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シャンダイア物語

第六部 統治の指輪
第三十四章 剣の道

福田弘生

 

 セルダンは目の前に立った男を見つめた、この男がガザヴォックを除けば最強の敵であるはずだった。黒い衣の頭の覆いを深く下ろしているため、夜では人相がよくわからない。ただ、その姿は禍々しい気配に満ちあふれている。
「いいでしょう。しかしあなたとの戦いはここエルセントでは行わないように、僕の友人がユマールの将ライケンから忠告されている。しかし僕は今ここを離れるわけにはいかない」
 黒い覆いの中から品の良い若い男の声が答えた。
「ここで戦うつもりは無い、しかしどうしても戦ってもらわなければならないのだよ」
 その時馬のいななきが聞こえ、アーヤの乗馬フオラに引きずられるようにして、馬と話せる少女エレーデがやって来た。そして黒い冠の魔法使いに気がついて身をすくませた。フオラがヒヒンといなないてエレーデを力づけた。
 黒い冠の魔法使いがフオラを見て驚いたような声を上げた。
「とても古い魔法だ、その馬は光と闇の根元である宇宙神の魔法を身にまとっている」
 エレーデは黒い冠の魔法使いに目を向けてしばらく迷っていたが、思い切ってセルダンに言った。
「セルダン王子、フオラが伝えたい事があるそうです」
 セルダンはフオラの長い顔を見上げた。
「何だいフオラ」
 エレーデが代わりに言った。
「フオラはこう言いました、皆が王子を必要としているだけではなく、王子もまた皆を必要としているのだと」
 セルダンはハッと気がついたようにエレーデを見た。
「他には何か言ってるかい」
 フオラがエレーデの耳元に顔を寄せて、バフバフと口を動かした。エレーデが読み上げるように伝えた。
「攻めるだけでは戦いに勝つ事は出来ない、相手の攻撃を受け止める事、耐える事もまた必要だ」
 セルダンは黒い冠の魔法使いを振り返った。
「僕達の戦いはそういう戦いになるのかな」
 興味深そうに耳をすませていた魔法使いが答えた。
「それは君次第だ、今のは馬の助言か」
「いや、シムラーでクラハーン神が僕に言った言葉だ。説明するのは面倒だけど、ある理由で僕が忘れていた事をフオラが適切な時に教えてくれる事になっていたんだ」
「なる程、ならばここまで戦いを引っ張ってきた君が、戦場を離れる時が来たという事だ」
「そうらしいな」
 セルダンはブライスに顔を向けた。
「頼む、皆に頼むとだけ伝えてくれ。僕は行かなければならないようだ」
 ブライスはあわてて手を振った。
「大丈夫か、皆を呼んで来て一緒に戦ったほうがいいんじゃないのか、ここには六つの聖宝のすべてがあるんだぜ」
「いや、まず僕が僕の戦いを終えないと、聖宝を集めても力にならないと思う」
「じゃあエルネイア姫だけでも呼んで来よう、このまま知らせないでお前を行かせてしまうと、俺がエルに殺されてしまう」
 セルダンは首を振った。
「いや、エルに知らせたら僕を行かせてくれないよ」
 セルダンは振り向いて黒い冠の魔法使いを見た。魔法使いはうなずくと、ふと気が付いたようにブライスに言った。
「君は光と闇の両方を持っているらしい、君の未来がぼんやりと私の頭の中に浮かんできた」
 ブライスが驚いた。
「貴様には見えるのか、光の勢力者に見えなかった俺の未来が」
「いや、見えるという程では無いが何かを感じる」
 ブライスは嬉しそうな顔をした
「いやそれで十分だ、俺には未来など無くて、この戦いのどこかで死ぬのかと思っていた」
 黒い衣の中からかすかな笑い声がした。
「まさか、君がすでに別の旅を始めているだけだ。さあ行くぞ剣の王子」
 セルダンが剣の柄をガチャリと叩いた。
「どこに行くんだ」
 黒い冠の魔法使いが言った。 
「北へ、私が滅ぼしたトルマリムのベクド大聖堂へ」

 (第三十五章に続く

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