「虚ろ羽の飛ぶ海」羽になった腕を持つ少女の話。
「子羊の惑う街」羊毛が生えてきた少女と兄の話。
「鰐の歌う淵」鰐になってしまった人間の話。
遺伝操作を生業とする生体操作師・音喜多(おときた)。自身も何種もの“異種キャリア”を抱えている彼の元に、様々な事情を抱えた者たちが訪れる……。
「花と揺れる嘘」寿命が迫る異種遺伝子キャリアが最後に残したいものは?
「金色を渡る鳩」代々伝書鳩を操る異形の一族たちの矜持。
「人魚が融ける指」急遽「出荷」が決まった食用人魚の行く末は?
「魔女の語る森」死んだ祖父が少年に遺したペットは皆に疎まれるキメラ動物だった。
「烏(からす)を屠(ほふ)る旅」音喜多の相棒・雪晴、その少年時代そして二人が出会うまで。
「千を視る蛇」基準外キメラの連行が続く街で、よく当たると評判の盲目の占い師が現れた。
「樽の中の芥子畑」合成酵母菌による密造麻薬が流行る水没街、薬屋の女店主の秘密とは。
上記2編+番外編「午後の海上にて」を収録。
「海を飼う者」(前中後編) 海中から届く信号は誰かの脳波?その正体とは──音喜多の出自にまつわる連続短編。商業誌終了後、作者個人にて続編を制作した「人間と他生物を分かつものは何か」を問う医学生物系SF、ついに完結。
収録作:「ガーベラの教室」「デンデンヴァルトの素敵な日」(カエル王子におはよう, マイマイハロー, 冬のおやすみ)「金魚鉢症候群」「スナイパーCの赤い糸」「赤と青の悪夢」「夏とメダカと僕」「サンタ村の夜」「花粉山の神さま」「現代吸血鬼観察録」「君の薫る星」
その他の著作と詳しい感想は、永田礼路先生ブックレビューにあります。(前編/後編)
書影が表示されない場合は「永田礼路先生著者インタビュー関連本」参照
今月の著者インタビューは、昨年9月にシリーズ最終巻の『螺旋じかけの海(5)』が完成した永田礼路先生にお願いできることになりました。
永田先生初めまして、よろしくお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
《螺旋じかけの海》の5巻を出して12月のコミティア146に出てしばらくぐったりしていたのですが、お答えできる元気が出てきました(笑)
お疲れのところ、ありがとうございます(笑)
有名な「コミケ」とは違う、オリジナル作品に限られた「コミティア146」というのがあったんですね。毎年参加されているのでしょうか?
コミティアは年4回あるのですが、2019年の5月から毎回参加しています。皆勤賞です笑
皆勤賞は凄いですね。コミティアやコミケにも全く疎いんですが、コロナが一段落ということで、盛況のようですね。そういえば昨年の暮れに、永田先生の著書も印刷している「栄光」が“「うちには注文しないで」と異例の呼び掛け”をしていて驚きました。
大型イベントが集中したためらしいのですが、他の印刷所さんでもパンク気味のところがあったり、コミケ時期はやはり大変そうです。
でもそれだけ紙の同人誌を今でも作る人が多いということは多分嬉しいことでもあるのだと思います。
自分も栄光さんやいくつかいつもお願いさせていただいてる印刷所があるのですが、いつも綺麗に刷ってもらってありがたいので、なるべく日程に余裕を持って早割入稿できるぐらいに心がけています…笑
『やさぐれた外科医がSF漫画1000P描く漫画』に締め切り厳守だったと書かれていて、そう書かれているってことは、普通は締め切りというものは守られないモノだと(笑)
申し訳ないことに今まで全く存じ上げなかったのですが、Xで《螺旋じかけの海》シリーズのツイートが流れていて、試しに一巻目を読んでみたら滅法面白くて、すぐに全部読ませていただきました。ネットでは、ずっと続刊を待っていたファンの方達も大勢いらして、二日で全巻読めた私はなんかズルした気も(汗;)
ありがとうございます。5巻発売の前後はかなり頑張って宣伝したのですが、頑張った甲斐がありました。
紆余曲折あって1巻が出てから5巻が出るまで8年ほど経ってしまったので、気長におつきあいいただいた方々には本当に感謝しかありません。
おかげで5巻まで辿り着けてこうしてたくさんに人に読んでいただけてよかったです。
多分完結しないとこうして出会ってもらえなかった方も多いと思うので…笑
はい、私がまさにそのひとりです(汗;)
その間の諸事情は『やさぐれた外科医がSF漫画1000P描く漫画 前・後編』に詳しく書いてあり、これもとても面白いし、なんと無料で読めるという太っ腹な企画なのでぜひ皆さんに読んで欲しいですね。
Kindleインディーズにありますし、Pixivでもnoteでも読めます! 螺旋の宣伝のつもりで描いていたら100Pも描いてしまいました…
うかがいたい事とか経緯がほとんど描かれていて、とても面白かったです。
その『やさぐれた外科医がSF漫画1000P描く漫画』の冒頭あたりに、“虫が友達”と書いてあって、手塚治虫先生を思い出してしまいました。私は、小学校の頃に手塚先生のマンガを読んで育った世代なんです。
私はリアルタイムの手塚漫画世代ではないのですが、学校の先生に大量に貸してもらったりして間違いなく手塚漫画で育った部分があります。
いい先生だなぁ(笑)
どんな作品がお好きだったのでしょう。『ブラックジャック』は医療マンガだし、『どろろ』も百鬼丸が自分の身体を取り戻そうとする話ですし。
ブラックジャックはどハマりして自分でも全部買いましたし、ブッダ、アドルフに告ぐ、どろろ、きりひと讃歌、やけっぱちのマリア…かなりたくさん読み漁りました。中でも火の鳥のスケール感がすごく好きで印象に残っています。
そうか『きりひと讃歌』も医療系でしたね。特に《火の鳥》シリーズは手塚先生のライフワークでもあるし問答無用の傑作ですね。
その他で、お好きなマンガとかアニメがあったら、教えて下さい。
アニメは子供の頃シティーハンターとルパン三世が大好きでずっと見ていました。シティーハンターは漫画も全巻買ってたら父親も一緒に読んでいました。
大人になってもマッドマックス(映画ですが)とかドンパチしたものが結構好きですね…笑
他には蟲師や宮崎夏次系さんや道満晴明さんの漫画、市川春子さんや九井諒子さんの短編などが好きです。長編の漫画を読むのが苦手で、基本的に短編や短めの漫画が好きですね。
あまり読んでませんが、その中では、実は『性本能と水爆戦』が面白かったです(汗;)
SFではどういった作品がお好きなのでしょうか。
《岸和田博士の科学的愛情》が大好きで、一度引っ越しで手放してしまった本をまた全巻買い直しました。これをSFの最初に挙げていいのかよくわからないのですが…笑
あとは思いつくものだと「ドラえもん」「レベルE」「アルジャーノンに花束を」星新一の本全部、……短編や1話完結系ばっかりですね
元々SFに詳しいわけでは全然なく、読んでたものが後からSFだったんだなと気がついたことの方が多いです。
なので自分で描いたものも雑誌に載った時のアオリで「SFなんだ…」と自覚したぐらいなので、気がついたらSFを描いていました…。
《岸和田博士の科学的愛情》シリーズ、読んでみました。日本がまだ元気だった頃のエキスとパワーが満載で面白いです。エログロナンセンスの極みなんですが、そこがまた良いなあ(笑)
読んでいただいたんですか笑 あれを未読の方に読んでいただくのはかなり気がひけますが、面白いと言っていただけてよかったです。
そう、エログロおバカ漫画なんですがその中に妙に納得してしまう勢いと意外な整合性があったりしてすごく好きでした。そしてあの内容にあの画力…笑 未だにあの漫画に類するものを見ない気がします。唯一無二ですね
永田先生は、こういう系統のマンガを書かれる予定は無いのでしょうか?
オトとハルは、よく二人でコントやってますが(笑)
自分にはちょっと無理だと思います…思うけど先のことはわからないのと、くだらない話が元々結構好きなので気がついたら描いているかもしれません笑
ぜひお願いします。
それと、《螺旋じかけの海》の設定は、どこまで考えてらっしゃったのでしょうか。
『やさぐれた外科医がSF漫画1000P描く漫画』を読ませていただくと、設定等はきちんと数値化(まではいかなくても)し作り込まれているのではと想像してます。
いや、それが特に細かいことは全然……。元々は色んな題材を描ける舞台設定にしよう、ということで考えた設定です。ぼんやりと「こういう感じ」程度のイメージはありましたが、本当に曖昧なイメージだけで描きながらそれを具体的に固めていった感じです。最初は数値や細かいことは全然決めず、システムのイメージだけをなんとなく勘で決めていました。
勘だけで、あれだけ整合性が保たれているのは凄いです。
そういえば、第4巻の冒頭に《螺旋じかけの海》シリーズの舞台背景が書いてあって、エッそうだったのかと納得した記憶があります。
4巻冒頭はなんであらすじを入れたのか忘れてしまったのですが、あらすじを書きながら「手短にまとめるのが面倒な設定だな…」と自分で思ったのは覚えています笑
そこはまあ、SFであるがための必要経費ということで(笑)
これを読んで、また1巻目から読み直すとよく分かって、新たな発見が。
5巻には開発者自らのモルフの製作方法についてのレクチャーがありますね。
で、「異種キャリア」なんですが、これは街中に拡散してしまったモルフのせいでそうなった人々のことと考えればよいでしょうか。
そうですね、そんなイメージで描いています。
作中にも、“モルフがウィルスを作り出している。内在化したウィルスの機能を使って、自分のゲノムからウィルスを合成している。モルフの「進化」した結果を発現している。”とあり、なんとまあ厄介なモノを作り出したもんですね。
それと、オトが食い意地がはってるのは、身体に様々な変化が起こったりそれを抑えたりとエネルギーを使うので腹が減るのかなと思ってるのですが、どうでしょうか?(笑)
主人公は勢いよくものを食べてくれる方がいいかなあと思いまして笑
でもその代謝が多いせいで必要量が多いというのは途中から多少頭にあったと思います。
あの体質で少食じゃなんか釣り合いが取れないですからね…
ATPの消費量が尋常じゃないと(笑)
数少ない生物学・医学系SFですが、作者が医師ということもあり、設定的にも安心して読めてうれしかったです。
雑誌に載っていたころは特に医師ということを公表していたわけではないのですが、やっぱり自分の中で腑に落ちないと描いてて楽しくないので自分を納得させるために設定を考えていた部分はあります。
やはりそうですか。
私は「虚ろ羽の飛ぶ海」で、オトが間宮の神経組織を乗っ取って、「こいつもヒト種優生保護法基準外だから、撃ってもいいぞ」と宣言するところなんか痛快でした。
あと、描かれている女性が好みのタイプです。一番は酒場のママのモモイ(笑)
間宮は小悪党として最初から描いてて割と好きでしたね笑
女性陣はみんな強めなのですが、したたかな中高年女性を描くのはやっぱり楽しいです。中でも藤堂はその権化といった感じで個人的にはかなり描くのが楽しいキャラでした。
藤堂女史は、強い! 敵に回したくないタイプです(笑)
《螺旋じかけの海》で一番苦労されたところは何でしょうか(ストーリー、作画等)
苦労したところ…苦労…正直全部ですね……笑
何分、漫画のド初心者で描き始めたので毎回どの工程も四苦八苦しながら描いていました。1話完結のスタイルは大変でもありましたが、もともと短編好きな自分には向いているスタイルだったと思います。ネームを描く時はいつも描けるかどうか、描きやすいかどうかを考えずに描きたい流れをそのまま描くので、作画に入るたびに後悔していました笑
でもおかげで絵は見返すと少しずつですが上達したように思えます。楽な工程は正直なかったですが、5巻まで描いてみると苦労した甲斐はあったかなと思います。
御苦労が偲ばれますが、無事完結したし面白かったので良かったです。
ここは生物学的には無理があるかもと考えたけれど、ちょっとだけ目をつぶりましたというシーンはあるでしょうか。
山ほどあります笑
中途半端に知識があるせいで細かい整合性が気になる時もあって設定を詰めて考えることもあるのですが、延々考えた挙句に「まあいいか!」で全部ぶん投げることがほとんどです。
ありゃま、そうなんですか(笑)
とはいえこの工程も多分意味があって、一通り把握した上で大嘘をつく、というのが大事なのかなと思っています。自分と読者が納得できればそれでいいというのがSF漫画の良さなのでそこは大事にしています。
いや、そこは本当に大事だしSFの基本ですよね。→“一通り把握した上で大嘘をつく”
永田先生の作品に根底に流れる“やるせなさ”が好きな気がします。
人間の現代文明は、他の生物の犠牲の上に成り立っていてそれは抗えない事実だと思います。また正義は絶対的なものではなく、ヒトの数(立場)だけ正義があり、おそらく生物の種類の数だけ正義があると思います。
もし、地球が思考しているとしたら、ヒトの存在など毛の先ほども気にしてないとも思います。
著作を読ませていただいて、永田先生も同じようなことを考えていらっしゃるのではないかと想像しているのですが。
そうですね、「前向きな諦め」のような感覚はあると思います。あまりがつがつした万能感のようなものに親和性を感じないのですが、それは単に歳のせいかもしれません笑
「前向きな諦め」は言い得て妙な表現ですね。
私なんかは、もう「全方向を諦め」てます(汗;)
創作において、ご自身が医師である面とSFファンである面とどちらが大きいのでしょうか。もしくは全く別の観点から著作をされているのでしょうか。
漫画を描く上での視点は医者の仕事をしている上で感じたことは大きな部分だと思うのですが、自分は医者としても結構変わった経験をしてきた方だと思うので職務以外の経験の影響も大きいと思います。理不尽な思いをしたり諦めたりしたことも多々あったので先の「前向きに諦める」というのは自分が生きていく上で工夫して身につけたようなところが多分あります…
よくも悪くも「そういうものかな」と考えて自分を納得させることが多々あるのですが、いいも悪いもなくただ「そういうもの」としてそこにある生物の姿は神々しく見えます。
「ファントムペインファーマー」(無料)は農業系除霊師の話なんですが、ラストで“俺は友達を死なせてしまった心の痛みを、外道な方法で誤魔化している”とあり、霊の存在も含めて「そういうもの」なんですね。
そうですね、人の価値観の範囲外に存在するものへの畏怖という点では同じような感じだと思います。
もう一つ、もの凄く好きなのが『君の薫る星』、これはどれも面白い珠玉の短編集だと思います。表題作はSFだし、静謐な読後感がたまらない傑作ですが、私が敢えて一つだけ選ぶなら「カエル王子におはよう」なんです。魔女さん好みの美女だし、生存戦略がえげつないけど納得だし、みんなまずまず幸せぽいし、ラストの落ちも決まってる(笑)
ありがとうございます、自分も短編集が好きなので本を作るのは楽しかったです。「カエル王子におはよう」は初めて出した同人誌に3話1組で描いたものの1話目ですが、それまで《螺旋じかけの海》でSFを描いてたので毛色を変えてファンタジー描いてみよう!と思って描きました。みんなそれぞれ図太くて間抜け、みたいな話が結構好きで、オチは落語の地口オチ(言葉遊び)のようなものにしてみたくて作った覚えがあります。
地口オチは、SFにもありますね(笑)
もし可能なら執筆中の作品とか、出版予定がございましたら教えて下さいませ。
ちょっと変わったお仕事ですが…ムーンショット型研究開発事業という研究事業のうち脳とAIの研究分野プロジェクトでSFプロトタイピングを行なっているのですが、自分も大阪大学の先生の研究をもとに長めのSF読切を1本製作することになりました。順調にいけば春頃(4月ごろ?)公開予定なのでぜひ見てみてください。無事に完成させねば…笑
あとはまだ表だって言えるものはないです。どちらにしろコミティア等々でも何かしら描いていると思いますのでよければチェックしてみてください。
ムーンショット型研究開発制度とSFプロトタイピングは少し聞いたことがあります。医療分野にも大いに関わってきそうなのでどこまで実現できるか楽しみです(早く実現してくれないと(汗;))
永田先生の情報をゲットするのは、どこをチェックするのが一番確実でしょうか。
X(Twitter)を一番メインに利用しています。あとはPixivやnoteにもまとまったお知らせをupしていますので、どれか覗いていただければ大体把握していただけるかと思います。兼業でどうしても筆が早くはないのですが、細々とでもコンスタントに色々描き続けていきたいと思いますので、よろしくお願いします!
今回はお忙しいところありがとうございました。
新作をお待ちしてます。
読者の皆様、永田先生を応援するには、X等に感想を投稿するのが良さそうです!