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シャンダイア物語

第三部 海洋民族の島
第七章 風の岬

福田弘生

 航海百八十二日目

 トーム・ザンプタを連れて私達はアードベルの町に戻った。深い森を抜けて海が見える道に出た時、かつて翼の神の弟子だった海の妖精はしばらく動く事が出来ないように見えた。海の精霊にとって故郷から離れている事はとても辛かったのだろう。人間の老人の姿をとったトーム・ザンプタは港に着くと、あの巨大な戦艦の中央から役に立たない砲台を取り去らせた。そして溶けない氷の箱からソチャプの種を取り出すと巨大な甲板の真ん中に陣取った。
 海水を入れた小さな壺に入れられた種はすぐに芽吹いて甲板に根を張った。ベロフ男爵と私が案を出した木の囲いはとりあえずそのままで、さらに大きくまわりを囲むように船員達が工事をしている。
 トーム・ザンプタを観察する事がホックノック族を知る事になるのかどうか、私にはわからない。この生き物は始祖であって現在のホックノック族とは違うはずだから。だが私はザ・カラドを離れてから少し乱雑になり始めた部屋を出て、時々彼をたずねて話をした。その会話はとても興味深いものだった。私はトーム・ザンプタから聞いた話のすべてをリラの巻物に魔法で書き記している。実はリラの巻物には、一見するとごく普通のエイトリ神をたたえる言葉しか書かれていない。本当の秘密は魔法で刻まれ、守護者にしか呼び出せないのだ。この事はサンザ様亡き今では私しか知らない。

(スハーラ・レリスの航海日誌より)

 メソルの船を降りたテイリンは南の将の要塞の北にある森に分け入った。この森の中の獣道の先、小さな池のほとりの大木の根元にドラティの卵を隠してあるのだ。テイリンは森の木々の間をまるで泳ぐように軽やかにすり抜けると、卵を隠した木の下に立った。そして木の葉を魔法で慎重に動かして、隠しておいた卵を取り出した。魔法使いはさらに軽く指を動かしていつものように魔法で卵を軽くすると、池の水際まで運んだ。その間、森の木々はまるで見守るかのように葉擦れの音をひそめていた。
 次にテイリンは池の横に小さな穴を掘ってそこに池の水を導き入れ、胸に下げた瓶からミルトラの水を少し注ぎ込んだ。そして両手で卵を持つとゆっくりと水の中に沈めた。しばらく水の中の様子を見ていると、ザラついた卵のまわりにはすぐに細かい泡が生じ、呼吸するように水面に浮かんで来た。やがてドラティの卵は赤味を帯びてドクドクと脈動を始めた。
(竜の仔というのは強いものだな。産み落とされてから二年近く経つというのに、こうやって孵ろうとしている。それともこれがミルトラの水の力なのだろうか)
 テイリンはその夜一晩、卵を入れた水たまりの横の地面の上に横になって様子をうかがっていた。しかし卵が孵りそうにないので、まわりの木々にしっかりその場所を隠すように頼むと立ち上がった。そしてメソルからもらった別の瓶に少しミルトラの水を分けた。その瓶を腰の袋に入れると、残った元の瓶のミルトラの水に池の水を加えようと池に近づいた。しかし若い魔法使いはしばらく池の前で考えた後、思いとどまった。
(少なくともザラッカはこれまで私に対して誠実だった。事情を説明してみよう。これを薄めるのはザラッカ自身でも良いのだから)

 朝日にきらめく運河にかかる橋を渡ってテイリンが南の将の要塞に戻ると、要塞の中は早朝だと言うのに物々しい雰囲気に包まれていた。黒いマントの神官達と赤い鎧の戦士達が忙しそうに駆け回っている。城壁の窓から港に目を向けると、無数の戦艦が何隻かずつ船団を組んで列をなしており、すでに洋上に浮かんでいる船もかなりあった。テイリンはかつてこの雰囲気を北の将ライバーの要塞で経験した事がある。
(いよいよザイマンとの海戦が始まるんだ。それにしてもこの活気は凄まじいな。あの北の将の要塞の悲壮感に満ちた騒々しさとは正反対の、勝つ事を信じている人々の騒がしさだ。しかし)
 テイリンは西の将マコーキンの要塞の出撃前の活気を思い出した。
(マコーキン様の要塞の兵たちの明るさともまた違う。マコーキン様の軍には不思議と殺気が少なかった。だがここの兵は殺気に満ちている、まさに破壊のための兵団なのだ)
 テイリンは要塞の中を右往左往して探した後、城壁の上に一人で立っているザラッカを見つけた。黒の魔法使いの中で最も破壊的な力を持つ黒い剣の魔法使いは、荒々しい顔を海風になぶらせて海を見つめていた。今日も風が強い。テイリンの明るい茶色の髪も風に吹かれて若い魔法使いの瞳を半分覆った。
「ザラッカ様。ただいま戻りました」
 ザラッカは猛々しく伸びた髪と髭をなびかせて振り向いた。黒い神官服はまるでマントのように肩からはおられていたが、胸も腹も腕もむき出しのままで、太い革のベルトを胸で交差させるようにして神官服を締めていた。
「待っていたぞ。兄者に頼んでお前が帰るまで出撃を延ばしておいた」
 テイリンは驚いた。
「私をですか」
「ああ、我々が出撃すればおまえがここの最高位の指揮官になるのだからな。どうやらマルバ海の海賊王ドン・サントスがザイマンについた。さらにドレアントのせがれの艦隊に、カインザーの艦隊が合流するという情報も入っている。そうなると数で兄者の艦隊を凌駕する事になる」
「ザラッカ様、私とゾックも一緒にお連れください。何かのお役に立つはずです」
 ザラッカは丸い腹を叩いて、おなじみになった豪快な笑い声をあげた。
「おまえは残るんだ。海戦に不慣れなゾックを同行しても戦況には変わりは無い。おれ達は相手を甘くみてかかる程馬鹿では無いが、ひるむ気も毛頭無い。兄者の兵と俺の神官の連係は強固だ。ザイマンの艦隊などけ散らしてくれる」
「カインザーの艦隊が相手になるのでしたら、私とゾックはカインザー戦士の戦いぶりを知っています」
 ザラッカは首に手をあてて、体操のように左右に曲げた。
「ああ、ライバーのおいぼれはともかく、マコーキンを追い出したカインザーの戦士は注意せねばならん。しかし俺はむしろ敵が強いのが嬉しくてたまらん」
 ザラッカは腰の剣に手を置いた。
「おまえの戦闘の経験はこの要塞のために活かせ」
「この要塞のためにですか」
「最悪われわれが勝てずに戻ってきた時は、ここが戦場になる。お前ならばどう守る」
 テイリンには意外だった。強気なだけだと思ったザラッカは、海戦に負けた時の事もちゃんと考えていたのだ。
「私にはゾックしか手駒がいません。ゾックで戦うのでしたら、要塞を捨てます」
「なる程、お前ならばゾックの数を減らさない道を取るであろうな。しかしテイリン、お前がそう思っているうちは、ソンタールの軍はゾックを受け入れないぞ」
 テイリンはハッとした。ザラッカが続けた。
「戦争というのは、消耗を恐れずに踏みとどまらなければならない時がある」
「しかし」
「おまえに必要なのはゾックだけでは無く。消耗できる神官と兵だ」
「私はゾック以外の者を率いるなど考えた事もありません」
 ザラッカは言い聞かせるように語った。
「今はまだ良い。だがすでにゾノボートとギルゾンがいなくなった。二人の魂はグラン・エルバ・ソンタールを囲む塔の上で、その妖気のすべてを各々の秘宝に注ぎ込んでいるはずだ。そしていずれその魂も消滅する。お前はそのどちらかの秘宝を引き継ぐ事になる可能性が高い」
 テイリンは驚いた。
「そんな、私はサルパートでガザヴォック様が巨狼バイオンにかけた魔法の邪魔をしました」
「くびきの鎖の魔法か、そんな事は気にするな。ガザヴォック様が本気で怒っているのならば、貴様は今ごろ生きてはいない」
「それはそうだと思いますが」
「獣を操る能力というのはそう簡単に習得出来るものでは無い。我々黒の秘宝の魔法使いとおまえの他には、ゾノボートの元にいて今はグラン・エルバ・ソンタールに戻っているキゾーニがブールの軍団を操れるくらいだろう。ガザヴォック様とて貴様の貴重な能力を無駄にはすまいて」
 ザラッカはテイリンに背を向けて続けた。
「だが勘違いするなよ、俺は将来の秘宝の魔法使いとしてお前に恩を売るために力を貸したのではないぞ。むしろ、お前が力をつけて我が敵となる事のほうが楽しみなんだ。そろそろ兵を使う戦闘を覚えておけ。留守中の神官と兵はおまえにあずける」
「ザラッカ様」
 ザラッカはテイリンの言葉を手をあげて遮り、話を変えた。
「ミルトラの水はみつかったか」
「はい。これに」
 テイリンはミルトラの水が入った小瓶をザラッカに差し出した。水は瓶の半分ほどになっている。ザラッカは振り向くと受け取って目の前にかざした。
「ずいぶん残してくれたな。目的は達したか」
「おそらく」
「よし。何かの役に立つだろう。ありがたくもらっておくぞ」
「それは薄めても十分威力があるはずだそうです」
「うむ」
 ザラッカは量にはあまり興味が無いようだった。魔法の品というのは本来そういう物なのかもしれない。ザラッカはふと顔をテイリンに向けた。
「忘れておった、もう一つ言っておく事がある。俺達が東の将キルティアを嫌うようにキルティアも俺達を嫌っている、というよりあの女は誰も愛さないのだが」
「キルティア様に注意するのですか」
「いや、軍を指揮しているキルティアは要塞を離れるわけにはいくまい。しかしレリーバが俺達の留守を襲う可能性がある。黒い巻物の魔法使いには十分に気をつけろ」
 テイリンは困った。
「レリーバ様に関しては、私には全く情報がありません」
「おそらくおまえが一番苦手な相手だと思う。女が持つすべての魅力とすべての悪を持っている」
 テイリンはとまどった。
「それは困りました、私には女性の相手は出来そうにない。セントーンで翼の神の弟子のミリアという女性の魔術師と戦いましたが、あの人のような魔法使いでしょうか」
 ザラッカはホウとつぶやいた。
「ミリアと戦って生きて戻ってきたか。で、ミリアはどうだった」
「とてもかないませんでした、その魔法は静かでしかも強靱だった。ただ難しい魔法では無かったような気がします」
「なる程、レリーバはギルゾンと同じようにひねくれている。むしろ女である分だけギルゾンより不可解な行動が多い。だが逆におまえの素直さが今度は役に立つかもしれないような気もするのだ。お前なりに対処してみるが良い」
 ザラッカが話し終えて去ろうとした時、今度はテイリンが思い出してたずねた。
「ザラッカ様、不滅の鷲デルメッツにもくびきの鎖がついているのですか」
 ザラッカは肩越しにテイリンを見て笑った。
「俺とデルメッツの間には鎖など必要無い。デルメッツの鎖はすでにガザヴォック様に返したよ」
 そう言い残すとザラッカは去って行った。
 その日の午後、南の将グルバは要塞の全艦船に発動命令を出した。錨が引き上げられ、奴隷達の力強い櫂に応じて、戦艦は続々と港を出撃して行った。その数はおよそ二百隻。南の将グルバは艦隊の中央の巨艦に仁王立ちになって檄を飛ばした。
「進めソンタールの海の猛者達よ。今度こそドレアントの息子を粉砕してザイマンとの戦いに決着をつけるんだ。海賊ドン・サントスもついでに叩き潰してしまえ。これでイクス海とマルバ海の覇権は我々のものだ」
 兵と神官達から呼応する叫び声があがった。グルバの隣で瓜二つの弟が兵達に負けない声で兄に叫んだ。
「兄者、その次は、キルティアかそれともライケンか」
 グルバは残忍な笑みを浮かべた。
「セントーンが落ちたらキルティアを攻める」
 そして双子の兄弟は同時に笑い声をあげた。上空には空が真っ黒くなるくらいの猛禽コッコの群が飛んでいた。
 その数日後、今度はあの不思議な景観の岩山から、不滅の鷲デルメッツが飛び立つと、グルバの艦隊を追うように南に飛び立って行った。
 テイリンはそれを見送った後、以前にザラッカと手合わせをした闘技場に二千数百匹のゾックをすべて集めた。テイリンの留守の間、ザラッカはきちんと小鬼達を保護していてくれたらしい。どの個体も体力に満ちあふれている。どうやらこの土地の蒸し暑さにも負けなかったようだ。ドラティとバイオンの血を浴びたおかげもあるのかもしれない。テイリンは自分の前に揃ったゾック達をしみじみと見つめた。ランスタインの山脈を出た時にはひ弱な生物だった山岳生物は、いつのまにか逞しさを増している。
 テイリンはゾックにミルトラの水を飲ませれば良いという、マスター・メソルの言葉を思い出した。しかしテイリンには別の考えがあった。
(ランスタイン山脈にわずかに残してきた牝のゾックにこの水を飲ませてみよう。これで繁殖力が上がれば数も増えるかもしれない)
 小鬼の魔法使いテイリンにまた一つ目的が増えた。

 男達がごっそり出撃してしまったカインザー大陸では、王国の歴史始まって以来初めてと言える女達による統治が始まろうとしていた。
 現在、国王オルドンは青の要塞でソンタールに攻め込む準備を着々と進めている。九諸侯のうち高齢で九諸侯の重鎮であるランバン公爵と内務大臣のテューダ侯爵の二人はマイスター城で政務についていたが、他の七人はすべて国外に出ていた。カインザー軍では王に次ぐ戦闘指揮官である豪傑トルソン侯爵は、ポイントポート城でソンタール軍の最前線と対峙している。何度か、ソンタール側の小規模な攻撃があったが、トルソンは城外で簡単に撃破した。
 若いベーレンス家の当主カイトと外務大臣のアシュアンの両伯爵は、サムサラ城で何か画策しているらしい。オルドン王は何度か使者を送ったが、頭の良い二人に言いくるめられて帰ってきたので、当面放置しておく事にしたようだ。
 海軍指揮官のバイルン子爵と勇将クライバー男爵は船団を組んでザイマンに向かっており、馬術の巧みなロッティ子爵はバルトール人の教練のために、ポイントポート城の西の平野に展開していた。セスタ近郊に集まっていたバルトール人の若者達は、ロッティの元に集まっている。最前線にいるのがセルダン王子と行動を共にしている剣豪ベロフ男爵である。
 夫を送り出したクライバー男爵夫人のポーラは、仲良しのアシュアン伯爵夫人のレイナ、そしてクライの町で夫を亡くした義父マイラスの妻マリナと共にクライバー家の庭でお茶を飲んでいた。天気の良い午後だった。小柄なポーラの義母マリナがおだやかな口調で他の二人に話しかけている。セスタの町で夫マイラスを見送った時の寂しさはすでにそこには無い。
「バルトール人がいなくなって、セスタもすっかり静かになってしまいましたね」
 一番若いポーラが嬉しそうに笑った。
「もう戦いはカインザーの外で行われるようになったのです。私達には、夫が留守の間に色々とする事があるわ」
 その時レイナがいじっていた懐中時計の鎖が外れた。ポーラが覗き込んでたずねた。
「ずいぶんと長いこといじっていたけど、直らなかったの」
 レイナは丸い顔を曇らせた。
「この鎖がねえ。私達が結婚した頃に買った物だからさすがに古くなってしまったのね。でも困ったわ、明日はこれを持って朝から出かけないといけないのに」
「あら、昨日アントンの部屋で丁度いい大きさの鎖を拾ったの。アントンにたずねようと思っていて忘れていたのを思い出したわ。ちょっと待ってて」
 ポーラは急いで自分の部屋に戻ると、衣装棚の上に置いておいた鎖を持って庭に戻った。するとそのわずかの間に、庭の女達にはアーヤが加わっていた。今日は白い巻き毛に無数の赤いリボンが結わえ付けられている。最近驚くほどの美しさを見せるようになったアーヤだが、色彩に関する趣味の悪さはいっこうに治らない。
「おばさま、レイナおばさんの鎖が壊れちゃったの」
「ええ、替りの鎖を持ってきたわ」
「あ、あたしが付ける」
 アーヤは何気なくポーラから鎖を受け取った。
 その頃、クライバー家の若き跡取りにしてバルトールマスターのアントンは、人目を避けてダンジとクチュクと一緒に屋敷の裏の厩の前で相談をしていた。アントンがクチュクにいくつか指示をしている最中に、厩の中の栗毛の馬フオラが突然いなないた。そして中庭のほうで悲鳴があがった。
「クチュク、ダンジ」
 アントンは短くそう言うと走り出した。ダンジは機敏に後に続いたが、太っているクチュクはバタバタと遅れて後を追った。屋敷をぐるっと回って三人が中庭に走り込むと、ポーラの腕の中でアーヤがぐったりしていた。
「どうしたの、母さん」
 ポーラは髪を振り乱して顔を上げた。
「アーヤが突然倒れたの」
「どうして」
「わからない、レイナの時計に鎖を付けようとして」
 アントンは夫人達が囲んでいたテーブルの上に鎖が置いてあるのに気が付いて、綺麗な青い瞳を見開いた。
「しまった。母さんこの鎖、僕の部屋にあった物でしょう」
 ポーラは何を言っているのかわからないといった感じで頭に手をやった。
「ええっと、ええそう、昨日あなたの部屋に落ちていたの。あなたのかクチュクのか聞こうと思って」
 アントンは真っ青になった。
「どうしたのアントン」
「よくわからないんだ。これはバンドンがあの巨大な竜ドラティの洞窟で見つけてきた鎖で、たぶん魔法の鎖だと思う。とにかく家の中にアーヤを運ぼう」
 アントン達は動かないアーヤを部屋に運び込んだ。レイナ夫人が大声で医者を呼ぶ声が屋敷の中に響き渡った。
 その頃、はるか彼方、ソンタール帝国の首都グラン・エルバ・ソンタールで一人の魔法使いが心の中で歓喜の笑い声をあげた。魔法使いの回りには配下の黒の神官達が集まって指示をあおいでいる最中だったが、いつもは思慮深い静かな老人が突然見せた笑い顔を見た神官達は、あまりの恐ろしさにそれから一週間夜ごとうなされる事になるだろうと悟った。神官達が恐怖の目で見つめる中で黒い指輪の魔法使いガザヴォックは思わず声に出してつぶやいた。
「いた」

 セルダンとブライス達がアードベルに向かって航行している頃、セルダンの護衛のカインザー人三兄弟の長兄アタルスは一人でカッソーの町に向かっていた。カッソーはザイマン本島の南の中央部に位置する大きな都市である。首都ザ・カラドからは馬で七日程の距離にあったが、アタルスは時間をかけてゆっくりと進んだ。ブライスの艦隊が追い付くまで時間は十分にあるし、必要以上に急ぐと怪しまれてメソルの監視網にかかり易い。
 ザ・カラドを出てからずっと好天が続いていた。ザイマンでは陸路より海路を好む者が多いので、町と町を結ぶ街道には人気が少ない。カインザーのように大軍が国内を動くわけでは無いので道幅も細く、途中にある村落も質素な家が多くてとても静かだった。民家の横を通り過ぎる時には、わずかに飼われている牛や鳥達の声がやけに大きく聞こえる事がしばしばあった。
 カッソーまであと二日程度の距離にある町の手前まで来た時、アタルスは自分を出迎える者達が待っている事に気が付いた。ザイマンにもアタルスの元の主人であったカインザーのバルトールマスター・ロトフの配下の者がいる。今ではアントと呼ばれるマスターの配下となっているはずだが、アントが何者かアタルスは知らなかった。
 低木に囲まれた街道の中央で、馬に乗った四人の男達は待っていた。向かい合って馬を止めたアタルスは馬上から低い声で呼びかけた。
「土地の方々、いつになったら雨が降るかね」
 中央の日焼けした無表情な顔の男が馬上のまま答えた。
「今日はいい天気だ。だがこの先の町では雨が降る」
「それは困る。俺は乾いた国の生まれだから」
「ならば我々と一緒に来れば良い。屋根を貸そう」
「かたじけない」
 アタルスは男達に従ってゆっくりと町に入った。この男達が敵の可能性ももちろんある。しかし恐怖は全く感じなかった。
(俺は死なない)
 今のアタルスには生きる目的があった。セルダン王子を守り、南の将を倒し、もう一度セントーンに行って美しい魔術師ミリアに会うのだ。どうしてこれ程あの女性にひかれるのかわからない。アタルスはすでに三十を越えている。地下商人ロトフに仕えてこれまで様々な経験を積んできた。だから今さら美しいだけで女に心が奪われる事は無い。何か幼い頃の懐かしい思い出に繋がっているような気がすると、弟達と話し合った事がある。だがみなし子だった子供の頃の思い出は辛いものばかりで、ミリアの面影に関する事は何も思い出せなかった。
 アタルスを連れた男達の一行は日中でも人気の少ない町の中を進んだ。その一行を、道沿いの建物の二階から見ている者達がいる。
「やって来たな。ブライスのほうはどうやら艦隊を率いてザイマンをグルリと回って来るらしい」
 一番窓際にいた長身の均整の取れた体格の男が言った。彫りの深い顔をして銀髪を後ろにきちんとなで付けた気品のある男である。部屋の中に控えていた配下らしい者がうやうやしくたずねた。
「デクト様、アタルスは極めて危険な男です。弟二人と一緒になる前に排除したほうが良いのではないでしょうか」
 窓際の男が深く響くような声で笑った。
「ロトフの手下が手ごわかった事はお前達も知っているだろう、無理をする事は無い。マスター・メソルがそろそろカッソーに戻る。カッソーで待ち構えておけば良いだろう」
「我々は過去に何度もロトフの手下にひどい目にあった事がございます。しかしここにはあのフスツがおりません。アタルス一人でしたら何とかなるでしょう、この機会を逃したくないのです」
「なる程な。好きにするがいい」
 配下の男達は素早くデクトと呼ばれた男の前を去った。デクトは窓の下を見下ろしながら考えをめぐらした。
(いよいよやって来たな。カインザーとサルパートが開放されたくらいでは、まだソンタールの優位は動かない。しかしブライスがグルバを倒す事が出来れば、シャンダイア勢力はソンタールに並ぶ事が出来るかもしれない)
 アタルスを殺しに向かった男達の首尾はすぐにわかった。バルトール人の暗闘に時間はかからない。五人の男の死体が先ほどの部屋に運ばれて来たのを見て、デクトは直接アタルスに会うべきであると悟った。その時、扉の向こうでにぶい音がして部下がまた一人倒された。そしてアタルスがゆっくりと部屋の中に入ってきた。アタルスから見るとデクトは窓を背にして影のように見える。
「こまるな、彼らはメソルからの借り物で私の直接の部下では無いのだよ」
「それは良かった。貴様の部下ならば貴様に責任を取ってもらわなければならないからな」
「安心したまえ。私には部下はいない。私はメソルの客でデクトと言う」
「客は往々にして主人を使う者。我々はメソルを相手にしていると思っていたが」
 デクトはうっすらと笑った。
「もうすぐメソルがカッソーに帰ってくる。一緒にカッソーに行こうではないか」 

 アードベルを出たブライスの艦隊は、隣の港で待機していた艦船を加えて一路カッソーに向かった。ザンプタとソチャプを乗せた巨大な船は、砲台を取り除いたせいで一時的に軽くなって速度があがっていたが、それでも五隻の船をつけて曳航している。カッソーを手前にしたある港についた時、朱色の船の船長ベゼラがブライスの元を訪ねた。
 ブライスは甲板に置いてある大きな椅子に寝そべって、夕日に染まった海を眺めていた。ザイマンの王子は、最近スハーラとベゼラの忠告で人前に出る時は銀の冠を載せる事にしていたが、服装がいつもの赤い袖なしのシャツに革のチョッキなので全然似合っていない。ベゼラは苦笑しながら幼なじみに近づいた、肉感的な体と褐色の肌が夕陽を受けて真っ赤に映える。
「ブライス、もうザイマンを半周以上したのに、まだデルにゆかりの貴族と船長が合流してこないわ。私は一度ザ・カラドに戻ってデルと話をしてこようと思う」
 ブライスは物憂げにベゼラを見た。
「その必要は無いんじゃないか、今の時点でこの艦隊の数は約百四十隻になっている。バイルンとサントスの船を加えればグルバの艦隊に数では負けないぜ」
 ベゼラは首を振った。大きく広がった豊かな髪が揺れる。
「カインザーのバイルン子爵の艦隊には海戦の実戦経験が無いのでしょう。サントスもどこまで信用して良いのかわからない。やはり中心となるザイマンが全力をあげなければならないわ」
 そしてちょっと怒ったような顔をした。
「あなたはトンポ・ダ・ガンダに寄ったし、ドン・サントスとも手を結んだ。船乗り達が気にする事を二つも続けてしたのよ。それに今ではホックノック族とソチャプまで乗せている。もっとザイマンをまとめる努力をしなければ」
 ベゼラを怒らせて、ブライスは少し嬉しそうだった。
「やる事がいっぱいあるのさ、これからカッソーに行ってマスター・メソルと話をつけなければならない」
「だから私がザ・カラドに行くのよ」
 ブライスは突然起き上がって、じっとベゼラを見つめた。
「頼む。嫌な奴だが、今回はザイマンの全力をあげて決着をつけるんだ。次は無いと伝えて欲しい」
「わかったわ。じゃあ私は明日の朝早く出航します」
「俺達は風の岬で二十日待つ。その先は海の上で見つけてくれ」
 ベゼラは左の手首を顔の横で振って腕輪をチャラッと鳴らした。
「ブライス、スハーラを大切にね。あなたにはもったい無いくらいの人だわ」
「なんだい突然」
「あなたはザイマン人にしては女性を大切にしないんだもの」
「そうかなあ」
 ベゼラは笑いながら去って行った。翌朝、イルカの紋章の船はブライスの艦隊を離れた。

 ベゼラが出発した日の午後、スハーラはザンプタの元を訪れた。ソチャプはすでに大人の男の三倍以上の高さになっている。スハーラはここに来る度にソチャプの生長の速さに驚いた。サルパートの巫女は若い植物を見上げながら白いシャツの袖をまくり上げた。
「大きくなるのは知っているけれど、やっぱり信じられないわ」
 皺だらけの顔のザンプタはキシャキシャと乾いた声で笑った。
「なあに、まだまだ赤ん坊だ。生長すればこの船がひっくり返るかもしれん」
「この花は夜行性ではないのですか」
 簡素な衣服を来た老人の姿のザンプタは、ソチャプの匂いをかぎながら独り言のように言った。
「バステラ神の力のほうが少し強いが、昼間に動けないというわけでも無い。ふうむ、どうやら妙な匂いはしていないらしいな」
 そしてスハーラを振り返った。
「それはそうと、ブライスのアホはカッソーに何の用があるんじゃ。さっさとグルバと戦いに行けばよかろう」
 スハーラはちょっと鼻白んだ。
「冠の守護者をアホなんて言うと、エルディ神が怒るわよ。私達はグルバと戦う前にカッソーでもう一人、会わなければならない人物がいるのよ。このザイマンにいるバルトールマスターのメソルという女性」
 ザンプタは首を振った。
「わしは、アードベルから二千五百年の間出とらん。その女の事は知らんなあ、ただおそらく」
「おそらく」
 スハーラは身を乗りだした。
「マスター議会を構成する七人のバルトールマスターは、基本的にバルトールの有力者から選ばれておる。かつてのバルトールの貴族や神官、巫女の子孫達じゃ。メソルというマスターが女であるのならばバリオラ神の巫女の末裔の可能性が高い」
「そうですか。あなたは一緒に行っていただけますか」
 ザンプタは空を見上げた。
「わしはカッソーには寄らんほうがいいじゃろう。何と言ってもバルトール人を世界に散らばらせたロッグ陥落の原因の一端はわしにあるのだから。マルヴェスターもバルトール人に嫌われとったが、本来はわしが嫌われるべきじゃった。今更、のこのこマスターに会いに行かんほうがつまらん諍いを起こさんでいい」
 ザンプタはそう言うと、大きくなったソチャプの影に隠れるように甲板に座り込んだ。スハーラはいたずらっぽい目をしてザンプタに近づくと、ザンプタの前に膝を抱えてしゃがみ込んだ。そして懐からお菓子をゾロゾロと取りだした。そして一つを口に放り込んだ。
「ねえ、ホックノック族って何を食べるの」
 ザンプタは怪しげな顔をしてスハーラの手元を見た。
「わしらは魚でも海藻でも何でも食べる」
「お菓子は」
「食った事が無い」
「はい」
 スハーラが取りだしたお菓子をザンプタはうさん臭そうに手に取った。スハーラはじっとザンプタを見つめた。ザンプタはあきらめたように口に放り込んだ。皺の中の目が大きく見開かれた。
「何だこれは」
「ただの砂糖菓子よ。それより、バリオラ神の巫女は魔法を使いますか」
「さてどうかのう、まじない位は使うだろうが」
 ザンプタはスハーラに向き直った。
「いいかスハーラ、魔法というのはどこから力が来ているのかをきちんと見極める事が大切じゃ。この世界は魔法に満ちているが、自らの意志と力で魔法を使いこなせる者はシャンダイア、ソンタール合わせても数えるほどしかいない」
 スハーラは真剣に聞き入った。ザンプタは続けた。
「シャンダイアではわしも含めた翼の神の四人の弟子じゃ。もっともわしはマルトン神の魔法を使いこなせずに、元のホックノックの力の残りかすにしがみついているだけだし、セリスと呼ばれる若者はおそらく死んだのだろう。現在まともに使えるのはマルヴェスターとミリアだけだと考えても良い」
 ザンプタはゴロゴロと咽を鳴らしてつばを吐いた。
「この格好でいると口につばがたまっていかん」
 スハーラは笑った。
「ホックノックの姿でいてもいいのよ」
「あの体で甲板の上にいると干上がってしまうのじゃ。今はソチャプの面倒を見ねばならん。さてと、ソンタールで魔法を使えるのはまず黒の秘宝の魔法使い。しかしゾノボートとギルゾンはすでにお前さん達が倒してこの世にいない。他には、お前さん達が何度か遭遇したゾックを操る魔法使いだ」
「それだけですか」
「黒の神官の何人かは魔法を使うが、先にあげた魔法使いの比では無い。二流、三流の使い手だ。ドン・サントスの元にいるシャクラというのもその程度だと考えて良いだろう。お前さん達聖宝の守護者の魔法は、聖宝と聖宝神の力の延長だと考えておけ。セルダンにあまり思い上がって油断するなと言っておいたほうがいいぞ、どうもあ奴は危ない」
 スハーラはうなずいた。
「はい。すると、サントスが目撃したマスター・メソルの魔法。襲撃する商船のそばに忽然と出現したという魔法は誰のものでしょう」
「わからん。ザラッカはわざわざそんな面倒な事までせんだろう。あるいはメソル自身が魔法を身につけたのか、他に誰かがいるのか」
「どうもありがとう。気をつけます」
 そう言ってスハーラは立ち上がった。そして無意識に懐に手を入れると、お菓子を口に放り込んで船を降りた。ザンプタは物欲しそうな顔でその後ろ姿を見送った。

 ザイマンのバルトール人を束ねるマスター・メソルはカッソーの港に入港して来る大艦隊を、港に停泊している商船の甲板から観察した。大きな戦艦がメソルの船など全く気にかけない様子で続々と横を通り過ぎて行く。銀髪のデクトがメソルの後ろで言った。
「もうちょっと少ないかと思いましたが、ドレアントの息子は思ったより人気がありますね」
 頭に布を巻いて宝石を隠したメソルが振り返った。デクトの遥か後ろの一段下がった甲板の上では、メソルの部下に取り巻かれたアタルスが立っている。アタルスまではメソルとデクトの声は届かない。
「エルディ神が選んだ子だからね。デルとブライス。おそらくデルのほうが政治家としては上なんだろう。だけど、二人が六歳になった時、バラサール城の大広間に立たされた白い衣装の二人の男の子のうちから、エルディ神はブライスを選んだ。皆の見守る中に現れた女神がブライスの頭に手を置いたそうだ。その時はまだわからなかったのだが、成長してブライスは無鉄砲で、夢想家で、情け深くて心配性な大男になった」
「なる程、代々、ザイマンの王がそういう性格なのはエルディ神の好みなのですね」
「そういう事になるね。デクト、おまえの主人はブライスの艦隊について何か言ってきたかい」
「いいえ、我が主は何も。しかし主が我々に指示した使命はすでに北に向かい、我々の手を離れました。あなたがブライスにくっついて行ってグルバと戦う必要は無いでしょう」
「そうなるね、あたし達の船がくっついて行った所で戦況に変わりはあるまい。しかし」
 そう言ってメソルはブライスの艦隊の後方から引かれて来る巨大な船を指さした。
「あのデカイ船はいったい何だろうね。囲いの中に何かがある」
 デクトは片目を薄くつぶった。
「あなたも感じますか」
「ああ、魔法があそこに有る。ブライスはとんでもない物を引き連れている」
 デクトもうなずいた。
「聖宝の守護者が三人、そしてあの囲いの中の何者か。この艦隊はグルバとザラッカと不滅の鷲に太刀打ちできるかもしれません」
 メソルが腕を組んだ。
「やはり一度、ブライスに会わねばならないようだね。アタルスを呼んでおくれ」
 デクトが合図をすると、メソルの部下達がアタルスを連れてきた。メソルが大柄なカインザー人に話しかけた。
「アタルス、おまえはあの巨大な船の囲いの中身を知っているかい」
 アタルスはメソルに言われた船を見て首を振った。
「いや、俺がザ・カラドを出たのは艦隊が出撃する前だったのでわからん。しかし、あの大きさの魔法の品は無かったはずだ」
 デクトが言った。
「ブライス達が一番長く滞在していたのはアードベルです。そこで乗せたものでしょう」
「アタルス、ブライスとセルダン王子に伝えてくれ。メソルが待つと」
 アタルスは黙ってメソルに背を向けると船を降りた。そして着岸したばかりのブライスの旗艦に向かって歩き出した。アタルスが向かう船の甲板の上ではセルダンが感心してカッソーの港を見回していた。
「なる程、バルトールマスターが根城にするには十分な都市だ」
 ブライスが停泊している商船を指さした。
「交易量も多い。ザイマンの南側の中心地だと思っていい。さてと、上陸するがスハーラ、やっぱりザンプタは来ないのか」
「ええ。バルトール人に会いたくないようです」
 そこにポルタスとタスカルが近づいてきて桟橋を指さした。
「セルダン王子、兄が来ました」
 アタルスはセルダン達が降りる前に船にあがってきた。
「王子、マスター・メソルが待っています。メソルの屋敷までは私が案内出来ます」
 スハーラがブライスを見た。
「やはりザンプタに来てもらいましょう」
「いや、いいだろう。セルダンと俺、そして君とアタルス達三人でいい」
 セルダンはベロフに指示した。
「メソルの屋敷を抜刀隊で包囲してくれ」
「かしこまりました」
 セルダンとブライスやベロフがあわただしく支度をしている中、アタルスがスハーラに近づいてささやいた。
「スハーラ様、メソルと会う時に注意していただきたい人物がいます。メソルといつも一緒にいるデクトと呼ばれる男です」
「ブライスとセルダン王子には言ったの」
「いえ、王子方は会談の最中に密かに相手を探るのがうまいとは言えませんから」
 スハーラはクスリとした。
「抜け目ないわね」
 アタルスに案内されて、セルダンとブライスとスハーラの三人の守護者はメソルが待つとされる屋敷に赴いた。屋敷は町のほぼ中心にある、普通の商人の家と変わらない緑に覆われたこじんまりとした建物だった。少し遅れてセルダン達の後を進んだベロフは、あっという間に抜刀隊でその屋敷を包囲した。セルダンはわずかな音をたてただけで配置を完了した抜刀隊を確認してブライスに言った。
「メソルはこのくらいの事は覚悟なんだろうな」
「おそらくな。俺達と戦うつもりは無いんだろう。バルトール人らしく、うまい逃げ道を確保しているんだと思う」
 アタルスが屋敷の門の金具を叩くと、小柄なバルトール人が出てきて六人を屋敷の中に導き入れた。メソルは豪華な家具に囲まれた部屋で待っていた。
 セルダンが最初に注目したのは、やはりその額に埋められた宝石だった。小さな宝石は部屋の中の灯を反射して、時々きらめいた。整った顔立ちの年かさの女性は、楽しげな顔で聖宝の守護者達に椅子をすすめた。
「よくここまで来たね」
 ブライスは遠慮無く椅子に腰を降ろした。
「ああ、聞きたい事がたくさんあるんだ」

 メソルは正面の椅子に座ると少し横を向いて足を組んだ。その後ろに三人の男が立つ、部屋の中には他に扉に二人、セルダンとアタルス達の後方に三人、窓に二人のメソルの部下が立った。窓の二人は外を監視している。ブライスが笑った。
「やけに物々しいな」
「屋敷の外のカインザー人ほどでは無いでしょう、それに私の部下があなたの後ろのアタルス達三人に勝てるとも思えない」
 そのアタルスは窓際に立つ二人の男のうち、背の高い銀髪の男を見てスハーラに目くばせした。スハーラは了解した、その男がデクトだ。ブライスが話し始めた。
「まずはベリックについてだ。バルトールの王だという事を知っていたのか」
 メソルは頬に指を当てた。
「もちろんさ。バザの短剣は通常マスター議会の監視の元、ロッグのバルトールマスターが保管してきていた。その目を盗んで手に入れてベリックに持たせたんだ。王家の血筋以外にあの短剣は使えない」
 スハーラがたずねた。
「あなたはバリオラ神の巫女ではないかと思っています。巫女が代々王家の者をかくまってきたのですか」
「さすがだねスハーラ。その通り私はバリオラ神の巫女だ。そして王家の血は巫女が他のマスターにすら秘密で守ってきた。他のマスター達など信用できないからね」
「なる程。マルヴェスター様もバルトール人にはあまり通じていなかったようですから、知らなかったのですね。でもなぜベリックをドラティの洞窟に忍び込ませるなんて危険な事をしたのですか」
 突然メソルの目に苦悩の色が浮かんだ。
「私だってあんな危険な事をさせたくなかった。でも仕方なかったのさ。シャンダイアにとっても、バルトールにとっても、そろそろ現状を打破しなければならない時期が来ていた。あの当時の状況のままでいたら、ソンタールの力が強くなりすぎて二度とシャンダイアが復興する可能性は無くなっていただろう」
「でもなぜドラティをベリックに襲わせたんです」
「ドラティの洞窟にガザヴォックの魔法を解く鍵があったはずなんだよ。ソンタールの要塞を守る巨大な獣達は、ガザヴォックが各要塞がある土地に魔法で縛りつけている。くびきの鎖と呼ばれている魔法だ。北の将の要塞のバイオンと南の将の要塞のデルメッツの鎖がどこにあるのかはわからなかった。しかし西の将の要塞のドラティの鎖が、あの洞窟にある事だけがわかったんだ。いざという時にドラティを倒すことが出来るのはシャンダイアにただ二つ。カンゼルの剣とバザの短剣だけだった」
 セルダンが思い出した。
「でもドラティは元は西の将の要塞の地下の洞窟にいたはずですよ。その頃は要塞の地下に鎖があったのでしょうか」
 メソルは首を振った。
「いや、最初からアルラス山脈の北にある洞窟にあったのだと思う。むしろ要塞を出たドラティが無意識のうちにそこに移動したのだろう」
 スハーラがたずねた。
「じゃあ鎖は今でも洞窟にあるんですか」
 メソルがハッとした。
「いや、消えたのでは無いか。ドラティがいなくなれば鎖は必要なくなる。そう思っておったが」
 セルダンが言った。
「探すように命じましょう。でも誰がドラティの洞窟の鎖を持ち出すようにあなたに頼んだんですか」
「ある方の意志だ。シャンダイアの力を盛り返すために」
 ブライスが膝を叩いた。
「それだ、サルパートでマルヴェスターとも話し合ったんだ。ベリックがドラティを襲ってから、バラバラだったシャンダイアの聖宝が突然連動して動き出したように思えるんだ。そのある方とは誰なんだ」
 メソルは沈黙した。部屋に緊張した空気が流れた。そこでセルダンが質問を変えた。
「もう一つあります。カインザーの王家に預けられているアーヤの正体を知っていますね」
「ふむ、気が付いたか」
「ええ、カインザーのマスター・アントからの伝言で、あなたがカインザーを訪れた時にアーヤの正体を知っていたようだと伝えてきました」
 メソルは顔をのけ反らせて笑った。
「今まで気が付かなかったのか、さすがにカインザー人は鈍いねえ。マルヴェスターは良い所にあの娘をあずけた。守る者が正体を知らないのだから、誰も気づくはずが無い」
 セルダンがちょっとムッとして剣に手をかけた。
「僕はこういう言葉のやり取りが苦手なんだ。教えてください」
「いいだろう。アーヤ・シャン・フーイ、本名はアムロリラ・シャンダイア・フーイだ」
 スハーラが息を飲んだ。
「シャンダイア王の末裔。知っていたのですか」
「もちろんだ。マルヴェスターもある方の意志でアーヤを連れて行ったはずだから」
 セルダンとブライスが息を飲んだ。セルダンがあえぐように言った。
「アーヤが、あのアーヤがシャンダイア王の子孫だなんて。じゃあ、シャンダイアが復興すれば女王になるんですね」
「そうだよ、お前達の、いやあたしらの女王でもあるね」
 セルダンは爆発しそうな喜びを顔に浮かべた。
「よし、これでシャンダイア王が帰ってくる。完全復興が出来る」
 メソルがカラカラと笑った。
「全くカインザー人ってのはお人好しだねえ。アーヤが帰って来なければ、あんたがシャンダイア王になるはずなんだよ」
「えっ、まさか」
 ブライスがセルダンを向いた。
「まさかじゃあ無いぞセルダン。シャンダイアの国々において、圧倒的な軍事力と結束力を持つのはカインザーなんだ。ザイマン人は、陸上では戦えない。サルパートは王、巫女、神官の分権体制で結束力が低い。バルトールはいまだ統一されていない。王になるのはお前かセントーンのゼリドルだが、ゼリドルは聖宝の守護者では無い」
 メソルが続けた。
「そういう事だね。まあ良い、欲が無いのが戦士の大陸の王家の良い所でもある」
 その時スハーラがハッとした。
「ルドニアの霊薬。マスター・メソル、魔術師セリスが持って沈んだ霊薬をミッチ・ピッチの元に届けて地上に戻したのも、あなたが言うある方なんですね」
 今度はメソルが驚いた。
「そうだったのかい。あたしは、ただザイマンの酒場で手に入れてサシ・カシュウに渡すように言われただけだ。どうやら色々な所に手を配っているようだね」
「教えてください。そのある方とは誰なんです」
 メソルは手を大きく振って断る仕草をした。
「実はあたしも知らないのさ。代々の巫女は、その人物の命令を聞くように言い伝えられてきた。ロッグ陥落の際に王家の子を助け出し、我らにあずけてくれた方だそうだ」
 ブライスが立ち上がった。
「まあいいや、俺が知りたかったのはお前がベリックの敵かどうかだったんだ。どうやら敵では無さそうだ。俺達はこれからグルバと戦う。ドン・サントスもザイマンにつく。お前はどうする」
 メソルは冷ややかに笑った。
「あたしの力が必要かい」
「いや。ただ、今回は決着が付く。そうなれば否応無く戦況は突き進む。そろそろ旗印を鮮明にしたほうがいいぜ」
 ブライスが立ったのを合図に、セルダン達はメソルの屋敷を後にした。スハーラは帰り際に窓の所に立っていた銀髪の男が振り向くのを見たが、その顔からは何も読み取れなかった。屋敷を囲んでいたベロフの抜刀隊はあっという間に包囲を解いたが、アタルス達三兄弟はメソルの監視のために街に消えた。
 その夜、屋敷の中のバリオラの祭壇の前に立ったメソルは一心にバリオラ神に祈っていた。部屋の中には他にデクトだけがいる。祈りの言葉が終わりにさしかかった時、メソルの表情が変わった。
「なんだ、この感覚は。まさか、まさか」
 メソルはあわてて立ち上がった。明らかに狼狽している。デクトがたずねた。
「どうした」
「気配を感じる。おお、おお」
 バリオラ神の巫女は額の宝石に手を当ててヨロヨロと進み出た。宝石が明るく光って脈動している。
「動いた、神が動いた。バリオラ神の気配が感じられるのだ。デクト、お前が何かしたのか」
 デクトも驚いた。
「いや、私は何もしていない」
「ブライス達だろうか」
「いや、ブライスもセルダンもバリオラ神に関わる行動は取っていないはずです」
 メソルは茫然とした。
「ならばベリックか。ベリック王とマルヴェスターがバリオラ神を見つけたのか」
「可能性があるとすればそうでしょう。二千五百年ぶりにバリオラ神の気配が現れたのならば、ベリック王しか考えられない。どうやら我が主の計画を越えて事態が動き出したようだ」
 メソルの頬を滂沱の涙が流れた。
「行くぞ、ブライスの艦隊と共に北に行く。私はバリオラ神の巫女だ、神の元に行かねばならない」
 デクトがうなずいた。
「私は一度、主の元に戻ります」
「ああ、そうしてくれ」
 メソルは心ここにあらずと言った感じで答えた。銀髪のデクトはうなずくと、右手の人さし指で胸の前に六角形を描いてメソルの前から去った。数時間後、アタルスはセルダンの元にマスター・メソルの合流の知らせを届けた。

 カッソーを出たブライスの旗艦は、トーム・ザンプタの乗る巨大な船を従えて、艦隊の中央を堂々と進んでいた。艦の中央にそそり立つメインマストには緑色のザイマン王家の旗がかかげられている。「共に戦う者は我に合流せよ」との大号令に呼応した貴族と船長達は約九十隻、王家の船とイズラハ公爵の娘ベゼラの船団を加えてその数は百四十隻ほどに達していた。だがデル・ゲイブを呼びに行ったベゼラの七隻は今は艦隊を離れている。その他にマスター・メソルの十五隻の船も加わっている。メソルの海賊船は規模はそれ程大きくないが、混戦になった時や掃討作戦の時にその速度と自在性が活きるだろう。
 艦隊はカインザーのバイルン子爵の艦隊と合流するため、風の岬と呼ばれるザイマン五島のまさに最南端の岬に近い港に入港した。港では町一番の宿に一行を迎える準備をしてザイマン王家の侍従長のロタスが待っていた。痩せた神経質そうな侍従長は波止場に馬車を連ねて一行を出迎えた。
「王子、グルバの艦隊が出撃したとの報告が入りました」
 ブライスは嬉しそうに笑った。
「よし。出てきてもらわなくては困る」
「しかし、デル・ゲイブ様の艦隊がまだ到着していません」
「それもわかっている」
 宿にはブライスとセルダン、スハーラ、ベロフ、アタルス達兄弟が宿泊した。マスター・メソルとトーム・ザンプタは船に残ったままだった。この二人は一度だけ相手を見て、以後二度と顔をあわせていない。その夜、ロタスの用意した豪華な食事を詰め込みながらセルダンがブライスに言った。
「ねえブライス、もし僕がデル・ゲイブならばバラサール城を占領してしまうと思うんだ。ドレアント王にも一緒に来てもらったほうが安全じゃないかな」
 ブライスは骨付き肉をかじりながら答えた。
「それはカインザー人の発想だ。ザイマンで城を占領する事には何の意味も無い。大切なのは人と船だ。俺がカスハの冠をかぶった時から親父は安全になった、それに今回の海戦は王子の俺の統率力が試されているんだ」
「なる程」
 ザイマン艦隊が風の岬の近くの港に停泊して二週間がたった頃、ベロフを連れて日課のように岬に出て水平線に目をこらしていたセルダンは、遥か彼方に不格好で巨大な兵員輸送艦の艦影を見つけた。
「バイルンだ」
「まさしく。しかし我がカインザーにあのような艦隊が生まれたというのは、何だか信じられない気もいたしますね」
「ああ、凄いや」
 カインザーのバイルン子爵が指揮する三十五隻の艦隊は、その日の夕方ゆっくりと港に入港してきた。皆が出迎える中、長身で碧眼のバイルン子爵とセルダンの親友クライバー男爵、そしてクライバーの片腕のバンドンが少しヨロヨロしながら地上に降り立った。大柄なバイルン子爵は真っ先にセルダン王子を見つけると、にこやかな顔でその前に立った。
「ごぶさたいたしておりました、王子。カインザーの艦隊と兵員五千をお届けにあがりました。我が生涯の中で、今回の伝令鳥の知らせを受けたとき程、嬉しい事はありませんでしたよ」
 セルダンは嬉しそうにバイルンの率いてきた艦隊を眺めた。
「よくこれだけの船を揃えたね」
「テューダ翁の苦心の成果です」
 セルダンは懐かしそうな目をした。
「テューダかあ、もうずいぶん長い間会っていないなあ」
 バイルンの横に立つとさすがに細く見えるクライバー男爵が、いつもの紅のマントを海風にひるがえしながら笑った。
「南の将を倒せばイクス海はシャンダイアのものだ。いつでも帰れるさ」
 クライバーの後ろに立つバンドンは、まだフラフラしている。そのさらに後ろには部下の山賊達が力なく控えていた。バンドンの白茶けた髪は海の強い日差しに枯れてしまいそうに見える。
「山賊をこんなに長い間海の上で揺らしちゃあいけねえぜ。俺たちゃ海戦には役に立たん。南の将の要塞攻めまではお客さんだぜ」
 バンドンがぼやいたところに、珍しく地上に降りてきていたザンプタが近づいて来た。
「なあブライス。本気でこの艦隊でグルバと戦うのか」
 ブライスが腕を組んで首を振った。
「いや、まだ足りない。デル・ゲイブとその一派の六十隻と、ドン・サントスの四十隻が合流する事になっている」
 ザンプタは面倒くさそうにつばを吐いた。
「あのなあ、わしが心配しとるのはむしろその数じゃ。おまえさんの王家の艦船は良い、ベゼラ以下のザイマンの貴族や船長達も役に立つじゃろう。じゃがメソルの十五隻。カインザーの三十五隻、ドン・サントスの四十隻にデル・ゲイブの六十隻。こんな雑多な艦隊でグルバとザラッカの鉄の結束を誇る艦隊と戦うのはほとんど自殺行為だぞ。わしはソチャプもデルメッツですらも、こんな戦いで殺したくは無い」
 ブライスは険しい顔だった。
「勝ちきるか、破れるか。ここで決しなければならないんだ」
「けっ、相も変わらずシャンダイアの貴顕は単純な馬鹿ばかりじゃ」
 そのやり取りを聞いていたバンドンが神妙な顔をしてザンプタに近づいた。
「どうやらあんたが一番まともなようだな。実は、海戦についてド素人の俺でもなんとなく不安を感じていたんだ。ちょいと聞きたいんだが、戦闘が混乱した時にこの艦隊で一番信頼出来るのは誰だ」
 ザンプタはニヤリと笑った。
「なる程、おまえは山賊と言っておったな。海賊よりはまともかもしれん。生き残りたいのならばマスター・メソルの動きを見習え」
「メソルの艦隊ってなあ、どれだ」
 ザンプタが短い髭がはえた顎をしゃくった。
「あそこの小さい船じゃ」
「だと思った。あのくらいが生き延びるのは丁度いいもんな。あんたもやっぱりメソルの元に飛び込むのか」
「わしか、わしは海に飛び込むよ。そこが故郷だからな」
 バンドンはきょとんとした。ブライスが説明した。
「マルヴェスターが言っていた翼の神の弟子トーム・ザンプタだ。同時に海の精霊ホックノック族の始祖でもある」
 バンドンが口をあんぐりと開けた。そしてあきらめたように頭を振ると、クライバーに言った。
「クライバー、どうしても俺がソンタールとの戦いに参加しなきゃならないなら、次は北の山のほうにやってくれ。ここよりはちったあ理解出来るだろう」
 ブライスが笑った。
「それはどうかな。ここにいる俺達がどう考えても想像がつかない出来事が、北のほうじゃ起きてるようだぜ、ベリックとマルヴェスターが何かやらかした」
 バイルンがセルダンを見た。
「北のほうで何か起きたのですか。ベリック王とマルヴェスター様の消息は我々には全く不明なのです」
 セルダンも首を振った。
「僕達にもわからないんだ。ただ、バリオラ神が復活したらしい」
「なんと」
「マスター・メソルはバリオラ神の巫女で、彼女が神の気配を感じたんだ。それでこの艦隊に合流した」
 ブライスが皆を見渡して大声で宣言した。
「さて、あと六日待つ。それがベゼラとの約束の期限だ。バイルン、カインザー兵の船酔いが抜けるように、全員上陸させて休ませておけ。ザンプタ、ソチャプの生長具合はどうだ」
「大丈夫じゃ。グルバの艦隊とぶつかるまでには成体になる」
 バンドンがあえいだ。
「おい、ソチャプってのは、サルパートの洞窟にいたというあの怪物か」
「どうやらそうらしいな。安心しろ、わしが飼いならした」
「おお、どこに正気があるんだ」
 ブライスがホッとしたように部下に指示した。
「ザンプタの船を曳航する船の数をあと二隻増やせ。ソチャプがデルメッツの力を抑えてくれないと、この海戦に勝つ事は難しくなる」
 セルダンがクライバーにたずねた。
「クライバー、アントンとアーヤは元気かい」
「ええ、出発する時は。尤も、ポーラ共々いささかバルトール商人に毒されつつあるような気もしたけど」
「そうか、元気ならいいんだ。カインザーにはもうほとんど人が残っていないから、カッソーを出る前にアントンに頼みごとの伝令鳥を飛ばしたんだ」
「大丈夫。アントンなら何とかするだろう」
「ああ、信頼してる」
 セルダンはにこやかに笑った。こうして六日後、シャンダイアの連合艦隊百八十三隻は北に向けて風の岬を発進した。風の岬はその名の通り強風の吹く岬だった。その強い風がこれまでの長い航海のすべての思い出を吹き飛ばして、グルバとの決戦だけを心に残してくれたような、すがすがしさをセルダンは感じていた。
 イクス海を北に進んだ数日後、海原の彼方にかなりの規模の艦隊が見えた。まだブライスの旗艦に乗っていたセルダンが指さして叫んだ。
「デル・ゲイブの船かなあ」
 隣にいたブライスは首を振った。
「いや、デルの船はもっと豪華ででかい。サントスだ」
 マルバ海最大の海賊の頭目ドン・サントスの艦は、巧みな操船技術で艦隊の中をすり抜けるようにブライスの艦に近づいて来た。そして部下のベズスレンがこぐ小舟で、サントス自身がブライスの元にやって来た。後ろには水玉模様のベズスレンとはぐれ魔法使いのシャクラを引き連れている。身だしなみが良く、髭もきちんと刈り込まれた立派な軍服を着たサントスとブライスが向き合うと、どちらが海賊だかわからなくなってくる。サントスはくわえている葉巻をやけにスパスパと吸った。
「おいブライス。俺の見間違いでなければ、マスター・メソルの船が見えるんだがな」
 ブライスはニヤニヤした。
「ああ、仲良くしてくれ」
 サントスの四角く厳しい顔がさらに険しくなった。
「なる程。一つ聞くが、戦闘が終わった後、俺がメソルを襲ったらばどうする」
「どうもしない。それはそっちの問題だからな」
 後ろで聞いていたセルダンが驚いた。
「ブライス、そんな」
 ブライスは気にしていなかった。
「メソルはそんなに簡単にやられる者では無いだろう。今は先の事は考えなくていい、まずはグルバとの戦いの事だけを考えるんだ」
 こうして二百二十三隻になった大艦隊は、いよいよ決戦の場に向かって北上して行った。

 (第八章に続く)

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