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 いっしゅんウィリアムの頭に読書ライブラリのなかにある大昔のSF活劇のひとつがひらめいた。金星人だの木星人だの科学的におよそありえないキャラがぞろぞろ出てくるあのスペースオペラ――なんていうタイトルだっけ?
「……ううん、不可解だなあ。あるいは星が作られる前の微小な塵が球状にあつまっているのかな? それなら雲みたいに光を透過しても不思議じゃないんだが」
「でもなんでこんな完全な球形なの? 力学的にありそうもないでしょ?」
 ウィリアムはうなずく。たしかにそうした条件なら回転による遠心力と重力の相互作用の結果塵は赤道面付近に円盤状に集まるだろう。こうまでみごとな球体を形作るなんてことはまずありえない。それに……。
「そうか!」
「ああ、びっくりした。なんなの?」
「ごめん。いま気がついたよ。もしもあの天体がそんな塵のあつまりだったら透過した光はこんな色になるはずがないじゃないか。惑星を形成する過程の物質なら粒子のサイズはさまざまのはずだろ? そうした塵は特定の波長ではなくスペクトル全部を散乱してしまうはずだよ。つまり透過光はかぎりなく白に近くなる、ってこと」
「でもあの透過光は青でも白でもなく気色の悪い赤――」
「つまり太陽光のうちごく短い波長だけが散乱されているということだよ。波長で言えば四百ナノメートルあたりになるのかな――そんなに微小で均一なサイズの星間塵なんて不自然じゃないか。それよりむしろ……」
「うん」
「短波長の光を散乱する気体分子があそこにあると考えるほうが無理がないと思う――」
 ようやくカシルにも夫のいわんとするところが理解された。
「ガス惑星?」
「そういうことになるな」

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