[7−3]
いっしゅんバーニアの鋭い噴射音がとぎれ、瞳孔が閉じるように展望窓を絞り羽状のシャッターがおおった。そのとき外部から心を不安にさせるようなか細く不気味なうなりが伝わってきた。
「……どっかで誰かが泣いてるの?」
かすかに怯えた響きのミヒョンの問いにユルグが小さくしかし落ち着いた声で答えるのがウィリアムに聞こえた。
「違う。ただの風の音だよ」
さすがにおにいちゃんだな。そのとおり、あれは突起物の多いサガの船体から無理矢理引きはがされ渦巻く気流がたてる音だ――そうウィリアムが心のうちで思ったとき、風のうなり声はいっきに音量をあげ会話を困難にするほどのレベルになり、同時にクルーザーは推進軸に対してめまぐるしい速度でスピンをはじめた。
「『ジェット』に乗るわ! みんなしっかりつかまって!」
カシルが叫んだ直後すさまじい咆哮が船室にとどろき、まるで巨大な手でもてあそばれているようにあらゆる方向からかかる力にセイジ一家全員の身体は激しく振り動かされた。
――がん! がん! がつん!
大小の岩があられのように船体を叩く、きりもみするように急速で回転しながらサガは『ジェット』に吹き上げられみるみる速度を増していった……。
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