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折れ曲がって傾きながらも『辺(エッジ)』がいまだそこにあることが不思議だった。このジオデシック構造全体が地球なみの質量を持っているのであれば『辺(エッジ)』ひとつの重さは五京トンほどなければならない。球殻内部で重力が打ち消されるといってもそれはジオデシック構造を球体に近似したうえでの話。近傍では各『辺(エッジ)』はかなりの引力をたがいにおよぼしあっているだろう。その重力ポテンシャル分布は複雑なはずで、突入時にカシルが『サガ』を『面(ファセット)』の中心を通るよう精密にコントロールしたのはまさにそのために他ならない。つまり材質がなんであれ宙ぶらりんになっているそれが他の『辺(エッジ)』の上に倒れこんでいかない理由がふたりにはわからなかったのだ。
「『ハルバン』の掘削調査の結果から『辺(エッジ)』が少なくとも一部は炭素結晶材でできていることはわかってる。結晶材は丈夫だけど粘性は低い。あんな具合に折れ曲がった状態で何京トンもの重さの梁を支えられるはずはないわ。だから考えられる可能性はただひとつ――内部に適度な粘性を持った超高密度超強張力の構造材があってまだあれを支えつづけているということよ。その材質について知ることができたらたぶんこの星の謎も解けるでしょう」
一刻もはやくその答を知りたいカシルはエンジンを全力で吹かしたくてしょうがないはずだ。しかしこの星の『大気圏』を飛ぶには慎重さが必要とされた。ところどころに雲にまじって岩塊や巨大な水の球が浮かんでいるのだ。ほとんどは真球状だがたまに回転のためにピーナツ型になったものや信じられないぐらい不思議な形のものも見られる。内部に大きな岩塊を取り込んでいるため表面張力と浸透力のバランスがそうした奇妙な形状を作り出すのに違いない。
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