[6−15]
「中心近くでは目に見えないけど渦巻いた大気は細く収束された高速のジェットになって両極から吹き出しているんだ。サイズこそ途方もないオーダーで違うがこいつは本質的に渦巻き銀河の中心ジェットと同じだよ。あそこでは急激な減圧とともに無数の氷の粒子が生成されているはずだ。それが膨大な熱の捨て場所になっているってわけさ。同時に氷同士の静電摩擦で雷のもとになる巨大な電位差も生みだされる――これですべてわかったぞ」
実際にはちっともわかっていなかったのだがウィリアムはあえてそれをこの場で口にするつもりはなかった。
「ふうん? 大気の渦が自分自身を圧縮しジェットとして噴出することで熱機関を動かし続ける……なんだか自分の髪の毛をひっぱって宙に浮くような理屈じゃない?」
「まあ、そりゃそうだけど、それを言うなら台風だって同じじゃないか?」
「なんか曖昧な口ぶりね。あなた自身その説明に完全に納得していないでしょ?」
さすがに長年連れ添った妻をごまかすことはできない。カシルにずばり指摘されてウィリアムはあわてて話をきりかえた。
「いやまあ、細部のメカニズムはともかく状況ははっきりした。内心台風の目のような無風地帯を期待していたんだけど……船はどんどんあの中心に引き寄せられていっていずれ中心部分の『降着円盤』にひきずりこまれるだろう。あの高温高速の岩石の渦流にもあるいは船体は耐えられるかもしれないが、中に乗っているわれわれはあんまりありがたくはない……」
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