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「そもそもこのコンセプトの発端は二十世紀の後半、八十年代当時世界最高の頭脳がそろっていた北米のMITやスタンフォード大といった研究室の科学者たちがコンピューターネットのなかであれこれアイデアを交わすうちに産み出されたものらしい。軌道上にものを運び上げるのにいちいち膨大な燃料を消費するロケットを使わずに軌道エレベータを利用することはとても効率的だ。しかしそれらは高度三万六千キロの静止軌道上を基点に建設するしかないという最大の欠点がある。こうした制約を解決するためには静止軌道よりはるかに低い高度で軌道エレベーターの重心を支えてやらなければならない。そのための手段として考案されたのが『動的圧縮力(ダイナミック・コンプレッション)』による支持なんだ……。
 仕組みは簡単。すべては複数のステーションを低軌道上に配置し、金属ペレットの連続的な流れをステーションのうちのひとつにある電磁カタパルトで打ち出すことから始められる。加速されたペレットの流れは軌道上のとなりあったステーションで磁気偏向され方向を変えられてさらにつぎのステーションへと向かう。最後に地球を一周してきたペレット流は最初のステーションに戻り、ふたたび加速投射される。おのおののステーションでペレット流が偏向されるとき反作用としての浮力が生じ、それがすべてのステーションを静止軌道よりずっと低い位置――たとえば地上二千キロ程度の高度で地表に対して安定させて支えるわけだ」
「それってどこかで聞いたな。そのアイデアを発展させたのがロバート・フォワードの『スペースファウンテン』じゃない?」
「うん。フォワードはペレット流の投射装置を軌道上じゃなく地上に置いてその上空にステーションを浮かばせることも可能であると指摘したんだ。そうすればもはや軌道エレベーターを建設するのに場所を選ばないからね。しかしいまは話をもどして最初の低軌道上のステーション群を想像してほしい――それらを支えるペレットが金属ではなく強力に荷電された縮退物質であったとしたらどうだろう? そのペレット流が生み出す反作用によってはるかに大規模な構造物を重力に対して支えることができると思わないか?」

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