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「ふうん。あえて断言する?」
「ああ、なぜならこの宇宙で非常に狭いスケールレベルで特異的に観測されるパターンがあるとしたら、それはまずたいてい生命活動を反映しているものだからさ」
「こいつが何物かどうかって問題とスケールレベルが関係するわけ?」
「ほら、ぼくらシーカーとしていろんな惑星を見てきたけど、たとえば探査機の高度が十倍違っていたとしても表面を映した画像にこれといって決定的な差は見つからないものだろ?」
 夫のまのびした口調にカシルは大きくため息をつき、すこし落ち着いた口調で答えた。
「たしかに同じような大小分布でガスの渦だのクレーターだのが写っているだけね。もし探査機から距離に関するデータが送られてこなかったら画像だけ見ていてもほとんど何もわからないわ」
「そう、宇宙はディテールというものの存在を許さないフラクタルの神が支配している。原子レベルの微細な距離や銀河レベルの大規模構造の両極端のぞいた中間のスケールでは――一メートルも一キロメートルも一ギガメートルも――特別な意味なんかない。でもいっぽうで、もし探査機の送ってきた画像に一輪の花、一匹の昆虫でも写っていたとしたら――たちまち画像のスケールが決定される。高さ一キロのヒナギクも体長十メートルのノミも存在できないからね。生命現象には本質的に厳密なスケール依存性があるんだ」
「それで?」
「それでこの天体の微細な網の目なんだけど――あきらかなスケール依存性が認められるんじゃないかな。つまり何かひとつでも言えるとしたら、この構造はたぶん生命に関係しているだろうってことだ」
「あなたはひょっとして惑星サイズの放散虫がこの骨格を作り上げたと言いたいわけ?」
「それもあり得るかも知れない。しかし、たぶん……超大規模な土木工事を計画しやりとげるだけの能力をもつ知的な存在が関係していると思うな」


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