[2]
最初はすべてが順調だったのだ。いままで幾つもの恒星系を探査したのとおなじように『オールド・ファッションド・ラブソング』は準光速から何カ月も何カ月も一G減速をつづけ――今回はラムジェットを『押しがけ』するための重水素をたっぷり確保してあるので気前よく――ゼータ・リベリニス星系の奥深く、遠日点二天文単位――ほぼ二地球年周期の軌道にまで侵入したほどだった。しかしお定まりのオートスキャンでまず最初のつまずきがおこった。
「何度やってもエラーだ」
ウィリアムはぶ然としてつぶやいた。
「設定にミスはないはずなのにどうしてかな?」
「さあさあ、ウィル。そこをどいて。わたくしにまかせなさい」
自信まんまんの態度で交代する妻に席をゆずりつつ、彼はできるものならやってみろという開き直りと、どうにかうまくやってねという依頼心のはざまにいる居心地の悪さを感じていた。
「この内惑星らしいやつが問題なんだ」
「ふむふむ――うわっ、なにこの嫌な色?」
「赤、って呼ぶな。ふつうは」
じろりと夫を睨むと不穏な調子でカシルは言った。
「軌道が決定できないのならキャンセルかけてうっちゃっておいたら? こんな色した惑星、どうせろくなものじゃないわ」
「そうもいかないよ。……いちおうクレイドルへのレポートがあるからね」
「クレイドル、クレイドル――百光年も離れて、なんでこうもあの連中に気をつかわなきゃならないのかな? いっそローンなんて踏み倒しちゃえばいいのよ」
「いやはや。今日はえらく虫のいどころが悪いね」
ぶつぶつ言いながらそれでもカシルは夫が立ち上げたソフトの基本設定をひとつひとつチェックしていった。
「ふーん、べつに間違ってはいないようだわね。めずらしく」
「めずらしくはよけい」
戻る/進む