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「でかい窓枠にはでかい窓ガラス――温室と同じ構造でなぜ悪いんだい? 気密性をもった透明な材質で『面(ファセット)』はふさがれている……」
「『透明な材質』……ねえ? わかって言っている? この場合『透明』というのは――『ハルバン』からの画像を見てわかるように、どんなに浅い角度からでも『面(ファセット)』で反射される光が観察されていない以上は――真空と同じ屈折率、つまり密度を意味するわけよ?」
「ぐ」
 一瞬唇をゆがめたウィリアムを睨むようにしてカシルはつづけた。
「それにここのところをよく見てみて――」
 目をモニターに近づけて彼はもういちどうなった。
「この雲は『辺(エッジ)』を覆っているように見える。もしそうなら『辺(エッジ)』は対流圏より下にあるってこと」
 しばし考えてからウィリアムは慎重な言葉づかいで答えた。
「でもね。ほんとうに『面(ファセット)』が気体をすりぬけさせてしまっているのなら――内部の気体をひきとめるための何かの遠隔作用が存在していなければならないってことだぜ? まあ常識的には重力ということになるだろうけど――それならこの華奢なレース編みが地球に匹敵する質量を持っているというのかい? 内圧がなければこの球形は構造自身が支えなければならないはずだろ? もし現実にそれほどこの天体が重たく、にもかかわらず自転や公転にともなう構造そのものの歪みでばらばらにならずにいるんだとしたら、こいつは実在するとは信じられないほど強靱かつ超高密度な材質から出来ていなければならないってことになる。それなら密度ゼロの透明物質を想定したほうがまだましかも知れないぜ」
「そのとおりね、名探偵さん。――でもあり得ないことを消去して残ったものがどんなに信じられないことでもそれが事実なのよね?」
「うう……ん」
 とにかく謎は深まるばかりだった。

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