[7−4]

 いまふたたびウィリアムは大気圏の外にあって安全にこの不思議な天体を見下ろしていた。数々の驚くべき体験をおえた身にとってまさにそこは果てしなく巨大なひとつの世界だった。しかしいっぽうでは彼のなかにはこれが何かの目的をもって作られた建造物であるという印象がますます強くなっているのだった。あくまで不自然で幾何学的なジオデシックの三角の升目のひとつひとつの中心に白くまんまるい羊雲が浮かんでいる。重力ポテンシャルの変化にともなう気圧の急勾配がそうした雲を形づくることをいまではウィリアムは確信していた。
「――ほんとうに子供ってタフ。命がけの試練を終えたばかりだっていうのにね……」
 同様に窓の外をながめつつ操縦席のかたわらに浮き上がってきたカシルが言った。
「寝かしつけるのに苦労したわ」
「たぶん興奮まだ醒めやらないんだろう――無理もないけどね」
 『ジェット』に乗って急激に回転、加速されていくクルーザーのなかできゃあきゃあとむしろ楽しげな悲鳴をあげていた子供たちを思い起こしてウィリアムは答えた。
「サガは絶叫マシンじゃないんだけどね」
 そのまま嵐をぬけだし、勢いあまって船はジオデシックの編み目をかすめるとこの星の『重力圏』まで飛び出した。とっさにカシルは融合エンジンをフルスラストのまま周回軌道に乗るにまかせたのだった。エンジン二基ではぎりぎり衛星軌道に乗る第一宇宙速度が限界。そして第三エンジンを整備するためには気圧ゼロ環境で船体の水分を徹底的に揮発させたほうがよいと判断したのだ。
「もっとも子供たち同様ぼくもいまだに高ぶる気持がおさえられない――信じられないよ。宇宙にこんな驚嘆すべき世界がありうるとは!」
 彼は妻の腕をとってとなりに引き寄せるとその肩を抱くようにしてふたたび外部の光景に見入った。明暗境界線がゆっくりと眼下をよこぎりジオデシックの一見華奢な白亜の構造がみるみるその輝きを闇に沈めていく。

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