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「……その根拠は?」
 カシルは黒い肌の下で夫の頬がかすかに紅潮していることを見抜いて尋ねた。こういうときのウィリアムはまちがいなく心のうちになにか新しい洞察を秘めているのだ。
「思いついたことがあるんだ。試しに画像解析プログラムを立ち上げて調べてみてくれないか? 網の目の数は全部でいくつあるのかを調べてほしいんだ」
「あなたが言っているのは球殻全体の『面(ファセット)』の数をかぞえるってこと?」
 とりあえず彼らは多面体の要素を呼び習わす数学用語を採用していた。構造の最小単位の梁を『辺(エッジ)』、それによって作られる三角形を『面(ファセット)』、六本あるいは五本の『辺(エッジ)』が集まる点を『頂点(ヴァーテックス)』――と呼ぶことにしたのだ。
 ウィリアムはうなずき、カシルは肩をすくめながら画面を拡大してそこに映っている三角形のくり返しパターンのひとつを入力ペンでなぞりコンピューターに記憶させた。そうしてプログラムをスタートするとまたたくうちに画面上のすべての『面(ファセット)』が赤くふちどられる。当然画面に映っていない部分は数えようがない。しかしコンピューターはそれをパターン推測して総数を合計することができ――答は瞬間的に返ってきた。
「81920」
「うーん。どんぴしゃり、予想したとおり……」
 リスト端末を眺めながらひとり悦にいった調子でウィリアムはつぶやいた。
「ちょっと、あなた、ひょっとしてその数をあらかじめわかっていたと言うつもりじゃないでしょうね」
「まさか――ぼくが予想したのは数そのものじゃなくて数がもつある性質、だよ」
「あん?」

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