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 画面に岩だらけの『地表』が広がっている。明るい岩の表面にときおり見られる薄汚れた茶色の斑点は地衣類かも知れない。あちらこちらに新雪のふきだまり。ときおり地をはう霧が眺めをさえぎる。
「赤道直下だというのにひどく殺風景ね。さしずめキリマンジャロの山頂といったところかな?」
「摂氏プラス五度か……太陽が真上にあってこの寒さじゃ、動植物にはちょっと辛いだろう」
 カシルの言葉にウィリアムは応える。
「――どうしてこれほど気温が低いのかまだよくわからないけど、ひとつには大気が極度に乾燥しているせいもあるはずだな。二酸化炭素濃度もかなり低い。この場所では重力は『まっとう』に働くから当然だけどね」
「そのぶん温室効果がじゅうぶん働かないわけか――山の上が寒いのと同じ理屈ね」
 カシルが送った指示から数分遅れでモニター画面がゆっくりと右方向にパンしはじめる。掘削パイプを搭載して先にランディングした自走キャリアのオレンジ色の機体が視界をかすめた後は良く似た風景がえんえんと続くだけだ。画面隅の方位を示す数値だけがものうげに流れていく。どこを見ても荒れ果てた景色なのだが、ただ地平線までの距離だけが違う。カメラはわずかに下向きの角度で回転しているがそれでも東南東と西北西方向を向くと山岳特有の群青色の空がモニター画面上方にはいってくる。そのためについ探査機が平坦な山の尾根の上に着陸しているという印象をもってしまう――しかしこのポイントは大気圧によって決定される惑星の基準球面(ジオイド)から考えれば『海抜ゼロメートル』でもあるのだ。ウィリアムはその思いつきにくすりと笑った。
「なにかおかしい?」

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