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「うん。そうした衝突の瞬間には超高速のペレットが幾つも『辺(エッジ)』から飛び出るだろう。むろん脱出速度よりはるかに速い。ほとんどはそのまま宇宙の彼方へすっ飛んでいき、何かの拍子にたまたま互いのまわりを近接回転する軌道に入ってしまったふたつが残ったのかもしれない。そのペレット『連星』は――あの『とらわれた羊たち』でわかるように基本的に不安定な球殻近くの気圧配置のなかで、大規模な嵐に発達していく渦状の流れの引き金をひいた――あるいはたまたま生じたロスビー波渦の中心に居座ったという可能性も考えられるな。やがて気流にのって大小の岩塊がそれら超密度物質の重力圏にひきこまれ、周囲を高速で回転することで砕かれ互いに衝突して膨大な摩擦熱を発生する。その熱がこんどは渦流にエネルギーを供給して拡大しさらに多量の岩石を巻き込む……」
「なるほどね。それですべて納得がいったわ。あの『辺(エッジ)』の付け根部分の構造も含めて……」
「そうそう。あの奇妙な『クレーター』――たぶんひとつの『辺(エッジ)』のなかに六本のペレット流があるんだ。反対方向の流れがあることで『頂点(ヴァーテックス)』に及ぼすトルクを相殺できるしペレット自体の大きさもそれ相応のサイズで収まる。大きな『クレーター』の内側に並んで見えた六つの小さな『クレーター』はまちがいなく蓋をされたそれぞれのカタパルトの射出入口なんだ。『辺(エッジ)』内部に構造材なんて見つかるはずもない。もともとそんなものありゃしなかったんだから……」
「なるほどねえ。でも――まって」経験をつんだシーカーにふさわしいたくまざる批判精神を発揮してカシルがたずねた。
「あなたの言ってるのはあくまで状況証拠にすぎないわけでしょ? どうやって真実かを確かめられる? まさか『辺(エッジ)』をちょんぎってペレットの流れを見るわけにはいかない……」
「そんなことやろうとしたら最後『ジェットスパイダー』に木っ端微塵にされるよ――だいたいその必要もないしね。もしぼくの考えているとおりのメカニズムがこのジオデシック構造を支えているのなら『頂点(ヴァーテックス)』にじゅうぶん近い位置まで接近できればたぶん微弱かつ規則的な電波をキャッチできると思う」
「電波?」
「チャージされた超質量のペレットが運動方向を変えるときには必ず電磁波を発生しているはずだからね。たとえ超伝導シールドでそれを遮断し熱に変換しているとしても、さすがに百パーセントの効率は望めないだろう――」
「なるほど。その電磁波のパターンを調べればあなたの言うとおりかどうかわかるわ」
「……もっともぼくはすでに確信しているけどね。この解答はエレガントだからこそ真実に違いない、と」

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