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 ふたたび観測窓の外にもどってきた黎明に照らされたジオデシックの緻密な籠目を見下ろしつつカシルは同意のしるしにうなずいた。
「わたしもそう感じる――静的なシステムじゃないんだわ。この天体すべてが――生きていて、この瞬間にもダイナミックに自分自身を不断に調整している、って」
「静的(スタティック)じゃなくすべてが動的(ダイナミック)――そう考えることでこの天体の作り方も理解できたような気がするんだ。まるで神による世界創造のような壮大な奇跡にも感じられたけど……そもそもこれだけの規模の建造物をいっぺんに作り上げる必要はなかったんだ――最初はごくごく小さく。たとえばたった四つの『頂点(ヴァーテックス)』からでもはじめればいいんだよ」
「四つ、というと……正四面体の四つの頂点かな? 立体を形づくる最小の要素――」
「そう。その位置に配置した『頂点(ヴァーテックス)』間で最初のペレットをうけわたすわけさ。ペレットは偏向する際『頂点(ヴァーテックス)』たちを押し広げようとする抗力を与えるけど、いっぽうでその高密度物質の流れの産み出す重力はそれらを互いにひきよせようとする。両方の力のバランスがとれるようにペレットの速度と数を調節することはそれほど難しくない」
「そうね。安定した小さな縮退物質の塊を手にいれることができさえすれば、わたしたち人間にも今の技術で作り出せそうな構造だわ」
「うん。超人的なテクノロジーもパワーもいらない。そのかわりシステムを拡大していくには長い長い時間がかかるだろうけどね。この星系の惑星や衛星を材料にして何らかの方法で高密度縮退ペレットを作り出し、それで最初の正四面体構造を一辺が倍の大きさにひきのばす。そして各辺――つまり『辺(エッジ)』の中間で新たに電磁カタパルト、すなわち『頂点(ヴァーテックス)』を建造する。完成したらじょじょにペレット流を偏向させて『頂点(ヴァーテックス)』すべてが球状になる位置まで移動させていき、同時に新設された『頂点(ヴァーテックス)』間に新しいペレットの流れを作り出す――この作業をえんえん繰り返して次第に巨大な空間を内部につくっていけばいいわけだよ」
「何十年、何百年かかるかわからないけど、作業しているのは恐らく不死の長老機械たちだものね。最後の最後に完成した地球質量の球殻内部に生命代謝用にあつらえ調整した一気圧の大気を封入していっちょうあがり、か……」
「そのまえに空気抵抗で減速しないようにペレット流を頑丈なチューブで囲っておかなきゃならないだろうけど――」
「そうね。あとそのチューブに穴を開けて真空状態をおびやかすような不届き者を監視してつまみ出すためのガードマン・ロボットも忘れず配備する――」
「うん。わけもわからず破壊活動を行ったぼくらの探査機『ハルバン』はかくして手ひどくつまみ出されたという次第さ……」

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