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「膨大な質量をもったペレットの流れ……か。ふうん。それ自体超強力な圧縮抗力をもった剛体の梁みたいにふるまうでしょうね」
「そう。そしてこうしたペレットの流れが生み出す圧縮抗力は物質の結晶構造の丈夫さではなく、純粋に電磁的な力の大きさにのみ依存する。じゅうぶんな量の電磁加速エネルギーを供給さえできればどんな巨大な構造でも原理的にこの方法で支えることができるわけだよ」
「ううん。なんとなくわかってきたわ。あなたが言いたいことはこうかな?……この天体を構成している『頂点(ヴァーテックス)』がじつは縮退物質の流れを打ち出す電磁カタパルト――で、『辺(エッジ)』は内部に縮退物質の超高速の流れを封じこめた巨大な真空のチューブじゃないのか、って……」
「聡いね、奥さん。そのとおり。ペレット流はつねに真空中を運動するからほとんどエネルギーを失うことはない。もちろん『頂点(ヴァーテックス)』で偏向されるときに反作用力を及ぼすけれど、その電磁相互作用で失われる運動量――最終的に熱に変わるはずだ――はシステム全体から見ればごく微量だ。たぶんそれで発生する余剰熱を捨てるために『針(スパイク)』があるのかもしれない。……あるいは、いま思いついたけど、あれらはそうして失われたエネルギーを補充するための発電装置――たとえば熱電対――をかねているのかもしれないな。電磁相互作用はペレット流の運動ベクトルを変えるだけで減速はしない。超伝導コイルがあればいったん作り出された流れを維持するのに必要な電力はごくわずかでいいはずだからね。しかも動的圧縮力(ダイナミック・コンプレッション)のいいところは構造上の応力変動を各ステーション間ですばやく調整できることだ。たとえば潮汐力による歪みや、あるいは突発的な『辺(エッジ)』の破損があっても――」
「なるほど。メテオロイドの衝突で『辺(エッジ)』が破断したら、その圧縮抗力を瞬間的に周囲の『頂点(ヴァーテックス)』の電磁カタパルトに配分調整することで構造の連鎖的崩壊を免れる――そうか!」
 カシルが頬を紅潮させて叫んだ。
「そのとき飛び出したペレット……」

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