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 漆黒を背景に青く輝く球体――色彩の変化は遷移軌道上の『ハルバン』との位置関係が変わり、ほぼ正面から陽光がこの星を照らしているためだ。青みは天体の縁に近づくにつれて淡く明るくなり、本当ならくっきりとした青白い円周を描いて終わるはずだ。しかし惑星全面にわたって渦巻く真っ白な筋雲と球体そのものを覆っている白っぽくぼやけた表皮が眺めを多くの部分でさえぎっていた。
 はじめ彼らは予想したようにそれを気球のそれに近い白濁した半透明な膜だろうと思った。しかし『ハルバン』が望遠カメラの倍率を切り替えるにつれ細部が明瞭になり、その単純なイメージは裏切られた。『皮膜』は一様ではなく細かい構造を持つ『網』だったのだ――無数の純白の編目模様のパターンがこの天体の外殻を作っていた。ちょうどある種の放散虫の石灰質の球殻のように――長さのそろった細い棒状のユニットが三つ組み合わさって正三角形を作り、同じ形と大きさのそれが隣り合いいくつもいくつも連続して……ひとつの頂点には六つのパターンが集まって六角形を形成している。当然それでは球面は埋め尽くせないからまれに五角形も見られるはずだが……そうやって規則正しくデルタのパターンが無数につらなった繊細なレース編みが惑星の表面をすっぽり包み込んでいた。雲の筋を散らし、はなだから紺碧にいたるグラデーションに彩られた球体をそうして白い微細な三角形のつらなるベールが包みこむさまはじつのところ美しくもまた恐ろしい眺めだった。
「いったいぜんたいなんなのかな? これは」
 微動だにせず画面をにらんでいる夫の背後でカシルは苛立たしげにつぶやいた。
「自然の天体? 特大の実験気球? それとももしかして……」
「もしかして惑星サイズの生命体……もありかな。人工物だとしたらあんまりスケールが大きすぎる。かといって無機的な自然の産物とはちょっと思えない――少なくとも自然の天体ということはないだろうな」

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