「カメラを背後に向けるんだ! 機能停止する前に正体を確かめないと――いったい何者なんだ? なんだか知らないがものすごい力だぞ」そう叫びながらウィリアムはすでに半ば諦めていた。この映像は五分以上前のものだ。同じ時間かけて緊急指令が届くまえにたぶんすべては終わってしまっていることだろう。
それでもがくがく動くモニターカメラが首を振りはじめるまでふたりは歯をくいしばって待った。ようやくそれが動きだしあと少しで謎の襲撃者が映し出されようとしたとき、ふいにすべてのモニターが消えてまっくらになった。カシルはあわてて幾つものコマンドをやつぎばやに入力したが、画面は二度とふたたび明るくなることはなかった。
「ああ……」
ふだんの彼女らしくもない弱々しい声でカシルは言った。
「『ハルバン』が死んじゃった! 元気な子だったのに!」
思いがけない事態にウィリアムも当惑しきっていた。
「うーん、参ったな」
「どうする? これから……」
「『ハルバン』を失ったとなると調査計画すべてを見直さなければならない。予備機の『オンギ』はいま分解チェックのまっ最中だ。飛ばせるまで一週間はかかる」
「とてもそれまで待っていられないわね。『サガ』そのもので有人探査するとしたらあと三日のうちに心をきめないと……軌道修正がまにあわない」
「心をきめるといってもねえ。あんな凶暴な何者かが住んでいる世界においそれと降り立つわけにはいかないだろ。危険は冒せないよ――だって今回は……」
そう言いおえるまえに……ウィリアムをそれほど慎重にさせている当のその理由が唐突にコントロールルームになだれ込んできた。
「――ちょうだいちょうだい! おにいちゃん! あーん、あたしのっ」