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「81920イコール、20掛ける4の6乗……つまり20のなかに4分割のパターンが自己再帰的に6回くり返して入っているわけさ」
「またわけわからないことを言っているなー」
「まあ聞けよ。三角形の各辺を二等分する点を結ぶとその内部に合同な三角形が四つできるだろ? それぞれの三角形に対して同じ操作を繰り返すことで三角形の数は4の累乗ごとに増えて行く。だから正二十面体からはじめて各面にそれを六回繰り返したうえで外接球面に投影された各頂点を結ぶことにより20掛ける4の6乗――凸81920面体を作ることができ……」
「うーんと、それってひょっとしたら――」
「それさ――まさにバックミンスター・フラーのジオデシックだ。最少の材料で最大の体積と力学的安定性を持つ立体構造――ただの編み目じゃない。惑星大の建造物さ。こんな数学的に計算されつくした構造が綿密な事前の計画なしに偶然できあがるとはとうてい思えないからね」
「……つまりだれかがデザインしたっていうのね? ひとつの『天体』をまるごと?」
 ふたたびにらみ合ったあげくカシルは肩をすくめ画面に目をもどした。
「名推理かも知れないわね、ホームズさん――でも、ひとつ根本的な問題が残っているわよ」
「というと?」
「この『星』が人工物であるという可能性は――なるほど途方もない話だけど――必ずしも不合理とは言えない。でも別のやっかいな疑問があるの。あそこには推定一気圧の呼吸可能な大気が存在するって事実」
「そのとおり。窒素七十三パーセント、酸素二十五パーセント、二酸化炭素その他の気体二パーセント――スペクトル解析からの想定だけどね。それは生命の存在の可能性を意味している。だから?」
「なぜ大気は宇宙空間に洩れ出さないのかな? こんな遠方からこそ小さく見えているけどひとつひとつの『面(ファセット)』は途方もない大きさ――一辺八十キロを超える巨大な三角形なのよ?」

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