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大気圏突入にそなえてすべての窓にシャッターが降りている。照明は薄暗い赤。つぎつぎに画像の移り変わるモニターだけが――まえもって軌道上に投入しておいたナビ衛星たちの送ってくる『サガ』の位置と姿勢に関する情報を刻々と伝えている。ミヒョンはすこし退屈してぐずり始め、ユルグがおにいちゃんらしく話しかけて妹の気をひこうとしている。カシルはまるで操縦装置と一体化したかのようにひとり黙々とスイッチを切り替えている。ウィリアムだけが傍観者となって未知の世界への降下に手に汗にぎっていた。
ここにいたってあらためて彼らはこの天体の創造者の偉業に圧倒されるのだった。モニター画面をくっきりと真っ黒い星空と青い大気圏が二分している。通常のガス惑星なら水素の大気の下には氷とアンモニアの雲海がひろがっている。しかしこの惑星の地球類似の大気の下には微かに青く染まった幾何学的な白亜のジオデシックの外骨格があるのだ。そしてそのすべての『頂点(ヴァーテックス)』から上空に向かって垂直に――何を目的としたものかまだよくわからない――細い柱が伸びている。基部のさしわたしは百メートルほどで『辺(エッジ)』とはまた違った真っ黒な材質でできているためにかなり近寄らないと肉眼では確認できない。しかしこの高度と角度からだと薄明るい上層大気を背景にくっきりと見える。高さは二十キロ以上あるだろうか。あるいはこの星を取り巻いて太陽風を防ぎ止めている磁気バリヤーに関係するものかもしれない――対流圏をはるかに抜け出てそびえているその数にウィリアムは圧倒された。さしずめ外敵を遠ざける毒をもった『刺(スパイク)』……。
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