読む」というのは多少意識しましたが。お庸の口の悪さを嫌う人はけっこういるようで(笑)

お庸も色々と経験して少しずつ変化しているのですけどねぇ。

今回は鉢野金魚とあまり変わらないくらい口調はおとなしくなっていると思うんですが(笑)

雀部  >

鉢野金魚とあまり変わらないくらいだと、おとなしくなったとは言わないかも(笑)

平谷  >

お庸も大人になって来たので、めでたしめでたしのハッピーエンドじゃない話も入れてみました。

もしかしたらこれから、ケチョンケチョンにやられてしまう話もでてくるかも。

雀部  >

あれとあれですね。>ハッピーエンドじゃない話

まあ、ケチョンケチョンにやられてもお庸ちゃんなら大丈夫でしょう!

大人で思い出したのですが、最近なろう系の小説の主人公がオジさんになってきていて、その理由が、元々なろう系の読者は若者だったのが年を経てオジさんになっているので当然の帰結であると言われているとか。

ということは、《貸し物屋お庸》の読者層も高年齢化しているのかなと。女性読者層のことは全く想像が付きませんが(汗;)

平谷  >

どうでしょうねぇ。作者は高年齢ですが(笑)

以前、誰かから本を買った人の年齢別のデータを見せてもらったような気がします。そういうのが分かれば、ネタの方向性の参考になるかなと(笑)

雀部  >

孫なんかほとんど本を読まないですからねぇ。読者層はこれから段々高くなるのかも。

読者層というと、《貸し物屋お庸》シリーズは今回レーベルが変わったので、初めて読む読者の方と招き猫文庫の頃からの読者の方といらっしゃるわけですが、そういう方面でのご苦労はあったのでしょうか?

平谷  >

前のレーベルのシリーズでは、本編の裏で進んでいた物語がありました。それを今回は新しい読者もいると思うので棚上げにしました。次の巻からはその話を引き続き書こうと思っています。

雀部  >

ありゃ何だっけ?ということで読み返してみました(汗;)

そうか、神坂家がらみの話がありました。伊達藩に近いということで、黒脛巾組(くろはばきぐみ)も出てきたのに忘れてました(汗;)

お家騒動になるのかなぁ。ワクワク(笑)

平谷  >

それはナイショですよ(笑)

レーベルが続いていたら、五巻で大きく動く展開を考えていましたが、新しく始まったのでまた少しずつですかね(笑)

雀部  >

また裏で悪巧みが……?

今回読み返してみて、亡くなったお庸の姉のりょうの存在も良い味出していて好きです。おりょうが、守り袋と繋がるところは、シュレディンガーの猫みたいで、ちょっと納得させられました(笑) おりょうにも活躍して欲しいけど、あまり徳を積むと登場がなくなりそうなので困ります(汗;)

平谷  >

霊が存在する理屈を考えて、そこからはみ出さないように書いています。何でもアリでは面白くない(笑)

お庸が成長するようにおりょう姉ちゃんも成長しますからね。たぶん、いつかは別れの日が来るかも。といっても、イエガミになるのですから、実家にいるんですけどね(笑)

雀部  >

なんと、霊も成長するんですね。

今回『貸し物屋お庸謎解き帖 桜と長持』でも、相変わらず清五郎にほの字のわりには言い出せないお庸ちゃんですが、いつまで平谷先生がこのまま引っ張るのかも気になりますね(笑) 個人的には、このままの状態を維持希望(笑)

平谷  >

神坂家の件が決着した後、変化があると思います。詳しい話はナイショです(笑)

実は、どう転がるか、わたしにも見えていないところがありまして。だからわたしもその話を書くのが楽しみだったりします。

雀部  >

そうなんですね。すでに主人公たちは作者とは無関係に勝手に動き始めたのか(笑)

著者インタビューをしていてよくうかがう話ではありますね。

今回はお忙しいところインタビューありがとうございました。

売り上げが好調で、続編がどんどん出るという続報をお待ちします。

平谷  >

そうなると嬉しいですけど(笑)

なんだか既刊の読者には評判はいいみたいですね。新しい読者も増えて欲しいところです。

雀部  >

ですです(笑)

そういえば最近Kidle化された、平谷先生の『霊は語りかける 実録怪談集』に通ずるものがあるなあと感じました。鎮魂とは、死んだ人だけではなくて、残された人々のための言葉でもあります。

大和書房の長谷部さまも、度々ご登場いただきありがとうございます。 

《貸し物屋お庸》がドル箱シリーズになるとか、NHKでTVドラマ化されるとかを期待してお待ちしてます。

長谷部 >

こちらこそありがとうございました。これからも応援よろしくお願いいたします!

雀部  >

それには「アニマ・ソラリス」の認知度を上げなくては(汗;)

精進いたします。

[平谷美樹]
1960年岩手県生まれ。大阪芸術大学卒。2000年『エンデュミオンエンデュミオン』でデビュー。同年『エリ・エリ』で第1回小松左京賞を受賞。14年「風の王国」シリーズで第3回歴史時代作家クラブ賞シリーズ賞を受賞。近著に《よこやり清左衛門仕置帳》《蘭学探偵 岩永淳庵》シリーズ、『柳は萌ゆる』『でんでら国』『鍬ヶ崎心中』『義経暗殺』『大一揆』『国萌ゆる 小説:原敬』、電子版のみで100巻超えの《百夜・百鬼夜行帖》シリーズなど多数。だいわ文庫からは《草紙屋薬楽堂ふしぎ始末》シリーズが出てます。
[雀部]
《草紙屋薬楽堂ふしぎ始末》シリーズ全六巻は完結しましたが、新たに《貸し物屋お庸 謎解き帖》シリーズ刊行ということで、大和書房編集部の長谷部さまも交えて《貸し物屋お庸》の魅力に迫ります。Kindle版では冒頭の試し読みも出来ますのでぜひ!