雪が降っている。
ティズリは雪を踏みしめながら歩いて来ると、背の高いミリアを見上げた。 「噂以上に美しいわね」 「あなただって可愛いじゃない」 ティズリは額の傷に手をやって怒りのこもった目でミリアを睨みつけた、ミリアに負けない程美しい顔のレリーバがせせら笑った。 「化け物の娘は化け物よ」 ティズリは目の前に降っている雪を凍らせると、細かい尖った氷の礫をレリーバに投げつけた。 「かあさまを悪く言うな」 レリーバの手の平から緑の霧が噴き出して、飛んで来た氷の礫を溶かして消した。 「そのお前のかあさまが、私のタルミの里を毒で汚したんじゃないか」 ミリアは姉のような目で若い二人の魔女を見比べた。 (この二人の能力は水、でもここまでいがみ合っていてはティズリの力をレリーバのために使えるかしら) ミリアは始祖の獣に問いかけた。 「ジェ・ダン、何か手掛かりをください」 ジェ・ダンはブンと羽根をうならせて答えた。 (この星のすべての物事は二か六の数字に支配されている) 「そうね、魂が六つなら選ぶべき数字は六ね。エイトリ様」 エイトリ神が答えた。 「六つの聖なる宝は一つの秤を中心に存在する、今回の中心は井戸だ」 ミリアはうなずいて、短剣を取り出すと右の腕に軽く刺した。 井戸に腰かけていたマコーキンが驚いたような目をして右手をさすった。ミリアが目を上げてマコーキンに言った。 「マコーキン、私達の体の半分はセントーンの戦場にあるの。ここでは私達の体は二つに分かれているけれど、実体は一つなのよ」 マコーキンは黙ってうなずいた。 ミリアの腕の傷から銀の血が流れ出た、ミリアが魔法の言葉をつぶやくとその血は銀の光となった。ミリアはその光で井戸の周りに六角形の半分を描いた。次にミリアは左腕を刺し、流れ出た金の血で六角形の残りの半分を描いた。ジェ・ダンがうなった。 (六つの数字を二つに分けたな、なぜそうした) ミリアは微笑んだ。 「二もまた大事な数字だからよ」 ミリアは銀の線の上にある三つの角の中心にレリーバを立たせた。そしてレリーバの対角にアタルスを、アタルスの右にポルタスを、左にタスカルを立たせた。そして言った。 「銀は闇、金は光。銀は過去、金は未来。育むのは銀の翼、導くのは金の翼」 そしてテイリンに目を向けた。 「一つの井戸は天の秤、解き放つのはあなたよ」 テイリンは首を振った。 「私にはまだわからない」
バルトールの暗殺者イサシは小屋の窓の隙間から外の様子をうかがっていた。人間相手ならばひるむ事の無いイサシでも、さすがにこの場所に出て行く気はしなかった。 (だいたい誰が敵か、誰が味方かわからねえじゃねえか) イサシは宿敵であるフスツの顔を思い出した。 (こうなるとあいつが懐かしいぜ) イサシは窓から離れると、ボロボロの小屋の裏の扉から雪の中に逃げ出そうとした。そして大柄な狼と鉢合わせした、狼はうなるように言葉を放った。 「自らの役目を果たす前に逃げ出すと、神の力によって裁かれるぞ」 イサシは首をすくめた。 「そう怒るなルフーの長、逃げ出さないよ。どのみち、この雪の中をどう歩けばいいのかもわからないしな」
(第四十九章に続く)
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