[2−10]


「ほら……あの方角。『イレギュラー』が見える」
 カシルの指さす彼方に一カ所、正確なパターンが途切れる部分があった。流れる雲のあいだに白い『辺(エッジ)』が内側にむかって急角度で折れ曲がっているのがわかる。長さに対してあまりに細いために青空に突き刺さった刺のようにも見える。
「ここから東へ千キロぐらいかな。ゆっくり飛んでも二時間もあればつくでしょう」
「うん。じゃあまずあそこへ行ってみよう。――そのあいだ子供たちはお昼寝だな」
 日ざしは真空中のような鋭さがなく暖かい光だまりを船室につくっていた。幾十光年旅したあげく到着した驚異の新世界……といっても青空と雲だけの大して変化することのない景色を眺めているうちにミヒョンは退屈しうとうとしはじめていたのだ。
「えーっ?」
「文句をいわない。ユルグ、おかあさんたちはお仕事があるから寝室にミーちゃんをつれていっていっしょにいてあげなさい」
 いかにも不満げに唇を尖らせて半分眠った妹を従えた息子がコントロールルームを出ていったあと、カシルは身体からモニターケーブルを外しながらにこっと笑った。
「さあて、新世界上陸の記念写真をとりましょう」
「え? それなら子供たちもいっしょに……」
「そうじゃなくて、いつもの儀式よ」
「ああ、なるほど。あれね。ふあい」
 そこでふたりは人類未踏の地がひろがる観測窓の前で室内モニターカメラを横目で睨みつつ抱き合いキスをかわした。

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