[7−17]

「わたしたちの小惑星には小さなバラの苗木をたくさん植えたいな。ほかにもいろんな地球産の草花や樹木――でもバオバブの木だけはやめておくべきでしょうね……?」
 子供たちを寝かしつけ就寝用ネットに並んで浮かびながらカシルは夫にささやいた。
「そうだな。きっとそんな夢のような場所が見つかるよ――いや実際、この世界にはあの嵐を作り出したペレット以外にも縮退物質がまだまだあるはずだ。それを芯に抱き込んだ植生で覆われた岩塊だってじゅうぶんありえるんだからね」
 観測窓の外をゆっくり流れるジオデシックの白亜の骨格がふたたび太陽にまばゆく照らされはじめた。就寝にそなえシャッターを下ろそうとする夫の手をとめてカシルはつづけた。
「まさに夢の星……ここは機械たちによってわたしたちのためにおあつらえむきに創造された世界ってこと。そして故郷を失って以来ずっと探し求めていた人類のための新しい故郷だわ。いまこそこの星に名前をつけるべきときね……」
「ほう、とうとうその気になったようだね。待ちかねておりました」
 しばし沈黙したあとカシルは一見関係のない話からはじめた。
「若いころとても親しかった友達がいたのよ。授業帰りによく一緒にサイバーカフェでおしゃべりしたりして……」
「――まさか、男友達?」
「いまさら気になるわけ?」カシルはにやりと笑ってつづけた。「ご心配なく。名前はマイア――女の子よ。ダンスの才能があって……やっぱりシーカーになっていまは家族といっしょに銀河のどこかを飛んでるでしょうけど――。その彼女、地球時代の神話やファンタジーに凝っていてね。なかでも特にお気に入りの物語があったの」

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