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つまり生命は地球という惑星表面のせいぜい二十キロちょっとの厚みの範囲にしがみついている存在にすぎないのだ。地球の表面積五億一千万平方キロを掛ければ百二億立方キロ――地球体積のわずか○コンマ九パーセントあまり。それが生命にとっての全世界だ。
それにたいしてこのジオデシック天体の体積は一千六百四十億立方キロを超えていて、おそらくそのほとんどが生命にとって快適な環境だろう。同じ分量の材料を使って生命圏を作り出すのにはるかに効率的でスマートな方法といえる。
しかし一方で――重力コントロールという『禁じ手』をぬきにして常識的に考えるなら――これだけ薄く華奢なジオデシックの球体が地球に匹敵する大質量を持っているということはこれらの『辺(エッジ)』の材質は一立方センチあたり七百四十キログラム――つまり比重七十四万という途方もない密度でなければならない。これは白色矮星の平均密度――水の四十万倍をも上回るレベルであり、必然的にそうした超高密度物質を安定させたうえでかくも緻密に組み上げる超テクノロジーの存在を意味するのだ。あるいは彼らの探知できない未知の強大な力がこの球殻表面のどこかで働いていたっておかしくはない。そんな場所へ幼い子供連れで飛び込もうというのだから冷静さを装う下で内心カシルがびくつきいくぶん神経質になるのも無理からぬところだった。
「さあ、子供たち。おまえたちのママがどんなにうまくこの『サガ』を操るか見ておくんだぞ。大きくなって新世界を発見した最初の家族としてインタヴューを受けるときのためにね」
例のとおり妻の気持ちを明るくするべくウィリアムはあえて能天気な調子で言った。その配慮がとどいたのかどうか、カシルの口端がぎゅっとひかれ、左手が核融合エンジンの制御パネルにのびた。
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