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「えっと、こっちをこうしてみるとどうかな……」
彼女がいくつかの項目のチェックを切り替えるうちに、とつぜん画面にウインドウが開いていくつかの数値とグラフが表示された。
「あ、出た。ふうん、さすが――いったい何をやったの?」
例によってコンピューターを自在にあつかう技量を持つ人間へのわずかな妬みをこめたウィリアムの賞賛の言葉なのだが、カシルはまだ眉根をしかめたまま画面をにらんでいる。
「――変ね。ただ思いつきで惑星探索モードに伴星オプションを加えたのよ。そうしたらすんなり軌道が出ちゃった」
「どういうこと?」
「つまりね。いままでコンピューターはあの小さな光の点がゼータの向こう側にあるものとして計算していたの。惑星は主星の光を反射することで輝くわけだから当然の仮定でしょ? でもそうすると過去観測された光度や位置から割り出される軌道要素がケプラー運動のそれとは矛盾してしまってわけがわからずエラーになっていたわけ。でもいまわたしが伴星オプションを加えたことであの光が天体そのものから発するものでありうるという条件が加わった。だからコンピューターはそれが主星のこちら側にも存在できるという前提で軌道計算をやりなおしたのよ」
「……つまりあれは惑星ではなく、リベロ座ゼータの伴星ってこと?」
「みずから発光しているのであればそういうことになるのだけど――」
ウィリアムは沈黙した。核融合で自ら発光できるほどの質量をもつ天体だったらはるか遠方からでもゼータ星そのもののゆらぎで発見できたはずだ。という以前に、そうした連星系は居住可能な惑星を持つ可能性がほとんどないから、シーカーである自分たちはあえて探査しようとは思わない。そうとも、あの天体は小さいにきまっている……にもかかわらず何億キロも彼方から見えるほど明るく輝いている?
「間違いはないんだろうね?」
「ここまではっきり結果がでているのだからエラーの可能性はないわね。不可解だけど現実よ」
「うーん」
ウィリアムの親指が顎ヒゲの剃りあとをさかんになではじめた。
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