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「つまり……」
「想像どおりこのジオデシックの枠組みは超高密度物質の芯を持っていたんだ。何かのトラブルでその破片が星の内部にこぼれ落ち、互いのまわりを凄まじい速度で回転しはじめたとしたら――それが不安定な気流条件のもとでたまたま強力な嵐を産み出す要因になった……」
「ひょっとしたらその破片たちは例の『イレギュラー』からこぼれ落ちたのかもしれないわね」
「ありえるね。この凄まじい回転速度から見てもこれらの破片はこぼれ落ちてからそんなに時間がたっていないみたいだ――」
「――でも、ちょっと待ってよ。肝心の『イレギュラー』の調査ではそうした構造材の存在の証拠はまるでなかったじゃない。それにいくら超高密度だっていってもあの嵐を作り出すだけのエネルギーをそれらの破片が『たまたま』持っていたっていうのはあまりにも都合がよすぎない? もしもメテオロイドの衝突ではじき飛ばされたとしてもそのまま宇宙空間へ飛び出していくのが普通でしょ? ふたつの破片が互いのまわりを超高速で回転する軌道に入る確率はごくごくわずかのはずだわ」
「ご説ごもっとも。だけど一点だけ誤解がある。ジェット天体に似ているのはあくまで外形だけ。じっさいのメカニズムはまったくちがうだろう。中性子連星やブラックホールのジェットを駆動するのはもっぱら電磁力だけど、あの嵐を引き起こしているのは破片の回転エネルギーよりもむしろ強烈な重力勾配がつくる摩擦熱のはずだよ。……嵐の中を飛行しているとき赤外映像で見たものを覚えているだろ? 降着円盤が高熱を発していた。あれは気流に巻き込まれて砕かれた岩石や氷塊が高速に回転しながら互いにぶつかりあってつくりだす熱だ。その熱エネルギーが縮退物質の強烈な重力場に対抗してジェットを産み出すだけの膨張圧力を産み出す。さらに減圧されたジェットの内部で大量の氷が生じて中心部分の熱を奪いさり、気圧低下した分を補充するために周囲からふたたび大気が渦巻きながら流れ込んで熱せられる……」

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