[6−16]

「すくなくとも子供たちをそんな危険にあわせるわけにはいかないことは確かだわ」
「うん。なんとしてでもその前に脱出するんだ。さいわい雨はやんで微かに陽射しもある。とりあえずこの位置で時間を稼いでいれば船体表面の雨水が蒸発してメインエンジンが使えるようになるはずだ」
「うん。やってみるしかないわね」
 寸刻を惜しむかのようにカシルは操縦席に飛びつくとすばやく身体を固定した。
「バーニア全開で気流に抵抗してみます。かわりに子供たちをお願い!」

*

 息詰まるような時間が流れた。なんとか姿勢制御エンジンの最大推力が使えるようカシルは操船テクニックの粋をつくして船体の向きをコントロールしつづけた。いっぽうウィリアムは身体中に医療ナノパッドをぺたぺた貼られたユルグとそのお兄ちゃんの珍しい姿を飽きもせず眺めているミヒョンをそれぞれコントロールルームの対Gベッドにくくりつけるべく育児テクニックの手練手管をつかっていた。
「頼むから、ミーちゃん。ちょっとの辛抱だからおとなしくここにいてくれ」
 「いや――おにいちゃんのそばにいたい。それに揺れるからみーちゃんベッドは嫌!」と宣言する娘をウィリアムは説得した。
「おにいちゃんは加減が悪いのだからしばらくそっと寝かしておいてあげなさい。見守るのなら隣のベッドでもできるだろう? とにかくいまは緊急事態なんだからおとうさんの言うとおりにしなさい」
 ミヒョンは憮然とした様子ですこし考えてから言った。
「……アイちゃんといっしょならいいかな」
 ウィリアムはほっとして玩具がごちゃごちゃつまったネットの中からテディベアをつかみだしベッドの固定ベルトにはさみこむと娘の頭をなでつつ言った。
「よし、いい子だ。それじゃしばらくおにいちゃんを頼むぞ」
「まかせて!」

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